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【小説】蓮が咲く5


【五】
 
 
駅前では、デモ行進が行われていた。
行進する若者が掲げるプラカードに、「憲法九条の復活を!」と書かれていた。
ギルはポケットに手を突っ込んだまま、そのデモ行進の横を通り、電車に乗ろうと駅に向かっていた。
「おい」
 不意に声をかけられ、ギルは振り返った。
「お前、元軍人かよ?」
 今時の、どこにでもいるような若者だった。
「だったら何だ?」
「この人殺しが!」
その若者が突然大声を出した。周囲を行き交う人々が歩みを止め、こちらを見た。
「海外で人殺してきやがって。この悪魔が!」
「あの、すみません、あなた元軍人なんですよね?」
 今度は別の若者が横から割り込んできた。デモ行進に参加している訳ではなさそうだった。
「戦場での様子とか、インタビュー撮らせてもらえませんか?」
 後から割って入ってきた若者は、喋りながらカメラやマイクなどの機材をリュックから出し始めた。
「そういうのは若者同士でやんな」
 ギルはそれだけ言うと、その場を後にし、駅とは逆の方に歩き始めた。
 最初の若者はずっと「人殺し」と大声で喚き続け、後から来た若者は機材を中途半端に出してしまったために、立ち去るギルを追いかけることができず、そのまま追うことなく見失ってしまった。
 路地を抜けてオフィスに向かうギルは、途中で後を付ける気配に気付いた。一度それとなく振り返ると十代半ばと思われる少年があからさまにぎこちない表情をし、視線を逸らした。人気のいない道に入ると、角を曲がってすぐのところで待ち伏せし、右手はズボンに突っ込んでいた銃に手をかけた。すぐに角に向かって駆けてくる足音がし、少年はギルと鉢合わせになった。
「おい」
 立ちすくむ少年に、ギルは警戒を解かずに訊いた。
「なぜ俺を尾行(つ)けてるんだ?」
「お…おれは…」
少年は緊張しながらも、声を絞り出して、はっきりと言った。
「お前に責任を取ってもらうために来たんだ!」
「は?? 何のことだ?」
 ギルは眉間に皺を寄せた。
「お…親として、成人するまで、責任を取ってもらう!」
 
 
 ギルは、ナギサに連絡を取り、急遽休みを取った。本来は、義足の定期診察とメンテナンスで午前中に軍立病院に寄ってから出勤のはずだったが、この少年を連れて第一オフィスに連れて行くわけにはいかない。
 ギルは喫茶店に入り、少年から詳しく話を聞くことにした。
「で? 俺は子供をこさえた覚えはないんだが?」
「よく白々しくそんなこと言えるな!」
 少年が食ってかかった。
「十五年前に、精子バンクに精子を寄付したろ」
 少年は精子という言葉にいささかの抵抗があるようで、やや小声になった。
「俺は、同性カップルの間に生まれた、お前の遺伝子を継いだ子供だ」
 一瞬、ギルの思考が停止した。
 第三次世界大戦の初期、負傷して両脚を失ったギルは、集中治療とリハビリのため、一時帰国した。その際、今後の事を考え――恐らく、死ぬまで軍関連以外の仕事に就くことはないだろうという点と、今後義足でリハビリをこなし、再び戦場に戻るという点――を考えると、急所となる部分はできるだけ減らしておきたいという気持ちがあった。そして、切除した睾丸がただのゴミになるくらいならばと、精子バンクに寄付した経緯があった。
 言われてみれば、少年は自分に似ていなくもない。
「だとしても、誰の精子かどうかは、調べられないようになっているはずだ。なぜ分かった?」
「さあ? でも、教えてもらえたみたいだぜ? いくら出したのか知らねえけど」
 そう言って少年が差し出した書類を見ると、そこにはギルの住所と昔の電話番号、職業や血液型等が書かれていた。そして、クリップで昔の自分の写真が留められていた。
「電話番号は繋がらなくて、この住所に行ったら留守だった。駅前で時間潰してたら、偶然あんたを見かけて、間違いないって思って、それで後を尾行けたんだ」
「なるほど。で、さっき言ってた、成人になるまで責任を取ってもらうっていうのは?」
 身を乗り出していた少年が、自分の椅子に座り直した。
「両親が俺を捨てたんだ」
 少年の話によると、女性同士の両親は少年の生後、不和が生じていた。そして、少年が中学を卒業するのに合わせて、二人は離婚した。先に家を出て行ったのは母親の方だった。何の別れの言葉もなく、出て行った。父親の方が出て行く時、住んでいる家も引き払うことを説明され、この男にどうにかしてもらえとこの書類を渡して出て行った。
 そして、少年は一人になった。
 ギルは黙って話を聞いていた。
「こうなったのも、全部お前のせいだ」
 少年は言った。
「軍人としての罪滅ぼしのつもりだったのかよ。余計なことしやがって」
 少年は背中を丸め、頭を抱えて搔きむしった。
「こんなことになるなら、そもそも生むんじゃねえよ……」
 
