持ち上げ介助で腰を壊す前に ~介護保険で使えるリフト、いろいろ(前編)
介護保険で使える福祉用具に、リフトというジャンルがある。貸与品は移動用リフト、と定義されていて、原則要介護2以上で使えます。
これ、移動用という言葉が曲者なのだが、実際にはその場から動かさずに使うものも(住宅改修工事を必要とするものは✖)あり、その範囲も結構広い。どうやら、厚労省は利用者の高さを上げ下げするものは、用途や形状はどうあれ、ほぼ全てをこのジャンルに含めている。
ちなみに法的な定義は以下であります。
排泄・入浴と並んで介護の現場で大変なのは、利用者さんの移乗(乗り移り)や移動にともなう持ち上げ介助です。それを肩代わりするためにつくられているのがリフトなのですが、あまり一般には知られないままに「介護ロボの出現マダ~」みたいなことを世の中の皆様には言われたりする。これは不憫だ。
そこで、介護保険で使えるリフトってこんなもので、さまざまな生活の場面で使えます、連続企画にてご紹介です。
ベッドまわりの移乗を助ける
まずリフトといえばベッド⇔車いすの移乗、ここで絶大な力を発揮します。
介護技術を学んだ方なら、スライディングボードなどリフト以外の用具を使ったりして、利用者さんと介助者双方の身体負担を少なくした介助はできるようになるのですが、家族介護の場合は共倒れリスクを踏まえて、可能なら機械の力に頼ってほしいところ。
まずそんなときに使うのが、スリング(吊り具)を利用したリフト。ハンガー型の吊り上げ部が特徴です。
この用具の発祥は北欧方面だったと思いますが、床走行型が主力だったため、日本の在宅への導入は細かい調整が大変だったとのこと。その問題点をひとつひとつクリアしててきた、赤いハンガーが目印のこれが日本での在宅向けのスタンダードでしょうかね。
つるべー【 モリトー 】
ベッド横固定型の他にも、布団からの車いすへの移乗に対応した床走行型もあります。最新型はバッテリーもリチウムになり性能アップとのこと。
貸与価格はおおよそ¥1,800/月、吊り具は別売りですが特定福祉用具として自己負担額 ¥5,000 程度で買えます(どちらも自己負担割合1割の場合)。
これ系のリフトの特徴はスリング(吊り具)の形状がいろいろあることで、それによって体幹不安定など、様々な身体状況の方に対応できるのです。
特筆すべきは、こちらの脚分離型のスリングシート。慣れれば介助者の身体負担を劇的に減らすことができます。こちらはパラマウントベッドさんの動画をば。
このように座ったままで、両腿の下、背中の後ろを通して、一度も臀部を持ち上げずに、側臥位(寝たまま横向き)にもせずに装着できる。これ、最初に体験したときはけっこう衝撃でした。
そして吊り上げられる利用者さんはといえば、ハンモックのようなものを想像していただけると良いのですが、体圧が分散するのでこれも負担感が少ない。床ずれリスクのある方にも使えます。
でも、ベッドの端には軽介助で座れるし(端座位)、やっぱり吊り具の装着は難しい、手動でもいいから移乗のためのシンプルなものはないかな、という場合には、スウェーデンのEtac社製、北欧での実績十分なこちらのタイプはいかがでしょうか。
いちど立たせる、スタンディングリフトです。取扱いは日本の義肢メーカーの老舗、川村義肢さんグループのパシフィックサプライさんになります。
モーリフト レイザープロ【 パシフィックサプライ 】
専用ベルトを使ってのより安全な立ち座りにも対応しています。足をベースプレートに乗せていただいて、テコの原理で持ち上げたらその状態を保ったまま転回して小移動し、車いすなどに逆の動作で座る。
貸与価格はおおよそ¥1,300/月(自己負担割合1割の場合)。ちなみにこちらは介護保険を通さずとも、代理店との直接契約で借りることができます。その場合は¥6,600円/月(税込)とのこと。
内部と外部の段差をつなぐ
車いすなどで外出する際に活躍するのが、外部から一階床までテーブルごと車いすを持ち上げる、段差解消機と呼ばれる福祉用具です。
これも、コンクリートの犬走りなど平らな下地があれば、工事なしで設置できるものが介護保険適用になります。
たとえばこちら。
