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マーケッターは縄文人から"狩り"を学べ

商品開発や事業開発において、従来は「対象者に対してヒアリング(聞く)をして仮説を作り、更にそのポテンシャルを測るマスサーベイを行う」のが、通常でした。しかし2022年の現在、マーケッター業務とは”ヒアリング(聞く)”のではなく、”ハンティング(狩る)”をするという作業の方が近しい気がしています。

今日のnoteでは”狩る”という視点で行う各業務ステップについて、少し触れてみようと思います。

1. "聞く"ではなく"狩る"

辞書によると、”ハンティング(狩る)”とは、「とらえようとして探し求める」と定義されています。つまり日本語イメージの「獲物をとらえる」意とは少しニュアンスが異なります。加えて、また五感とは、感覚器官が刺激されて、その情報が脳内で受容・解釈された時に生じる意識体験であると説明できます(脳で処理した情報を人や場所や行動などの記憶の一部に結びつけるのです)。

よって私が最初にお伝えした"ハンティング(狩る)"というのは、このような意識で対象者に接する時、顧客の本音、生の声、意識下にある(暗黙知)自分でも気が付かなかった得たいのしれない欲望等が表面化するのをキャッチできるのではないか、そんな意味合いで使っています。

2.行動 - ハンティング作業-

もう少し五感基軸に"ハンティング(狩る)"について、触れてみましょう。"リスニング(聞く)"とはどのような差異があるのでしょうか。

1)意外性:視覚・味覚・触覚・聴覚・嗅覚
対象者に対して、順序正しい質問項目を読み上げていくよりも、相手の想像を超えた質問、もしくは偶然その場で思いついた内容を問うことによって、相手の不意をつき本音を引き出す、ことが可能です。
これは、あたりまえからの脱却であり、かねてよりお伝えしている「センスメイキング理論」でのありのままを観る、という手法に繋がっています。違和感こそが体感知でもあるのです。

2)動的視点:視覚・聴覚・触覚
一つひとつの対象者との対話は、動的でリズミカルな心地よさを生み出します。それはオーケストラメンバーのように、共に調和を生み出していると言ってもいいでしょう。ソロコンサートとは異なるところです。

3)一体感:視覚・嗅覚・触覚・聴覚
主体と客体が一体となる(純粋経験性)ことによって、どちらが質問しているか回答者か分からない状況を作り出していくこともまた重要です。2)での触れた"リズミカル"というキーワードとも似通っておりますが、思わず、対象者が、質問している私に質問してしまうような”場”作りもまた大切なポイントとなるでしょう。

4)和み:視覚・味覚・嗅覚・触覚・聴覚
記憶というのは、五感と結びついて出現すると言われています。
"プルースト効果"というのをご存じでしょうか?フランス文豪マルセル・プルーストの『失われた時を求めて』の主人公が、口にしたマドレーヌの味をきっかけに、幼少期の家族の思い出が蘇る事から香りによって記憶等が蘇る事をこのように呼ぶようになりました。実際に「狩り」を行う時も匂いや音を有効に使ったりしますよね。

3.共感  -ダウンロードミーティング-

”狩り”を終えた獲物(素材)の料理方法は、一般的にはダウンロードミーティングでしょうか。これは言わずもがな"伝えて、共有化する"ことを目的に行います。

言葉をテキスト化しレポートにして時間を経てば、”狩った”ものは、鮮度を失います。それはその場で対象者が見せた表情然りです。ですので、出来るだけ早く体感として受け止めて、インサイトの中から見出したもの見たもの全てを全員で「主観」で対話する機会を持つことが大切でしょう。

これは、相互主観と現象学でいい、共感をベースにするマーケティングの重要なポイントであるといえます。

4.盛付け - コンセプト創造-

素材を使って調理された料理は、その後お客さまに向けて提供するために彩りを付加することが大切です。

彩りを与えるのは食事と共に楽しむワインだけでなく、さまざまな組み合わせが考えられるでしょう。食器(皿やカトラリ、グラス等)のデザイン、部屋の照明、BGM、周囲音のレベルなどが考えられます。

私たちの業務に置き換えるならば、実際に絵に落としてみたり、コピーをつけてみたり、もしかしたらコンセプト動画を作ってみることもあるかもしれません。これは、体験価値を組み合わせる重要なステップだと言えるでしょう。いい食材を集め料理人が素晴らしい調理を施しても、盛付けや空間アレンジに美意識が感じられない時、残念に感じてしまうことと同一であるといえます。人の感性に響かないものは、感動できないのです。

5.似て非なり

商品開発や事業開発における”ハンティング(狩る)”を軸としたマーケティングアプローチは、動的で体験価値を生み出しイキイキとした人間の生素材を得たものになります。ステップとしては同様に見えてしまうもののこれは、従来の"ヒアリング(聞く)"ベースのアプローチだと静的で人を数字でしか捉えることができない顔が見えない素材であったことと大きく異なるといえるでしょう。

”狩る”とは、頭だけでなく身体全体を使う"身体知"であり、五感を生かした行動で美意識を養うことになります。故にこの”狩る”というアプローチこそが、センスメイキングに繋がると私は考えています。五感で感じながら感性で会得するのです。

そういえば縄文文化って”狩る”文化でしたね。自然の保護、共生、デザイン、ファッション等、地域が活性化していました。これらは、もしかしたら2022年の私たちの生命活動に通じているのかもしれません

かくいう私。岡本太郎柳宗悦同様、10000年前の縄文の美・火焔型土器に、ワクワクしてしまうわけです。生き抜くエネルギーや自然の恵み。
縄文人は私たちに、今もなお生きる上で大切なことを与えてくれているのでしょう。

(*写真は、岡本太郎美術館展示から)

(完)