『最近聴いてる音楽の話』 - #4月
4月もあっという間に通り過ぎて、気が付けば5月。もう夏です。このスピードで季節が巡るとそろそろ自分の墓の準備をしなくてはいけないのではないかと心配になりますね。
どうしてお金にもならないし、何があると言うわけでもないのに毎月のようにnoteを書き続けてるのだろうと不意に立ち止まる時がある。何の意味があるのだろうと。
結局はこれが自己満足だったとしても、自己満足だと誰かに言われたとしても、続けた結果、自分の知らないところで誰かに良い影響を与えていたらそれだけでいいのです。砂漠に水を撒き続けるようなことです。いつか花が咲くことを笑いながら信じていたいのです。
あー、夏祭り行きたい空気だ。
SONG
BEYOOOOONDS "求めよ…運命の旅人算"
BEYOOOOONDSの真骨頂、「楽しさ×多様性」で世界を埋め尽くすポップソングがまたやってきた!
ソウルとファンクを下地にした星部ショウの作る情報量の多いトラックとサビでキャッチーに開けるハロプロの伝統を感じる楽曲。モーニング娘。がかつて"ザ☆ピ〜ス!"でやっていたことを今でも受け継いでやっているのはBEYOOOOONDSだと思う。特にベースラインはブリッブリで最高。歌唱面で言うと西田汐里の「えっ、どうしてですか?」と思うタイミングで入るホイッスルボイスのフェイクが最高。こういう無意味だけど実力がないとできない遊びができてしまうのがハロー!プロジェクト。
"ひとり歩く道 誰とすれ違い どこへ向かえばいい?わからない"と今の時代の若い子たちはあまりに全てが可視化されてしまった世の中で、ネガティブな思い込みの逆算ををしてしまうところがある。「どうせ夢は叶わない」「運が悪かった」などと道を選ぶ以前に諦めてしまう(これエブエブの映画の感想でも書いた気がする)。それでも小学生の頃に誰しもが習った算数の問題を引っ張り出してきて、こんなものに意味はないと思っていたけどちゃんとした公式で計算すればちゃんと見えてくるものはあるよと提示してくれる児玉雨子という作詞家は天才なのだ。
そして児玉雨子は同時に"この世界は正解のほうが少ない誰しもが間違いながら今ここにいるんだ"と歌わせる。
どんなに苦労して導いた答えもどこかでは不正解かもしれない、自分が信じている正解は気付けば不正解になっているかもしれない。だからこそ常に「人生をもっと求めよ」ということなのだろう。常に今の時代にフォーカスを絞って歌を届ける詩人としての一番リスペクトしている人です。それをポップにキャッチーに表現する「令和のエンタメ劇団・BEYOOOOONDS」の素晴らしさです。
スピッツ "美しい鰭"
コナンもあまり見ないし、スピッツもそれほど通ってきていない。でもなんとなくプレイリストから流れてきたのを聴いた瞬間にとても好きだなと感じたスピッツの新曲"美しい鰭"。
鰭という字は「ヒレ」と読む。最初は鮨「スシ」かと思ってた。どうしてわざとらしく漢字表記にしたのだろう。気になる。
普段スピッツをそれほど聴かないからか歌詞の書き方や言葉のニュアンスが新鮮だった。「流れるまま」ではなく「流れるまんま」、「びっくらこいた」や「遠慮せんで」など方言からくる話し言葉のニュアンスを歌唱だけではなく歌詞としても表現の中に落とし込んでいる。そのおかげでスピッツの持つ温かさや親しみやすさがサウンドだけでなく歌の面でも表現されている。80'sのネオアコに影響されてきたスピッツの原風景的なギターのリズムと、敢えて派手に使わない贅沢なブラスの入れ方が醸し出す温かい雰囲気は、あの頃と変わらないスピッツ像で大好きだなと思った。スピッツは春の季語。あとMVの上白石萌歌ちゃん最高ですね。
清竜人 "トリック・アート"
TVアニメ「山田くんとLv999の恋をする」EDテーマの新曲"トリック・アート"。本人が「久々の可愛い系ポップス」というだけあって清竜人25の頃に持っていたキャッチーな明るさと、清竜人の繊細な男の子感がいい感じに溶け合ったポップスになっている。
スキップしたくなるアップビートなスウィングジャズを下地にした軽快な楽曲が春を感じさせる。ウォーキングベースとバイオリンの音色とストリングスが華やか。先述したスピッツの"美しい鰭"とは対照的なモリモリなストリングス。このトキメキ感はFlipper's Guitarの"恋とマシンガン"を聴いた時にも似ている。とても春です。こういう曲調の楽曲があったら教えてください、とても喜びます。
そして竜人くんはやっぱりエッチだ。
RICEWINE "Blue Sea"
タイにルーツをもつオーストラリア人アーティストTalae RoddenのプロジェクトRicewineの2023年第一弾リリース曲は、Ricewineらしい瑞々しいギターサウンドの楽曲。
ジャケットのアートワークが写すように夕暮れの海が似合う。淡くて、穏やかで知らない夏の記憶が引っ張り出されそうになる。ベッドルームポップなんて言われ方をしていたけど、もうベッドルームには誰もいない。みんな空の下で踊ってる。
