ヒビノヨアケ

北海道に住んでいます。 子どものころに詩を褒められて文章を書く喜びを知りました。 胸に…

ヒビノヨアケ

北海道に住んでいます。 子どものころに詩を褒められて文章を書く喜びを知りました。 胸にふつふつと浮かぶ言葉で物語と詩を紡ぎます。

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  • 昨日よりも孤独【詩】

    自作の詩を投稿しています。感想頂けると励みになります。

  • ヨアケイズム【雑記】

    日常の記録や思ったこと、留めておきたいことなどを現実と虚構の狭間で。

  • ショート・ショート

  • とりとめのない日常【小説】

    様々なタイプの主人公がなんてことのない日常を送る様子を描いた小説

最近の記事

ボディピアス

 ボディピアスと言うそうだ。  娘が臍にピアスを開けたいと言い出した。高校三年生。まだ十七歳。  色々言いたいこともある。でも、最近は少しも言うことを聞きたくないらしく、小言は全部「ハイ、ハイ」とあしらわれる。  私は、高校生のときに親に内緒で耳にピアスを開けた。  当時は簡易器具もなく、まことしやかに噂されていた方法は、安全ピンで穴を開ける方法。  神経が出て失明するとか、傷口が膿んで耳たぶを切り落とさなければならないとか、様々なことを囁かれてはいたけれど、私は実行した。

    • 君へ

      君は、美しい十代の終わりに どうして君自身を傷つけるの 寝ることも、 食べることも、 笑うことも、 悲しむことも。 運動することも、 汗をかくことも、 計画することも、 失敗することも。 つながることも、 愛することも、 綴ることや、 読むことだって。 人生にはたくさん やるべきことがあって たくさん 学べることがあって その小さな、 小さな箱の中に入ってることが すべてじゃないって 君に伝えたいけれど 語りかけると君は 心を閉じたガラス玉の目をして 耳をすっかり塞い

      • お母さん、お元気ですか

        近所に出来た新しいパン屋に行った。 外に出るのは久しぶりで緊張した。 思いのほか暖かく、春がそこまで来ていることを知った。 家の中で過ごしている日々が鬱々としたものなのか、 それともそれなりに豊かなのか、自分では判別出来ない。 ベランダの汚れを落として猫を開放した。 そういえば旭川に住む母が、そろそろこぶしが咲くと言っていた。 真っ白いこぶしが木々にぶら下がる様を思い浮かべた。 カタクリの群生地に毎年足を運んでいると言っていた。 齢七十四になり、そろそろ七十五になる。 「

        • 久しぶりにあった彼女と

          オレンジ色のペンダントライトがふたりの顔を照らし、 夕暮れがすぐそこまで迫ってきていることを知る。 彼女は夕飯をカレーにすると言い、 私は30%オフで買った牛肉でプルコギにすると笑う。 こんなにも長く話してしまったことで、 語りすぎた私の口は止まらず、自嘲して虚しさが胸に沸き起こる。 自信を持って輝く彼女は真っ直ぐな眼差しで同調するも、 それが却って私の口を滑りやすくするのだ。 彼女らと別れてさっそく息子が、 「お腹空いた」と訴えるので早々に夕食づくりに取り掛かりながら、

        ボディピアス

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        • 昨日よりも孤独【詩】
          40本
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        • とりとめのない日常【小説】
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        記事

          親しい、友達

          小学生のとき、親友が欲しかった。 口下手で面白いことも言えず、性格も暗かった私は、漫画の世界にある『親友』がいればいいなとずっと思っていた。『なかよし』とか『りぼん』とかにある、キラキラした関係。 4年生になって、クラスに転校生が来たことでチャンスが訪れた。 彼女の名前は「さえちゃん。」 さえちゃんは”都会”から来たと言う。 さえちゃんの話すことは自分の住んでいる場所にはない新しいことが多くて面白かった。 わたしはさえちゃんと『親友』になろうと思った。 さえちゃんは明るく

          親しい、友達

          シルエット

          朝ドラの深津絵里を見て、時が止まったような人が実在するのだと知る。 深津絵里(敬称は略させてもらう)は同じ歳なのだけれど、当然のことながら相貌はまるで違う。 変わらぬ透明感やピンと背筋の伸びた感じが違ってて、 皺の刻まれ方も、笑顔の作り方も、 年齢を重ねた落ち着きも、だというのに感じられる色香も、 なにもかもが違う。 私がどこかに落としてきたものはなんだろう。 まだこの手のひらにあるのか、それともすべてをするりと落としてきてしまったのか、それすらもはっきりとわからないで

          鳴らなかった携帯電話

          8時46分。携帯電話の画面に娘から不在着信。 とっくに学校に行ったはずなのに訝しく思いつつ開くと、メッセージが届いていた。 ”痴漢にあった” ただそれだけを、放り投げるみたいに送りつけてその前後がまるで無い。 時間を見ると今より40分も前に送ってきたもので、電話にもメッセージにも気づかなかったことになる。 慌ててリダイアルすると、今から警察と一緒に帰ってくるという。 「ごめん、電話に気づかなくて。大丈夫?」 「うん、大丈夫。色々やることあるんだって。あとでね」 背後で