タスカルりふと 【 シンテックス 】
品揃えは段差の大きさに合わせて4タイプあります。いちばん手頃な65cmまで対応できるタイプの貸与価格はおおよそ¥2,600/月(自己負担割合1割の場合)。
これらの福祉用具は、床とテーブルの間の挟み込み検知などの安全機能も充実しており、使い方がシンプルなことから老老介護にもしっかり対応できると思います。
なお、これらは電動でない足踏みタイプや、上がり框でつかえるコンパクトサイズなど各メーカーの様々なバリエーションがありますので、興味がありましたらぜひお近くの福祉用具店にご相談くださいませ。
でも、自宅が結構長い階段の上にあったりする場合はこれも使えない。在宅を諦めるか、人力介助しかないか・・・というときに、もう一つ選択肢があります。
スカラモービル 車いすタイプ 【 アルバジャパン 】
ドイツのAlber社が開発したこちら、介助者が操作講習を受けることや、利用者さんにベルトと保護帽をつけることは必要ですが、専用車いすを装着しての直線的な階段の昇降が可能になります。
貸与価格はおおよそ¥5,500/月(自己負担割合1割の場合)。
自分はこれ、仕事でお勧めしたケースの他に、エレベーターが一基しかない古めの14階建ての集合住宅で、エレベーターの交換作業に行き当たったとき、その業者さんが手配していたものをじっくり拝見しました。なんでも、14階からの往復でも2回はこなせるバッテリー容量があるとのことで。
浴槽の出入りを可能にする
自宅でお風呂に入れるかどうか、これは特に衛生上の問題だけでなく、皮膚の健全さを保つためにも重要。戸建て住まいで浴槽浴が困難になると、デイサービスに出られない方の第一選択肢は訪問入浴になることが多いですが、リフトを導入することで解決できる場合もあります。
まずはこちら。バスボードと似たプロセスでの移動ができるのが介助者には優しい。
バスリフト【 TOTO 】
最新型をトップ画像にも貼りました。以前のタイプに比べて、注意書きが耳なし芳一のように増えているような。時代の要請ですかね。
詳細は以下の動画をば。
体重35kg~100kgまで対応、貸与価格はおおよそ¥1,300/月(自己負担割合1割の場合)。
ただし浴槽の形状や、周囲の手すりなどと干渉して事故にならないための設置条件が決まっております。浴槽内のグリップに関しては、そのためのガード部品があるのでそれを使えば良いのですが。
これ、20年以上前から基本形が出来ているロングセラーなのですが、実は最近のユニットバスとは徐々に相性が悪くなっております。
ステップ部分があるタイプだと浴槽の端部に取り付けができないだけなのでまだいいのですが、浴槽縁が水平でないクレイドル浴槽や、幅そのものが広いワイド系の浴槽だとTOTO製でも設置不可。
それぞれの浴槽は節水の要望や、ファミリー向けの要望に応えて出来上がったものですが、なんというか世知辛い。
でもこれ、声を大にして言いたいのは、これらの浴槽を使うと、バスリフトだけでなくバスボード介助も困難になること。つまり、凝った形の浴槽は、高齢になると使いにくくなる、と言える。
ま、そのときはリフォームすればいいや、という考え方もありますが、急遽老親が引っ越してくる、等の場合は対応できないので、リフォームの際は縁が水平で幅が広がらない、シンプルな形状の浴槽をお勧めしたい。
他にも、先にあげたつるべーの浴室用や、
シャワーキャリーの椅子部分を分離してスライドし、そのまま浴槽に入れるタイプなど、浴室用も様々なタイプの浴室リフトがあります。でもいかんせん、それがご自宅の浴室とマッチングするかは調査しないとわからない。
でも、あらかじめリフト導入の可能性を考慮して新築、もしくはリフォームしておくと、その調査がほぼ不要になり、ずっとここに住み続けたいという願いを叶えることに繋がります。
そして、このあたりは設計を生業とする方にも、ぜひ知っていただきたく。特にかっこいい埋め込み浴槽や縁がムダに幅広い浴槽、あれで介助を行う場合の動作イメージ、持てますか?
次回は、介護保険で使えるリフトの、その手があったか!的な自立支援向け、ちょっとクセモノ揃いの後編です。
※11/8追記 後編、書きました。