 
 ギルはひとまず、自宅に少年を連れて帰った。
「随分イイ生活してんだな。」
 少年は部屋の中を見回して言った。どこにでもあるようなアパートの一室で、格安家具や簡素な家具を使っているものの、少年の目にはそう映ったようだった。
「ひとまず、くつろげよ」
 ギルはコーヒーを二人分入れると、ソファに座る少年に一つ手渡した。
 少年は例も言わずに受け取ると、コーヒーに口を付けた。
「あっつ」
 少年はマグカップから口を離した。
「猫舌か?」
「そんなんじゃねえよ、熱すぎんだよ」
 少年が食ってかかった。
「で、名前は?」
「教えない」
「じゃあ、何て呼べばいい?」
「知るか」
「じゃあ、少年でいいか」
 少年は返事をしなかった。
「少年、結論から話すぞ」
 ギルは仕切り直した。
「俺にはお前を養育する義務はない。それはお前さん自身も分かっていることだろう。まず、警察に届け出て公的な保護が優先だ。お前さんの両親は育児放棄をしている。その被害者としてケアと本来受けるべき養育を受ける権利がある」
「……両親には、もう二度と会いたくない」
「会いたいか会いたくないかじゃない。そうしたことに関わらず、捜索は必要だ」
「……お前さ、俺を施設にブチ込んで、お前は当然のようにこの暮らしを続けるわけ?」
「誰かのせいにしたくなる気持ちはよく分かる。ただ……」
 ギルは視線を落として続けた。
「自分で生きるしかないんだよ」
「……偉そうなこと言うなよ」
 少年がマグカップをローテーブルに置くと、顔を上げ、まっすぐにギルを睨みつけて声を荒げた。
「お前、突然親が蒸発してみろよ! 何日もネットカフェや野宿で過ごしてみろよ! ファーストフード店の安いメニューだけで凌いでみろよ! 俺は、俺だって……」
 勢いで立ち上がった少年が、ソファにしりもちをつくように腰を下ろした。
「普通に高校生になれると思ってたのに……皆と…同じように……」
 脱力し、頭を抱えた少年に、ギルは言った。
「まず、ここできちんと養生しろ。食い盛りだろ。俺は独り身だし、好きに過ごせ」
 
 
 ギルは家にあるものでパスタを作った。少年はそれを平らげると、ギルに言われて風呂に入った。
「こんなもん、家で出たことねえよ」
「こんなタオル、使ったことねえし」
 少年はことあるごとに突っかかった。ギルはそれを聞き流した。
少年は夕食までの時間を、魂が抜けたようにテレビを眺めて過ごした。
夕食を食べながら、ギルは話した。
「悪いが、明日、俺は仕事だ。合鍵を渡すから、好きに過ごせ」
「いいの? そんなこと言って。家の中の金目のモン持ち出して、逃げるかもよ」
「大した物はこの家にはない。今日急遽休んだからな。明日も休むわけにはいかない。週末、警察に相談して、公的な保護施設か、NPOを紹介してもらおう」
「あっそ」
 少年はギルを見ずに返事をした。
 
