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山際響:短編集

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山際響の短編まとめです。
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2020年1月の記事一覧

エキゾチカ

エキゾチカ

 それは、天国への梯子ではなかった。
 三月の青空に向かって伸びるクレーンだった。
 吾郎は車を走らせながら空を見上げている。静かだった。距離はあったが、クレーンの軋みがはっきりと聴こえた。自分の耳、もっと言えば鼓膜には自信があった。幼いころから鋭かったし、音は何でも記憶出来た。ある時、病院で自分の鼓膜を見た事がある。ライトを浴び、モニターに映し出された鼓膜は、白と灰色の中間の柔らかい色をしていて

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