見出し画像

『発酵』と『短歌、茶室、箱庭、幕の内弁当』の共通点

 『短歌、茶室、箱庭、幕の内弁当』と『発酵』の共通点分りますか?今日は科学的な話から少し脱線してみますが、発酵の見方の話です。

前回、日本の発酵食品の特色は『並行複発酵』にあると言いました。これが、発想のとっかかりになります。短歌、茶室、箱庭、幕の内弁当、、、どんなイメージを思い浮かべるでしょう?

まずは短歌を見てみましょう

私は趣味で短歌をかじる程度にやっています。一応、角川短歌で秀逸になったこともあります。

画像1


短歌は31文字の中に、世界をぎゅっと詰め込みます。俳句は17文字ですね。自由律というのを言い出しちゃうと切りが無いですが、31文字という制限の中に世界を読み込みます。私の歌じゃなくて教科書にのってるようなものでいうと

天の原ふりさけ見れば春日なる三笠の山に出でし月かも 阿倍仲麻呂

この歌には、中国と日本(当時の世界観なら世界の全てといっていい)の距離感、日本に暮らしていた頃の自分と、中国(唐)に赴任している自分という現在と過去という空間的広がり、そして、地球と月という物理の対比、その全てが31文字の中に織り込まれています。

助手席で進路希望を話す時母は静かにラジオを消した 篠田朱里

これは、今年の歌会始で話題になった女子高生の歌です。お母様がお子様の将来を大切にする気持ちとか、もちろん、その車内の場面の様子もありありと思い浮かびます。愛情深く育てられている親御さんと、それをしっかり受け取って表現できる、母子がこれまで時間をかけて積み重ねてきた信頼関係が31文字に込められている、良い歌だなと思います。

茶室、庭園、幕の内弁当

茶室に目を向けましょう。詳しい解説は専門家に譲りたいと思いますが、茶室も4畳半という狭い限られた空間の中で、主人と客の関係、道具、掛け軸、花、菓子の選定や配置などから、小宇宙を表現し、自然と自分が一体となるような感覚をもたらす空間です。これも、制限の中で、世界や宇宙を表現しています。


私の知る限りで、日本庭園もそうなのかなと思います。竜安寺の石庭が有名ですが、あれも大海原に点在する島を『庭園』という区切られた空間の中に表現をしています。日本庭園は水の流れや植物の配置で海山川の自然をモチーフとしている物が多いですよね。


幕の内弁当も、弁当箱という限られた空間の中に、諸国から寄せられた海の幸、山の幸を出来るだけ詰め込む、これも、限られた空間に世界を表現しているとみることも出来るのではないでしょうか。

日本人が得意な単純化は『凝縮』ではないか


「日本人は詰め込むのが得意」という感覚があるのかなと思います。思えば、家電なんかも「小型化して小さい中に多機能にする」というアプローチの商品の方が得意な気がします。ポットを小型化して、保温機能つけて、保温温度も1度単位で選べて、タイマーもつけて、、、みたいな。逆にティファールみたいに「とにかく早く加熱できる一本勝負です!余計な機能いりません」みたいな発想が出にくい。


日本人の単純化ってのは「引き算/そぎ落とし」ではなく「凝縮」に向かいやすいのかなと思います。忠臣蔵でも、内匠頭の切腹の時、内匠頭と内蔵助(由良之助)が台詞無く見つめ合って顔を頷く程度の演技で、これまでの主君への感謝や理不尽な切腹への悔しさ、仇討ちの決意みたいなことを全部凝縮させちゃう。これが西洋の演劇なら歌の一曲も歌い出すところですし、インド映画なら踊り出すところです。(バーフバリ、面白かった。)


そぎ落としではなく凝縮という点はビジネスにも見られます。限られた面積の店舗でも商品数を絞るのではなくて、ドンキ陳列が代表されますが色んな商品をぎゅっと並べる。Amazonと楽天のUIもそうですね。両サイトの情報量を見ると詰め込まれ方の差が分ります。楽天に出店している店舗、みんな同じテンプレートという制限の中で情報の詰め込み合戦をしていますよね。そして、如何に詰め込めるデザインを出来るかというスキルに、デザイナーとしての価値がついてしまったりしてる。


というわけで、共通点


閑話休題、ここまでくるとおわかりかと思いますが、前回、『日本の発酵食品は、まさに、その発酵の過程において、食品の中で複数の微生物たちによる小さな生態系をつくっている』と書きました。

そう、発酵もまさに『空間や時間を濃縮して表現する』という文脈において、短歌、茶室、庭園、幕の内弁当などと共通する精神性が現われていると感じます。

そして、そのようなアプローチが得意な日本人が、『並行複発酵』という、複数微生物による模擬生態系をタンクの中に再現する醸造方法に行き着いているのは、私は、偶然には思えないです。

今日の話はここまで。

最後までご覧いただきありがとうございました。 私のプロフィールについては、詳しくはこちらをご覧ください。 https://note.com/ymurai_koji/n/nc5a926632683