 
 
「む…息子⁈」
 翌日、事情を聞いた一同は驚きのあまり言葉を失った。
「そういう訳で、今後も突然有休消化することになる可能性がある」
「あのね」
 腕組みをしたナギサがギルの発言に間髪入れずに言った。
「有休消化する可能性があってもなくても、来週は富士の演習に参加予定でしょ」
「ああ、そういえば」
「そういえばじゃないわよ。」
 ナギサが大きなため息をついた。
「それまでにはどうにかするさ。もしまだ家にいたとしても、十五だ。留守番くらいできるだろ。危険なものは既に全部移動させたし……」
 ナギサを除く一同は、“危険なもの”という言葉に引っかかりはしたものの、勤務開始時間となり、仕事に移った。
 その後数日が経ち、ギルはオフィスとなっている別の階のジムの一角で一人で昼食を取っていると、アカネがやってきた。
「お疲れ。隣いい?」
「おう」
 ギルが短く答えると、アカネは隣に座った。
「“少年”クンの様子はどう?」
「う~ん、それがなあ」
 ギルは頭を掻いた。
「なかなかと難しい」
 少年はギルの家から出て行くことなく、くつろいで過ごしているようだった。相変わらず悪態や喰ってかかる物言いはするものの、少しずつ自身の話をするようになった。
「俺は、普通の恋愛も知らない。親のせいで」
 昨晩、少年と並んでソファに座ってテレビを観ている時に、ポツリと呟いた。
「両親は、女性同士のカップルだと言っていたな」
「ああ。おれは母親の方に似た要素が無くて、ダメな子供なんだと」
 気持ちの整理が追いつかないのは致し方ないが、数少ない会話からも情報の整理ができていないと感じることが多かった。この時も、同性愛者カップルへの憎悪の言葉が止まらなくなった。
「女同士って、そもそも自然じゃなくね? 女同士で子供が産めるわけじゃないんだし。生産性がないんだよな、そもそもがさ」
 そうした発言に対し、まともに取り合うと感情的になり、食ってかかってくる。感情が定まらないのも仕方ない状況ではあるが、いくつもの問題を全てまとめて考えていると、少年が伝えたいことがギル自身に正しく伝わっていないような感触があった。
「そこで、年相応の各教科の市販の問題集を買って与えたんだが……」
「全く手を付けない、と」
 アカネが合いの手を入れるように言った。
「いや、そこは律儀にやるんだよな。だが、全く解けてないんだ」
 ギルが続ける。
「一緒にやってみると、基礎学力が中学卒業レベルとは思えないくらいお粗末だった。よくよく話を聞くと、進学が決まっていた高校はかなりレベルの低い高校みたいだしな。答案用紙が白紙じゃなけりゃあ受かるようなところだよ」
 少子化が進む中、学校は子供の取り合いになっているところも多く、あえて偏差値を落とすところも珍しくはなかった。
 アカネが口を開いた。
「多分、イスを並べて勉強を見てもらう経験も、両親と込み入った会話をすることもなかったんじゃないかな?」
「ああ、確実にな」
「それにしても、面倒見良いわね」
「自分でも、そう思うよ」
 ギルは寝不足気味の目頭を指で押えた。
 
