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【まとめ】irAEに対して薬局薬剤師ができること│JASPO学会2024

JASPO学会2024に参加し、神戸牛を食べ逃したよっちゃんです。

おふざけはさておき、今回初めて現地参加という事でJASPO学会2024に行ってまいりました。

もともと病院薬剤師でirAE(免疫関連性有害事象)についてもいくつか介入事例がありましたが、今だに少し対応に困るなと感じるirAEの対応。

現在、薬局薬剤師として勤務していても外来で一体どんなことが重要なのだろうか。自店だけでなく地域でフォローするにはどういう事が必要なのだろうか。と考えていたのでirAEに関するシンポジウム、各セミナーに参加し、備忘録&読んだ薬剤師の先生方の考える材料としてまとめていきたいと思います。


irAE(免疫関連性有害事象)とは

免疫チェックポイント阻害薬(ICIs)と呼ばれる抗がん剤による副作用として広く知られるようになってきました。

ICIsは点滴の薬剤であり、薬局薬剤師の先生方は知らない方も多いと思います。

作用機序などの説明についてはコチラで紹介しているので参考にしてみてください。(有料記事にはなってますが、無料範囲でも十分理解できるようになっています。)

いったいどのような薬剤があるのかサラッと見ていきましょう!

原因になる薬剤

現在、国内承認されているICIsは8種類あります。

  • ニボルマブ(オプジーボ®)

  • ペムブロリズマブ(キイトルーダ®)

  • セミプリマブ(リブタヨ®)

  • アテゾリズマブ(テセントリク®)

  • デュルバルマブ(イミフィンジ®)

  • アベルマブ(バベンチオ®︎)

  • イピリムマブ(ヤーボイ®)

  • トレメリムマブ(イジュド®)

食道がん、胃がん、大腸がん、肝臓がん、肺がん、腎がん、尿路上皮癌、子宮体癌などなど。

多くのがん種に適応を持っています。

今後も適応拡大に伴い、使用頻度が増えることが想定されます。

irAEの機序

ICIsは一言でいうと、「キラーT細胞や炎症性サイトカインを上手くコントロールする」ことで抗腫瘍効果を示します。

しかし、活性化されたキラーT細胞が自己の臓器を攻撃してしまったり、サイトカインによる影響で炎症作用が飛散してしまうとirAEと呼ばれる免疫に関与する有害事象が起こってしまうのです。

具体的な症状

免疫に関与する薬剤ですので、全身に症状が出る可能性があります。また、特徴の一つとしてirAEの発現はいつ起こるのか分からない!という事です。

具体的には、以下のようなものが知られています。

  • 脳炎や髄膜炎

  • 下垂体機能障害

  • 甲状腺機能障害

  • 間質性肺疾患

  • 劇症肝炎、硬化性胆管炎

  • 副腎不全

  • 腎機能障害

  • 重症筋無力症、筋炎、横紋筋融解症

  • 1型糖尿病

  • 大腸炎、消化管穿孔

  • 神経障害

  • 重篤な皮膚障害

  • 静脈血栓塞栓症

などです。

さらに特徴の一つとして、irAEの発現と抗腫瘍効果には相関性が見られるという事です。

Grade1-2の段階で必要な副作用対策を行う事で予後の改善が認められているので積極的に医師と協議していく必要がありそうです。

投与が終わった後にも症状が出る可能性もあるため、レジメン変更後、休薬中では特に薬局薬剤師のフォローが必要となります。

具体的にどのようなフォローが必要なのでしょうか?

まずはirAEに対する治療を知ることが重要ですので解説していきたいと思います。

irAEに対する治療法

ステロイド

何と言ってもirAEの治療の主軸はステロイドと言っても良いでしょう。

まず前提として、irAEに対するステロイド投与の目的を抑えましょう。

  1. 抗炎症作用

  2. 免疫抑制

この2点をしっかり把握することが重要です。

特に炎症が関与する病態(自己免疫性肝、間質性肺、心筋、大腸など)に対しては必要量のステロイド投与(PSL:0.5mg/kg以上。場合によってはステロイドパルス療法)が必要になります。

