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アルコールの原料(エタノール)の需給構造に関する考察

背景

インターネットサーフィン中に見つけた一節の情報(以下「主張」)に疑問を持った。

アルコールについては日本以外にも原料のエタノールを輸入に頼る国は多いが、日本はブラジルという特定国への依存度が突出して高い。しかも、国内に大型のケミカルタンカーが接岸できる港が少ないため、積み替えを行う韓国にも依存している。

原料であるエタノール市場構造次第によっては、特定の国への依存はむしろ国家貿易戦略的に正しい選択なのではないか。そして、そもそも資源に乏しい日本にとって、エタノール専用の大型ケミカルタンカーのために数の限られる港湾整備の必要性は無いと言えるのではないか。

本文

エタノールは地産地消が原則である。そのため、そもそも輸出している国が限定的である。具体的には、広大な農地を誇るアメリカおよびブラジル、合成エタノールの比率の高い南アフリカ、そして国内需要の低いパキスタンが主な輸出国である。

輸入統計を見ると、たしかに日本はブラジルに依存している。この点で上述の主張は正しい根拠を用いていると言える。では、なぜアメリカでもなく、南アフリカでもなくブラジルに依存しているのだろうか。この背景には輸入規格がある。アメリカ産のエタノールは遺伝子組み換えのトウモロコシ由来であるため規格外となる。南アフリカ産のエタノールは合成エタノールが混入している可能性が高いため輸入規格に合わず、(遺伝子組み換えでない)サトウキビ由来であるブラジル産エタノールを輸入しているのである。つまり、輸入基準を満たすエタノールはほぼブラジルからしか入手できないのである。そのため日本はブラジル産エタノールに依存しているのである。

次に日本以外の輸入国を見ていく。すでに述べた通りエタノールは地産地消が原則であるため、そもそも輸入している国も限定的である。この点で上記の主張は正しい根拠を押さえていない。

中国は自国で生産しつつも輸入している。これは地方に農地があるものの開発のスピードよりも需要の伸びが上回っているため需給のギャップを輸入でカバーするためである。今後数年で国内農地の開発が進み、供給側が需要に追いつく見込みである。

韓国も日本と同じくエタノールの輸入に頼っている珍しい国である。日本と異なる点は、大型ケミカルタンカーが着桟可能な港湾を確保している点である。蔚山という現代工業の本拠地に大きな港があり、ここで日本向けの品も含めて陸揚げしている。この点で上記主張は正しい根拠を押さえている。しかし、日本に大型のバースがないことは事実であるが、日本国内には精製の巨大設備も存在しないことも事実である。すなわち、生産能力に制約があるため、大型タンカーによる原料在庫の積み上げに対するインセンティブはないと思われる。そのため、業界からのヒアリングによれば、現時点で輸入に関する不安はないらしい。(加えて、韓国側から見てもトレーディング・ハブとしての機能を売りにしている以上、恣意的に輸出を止めるような真似はしないと思われる。同じことは、国際線のハブである仁川空港やチャンギ空港にも言えると思うが、これはまた別の機会に)

ここまでをまとめると、日本は工業用エタノール(消毒アルコールの原料)を韓国経由ブラジルからの輸入に依存している。一方で、生産能力の制約から大型ケミカルタンカーの受け入れは経済合理性に欠ける。

これに加えて、エタノールの国際市場は飲料用・工業用・燃料用といった区分けになっていないため、エタノールの価格は各国の燃料用エタノールの政策状況や原料である農作物の価格によって影響を受けるという供給構造的な問題を孕んでいる

たしかに原料に供給構造的な問題があるものの、アルコール生産の代替可能性についてはそれほど問題となっていないのではないか。実際に今回の供給不足に際して各酒造メーカーが生産ラインを切り替えて消毒液を生産している。これは原料のエタノールが飲料用と工業用とで共通しているからである。一方、エネルギー資源(たとえば石油・天然ガス)のようなより優先順位の高い(と思われる)物資と比べたときの代替可能性についてみてみると、エタノールは供給構造的な問題を持つが代替可能であると結論付けられると思う。

根源にあるのは日本の資源不足であり、この点は継続して向き合う必要があると考える。

参考資料

以下の記事が今回のリード。同意できるところと同意できないところが同じ程度の割合で入っているので良記事だと思う。余談であるが、私がインターネットで情報を取捨選択する際に注意している点は、自分にとって都合の良い情報だけを集めないようにすることである。むしろ自分にとって都合の悪い情報も探すことによって、現実世界で正しい判断や効果的な反論ができるようになると思っている。

エタノールの世界需給に関する報告書(三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社)を見つけたので、市場の動向を素早く把握することができた。

脚注

なお、今回調べていて、燃料用のエタノールについては、アメリカ経由ブラジルから輸入していることも分かった。これはアメリカから輸入する燃料用エタノールには関税がかからないかららしい。

筆者は上記記事の中で執拗にドイツと比較しているが、ドイツへのコンプレックスでもあるのだろうか。日本も病床数を増やしている(足りてはいない)し、死亡者についていえば比較するレベルにないくらい日本の方が低い

ここで触れられている通り、日本の政府支出はGDPの20%級と世界でみても規模で圧倒している。(筆者はドイツ並と言っているが、そもそもドイツは憲法の問題もあって政府支出に制限があって、日本とはダブルスコアである)

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そして日本は市民が直接手にする給付金の額も圧倒的に多い。が、ここは筆者の言う通り、実際に速やかに受け取れるわけではない。(私は日本に住んでいないので、そもそも受け取る権利を有していない)

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なお、在外邦人への給付金については次のような記事も出てきているが、私は在外邦人への給付は不要であり、国内で住民税を納税されている人に還元されるべきだと思う。


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