見出し画像

自ら仕事を創り出すこととは ~ある出来事とおじさんの手紙〜

先日、このようなことがありました。ある人が、ある〇〇君の職場のことを指して、「〇〇君はここで毎日何をしているの?〇〇君はいつまでここでやっていくの?“こんなところで”終わるわけではないよね?」といった主旨の発言をしたそうです。その職場ではたらく人達はそれを聞いて、たいそう立腹し落ち込みましたが、そのような発言をした相手に何かを言い返すことは出来ませんでした。「職業に貴賎なし」とは言われることですが、現実はこうでした。私はその出来事を聞いた時に、ふたつのことを思いました。

一つは、発言した人の思想の貧困と、想像力の欠如についてです。その職場の表層的な部分だけを捉えて軽薄なラベリングをしてしまうこと自体、その人自身の職業観をそのままあらわしているのだな、と感じました。もし私がその場にいたとしたら、「その職場の何を見て、何故そのように(こんなところで、と)思ったのですか?」「その職場が何を生み出しているところか、立ち止まって一緒に考えてみませんか?」と対話を求めたでしょう。(実際に、その職場は表層的には単純作業、ルーティンワークをしているように見えるのですが、深層の部分では高度な知的生産性をともなった業務をおこなっています。業務プロセスを分解してみれば明らかに分かることです。)

もう一つは、発言を受けたその職場の人達が自分の仕事に対してどのように捉えているか、誇りをもっているか、です。心無い発言をされて、怯んでしまった、心が折れてしまったということは、ひょっとしたら、職場の人自身もうすうす「こんなところ」「こんな仕事」のような見方を持ってしまっているのではないだろうか、ということを思いました。私は、発言した人のことよりは、こちらの、職場の人達自身がどのように自分の仕事の意味を見い出しているか、の方がはるかに重要なことだと考えます。私がその場にいたとしたら、シンプルな質問「あなたの仕事は何ですか?」で、その職場の人に問いかけ、励ましをはたらきかけたでしょう。

今回起きたことは、仕事に対する誇りや自負心を問うことだと考えます。仕事はただそこに存在するだけではなく、その仕事に誇りや自負心を持った人々の営みにより発展的に「創り出されてゆくもの」ではないでしょうか。では、仕事への誇りや自負心を持つとはどういうことなのでしょうか。

Wrzesniewsk & Dutton(2001)により提唱された「ジョブ・クラフティング」という考え方があります。「課題や対人関係における従業員個人の物理的又は認知的変化」と定義されますが、やや難解です。令和元年版労働経済の分析(厚労省)によれば、「仕事のやりがいや満足度を高めるために、自分の働き方に工夫を加える手法」と解説されています。ジョブ・クラフティングは、仕事に対する誇りや自負心を生み出してゆくのだと私は考えます。そして、働き方に工夫を加える際には次の三つのクラフティングがあるそうです。

「作業クラフティング」   →仕事のやり方に対する工夫
「人間関係クラフティング」 →周囲の人への働きかけの工夫
「認知クラフティング」   →仕事の捉え方や考え方に対する工夫

「認知クラフティング」はとりわけ重要に思えます。仕事の自分事化と前向きな意味づけです。自分の仕事に対して、この三つのクラフティングを意識的主体的に統合しながらおこなってゆくことで、誇りや自負心が生まれるとともに「自ら仕事を創り出している」状態になるのではないでしょうか。そこにやらされ感はないでしょうし、仕事に対する愛情すら沸いてくるかもしれません。

このことを考えたときに、私は「君たちはどう生きるか」(吉野源三郎著)にある、中学生のコペル君に向けたおじさんの手紙の内容をふと思い出しましたので、引用します。

「しかし、コペル君、見方をかえると、それがまるで逆になるのだ。ひとことでそれをいえば、あの人々こそ、この世の中ぜんたいを、がっしりと肩にかついでいるひとたちなのだ。(中略)そして、その面から見たら、君自身はどうだろう。君自身はいったい、なにを作り出しているだろう。(中略)してみれば、君の生活というものは消費専門家の生活といっていいね。(中略)消費するのが悪いなどということはない。しかし、自分が消費するものよりも、もっと多くのものを生産して世の中に送り出している人と、なにも生産しないで、ただ消費ばかりしている人間と、どっちがりっぱな人間か、どっちが大切な人間か。(中略)だから、君は生産する人と消費する人という、この区別の一点を、今後、けっして見落とさないようにしていきたまえ。」

文脈から「作り出す」となっていますが、「創り出す」でもおじさんの言いたいことの意味は同じでしょう。これは言い過ぎになるかもしれませんが、あえて言うと、ある職場を指して「こんなところで」と発言した人は、おじさんの言う「消費専門家」的に仕事を捉えているということでしょう。ただ目の前を流れてゆく仕事を消費しているのです。かたや、ジョブ・クラフティングを実践して仕事をする人はおじさんの言う「生産する人」つまり「創り出す人」と位置付けられないでしょうか。どうか、心無い発言を受けた職場の人達が仕事についての深い意味を見いだして「創り出す人」となり、誇りや自負心を取り戻していただきたいものだと思います。

今回は自ら仕事を創り出すことについてお話ししました。私は2023年9月からライフキャリアデザインカウンセラーを名乗り、個人や世帯の職業生活設計や資産設計のお手伝いをしようと決意し、今の会社での仕事を続けながら複業をすることにしました。保持資格としては国家資格キャリアコンサルタントとAFP(日本FP協会会員)をコアスキルとして、これまでの会社生活や人生経験で学んできたことを活かして会社内や地域社会に向けた価値創造につなげようと考えています。

私は来談者の方に今回お話ししたような支援でお役に立つことを使命とするライフキャリアデザインカウンセラーでありたいと思っています。ご関心を持っていただいた方がいらっしゃいましたら、ぜひお声がけください。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?