まずは抗炎症作用を目的として、十分量のステロイド投与を行い、いつまでも炎症を残さないことが重要です。

目安として、2週間を目安にステロイドの減量を開始していきます。

2週間以上減量できずに投与が続くと、ステロイドによる副作用リスクが徐々に現れてしまうだけでなく、残っている炎症が感染によるものかの区別も難しくなるため注意が必要です。

炎症を抑えることが出来た後は、症状の再燃、新規irAEの予防としてステロイドを服用することになります。

1~2ヶ月程度でOffできるようなものではないので、長期的な管理が重要です。

特に、ICIsが休薬になっていたり、レジメン変更で使用がなくなると病院薬剤師の目からも離れやすくなります。

薬局薬剤師はこの見落としがちな部分をカバーすることで、継続的なirAE管理が行えるというわけです。

中には、ステロイドの服用理由が曖昧に受けとらえている人も多いので、服用理由や症状再燃、新規症状発現などの対応について指導していく必要もあります。

免疫抑制薬

ステロイド投与により炎症を抑えることが出来、減量することで症状再燃、新規irAEの発現リスクがあります。

再燃してしまった(ステロイド不応性、ステロイド抵抗性)場合、ステロイドだけで対応しようとすると減量にまで時間をかけすぎてしまい、副作用リスクを助長させてしまいます。

そんな時にこそ、免疫抑制薬が使用されます。

目的臓器により使用が望ましい免疫抑制薬は異なりますが、ミコフェノール酸モフェチル(セルセプト®)、インフリキシマブ(アクテムラ®)、アザチオプリン(イムラン®)などが用いられます。

注意事項としては、免疫抑制剤については、早期に使用してしまうとICIsの抗腫瘍効果を減弱させることが知られているため、使い時を間違えないことが重要となります。

ステロイドもそうですが、基本的に服用は長期になることが見込まれるため、日和見感染予防としてST合剤の服用を開始することも検討していく必要があるでしょう。

ホルモン補充療法

甲状腺機能障害や副腎機能障害、1型糖尿病などのirAEに対しては、今まで生体内で機能していたホルモンのバランスが崩れてしまいます。

これらの病態に関しては必要なホルモンを補う事が重要です。

例えば、甲状腺機能低下ならチラーヂンの投与、副腎機能低下ならヒドロコルチゾン(コートリル®)の投与といったところです。

保険薬局の薬剤師は、ICIsの治療歴ある患者にこれらの処方が追加になった際は、irAEによって発現した可能性をきちんと把握していきましょう!

その他

irAEの発現する症状で多いものに「皮膚障害」があります。

皮疹や掻痒感などの症状であり、症状が悪化してしまうと全身に広がったり、重篤な皮膚障害へ発展する可能性もあります。

保湿剤、ステロイド外用剤への早期対応が必要になりますので、症状発現時には積極的に医師と協議し支持療法を強化していくと良いでしょう。

皆さんもご存じかとは思いますが、塗布部位に応じてステロイドの強度も注意が必要です。下記の内容を参考にして頂ければと思います。

  • 顔や首:Midium~Strong
    (ロコイド®やリンデロン®)

  • 体幹や四肢:Very Strong~Strongest
    (アンテベート®やジフルプレドナート®、ダイアコート®)

医療機関でのirAE対策

irAEの発現には迅速かつ必要量の支持療法(副作用対策)が必要です。

医療機関ではこれらの症状を見落とさないために、様々な取り組みを実施しています。

次に示すものは、私が関与した医療機関の状況やJASPO学会で拝聴した内容です。(一つの医療機関で全てやっているわけではない)

「ICIシール」の交付

irAEの発現を確認するために、まずICIsの投与歴が分からないとできないよね。という事を元に作成された「ICIシール」。

ICIs投与患者のお薬手帳に医療機関側が貼り、それ以降は、お薬手帳更新のタイミングで薬局薬剤師側が新たにこの「ICIシール」を貼ることで継続的な管理に繋げようとしているのです。

