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妹は東京の大学に行けなかった。

佐賀と長崎の県境。当時ケータイが迷わず「圏外」を表示するような山奥に実家がある。我が家には、暗黙のルールがあった。放任主義で、好きな大学に行って良かった私(男性)に反し、2つ歳の離れた妹は何故か九州島内の大学に行くように指定されていた

過疎地にも関わらず、その地域は謎のベビーブームで子どもが多い環境だった。でも、同世代は男の子が多く、妹は男ばかりの環境で育った。神社でやる野球も、普通に戦力としてバッターボックスに立っていたし、俊足を武器にしていた。いわゆる男まさりな女の子である。

そんな妹なのに、両親は九州を離れて欲しくなかった。当時は「女の子だから不安なんだろうな…」「ひとり娘はなんだかんだ可愛いんだろうな…」くらいにしか思っていなかったが、でもここは日本だ。他国と比べものにならないくらい治安はいい。18歳という人生で最初の岐路が、妹は限定されていた

当時、妹がそんな環境に苦しんでいた訳ではない。別に頭も良かったわけでもないし、やりたいことも特になかった奴(そんなところが嫌いだった)だから、ルールに則り、九州の大学に進学した。今は妊娠していて、新しい家族が増えることに胸とお腹を膨らませている。

だが、今になって「かわいそう」という感情が芽生えた。キッカケは、3月8日、国際女性デーだ。国際女性デーは、1975年に国連によって制定された記念日で、女性への差別撤廃と女性の地位を訴える日だそうだ。制定から40年以上経っているのに、恥ずかしながらその言葉をはじめて耳にしたのは2021年だった。SDGs(目標 5 ジェンダーの平等を達成し、すべての女性と女児のエンパワーメントを図る)という言葉が飛び交う中、多くの企業や団体が自社ブランドの姿勢を示す日となった。

どれがいいとかではなく、どれもよかった。そして何より、多くの企業が同日に発表したからこそ、私を含め多くの人に届いたと思う。今日は、そんな事例をまとめました。

1. 未来は勝手に進まない。進めてきた人たちがいる。 

事実から着想を得たクリエイティブが好きな私にとって、過去に朝日新聞で掲載した女性の社会進出や活躍の見出しを活用したこのシンプルなデザインは大好物だった。制作に携わった辻愛沙子さんが言うよりに「私も頑張ろうと背筋が伸びる」。

2. 数々の「史上初」を成し遂げてきた女性たちに感謝し、次の扉を開く女性たちを応援します。 

「1930年|女性同士のキスが初めてハリウッド映画に登場」から、2020年までの映像作品における女性の「史上初」をまとめた動画を公開したNetflixの事例。前述した朝日新聞と同じように、ファクトの強さを実感する。ラストのマルチ画面で、センターを陣取る『ペーパーハウス』のトーキョーが印象的。

3. 知ることから変わること

Google先生らしい、検索エンジンを中心に据えた表現。「一人一人が知ろうとすれば、きっと社会も変わるはず。」というボディコピーも含めて、サービスにもしっかりと落としているのが素晴らしい。“ガラスの天井”は恥ずかしながら実際に調べました…

ガラスの天井(ガラスのてんじょう、英語: glass ceiling)とは、資質・実績があっても女性やマイノリティを一定の職位以上には昇進させようとしない組織内の障壁を指す 。(Wikipediaより)

4. バイアス、バイバイ。

アートネイチャー、kiss me、ホットママ(アマプラ)、住友電工の連合による広告。正直な第一印象は何でミモザ…? #searchforchangeなので、Google先生で調べたところ「国際女性デー」は、イタリアでは「ミモザの日」とも呼ばれているらしく、男性が女性に日頃の感謝や尊敬の気持ちを込めて、ミモザをプレゼントするらしい。さすがアモーレの国。

