DCコミックス原作「アローバース」を紹介する:初期4作+α編
【2020年12月16日 更新】
アローバース(Arrowverse)は、アメリカン・コミックスの大手 DCコミックスを原作とした一大ユニバースだ。それは2012年に、DCコミックスのライバルであるMARVELのアイアンマンやキャプテン・アメリカが映画『アベンジャーズ』で一堂に会したのと同じ年に、テレビで始まった。
それからアローバースの世界観は拡充していき、無数の並行世界を有するマルチバースへと至った。そして2019年、怪鳥人間バットマンからDCEUまで新旧・媒体を問わず、ほぼ全てのDCコミックスの映像作品を巻き込んだクロスオーバー・イベント『クライシス・オン・インフィニット・アース』を実施した。
本稿では、アローバース初期の実写テレビシリーズ4作品と、外伝的なアニメーション1作品を紹介する。
1. 大都会の狩人 ARROW
記念すべきアローバース第1作。2012年10月に放送開始したクライム系ヒーロードラマ。原作では知名度はスーパーマンやバットマンに及ばず、最大のヒーローチーム〈ジャスティス・リーグ〉の創設メンバーでもない「グリーンアロー」が、アローバースにおける始まりのヒーローとなった。
クライム系である『アロー』は、暴力と秘密が渦巻くダークな作品だ。鍛えた体と磨いた技で超能力者とも渡り合う主人公が格好良い。悪党に「お前はこの街をけがした」と弓を真っ直ぐ向ける姿なんて、日本の時代劇ヒーローにも通じる格好良さじゃないだろうか。
そんな『アロー』の最大の魅力は、「意志の継承」にある。
『アロー』では、オリバーが街の悪党たちと戦う現在の物語と並行し、オリバーが海難事故に遭ってから街に戻るまでの過去5年間の物語も描かれる。壮絶な過去の物語の中で、放蕩息子だったオリバーが幾つもの出会いと悲劇的な別れを経験していったことが明かされる。
様々な想いを抱えて故郷の街に戻ったオリバーは、悪との戦いを始める。だが、正直なところ、この時のオリバーはヒーローとは云えない。暴力的で、秘密主義で、まともな人間とも云えない。当初のアローバースが超能力者もいなければスーパーヒーローもいない現実と似通った世界だったことを思うと、仮装して悪党を仕置き始めたオリバーは本当に常軌を逸している。
しかし、悪との戦いの中でオリバーは変わっていく。命を預けられる仲間と出会い、善悪で割り切りない世界の現実を知り、血塗られた自らの過去と向き合い、ヒーローのいない世界に現れたヒーローもどきの危険人物から徐々に真のヒーローへと成長を遂げていく。
やがて、オリバーに影響を受けた新世代のヒーローたちが現れ始める。他者の存在がオリバーをヒーローに変え、ヒーローとなったオリバーの勇姿が新たなヒーローを生む。「意志の継承」だ。
一方、アローバース自体も物語が進むにつれて超能力を持った者などが現れ、現実的な世界観からコミックヒーローもの的な世界観へと変化していく。この一連の世界観の変化もアローバースの魅力なので、第一作の『アロー』を観ればアローバースを最大限に堪能できるだろう。
2. 地上最速の男 THE FLASH
アローバース第2作。2014年10月に放送開始した超能力系ヒーロードラマ。主人公 バリー・アレンとその仲間たちは、2013年10月~2014年5月に放送された『アロー〈シーズン2〉』に先行登場した。
『フラッシュ』は何と云ってもVFXを活用した超能力者対決が見もの。竜巻を操る男、瞬間移動する女、喋る高知能ゴリラなど、様々な敵が登場する。主人公のバリーが好青年なのも相俟って、アローバースで最も王道型のスーパーヒーロー作品となっている。
超高速の力を持つフラッシュは時空跳躍までも可能で、過去、未来、並行世界をも舞台とした壮大な戦いを繰り広げていく。『アロー』がアローバースの世界観の基礎を築いたわけだが、『フラッシュ』はアローバースの世界観を大きく拡げたわけだ。
バットマンに対するスーパーマンのように、あるいはアイアンマンに対するキャプテン・アメリカのように、フラッシュはアローと対のヒーローとして描かれている。主人公の性格や周辺人物との関係性など、物語を比べてみるのも面白い。
『アロー』だけでも『フラッシュ』だけでも十分楽しめる。だが、『アロー』と『フラッシュ』を合わせて観れば、両作の傾向やヒーロー像の違いをより深く感じられて、十二分に楽しめられるはずだ。
3. 時空の冒険者 LEGENDS OF TOMORROW
