継承とは破壊する力なり!(6月の大歌舞伎に学ぶ日本的アプローチの根源)
【拝啓 中村獅童様】
先日鑑賞させていただきました6月大歌舞伎の素晴らしい演技に感動いたしました。深くお礼申し上げます。
今回初舞台の陽喜君、夏幹君の口上、あたたかく見守る父親獅童さんの、芸を継承する強い思い、陰で move支えていらっしゃった奥様の姿が、我々は、目に焼きついております。
今回、我々18名が、第3回マーケティング・センスメイキング道場における体感知の習得として、素晴らしい演技を拝見させていただきました。
ここからは、その後に道場で話した内容をまとめてみました。少し固い話しですが、ご一読いただきましたら、光栄です。
はじめに)
私がお話しするまでもなく、ご存知のように、2005年(平成17年)11月25日第三回ユネスコ「人類の無形財産に関する傑作の宣言」として、「歌舞伎(伝統的な演出様式によって上演される歌舞伎)」は、無形遺産の傑作として宣言を受けました。
江戸時代から伝わる庶民性とその消費生活の華やかさを見ながら、江戸時代から現代の日本人に受け継がれたもの 歌舞伎の世界的、空間的構成(歌舞伎作家は、縦軸と横軸というそうですが)で、時代と社会と個、アートの役割、世界の変化を見ながら考えてみました。
【何の為に】歌舞伎とマーケティング
マーケティングや経営、センスメイキングには自ら体感して日本独自の表現方法を学ぶことが大切かと考えます。と同時に、今という時代を捉え直す、近未來を想起しながら、自分の在り方を考えることをテーマといたしました。
(中村獅童さんの伝えていらっしゃった一つのテーマを【かぶき】と【ばさら】と捉えました。)
※バサラ(婆娑羅)は、全てを粉砕するサンスクリット語の金剛石(ダイヤモンド)であり、生命は、常に自ら秩序を崩し、新しい平衡を作り続ける【動的平衡】(生物学者福岡伸一により提唱され、清水博東京大学名誉教授により、生命論を経営論に近づけられた)。
このAI全盛の時代に、人間が人間たる所以、体感知 身体を通すことで、自分の存在の意味、存在価値を認識できると考えてみました。
さて、我々が今回鑑賞したのは、滝沢馬琴の南総里見八犬伝、山姥、世話もの河竹黙阿弥(1816〜93年)が明治16年に描いた魚屋宗五郎の三作品の構成でした。
私の関心は、あの有名な、皿屋敷の江戸時代の設定の古きを尋ねて、新しきを書き換えた天才河竹黙阿弥の作品、時を経て明治時代に表現した内容の継承に着目しました。
→その継承とは、【企業存続】や、【ブランディング】にも関わると考えています。
そして、企業だけでなく、江戸時代から現代の150年の時の流れを捉え直すことで、現代の我々個々の在り方をしっかりと見据えることになるのではないかと。
◽️視点1:魚屋宗五郎を演じた中村獅童さんの【型を学び 型を破る知の在り方】
今回の大歌舞伎の中の最大の見せ場は、失礼ながら、中村獅童さんの以下の迫真の演技にあったと言っても過言ではないと捉えました。
その場面を再現してみます。
この作品、明治16年(1883年)市村座の初演で、河竹黙阿弥が、5世尾上菊五郎から、酒乱の役を世話狂言で演じたいと言われての希望で書き下ろした場面。
中村獅童さんが、今回初めて演ずる宗五郎役、この酒飲むシーンでの変貌の面白さは、尾上菊五郎からの演技を「まねび」から始まって、【型破り】をすることにあったかと考えます。
「ばさら」「かぶき」は、日本独自の世阿弥から始まる【守・破・離】を中村獅童さんが演じる場であったと思います。
この歌舞伎で最も稽古が厳しく指導があり、かつクリエティビィティを出して昇華したのは、この酒飲み干すシーンだったと、終演あと、中村獅童の番頭の佐藤さんからも教えていただきました。
今回の歌舞伎演技の中で、【かぶく】【ばさら】に新しい時代への進化であるあることを、 初舞台である中村陽喜君と、中村夏幹君の前で演じる姿に心を動かされました。
◽️視点2:(話し変わりますが)同時代の安藤広重の浮世絵技法が、ゴッホに与えた力【見立て力】類推力と連想力アプローチ
安藤広重(1797〜1858年)の東海道五十三次の浮世絵は、当時50万枚売れたという大ヒット作品。世界にとどろきます。
この浮世絵の手法は、印象派巨匠のファン・ゴッホ(1853〜1890年)にまで影響を与え、同時代の広重の絵画をリスペクトし模写している。
いわゆるジャポニズム運動となる。
破格である、輪郭線がない、立体感がない直接的構図。
特に、広重の「名所江戸百景 大はしあたけの夕立」の雨の描写実線で雨を書き足す技法は、ゴッホは特に好きだったようです。
これにもゆらぎと生命を捉え直すエネルギーがあったのではないでしょうか!
