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【映画の話】あの頃。

2020年、突然ハロプロを好きになった自分にとってこんなタイミングでハロプロをテーマにした映画が公開するなんて正直ついているとしか言いようがない。楽しくて仕方ない。そんな気分である。
モーニング娘。について記事を書きたいところなのだけど、今日は映画についてちゃんと書きたい。

愛が溢れすぎないようにしっかり書こう。

2021年2月19日に公開された作品。
監督は『愛がなんだ』などで近年話題の作品を多く手掛ける今泉力哉。脚本は『南瓜とマヨネーズ』で、監督と脚本も出掛けた富永昌敬
この作品は劔樹人原作の『あの頃。男子かしまし物語』をもとに映画化された作品で、劔樹人がハロー!プロジェクトのアイドルグループに夢中になっていた青春を仲間たちと謳歌しつつも、様々な困難に直面し少しずつ大人になっていく姿を描く物語になっている。

原作の劔樹人があらかじめ決められた恋人たちへのベーシストでもあり、神聖かまってちゃんの元マネージャーとしても有名なので、バンドの描写も多くありバンド好きの人にも共感できるポイントが多くあり、特に途中で2008年にMONO NO AWAREが存在する世界線が登場するのは音楽好き的には見どころです。

恋愛研究会。

まずなんと言っても主人公である劔樹人を演じる松坂桃李を含めた"恋愛研究会。"のメンバーのアクの強さを再現した俳優陣の空気感と演技力が本当に素晴らしかった。
中でも特にこの作品では重要人物になっているコズミン役を演じた仲野太賀の演技は、実際のコズミンのことを知らなくても実在したことがなぜか物凄く伝わってくる程の空気感を纏っていた。

ハッキリ言って外目から見ると気持ち悪く、"馬鹿みたい"と一蹴してしまうこともできる彼らの"中学10年生"的なグルーヴもどこか羨ましくも思えた。それは演者たちの顔から本当にあの頃の空気を纏った「今が楽しい」というバイブスが溢れていたからに違いない。
ただ、彼らのどんなことでも笑いに変えるエンタメ性は楽しいようで危険でもあり、観る人によっては拒絶する人もいるのかなとは思った。
それでも僕にとってはイベントやったりライブやったり、部室のように部屋に集まってみんなでビデオ見たり銭湯に行ったり本当に羨ましい青春そのものだった。

青春は『ウォーターボーイズ』のように夏空の下でだけで描かれるものではないのだ。

ハロプロと"現在進行形"

この作品のタイトルにもある通り、この映画では2003年から2004年あたりからの"あの頃"のことを出発点に物語が構成されている。

2003年はモーニング娘。では6期メンバーが加入し、"Go Girl 〜恋のヴィクトリー〜"をリリース。翌年2004年には安倍なつみ、辻・加護が卒業。黄金期の中心メンバーが次々と卒業した2004年。メディアや世間の空気感がモーニング娘。から徐々に関心が薄れていってる時期だ。
モーニング娘。は2000年代初頭にみんながよく知る黄金期を迎え、その後2005年あたりから人気が下火になり、メディアではAKB48などが台頭。
それでもテレビに出れずともパフォーマンスやライブに特化して、力を入れたおかげでプラチナ期と呼ばれる伝説の時期が生まれ、カラフル期でその人気は再ブームし、現在ではメディアで取り上げられることは少ないもののモーニング娘。含め、ハロー!プロジェクトのグループは性別に関わらず多くの人に愛されている。
そのハロー!プロジェクトのどんな状況でも常に"今が最高の状態"を更新する姿勢がこの映画の全体を包み込んでいたように思う。

映画を観るまでは勝手に過去を美化した「松浦亜弥最高〜〜!」的な懐古的作品なのだと想像していたが、その読みを見事に裏切ってくれたことがとても嬉しかった。

物語が進むにつれてそれぞれの人物がそれぞれに人生を進めていき、常に同じ場所でいるという選択を放棄していくところにこの作品の意義を感じた。
そして最後の道重さゆみの名言の引用(最高)や、時が経っても「今が一番楽しい」というフレーズが出てくるところ、極め付けはモーニング娘。の"恋ING"がテーマソングになっているところ。すべてが現在進行形で動いてる。だからこそ"あの頃"のことちょっと振り返ってみたくもなるよね。というそんな作品だった。

"ハロプロ映画"としての立ち位置

もうひとつ言いたいこととしては、本当に松浦亜弥役にBEYOOOOONDS山﨑夢羽を起用していただきありがとうございますという気持ちでいっぱいです。

ここで現役の子を出してくれたことの喜びは本当に大きいし、それでこそ歴史あるハロー!プロジェクトを取り上げるということの意味があると感じた。
山﨑夢羽本人も母親が松浦亜弥のファンだったという話があり、"ハロプロサーガ"だとハロヲタ界隈の色々なところで言われているのもひとつの歴史の証明だと感心している。

ただ逆に"ハロプロ映画っていう割にハロプロ感が少ない"や、"これ別にハロプロ以外でもよくない?"というコメントを目にした。
たしかにほとんどハロプロの要素があるのは前半部分だけで、後半はそれぞれの人生のパートになっていくので、薄く感じてしまうかもしれない。
だけどこれは誰にとっても共感できる、それぞれの青春も描いているからなのではないかと思った。

そう、別にこれはハロプロじゃなくてもいいのだ。誰かにとってはそれが音楽かもしれない、お笑いかもしれない、映画かもしれない。漫画でもアニメでもいい。それぞれの好きなものが人生を変える瞬間。その感覚を知っている人はきっとよく分かるはず。
あのブラウン管越しに松浦亜弥を観た松坂桃李の涙を、自転車で駆け出してしまう衝動をきっと理解できるはず。
それが僕にとってはギャラガー兄弟だったというだけの話。

ハロプロ感が薄いだなんて、『桐島、部活やめるってよ』を観て、「桐島出てこねえじゃん」って言ってるのと同じです。

まとめ

1番この作品を通して感じたのは今泉力哉監督作品にしては、原作や脚本があることである意味で"らしさ"は薄く感じた。
ただ、それでも長回しのアドリブのパートで彼らの関係性が浮かび上がるようにできていたし、今泉監督がアイドルに対していい意味でそこまで思い入れがないという距離感は、ちゃんと作品として仕上がる上で1番大事なことだったのではないかと思った。

そして、この作品に関してよく言われている"ホモソーシャル過ぎる"ということ。これに対してどう語るべきか色々悩んだけど、この事実を無視してなかったこととして作品に落とし込むことは何よりしてはいけないことだと思った。あそこに女性の立場を気にした考え方を入れることとか、過去の出来事を捻じ曲げることはしてはいけないと思う。
だからこそそれは"あの頃"であり、それを決して開き直るのではなく今の考え方は違うと、コズミンのことを美化するのではなく「悪い人だよね」と言い切る。だけどそれでも切り捨てるのではなく一緒にいる。それが社会だから、そうやって進んでいくしかないのだと僕は思います。

改めてこの映画は「過去を最高!」とする作品ではありません。「今が最高!」と叫ぶためのものです。これだけは忘れないようにしてほしいです。

そして今も昔もモーニング娘。及びハロー!プロジェクトは最高です。

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