2016年1月に放送開始したタイムトラベル系ヒーロードラマ。『アロー』と『フラッシュ』のスピンオフという形で、コミックスにはないアローバース独自のシリーズとして創られた。
『レジェンド・オブ・トゥモロー』で世界を救うチームに選ばれたのは、アローとフラッシュ――ではなく、その陰に隠れた脇役たち。故に、集合物と云っても主役という大スターが集まった『アベンジャーズ』などとは根本が異なる。この作品は謂わば、脚光を浴びれなかった者たちの大舞台だ。
そんな『レジェンド・オブ・トゥモロー』、当初は多少笑える部分もあったにせよ結構シリアスな作風だったが、シーズン2からは完全にコメディとなり、何でもありな規格外れの物語を見せるようになった。SFもファンタジーもありの全世界・全時代を舞台とした冒険活劇がとにかく楽しい。毎回変わる騒動に、もはや脱線するくらいが面白いと思えてしまう。
とは云え、シリアスな部分が完全になくなったわけではない。歴史に定められた悲劇がレジェンズの前に立ちはだかることもある。しかし、そのシリアスな部分がまた絶妙で、かえって作品にますます惹き込まれる。
それにしても、黒マントと赤マントに、国旗男と鉄男と、何かとヒーロー同士が殴り合っていた2016年に、ヒーローとヴィランが手を組んで戦う物語を始めるとは。正にレジェンド。
4. 鋼鉄の天女 SUPERGIRL
2015年10月に放送開始したエイリアン系ヒーロードラマ。『アロー』や『フラッシュ』は「アース1」という世界を舞台としているが、『スーパーガール』は「アース38」という世界を舞台としている。
『スーパーガール』は移民や性的少数者を取り巻く問題などを扱う、アローバースでも特に社会派な作品だ。時に目を逸らしたくなるような重い論題も扱うが、決して悲観的になり過ぎず、希望を見失わない。観ていて励まされるものがある。
主人公のカーラは、地球人とは異なる生い立ちと能力故に、「自分らしく生きる」ということができずにいた人物。やっと自分らしく人々の役に立てるヒーロー活動を始めても、完全無欠のヒーローたるスーパーマンと比べられ、非難の的にされてしまう。そんな彼女が困難を乗り越え、誰もが認めるヒーローへと成長していく様は、実に痛快で壮快。
それと、『スーパーガール』はエイリアン系の作品なだけあって、異形のモンスターや怪ロボットなども登場する。見た目は可愛らしい主人公が怪物をワンパンチでぶっ飛ばす光景なんて、スーパー楽しい。
5. 魂の戦士 VIXEN
2015年8月から全2シーズンがウェブで配信され、2017年5月には新規映像を加えて1本の映画にしたものが発売されたアニメ作品。『アロー』などのテレビ番組がアローバースの本伝なら、この作品は外伝に当たる。
『アロー』にも登場するマリ・マッケイブは、魔法の首飾りを使って動物の精霊の力で戦うアフリカ系の女性スーパーヒーローだ。この首飾りは「命のトーテム」というアフリカの一族に伝わるもので、他にも火のトーテムや水のトーテムが存在している。後に、これらの設定は『レジェンド・オブ・トゥモロー』でも大きく扱われることとなった。
『ビクセン』ではアローやフラッシュらお馴染みの面々も登場し、アニメならではの活躍を見せている。アローバースを追うのであれば、是非とも観ておきたい作品だ。
なお、『ビクセン』はそうでもないが、外伝作品の中には本伝のテレビ番組とは諸々の設定が異なっているものもある。そういう時は、アローバースでは時空改変イベントがよく起こるので、異なる時間軸の話だと思えばいいだろう。これでもアローバース的な面白さは充分味わえると思う。
6. 視聴順
――については以下の記事を参照。
× × ×
以上で、アローバースの初期作品の紹介はおしまい。
本稿がアローバースを視聴する際の参考になれば、いちファンとして幸いである。
更新履歴
2018年07月28日:
『VIXEN / ビクセン』を紹介した項目「魂の戦士 VIXEN」を加筆。
2018年12月09日:
第6期のオススメ視聴順を加筆。
2018年12月15日:
第7期のオススメ視聴順を加筆。
2020年01月15日:
クロスオーバー・イベント『クライシス・オン・インフィニット・アース』の内容に合わせて全体的に改稿。
2020年12月16日:
項目『アローバースの視聴順』を分割し、単体の記事( https://note.com/ykjun18/n/n37bd045a43cf )に。
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