見出し画像

よく分からない免疫関連性有害事象(irAE)の具体的な指導方法とは【がんトレ】

割引あり

こんにちは、昨夜スノボに行き筋肉痛になりながらも、朝活をしにカフェへ来ている薬剤師よっちゃんです。

今回は、がん領域で少しずつ浸透してきた「免疫関連性有害事象(irAE)」について話をしていきたいと思います。

irAEと聞いて、何ぞやと思われる人もいるでしょうし、聞いたことあるよ!という人でも有害事象の管理については曖昧な人が多いでしょう。

今回は、薬剤介入の方法ではなく、患者への具体的な指導内容について解説していきます。


免疫チェックポイント阻害薬(ICIs)

まずは、irAEの原因になる薬剤の分類を「免疫チェックポイント阻害薬(ICIs)」と呼びます。

近年、がん細胞が自己の免疫から逃れる働きをしていることが明らかにされ開発された抗がん剤です。

まずは、がん細胞と免疫機構について解説していきたいと思います。

免疫機構とがん細胞

がん細胞と免疫機構では

「免疫回避」
「免疫寛容」

という働きが知られています。1つ1つ分かりやすく説明していきます。

「免疫回避」:本来、キラーT細胞によりがん細胞は排除されます。

しかし、がん細胞に発現するPD-L1(リガンド)がキラーT細胞に発現しているPD-1という受容体に結合することでキラーT細胞の攻撃性は失われてしまします。

MSD「非小細胞肺がんに対するキイトルーダ®の治療について」より

これをキラーT細胞からの免疫回避と呼びます。

「免疫寛容」:抗原提示を受けたキラーT細胞に発現するCTLA-4という受容体も有しています。

このCTLA-4はキラーT細胞の攻撃性を強くすぎないようにして自己免疫性疾患の発症を防ぐための機能になります。

「オプジーボ・ヤーボイ適正使用ガイド」より

免疫を寛容にして自分の身を守ると言ったイメージです。

作用機序

免疫チェックポイント阻害薬の作用機序は先ほど解説した「免疫回避」、「免疫寛容」に関与していた因子に作用します。

  • PD-1

  • PD-L1

  • CTLA-4

これらの働きを阻害することで、がん細胞に対する抗悪性腫瘍効果を強めています。

2024.3.4時点で使用されているICIsは8種類になるのでご紹介していきますl

国内で承認されているICIsは8種類!

【PD-1モノクローナル抗体】

  • ニボルマブ(オプジーボ®)

  • ペムブロリズマブ(キイトルーダ®)

  • セミプリマブ(リブタヨ®)

【PD-L1モノクローナル抗体】

  • アテゾリズマブ(テセントリク®)

  • デュルバルマブ(イミフィンジ®)

  • アベルマブ(バベンチオ®︎)

【CTLA-4モノクローナル抗体】

  • イピリムマブ(ヤーボイ®)

  • トレメリムマブ(イジュド®)

現在は、胃がんの1次治療にニボルマブが使用されたりと、使用率も上昇していますし、ICIsの併用療法の使用も増えています。

特にICIsの併用の場合は、PD関連薬剤とCTLA-4抗体が併用されます。

現在併用されているレジメンは、

  • イピリムマブ(ヤーボイ®)+ニボルマブ(オプジーボ®)

  • トレメリムマブ(イジュド®)+デュルバルマブ(イミフィンジ®)

の2つです。

がん種により用量や投与間隔が異なるため注意が必要です。

免疫関連性有害事象(irAE)とは

既にイメージが出来ているかもしれませんが、ICIsの使用で発現されるirAEの症状とはいったい何なのでしょうか?

免疫チェックポイント阻害薬による特有の副作用

一言でいうと、言葉の通り免疫が関与した自己免疫性の副作用です。

殺細胞性抗がん剤と比べると副作用頻度はかなり少ないですが、症状発現時には致命的になるケースもあります。

また、irAEの発現と抗腫瘍効果に正の相関が認められていることもあります。(副作用がないから効いてない訳ではない)

早期発見をして有害事象をコントロールすることで予後の改善も示されています。

「頻度は少ないが、発現時は致命的になりうるため、早期発見が大切!」と覚えておくようにしましょう。

症状は多岐にわたる

それでは、自己免疫性の副作用とはどんなものがあるのでしょうか?