          鳴らなかった携帯電話

          未成年

          未成年って輝きを無駄遣いしてる君がキライだ 制服のスカートを翻して白い素肌を晒す君がキライだ 赤いネクタイを緩めて携帯を翳す君がキライだ 派手に酔い散らかしてそれをSNSにアップする君がキライだ 本当は早くに起きているくせにわざと遅刻する君がキライだ 料理が出来るのに出来ないふりをして馬鹿を演じている君がキライだ 猫が好きなくせに気のないフリをしたり 子供が好きなくせに苦手なフリをしたり 勉強が好きなくせに嫌いなフリをしたりする君がキライだ 好きでもない子に気のあるフリ

          甘くてしょっぱい

           ああ、そうか。  先輩の顔を見て、これはナシだなと悟った。  なんてこった。今こそ降臨してくれ、夢の中のアタシ。  夢ではいつも饒舌で、みんなと快活に過ごしているじゃないか。 教室でボッチ飯したり、日直の忘れた黒板拭きを誰にも見られず行うような幽霊女じゃない。  どんな状況にも明るく笑って立ち向かえる、そんなアタシが出てきてくれたら、言葉を探して佇んでいる先輩に、 「なあんちゃって!」  と明るく返せるのに。  ……言っちゃおうかな。  夢の中のアタシは、あたしが生

          甘くてしょっぱい

          【小説】場違いにメロウ

          「あいつ、どう?」  後部座席から身を乗り出した陽人が、横断歩道を横切る女を見て言う。 「やだよ、汗だくじゃん」  女のランニングは背中がびっしょりと濡れていた。ショートパンツから伸びた脚は筋肉質で、色気など感じられない。 「それに胸もないじゃん。俺おっぱい大きいのがいい」 「でもさ、走って疲れてるから、案外パッと捕まえれんじゃね?」 「やだって。汗くせぇだろ」  仁成がぐずぐず言う間に、女はランニングで去っていった。  良かったな、俺らに捕まらなくて。  尊は走り去った女

          【小説】場違いにメロウ

          つまらなく惨めな気持ち

          とてもつまらなく、とても惨めな気持ちなることがある 抗いがたく甘美に、僕をどん底へ誘い込むのは 心に巣食うネガティブな自尊心 雨上がりに虹のかかった空を見上げて 「死にたい」 と言ってしまいそうで怖い ずっと誰とも喋らずに SNSの世界で生きていることを 母が知ったら嘆くだろう こんな風に生きるよう 父は教えはしなかった こんな風で生きてるよう 僕は想像しなかった 何月何日何時何分 どこか行きの急行列車で旅に出る 妄想旅行は感性のすべてを麻痺させて 深く眠れ、ただ深

          つまらなく惨めな気持ち

          あの子は確かに

          あの子は確かにここにいた 背丈が腰ほどにしかなくて つま先立ちでのぞき込み にっこり笑って微笑んだ あの子は確かにここにいて お母さん、お母さんと二度呼んで おんぶして欲しいと背中にまわり 重たくなった体を乗せた あの子は確かにここにいたけれど いつの日にか面影だけを あちこちに残していなくなった 返らぬ日々と知りながら 素知らぬ顔で撫でている いつかのあの子が消えてしまわないように 一生懸命愛でている

          あの子は確かに

          【小説】薄氷

           鈍色の、すっかり夏を捨て去った九月の空に洗濯物が揺れている。はためく色とりどりのタオルで猫たちが戯れている。夫なら、こんな曇天に洗濯物を干すなよと苦々しく言うだろう。  天気予報では降水確率10%。雨が降ったら取り込めばいいだけの話、と言い返すやり取りを、いったいどれだけしてきただろう。  テーブルに放置された飲みさしの、あと一口程度を残したペットボトルを処分しながら、置きっぱなしにしないでと繰り返し口にした日々。それだって毎日言うわけじゃない。何度も続いたときにだけ言うよ

          【小説】薄氷

          【小説】She has gone away

           妹は缶ビールを二本飲んでハンドルを握り、時速80Kmで電信柱に突っ込んだらしい。折れた電柱よりはるか向こうに吹っ飛んで、体を路面にしたたか打ち付けたそうだ。内臓が破裂して辺り一面が血の海だったと、駆けつけるタクシーの中でTwitterに書かれているのを見た。  病院に到着したとき、弟はまだ到着していなくて、ロビーで両親がすっかり憔悴していた。電話を受けてから親の姿を見るまでの、すべての出来事はふわふわと浮わついていた。見るともなしに流れる映画を眺めているみたいに。  深夜の

          【小説】She has gone away

          【小説】エンドゲーム

           どことなく元気がない気もしたけど、踏み込んだことを聞くのは憚られる。浅沼さんと俺は、そもそもそんな関係じゃない。 「クリテツくんクエスト完了したんだ。かっこいいよねそれ。あたしも欲しいけど複雑すぎん?」 「あーたしかに。十五個もクエストあるしね。寝ないでやって三日かかったわ」 「だから眠そうだったんだ」  深夜二時。  週末を前に久しぶりに帰れまテンでもやろうかって話になってもう四時間が経っている。帰れまテンは某テレビ番組のパクリだが、ゲーム配信者がいうそれは『ゲームで1

          【小説】エンドゲーム

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          僕はまだ誰も

          2020.6.20にupした詩に動画と音楽をつけてみました。

          僕はまだ誰も

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