 
 週末になった。
 ギルは身支度を済ませ、少年に声をかけた。
「よし、行くぞ」
 ギル同様に身支度を済ませ、ソファでぼんやりとテレビを観ていた少年が口を開いた。
「なあ、ここにいちゃダメかな」
 ギルは玄関で靴を履く手を止め、少年を見た。様子から、警察に相談に行くのに気乗りしないのが伝わってきた。
「今までの話し方は謝るよ。ごめんなさい」
少年は頭を下げた。
「それに、ギルさんなら子供の一人くらい、養育できるでしょ?」
 ギルが口を開いた。
「悪いがな、それをいうと、世の中に何千何万といるであろう俺の子供全員を養育しなきゃいけなくなる。悪いとは思うがな」
「嘘だ」
 少年は目に涙を浮かべていた。
「どうせ俺が嫌なんだ。施設に行ったらいじめられるに決まってる。勉強だって、今まで塾に行ったって成果が伸びた試しもないし、かといってスポーツができるわけでもない」
 ギルは黙って聞いていたが、少年の感情の高ぶりと乱れ始めた呼吸をみて、靴を脱いだ。
「施設がどんなところかなんて、実際に見てみる前からイメージで決めつけるべきじゃない」
 ギルはソファに近付き、少年の隣に腰を下ろした。
「……今日は、やめておくか?」
 少年は泣きながら、黙って頷いた。
 ギルは少年の背中を大きな手で擦った。
「俺、カイトって言います」
 少年が自分から名前を言った。
「カイトか。カイト、無理はしなくていい」
「うん。……なんだか、親の付けた自分の名前さえも、嫌になってきた」
「今はそういう考えになるのは当然だ。気にするな。好きな方で呼ぶようにしよう」
 カイトは黙って、しかしはっきりと頷いた。
 
 
「で、まだいるわけ?」
 呆れた表情を隠そうともしないナギサが言った。
「明日から三日間、留守番させることになるんでしょ?DNA鑑定もしていない人物を」
「まあな」
「富士の演習、ムリ言ってねじり込ませてもらったんだから、面を汚すようなことはしないでよ」
「分かってる。日持ちするモンを数日分準備しておきゃあ問題ないだろ」
「本っ当に面倒見良いですよね」
 黙って聞いていたサタケが言った。
「俺なら、転がり込んできた翌日には警察か役所に連れて行くかな」
「まあな」
 ギルは、サタケの意見を否定はしなかった。
「まさか、罪悪感でも感じてるんじゃないでしょうね?」
 ナギサが眉間に皺を寄せてギルに言った。
「正直、全くないわけじゃない」
「いや、でも、責任は蒸発した親にあるわけで……」
 サタケが椅子を反転させて、デスク下にあった膝をギルに向けた。
「まあ、そこら辺は、」
 ギルは立ち上がった。
「親になったら分かるもんさ……」
 そのままギルは歩き出し、サタケに対し、手をひらひらさせてその場を去った。
 その背中を見ながらナギサが吐き捨てるように言った。
「そんなこと言ったって、育休なんて取らせないわよ」
 
 
 富士演習の当日の朝。
 まだ寝ぼけ眼のカイトを台所に呼び出し、ギルは早口で説明していった。
「ひとまず、冷蔵庫のここの、左側から食べていけ。レトルトはこっちだ。痛みやすいものから片付けていけよ」
「うん」
 一通りの説明を終え、ギルは荷物を持って玄関で靴を履いた。
「そしたら、戸締りだけは気を付けろよ」
「うん」
「じゃあ、行ってくる」
 カイトは黙って手を振ってギルを見送った。
 カギを閉めた後、カイトはギルがパントリーに置いてあった非常袋の中から、ロープを取り出した。
 そのロープをもって風呂場に行くと、風呂場用の椅子に乗り、備え付けの物干し竿にロープを括り付けた。括り方は、前もってインターネットで調べていた。
 カイトは輪になった部分にゆっくりと首を通した。
 