先日NHK歴史探訪でも、放送されていた広重の五十三次では、
・箱根の芦ノ湖に聳える険しい山でのデフォルメ技法
・暖かな蒲原のあり得ない雪景色
・京都三条大橋に見える比叡山
など、歌舞伎と同様、型を破るクリエイティビティ以外に、【見立て】、【類推】と【連想】よるアプローチも日本独自の方法として考えられましょう。
◽️視点3:アートが社会の在り方,個と社会を捉えなおす
20世紀に入りシューレアリズムの【フロイト】の無意識をベースにしたダリ、マグリットの絵画などが、暗黙知を形式知に変換するアートとして生まれ、社会科学とアート、個と社会、宇宙と人間との関係性がより密接になる背景となります。
この視点3は、近代化の歪みであり、第一次世界大戦が引き起こした不安感、終末論的考えが20世紀初頭に生まれていきます。
それを社会学として分析した二人の巨人が登場します。
・マックスウェーバーによる「プロティスタンティズムの倫理と資本主義の精神」(1920年)
・エミール・デュルケーム「自殺論」(1897年)
社会分業論(1893年)・・・アノミー的(※アノミーとは社会規範や規制が弛緩して、かえって個人が不自由で不安定な状況の病理現象)なアプローチ
社会と個人の関わり合い方が100年前に問われています。
※私個人で言えば、この2人の研究テーマは、大学時代から現在に至り、マーケティング作業をする礎となっております。
そして現代のchatGPTを含めたAI時代はまさに,人間の在り方を問われる100年前に近似していると考えている。
視点1、2で日本の文化である絵画、歌舞伎をみてきたが、20世紀に入ると、キュビズムのピカソ、後に、1920年代にシューレアリズム(超現実主義)なる運動が文学、芸術、演劇などで近代化の流れが出てきます。
この流れは、1900年に発見された【無意識】を読み解く巨匠心理学者ジークムント・フロイト(1856〜1939年)の考え方により広まりました。
6月30日のNHKEテレの日曜美術館で,放映されました。
欲望、記憶の具現化で、ダリ(1904〜89年)がシューリアリズムとして作品を発表し、現在上野の都美術館で開催されているデ・キリコ展は、それ以前の形而上学的絵画で、謎めいた不安感、理性を信じられないことへの示唆がありました。
【まとめとして】
江戸時代から継承をしている歌舞伎を通して、中村獅童さんの迫真の演技を観させていただき、継承とは何か、文化を伝える意味を考え,我々の生き方、マーケティング・センスメイキングによる思考法を再度考えてみました。
野中郁次郎先生は、日本企業から活力を失っているものは、コンプライアンス過多と計画過多、分析過多であると、「直観経営」で明言されています。
この件は、幾度かnoteでも申し上げました。
特にコンプライアンス過多はいまだに日本企業の弱体化を招いています。
今回歌舞伎での「継承とは破壊する力にあり」は、様々な視点を与えてくれています。
その中で我々が今最も重視しているのは、ストーリーメイキングです。
この力が共感によって新しい動態経営に直結する、と私は考えて毎回道場をしております。
人が本能的にワクワクするのは、「人が根本的な自己存在を探して内面へと向かう旅」
というキャンベルとジャーナリスト ビルモイヤーズとの会話です。(NHK100分de名著 7月1日放送)
自分が将来こうありたいというビジョンを持って、自分の内面を鍛える旅、物語こそがストーリーメイキングによって作られます。
ポイントは、【内面的成長】にあります。
自分でそのプロセスで実感することにあります。
数多くの企業で、ストーリーメイキング作業をアウトプット作業として、プロトタイピング作業として、実施して参りました。
しかし、その作業そのものは,最大のテーマは、【内面の成長】にあります。
自分をしっかり見つめて、【進化】や【成熟】ができたか!にあります。
企業の中には、プロジェクトで皆が今までにないワクワクを自ら作り出している時に、自社でそのようなものができないとして、進まないケースもあります。
自社開発だけに頼って新しい開発,オープンイノベーションにしない。
いわゆる先ほどのコンプライアンス過多で、今しかみれない、ストレッチできない場合もあるでしょう。
【まとめのまとめとして】
・目的を自ら作ること。究極の目的の明確なものを作るwhyを明らかにする。whatから考えてはいけない。
・目的と手段を履き違えしないように、追求する。
・ストーリーメイキングは,自分の内面の旅であり、自分の成長であり、どのようなプロセスで進むかを自分で物語る。
自分を変える、成長をする。そこに共感が生まれ、対話が生まれる。
・短期利益志向と部分最適志向ではなく、新しい価値を作る為には、近視眼ではなく、時代と社会,個と社会,空間と時間軸をみながら深く思考することである
中村獅童さん、ありがとうございました。
数多くの学びに深く感謝いたします。
#魚屋宗五郎 #中村獅童 #歌舞伎 #安藤広重 #歌川広重 #東海道五十三次 #野中郁次郎 #センスメイキング #マーケティング
#ストーリーメイキング #共感 #フロイト #シュールレアリズム #体感知 #コンプライアンス過多 #美意識 #内面の成 #動的平衡