お薬手帳がない人や忘れたという人もいるため、お薬手帳のシールだけを当てにせず、必ず薬歴などに残しておく必要があると感じます。

「ICI副作用確認シート」の交付

下に添付しているのは、福岡市薬剤師会で発行している資料です。

このような1枚ですぐ症状が確認しやすいようなシートを用いて、患者の意識向上、薬局薬剤師の知識補填、副作用管理の強化に役立っているようです。

実際このシートのおかげで、irAEを早期発見し迅速に対応できたというケースもあるようです。

院内・地域での勉強(情報共有)会の開催

化学療法に従事している薬剤師であればICIs、irAEに対する知識はある程度あるでしょうが、薬局薬剤師だけでなく化学療法にあまり従事していない病院薬剤師であっても、きちんとirAEについて理解できてます!という人は限りなく少ないでしょう。

医師もその限りではありません。適応拡大に伴い、医師の中でもirAEの対応に頭を抱えている先生方が非常に多くいるのが現状です。

地域的な情報共有をすることで底上げ、シームレスな患者フォローが出来るようになるため、院内あるいは地域を巻き込んだ勉強会の開催を行っている地域もあります。

irAEの採血セット作成や薬剤師による採血入力

irAEを管理する上で、必要な検査項目のベースラインや定期的な確認は必要不可欠です。

しかし、検査項目は多く、忙しい医師が適切な時期に必要な項目を全て入力するのには限界があります。

そこで、irAE管理に必要な採血項目のセット、必要に応じて薬剤師が採血項目を入力するなどの対応が施されています。

薬局薬剤師は、もし情報が確認できるようなら採血データを確認し、どのような変化が起こっているのか予測していきましょう。

irAEの対応フローチャートの作成

irAEの発現に対して、迅速かつ適切な治療が必要であることは把握したと思います。

実際irAEが発現している場面に遭遇した際、正しい判断で、迅速かつ適切な治療を行えるかは難しいのが現状です。

そこで、フローチャートを作成することで、特定の医師でなくともirAEに対する迅速かつ、正しい治療が開始できるようにしている地域もあるようです。

特に夜間救急などの場合には、非常勤の医師や研修医が対応することも多いため、このようなフローチャートがあるのはかなり有意義でしょう。

医療機関での限界

医療機関側では、実に多くの準備がなされています。

しかし、irAEがいつ起こるか分からないという特徴があるためか、医療機関でどんなに対策を講じても限界が出てしまいます。

特に次のような場合では、薬局薬剤師のフォローが必要不可欠になります。

  • ICIsの投与が休薬している場合

  • 他のレジメンに変更している場合

  • 既に抗がん剤治療もしていない場合

化学療法休薬中や、レジメン変更で内服だけになった際、術前化学療法でのICIsの使用で現在そもそも抗がん剤を投与していない場合では、病院薬剤師や化学療法室の看護師も確認が出来なくなるためです。

決して、点滴の内容だから薬局薬剤師は関係ないというわけではありません。

薬局薬剤師としてのirAEへの関与

それでは、薬局薬剤師がirAEに対してどのような関与が求められるのでしょうか?

主に、次の3つが挙げられるでしょう。

  • 持続的なirAEの指導

  • アドヒアランス向上

  • 適切な服用方法

それぞれ分かりやすく解説していきます。

継続的なirAEの指導

これら病院勤務だった前も、BPACCの研修先の病院、現在の薬局でも感じる事ですが、ICIsを数回投与すると副作用を感じにくいため、患者のirAEに対する認識がかなり薄れています。

投与をしていても病院薬剤師が化学療法室で患者指導をするには、マンパワーが不足していることもまた事実です。

かなりの確率で患者は薬をもらいに薬局へ足を運ぶため、irAEに対する指導は薬局薬剤師がメインになっていくことが十分予想されます。

ICIsの投与が終了した後も継続的な指導をしていきましょう!