 
 ギルは、アパートの外の駐車場で荷物を詰め込んでいた。ふと、忘れ物に気付き、家に戻ったが、リビングにはカイトの姿がなかった。
 時間が押しているのもあり、ギルは部屋の中なら届くような声で、忘れ物を取りに戻ったこと、また出発することを言うと、すぐに車に戻ろうとした。
 その時。
 風呂場の方から、物音がし、わずかだったがうめき声のような声が聞こえた。
 胸がざわついたギルは飛ぶように踵を返し、風呂場に駆け付けるとそこに首を吊り、足が宙に浮いたカイトがいた。
「お前ッ」
 軽々とカイトの身体を持ち上げ、ロープの輪から首を外すと、カイトを床に降ろした。
 カイトはせき込み、背中を膨らませて息を吸った。首にはロープの跡がくっきりと付いていた。
「お…まえ…なぁ…」
 ギルの息を切らした声に、カイトは何度も息を吸いながら内心怒られると思ったが、ギルの発した言葉は意外なものだった。
「今、お前は、人生のどん底だ」
 ギルは言葉を続けた。
「そのどん底の状態で、取り返しのつかない、行動を、取るな……ただ、ま、」
 ギルは息を切らしながら続けた。
「反動は、そのままじゃ、何にもならねえが、行動の原動力には、なり得る。だから、こうした行動を取った自分を、責めるなよ」
 その言葉を聞いて、カイトは胸の中で、絡まった毛糸がふわりとほぐれるような感覚を覚えた。そして、呼吸が整ってきたのと反比例して涙が溢れた。
「おれ、気付いたよ……」
 まだ少し乱れた呼吸を整えながらカイトは言った。
「自殺しようとする人は、死にたいと思うんじゃない」
 床に落ちる涙を見つめながら、カイトは続けた。
「生きたくないと思うだけなんだ」
 ギルは相槌を打った。
「そうだな」
「でも、気持ちとは関係なく、死のうとした結果は一つなんだ……」
「ああ、そうだな」
 ギルは立ち膝に乗せていた腕をまだ上下してたカイトの背中に伸ばした。
「その悟りは、お前の宝物だ。大事にしろ」
 
 
『富士の演習、幸運にもリョウが行けたから良かったけど、次はナシよ』
「ああ、分かってる。リョウにも直接礼を言っとく」
『当たり前でしょ。それじゃ』
 不機嫌なナギサは用件が済むとギルよりも先に電話を切った。
「さて、急に暇になったな」
 ギルは、カイトに話しかけた
「バスケでもするか」
「おれ、頑張るよ」
「まあ、身体の無理のない範囲でな」
「違う、施設とか、親のこととかさ」
 ギルはカイトを見た。
「施設、事前に見学とかできるのかな」
 カイトは気恥ずかしそうに、ギルから視線を外して言った。
 
 
 ギルは役所などに電話を掛けて事情を話し、児童保護施設やそれに関連するNPOをいくつか紹介してもらい、直接連絡を取ることにした。事情を説明すると見学が可能な場所もあり、二人はそういったところに直接足を運び見て回った。
 昼食は移動途中に見つけた洋食の定食屋に入った。
「お飲み物は?」
 店員に訊かれ、ギルはコーヒーと答えたが、カイトはジュースを頼んだ。
 店員が去った後、カイトが恥ずかしそうに言った。
「実は、コーヒー苦手なんだ……」
 午後も一か所見学をし、二人はそのまま役所の相談窓口に向かい、改めて詳細な事情を話し、施設への入所について案内を求めた。
 職員からは順番が逆だと嫌味を言われたが、二人とも意に介さなかった。
 手続きがスムーズに進み、二日ほどでギルのもとに役所から連絡が来た。
 役所に行った時に出した希望が通り、カイトが自ら希望した施設への入所が決まった。
 入所当日、ギルは施設までカイトを自家用車で送った。
 施設の駐車場でエンジンを切った時、ギルが口を開いた。
「俺が言うのも何だがな、仮に遠回りしたとしても、夢や理想を諦めるな。何らかの形で、どうにかなるもんだ」
 ギルは前を見たまま話した。
「……うん」
 カイトの自信のない返事に、ギルは続けた。
「気負わせるつもりで言ったんじゃねえからな。ひとまず、止めるなよ。止めなければ、諦めたことにはならねえ」
「そっか」
カイトは前を見たまま返事をした。ギルはカイトの頭を乱雑に撫でると、二人で車外に出た。
ギルは施設の職員にカイトを引き渡し、カイトの背中を見送った。
 


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