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【読書】WHAT IS LIFE? 生命とは何か/ポール・ナース

どこかで書いたことがあるかもしれないのだけれど、私が理系に進んで今の研究室を選んで大学院に進学した理由は「人間がどうして人間として生きていられるのか」が知りたかったからである。

この本は、私と類似した疑問を持って私と類似した研究を行なった、私よりもはるかに頭の良い人が書いた本だ。
持っている疑問と研究分野が類似しているせいか、一部専門的な部分がありつつも分かりにくい所がなくてとても面白かった。


私たちの身体を構成する細胞の中では、常にたくさんの化学反応が起きている。
それぞれの化学反応や、その化学反応を触媒する酵素が好む環境は大きく異なっていて、置かれている環境によって反応の速さは大きく変化する。
細胞は膜を使って環境を区切ることで、狭い狭い細胞の中でこれらの化学反応が起きる環境を明確に分けている。

つよい。
つよすぎる。

砂漠の隣に熱帯雨林が作れるといえばわかりやすいだろうか。
しかもその間の壁は脂質2分子分、距離にして4-6 nm程しかないのだ。
さらにこの壁はとても有能で、それぞれの間を隔てているだけではなく、必要な物資の供給や不要なものの排出まで担っている。
砂漠のオアシスが枯れないように熱帯雨林で降った雨を適量分けてあげられるのだ。
あくまでも砂漠の生態系を変えない分の水分をコントロールして分け与える。

優秀すぎるやろ、膜。


今の製薬業界のトレンドは膜タンパク質だと聞いたことがある(真偽は知らん)けれど、この膜の優秀さを見れば膜に着目したくなる理由がとてもよくわかる。

ここからはもう少し難しい内容になる。
ホモログという言葉がある。
例えば人間と酵母など違う種類の生物が類似の性質を有するタンパク質を持っている時、そのタンパク質の酵母ホモログなどと言ったりする(伝われ)。
人間と酵母が生物として道を違えたのは12億年前なのに、今現在人間と酵母は似たようなタンパク質を持って、類似のシステムを採用して、同じような仕組みで生きている。
おもしろくない?

これは酵母と人間だけに限らない。
今地球上で確認されている全ての生物は炭素を中心に生きている。
類似した性質を持つ元素は他にも存在するにも関わらず、確認されている全ての生物は炭素を基本として、似た構造や機能を持つタンパク質をたくさん持って生きている。これは生命の始まりがたった一回しかないことを示しているのだそうだ。
人間は自分たちが一番頭が良い生物だと奢っている部分があるけれど、さかのぼって行けば全生物が同じRNAから始まっているらしい。
とてもとても面白い。

理系的な基礎知識がない人や理科に抵抗がある人には少し難しいかもしれないけれど、是非読んでみてほしい。
研究をすることの楽しさがきっとわかってもらえると思う。
いや、楽しさがわかるからこの本が面白いのかもしれないけれど。

あと半年で卒業して企業研究員になることが確定している身ではありますけれど、こういう本を読むともっとここで自分の知りたいことを興味の向くままに研究していたいと思ってしまう。
あと10年くらい20代なら良いのに。



おわり。

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