boygenius "Not Strong Enough"
様々な場所で感情や情報が可視化され、気付かぬうちに情報過多になり、様々な感情に振り回されて気づいた時には自分でも思いもよらぬ場所に辿り着いてしまっている。今の時代は誰もが悪意なく渦に巻き込まれてしまう。boygeniusはそんな時でも背中をさすってくれる。
"Not Strong Enough"のMVに映される、ただ自然体に信頼できる人と楽しんでいる彼女たちの平凡なユーモアと、今をひたすらに生きている映像にどうしてか胸がいっぱいになる。作られた演出や、凝った色彩などそこにはない。ただ撮りっぱなしの映像を切り貼りしたビデオを見ていると、笑っている顔というのはこうも美しいのだと思い知らされる。
人はいつも正しくばかりはいられない、正解ばかり選んで人生を進めるわけではない。だったら彼女たちのように、ユーモアと知性を持って今を生き抜いてもいいのではないかと思う。一度立ち止まるための音楽がここにある。
ALBUM
Daniel Caesar / NEVER ENOUGH
今年一番楽しみにしていたのがDaniel Caesarのアルバムのリリースだった。アルバムをリリースするごとに、より上質に、より濃厚になっていく作品性と変わらない繊細さとメッセージ性の確かさに信頼を置いている。そしてメロディの温かさと心に寄り添う歌声も変わらず。時折、歌謡曲を聴いているかのような親しみやすい安心感すらある。不思議なもの。
"NEVER ENOUGH"というタイトルにある通り、「まだまだ足りない、まだ現状では満足できない」という想いが込められている。それが何を指しているのかは人それぞれの解釈でいいはず。美しく、正しく、強く、優しく、最後まで満足せずにいるためにエンジンを動かし続ける、そんな作品になっている。だからこそこれからのDaniel Caesarの作品作りが楽しみだ。まずは今年の夏、2019年に観た豪雨のレッドマーキー以来のフジロックでのステージを心待ちにしている。
Homecomings / New Neighbors
前作『Moving Days』で、新しい場所を探し求める旅を始めたHomecomingsが出会った新たな隣人(New Neighbors)との新たな暮らしの作品。これまでの彼らのルーツとした音楽が下地にありながらも、音楽的にも新しい地平線へと旅を続けている。
Homecomingsはいつも隣にいる人、近くにいる大切な人たちのためだけに歌う。それは物理的な距離の話ではなく寄り添う分の気持ちの距離の話。
生きている限り日々の生活の中から生まれる喜びや愛しさ、その逆に生まれてしまう悲しみや怒り。それを彼らは優しさや強さに混ぜ合わせて、名前のない感情にして渡してくれる。この世界に僕らを繋ぎ止めてくれる最後のお守りのような歌ばかりだ。ひとつひとつは小さな燈であっても、それを結び続けていつか日々を照らす光になるように信じて、彼らは歌い続けている。"たまたま美しい"僕らはそれを今日もただ信じている。
Jessie Ware / That! Feels! Good!
こういうの好きじゃん?という僕の中にあるツボをギュッと詰め込んで詰め込みまくっておにぎりにしちゃいました。そんな感じの作品です。
存在するはずのない知らない記憶が呼び起こされるほど懐かしさ満点のディスコサウンドと、伸びやかなで艶やかなボーカルが一気に日々をダンスフロアに変えていくJessie Wareの5作目のアルバム。
Silk Sonic以降のアナログっぽさを感じる人力のディスコサウンドが軽快で気持ちいい。これライブで観たら最高なんだろうな…。
言語化する必要が一切ないほど、聴いた瞬間にすぐ分かる、2023年の間違いない1枚。
水曜日のカンパネラ / RABBIT STAR ★
「水曜日のカンパネラってボーカル変わったんだ」のタームを一周してリリースされた2nd EPは、詩羽らしさが出た"新しく始まった水曜日のカンパネラ"の作品になっている。
ボーカルが変わってからコムアイ時代の初期の水曜日のカンパネラが持っていたキャッチーさが前面に出た作品へと原点回帰しつつも、2020年代的なハイパーポップやUK Garageからの影響を感じるトラックがいいバランスをもたらしていて、相変わらずの世界観を持った歌詞の世界観とも混ざり合って楽曲の表現の広がりをこれまで以上に感じる。
敢えてシンプルでちょっとおかしいのに決めるとこバチっと決めていてかっこいい。そのアンバランスさとユーモアセンスが水曜日のカンパネラにしかない最強の魅力。特に先行配信曲の"赤ずきん"と"金剛力士像"はトラックも含めスーパーかっこいい。最高です。
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