アドヒアランス向上

irAEが発現するとステロイドの投与やホルモン補充療法などが開始になることはすでにご理解いただいていると思いますが、患者さんにとって、その薬剤がどれほど重要で必要な薬剤かを真に理解している人は少ないと感じています。

アドヒアランスの向上をすることで、飲み忘れや自分の体調に敏感になっていけるよう分かりやすく、継続的に説明していきましょう。

適切な服用方法

ここで伝える適切な服用方法とは、副腎機能障害に対するヒドロコルチゾン(コートリル®)や下痢発現時のロペラミド(ロペミン®)の使用についてです。

<ヒドロコルチゾン(コートリル®)>
副腎機能低下に対してはヒドロコルチゾン(コートリル®)を補充することで、血圧の調節や血糖、水分調節などの体内環境を保つ働きをします。

風邪や熱などのストレスがかかると、副腎皮質ホルモンの必要量が増すため、追加でホルモン補充をする必要があります。(副腎機能が正常な場合は追加で分泌されています。)

「体調不良時に」服用するヒドロコルチゾン(コートリル®)が処方されている場合には、我慢せずに服用することが重要ですのでしっかり指導していきましょう。

<ロペラミド(ロペミン®)>
下痢が発現した際に使用されることの多いロペラミドですが、ICIs投与歴のある患者では注意が必要です。

irAEによる大腸炎がある際には早期にステロイドを投与する必要がありますが、ロペラミドの使用で発見まで時間を要する可能性があるからです。

実際に、下痢が出たため化学療法を受けいている病院ではなく、近くの病院に行き、ロペラミドが処方されるも症状は改善しきらず、下血した後にようやく医療機関を受診しirAEの診断に至ったケースもあります。

相当消化管が荒れていたようで回復するまでもかなりの時間を要していました。

下痢でも近医を受診せず必ず化学療法実施の医療機関へ連絡するよう指導が必要ですし、安易な止瀉薬の選択、使用には注意が必要です。

irAEの管理における薬局の問題点

irAEに対する薬局薬剤師の役割については、少しずつ理解してきたかとは思いますが、問題点もあります。

免疫チェックポイント阻害薬(ICIs)使用歴の確認

そもそもICIsの投与がされているのか分からない!という問題点が出てきます。

処方箋にレジメンが記載されている場合や患者から「免疫の点滴をしている」という発言がある場合には、電子カルテ(薬歴)に残して継続的にフォローできるようにしていきましょう。

また、処方箋へのレジメン記載がない場合もあると思いますが、「がん患者」であることや「デノタスチュアブル錠の処方」がある場合には治療を行っている可能性があるので、薬剤師側から何か点滴による治療をしていないかを確認していきましょう。

また、ICIs+内服抗がん剤のレジメンもあるため、点滴も行っていないかを確認することで把握できる可能性は十分にあります。

【ICIs+内服抗がん剤レジメン】

  • 胃がん:SOX+Nivolumab、CAPOX+Nivolumab

  • 腎がん:Avelumab+インライタ®、Nivolumab+カボメティクス®、Pembrolizumab+レンビマ®

ティーエスワン、カペシタビン、インライタ、カボメティクス、レンビマ服用中の患者には、点滴の有無とその内容について聴取していきましょう!

知識不足

薬局薬剤師にとってICIsもirAEも何ぞや?というのは至極当然のことだと思います。

病院に勤務している薬剤師も全員が詳しいわけではないのですし、医師も看護師もまさに今、対応できるよう勉強している人が多いのです。

薬局薬剤師としても、これから少しずつ知っていければ良いですし、すでにICIsやirAE、その治療について概要を理解しているので大きな一歩と言えます。

ICIsやirAEについては、これからも記事にしていくので、たまに見に来てね!

改めて、こちらのリンクも貼っておきます。少し理解を深めようって思ってくれたら見てみてください!(有料記事ですが、無料の範囲でもかなり理解しやすくしています。)

irAEに対する薬局薬剤師の今後の活躍

適応拡大によりICIsの使用頻度はますます増えていきます。

irAEによる副作用は、投与後3か月が好発時期と言われますが、数年後に症状が現れる場合もあります

医療機関で様々な取り組みが始まっていますが、医療機関だけで全てをカバーすることは不可能で、薬局薬剤師の力が必要不可欠です。

薬局薬剤師は、今後下記のような活躍が期待されます。

  • irAE早期発見のための患者教育

  • irAE対応薬のアドヒアランスの向上

2つにまとめましたが、内容としてはかなり幅広く、奥深いものです。

随時ICIsについて更新していきますので一緒に勉強していきましょう!

最後まで見て頂いてありがとうございます。

JASPO学会のまとめとして書きましたが、良いねして頂けると記事を書くモチベになるのでお願いします!!

それではまた!




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