  • 脳炎や髄膜炎

  • 下垂体機能障害

  • 甲状腺機能障害

  • 間質性肺疾患

  • 劇症肝炎、硬化性胆管炎

  • 副腎不全

  • 腎機能障害

  • 重症筋無力症、筋炎、横紋筋融解症

  • 1型糖尿病

  • 大腸炎、消化管穿孔

  • 神経障害

  • 重篤な皮膚障害

  • 静脈血栓塞栓症

など多岐にわたります。

全身的に症状が出る可能性があると意識しておくとよいでしょう。

投与から数年後にも現れる

今までの抗がん剤であれば投与初期に症状が発現することが圧倒的に多かったと思います。

irAEでは投与してから数年後に症状が現れるケースが認められています。キイトルーダ®適正使用ガイドの情報でも下記のようなデータが出ています。

キイトルーダ®適正使用ガイドラインより

投与より2年経過しれても症状がでたというのはだいぶ驚きですよね。

投与3か月以内は特に好発時期ではありますが、「irAEはいつ発症するか分からない」と覚えておきましょう。

医療機関での対応

次々とICIsの発売がされ、irAEの報告が上がる中で医療機関でも早急な対策が求められています。

実際医療機関ではどのような仕組みづくりになっているのか、薬剤部(科)の現状などについて解説していきます。

有害事象の発現に備えた情報共有と仕組みづくり

前提としての話ですが、「完全な体勢が整っています!」という施設はほぼないと思ってもらって良いです。現在も形作っている段階ですね。

具体的な対策としては、

  • いつでも症状が確認できるアプリの導入

  • 薬剤部でのレジメンチェック時に採血もチェック

  • irAEが疑われた際の採血項目のセット(夜間救急などの場合)

  • ICIs投与歴ある場合は電カルでポップアップ

  • ICIs投与歴ありの手帳シールの作成(地域薬局に向けて)

というのがあります。

irAEの管理に対する現状

実際、これら全てを実施できている施設は少ないことは紛れもない事実です。

また、医師や看護師、薬剤師が常にirAEへの注意喚起を促せることが望ましいですが、医師や看護師は他にもやることが多く細かい所のカバーは薬剤師の仕事になります。

しかし、ICIsの投与は単剤であれば30~60分で終わってしまう事が多く、薬剤部側も毎回患者さんに合う事が出来ないのが現状です。

他のケモ患者さんの対応、その他の調製業務、そもそもの人数不足などが理由です。

点滴の内容だから全て病院薬剤師がやるべきだというのは、やや人任せしているように感じてしまします。

そこでその役割を担えるのが保険薬局やドラッグストアなどの地域の薬局になると考えています。

保険薬局の役割

irAEの管理の一旦を担う上で保険薬局は、どのような対応が必要になるのでしょうか?

ICIs投与歴のある患者の把握

まず前提としてirAEの管理をするのであれば、ICIsの投与歴を確認しなければいけません。

処方箋へのレジメン記載や医療機関からの化学療法実施の情報がある場合には控えておく必要があります。

ICIsが何か分からないと大変だと思うので、先述していた7種類の薬剤名を頭に入れていると良いでしょう。

早期発見のための適切な患者指導

irAEには多くの症状があることはすでにお伝えしました。

薬局薬剤師側もICIsについての理解を深め、適切な対応をしていくのが良いでしょう。

全てを書ききるには膨大すぎるので重要なところだけ。

  • irAEはいつ起こるか分からない

  • irAEの発現と抗腫瘍効果は相関する

  • 重症化する前の対応が重要

ICIsやirAEの知識が足りなくてもコレを聞いてもらえれば!という具体的な指導内容についても解説していきます。

具体的な指導内容

全ての副作用を聴取するのは現実的に無理

irAEの発現時期が分からず、何が起こるかも分からない中で、毎回受診する患者さんに対して全ての副作用の情報を聴取するのは非常に困難です。

現実的ではないこともお分かりでしょう。

しかし、意外にもirAEの中には共通して発現する症状もあります。

そういったポイントを把握することで、きちんと必要な情報を聴取し、伝えることが出来ます。

この5つの内容を指導していこう

ここから先は

1,189字 / 1画像

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?