まさに妹に向けられていたルールは、バイアスから来たもの。「バイアス、バイバイ。」というコピーに「こんな素敵な記念日にダジャレかよ」と一瞬ツッコミを入れたものの、ボディコピーを読んで反省。特に「ジェンダーをとりまくバイアスは、過去のものになりつつある。女らしさや男らしさより、自分らしさが大切にされる世界は、すぐそこまで来ている。」という一節で腑に落ちた。

5. 私たちは、選択的夫婦別姓に賛成します。

はじめて聞いた「ライフクリエイト」という会社は、フィットネススタジオを運営する会社で、99%が女性社員らしい。私の会社でも、結婚・離婚後の「姓」に(まわりの人も含めて)戸惑う人を見たことがあるので、大賛成の広告だ。ましてや私の姓は、ダサいが故に有名人も芸名をつけてしまうことで有名な「山田」。山田バイアスかもしれないが、旧姓がかっこ良かった奥さんには、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。選択的夫婦別姓、大賛成です。もはやライフクリエイトで働きたくなるリクルート広告と言っても過言ではない。

6. ファッションは自由だ。 

恥ずかしながら、この広告でGUというブランド名に「もっと『自由』に着よう」というメッセージが込められいたことを知った。中条あやみ、ゆりやんレトリィバァ、松本まりか、佐藤かよ等、名だたるキャストとなっている本CMは、ファッションを通してあらゆる女性をエンパワー※することを目的として、国際女性デーの1日限定で放映された。この日だけのために、ここまで投資できるって本当に素晴らしい企業だなあ、と。

※エンパワーメント(empowerment)とは一般的には、個人や集団が自らの生活への統御感を獲得し、組織的、社会的、構造に外郭的な影響を与えるようになることであると定義される。日本では能力開化や権限付与とも言う。(略)人びとに夢や希望を与え、勇気づけ、人が本来持っているすばらしい、生きる力を湧き出させることと定義される。(Wikipedia)

SNS上での誹謗中傷を、前向きなメッセージに変えて、アイデンティティを尊重して、強く生きる姿には勇気をもらえる。『あざとかわいい』の松本まりかさんのコメントが印象的だ。

ネガティブな声って世界にすごく溢れていると思いますが、今回のCMでは「ネガティブに勝つ方法は、戦うのではなくて自分らしさの個性を貫くこと」と教えられた気がします。

山田もポジティブに生きます。

7. 働く女性の8割が、隠れ我慢を抱えている。

漢方で有名な「ツムラ」が日経新聞に掲出した広告。この4月にはじめて、直属の女性社員の部下ができた私にとって「8割」という数字の強さにヒヤッとする。今日もキーボードを叩く手をとめて、ボーッとしていた彼女に「暇じゃないでしょ?」と冷たい言葉を掛けてしまった。サラリーマン検定1級だけど、女性の変化検定は7級という鈍感な私。我慢せずに、不調のときは言って欲しいし、言えるような環境をちゃんと作ってあげなくちゃ、と襟を正す。(このnoteも見てるけど)

表情で語る井桁弘恵さんが素敵です。


さいごに、妹は。

世界経済フォーラム(WEF)による「ジェンダーギャップ指数2021(3月31日発表)」で、日本は世界156カ国の120位だった。2020年は121位なので、ひとつしか順位が上がっていないことになる。ただ、国際女性デーをはじめとする企業や団体の発信もあって、昔と比べたら空気は変わりつつある。現に「面倒臭いし、定着してるし、なんせ気に入ってるし、姓は変えるつもりない」と結婚する後輩社員の話を聞いても「だよね」くらいにしか思わなくなっている。

もし、2021年に妹が18歳を迎えていたら、親は何と言っただろうか。もっと自由な選択を促しただろうか。妹はどんな選択をしただろうか。そんな妹のお腹の中にいる赤ちゃんは、どうも女の子のようだ。生まれてくるのも楽しみであるが、18年後もまた、オジサンは楽しみにしている。


多様性について、いくつかnoteに書いておりますので、ぜひご覧ください。

▼ LGBT

▼ DV(オレンジリボン)



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