山の喇叭吹き

forest engineer in Japan https://www.kinsh…

山の喇叭吹き

forest engineer in Japan https://www.kinshizenforestry.com/hs

最近の記事

いろんな人の話を聞こう

今年度の北海道池田町での研修が無事修了。関わっていただいた全ての皆様に感謝申し上げます。 同じ顔触れに継続的にお話させてもらえる機会がある場合、言い続けていることがあります。それは「私の話だけではなくて、いろんな人の話を聞いて下さいね」ということ。 一つのテーマにおいて一人の人の話をずっと聞くということは一長一短。1本の軸のようなものを感じ取ってもらえれば、それは良い面にもなりえますが、一人の人の視野や能力にはどうしても限界があるので、聞く人をその中に閉じ込めてしまうリス

    • 巻き枯らしという技術は善か悪か

      ●環状剥皮とは 樹木の生育をコントロールする技術のひとつに環状剥皮(かんじょうはくひ)という手法があります。例えば果樹の管理では、皮の一部をはぎ取ることで花芽の誘導、果実の品質向上・成熟促進、樹木の育ち過ぎの抑制などの効果を狙うことができます。 樹皮のすぐ裏側には「師部」という組織があって、葉っぱで作られた養分(糖類など)はここを通って上から下に運ばれるのですが、この導線を遮断または抑制することで枝葉に養分が貯まっていきます。そして根からの養分や水分は幹のもっと内側を通る

      • 旅立ち前の徒然

        随分前の話。 数年ほど準備に関わってきたプロジェクトから声がかからなくなり、その後に訪れるはずだった華々しい立ち上げの舞台からは外れていた。あれ?と思ったが、今自分は必要ない場面なのだなと自らを納得させ、その時は他の仕事に集中した。 何年か経ち、そのプロジェクトが現実的な運営段階になったところでまた声がかかって再び関わるようになった。そうなるだろうと準備をしていたので、スムーズに入ることができた。思い返せば、あのとき(一旦外れていたとき)表に出なかったことがいろいろと幸い

        • 「ご縁」を英語で説明できるか

          ※2018/12/5 excite blog より転載 「ご縁あって、イギリスから来日している◯◯さんを◯◯にご案内しました」という記事をフェイスブックに投稿したところ、それを読んだ本人から「trailing edge ってなんですか?」と質問がありました。 何のことかと思いきや、自動翻訳で「ご縁」が trailing edge(末尾の端?)と訳されてしまい、意味が分からないと。 ああ、縁というのは仏教用語で fate(運命、成り行き)とか relationship(結

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          カギは「一様さ」からの脱却 〜 近自然森づくりのモヤモヤ

          研修や講演などで近自然森づくり(林業と環境の両立)のお話をすると、一定割合の人ががっかりして帰られる…と、ここでも何度か書いています。 林業や森林管理の現状を憂い、魔法のような付加価値の高い売り方・コストカットのやり方があるのではと期待して来たのに、結論が「パラダイムシフト」と「教育」とは…。 「まずはイノベーションで現状を改善して、もっと余裕ができたら森づくりに取り組みます」と言う方もいます。足元が崩れれば未来もないわけですから、まず目先のことをやらなければならないのは

          カギは「一様さ」からの脱却 〜 近自然森づくりのモヤモヤ

          近づいているはずなのに、遠くなる

          峠や高台に出たときに見える山の頂がある。 あの上に立つとどのような景色が見えるのだろうか。あそこに登ってみたいと思う。しかし、まだ遠すぎるのでまずは近づかなければならない。 峠を降りて、麓に着く。 ところが、そこに待ち受けるのはそびえ立つ斜面。これを登らないといけないのか…。それどころか、さっきは見えていた頂すら今は見えなくなっていることに呆然とする。 近づいているはずなのに、遠のいている。 遠くばかりを見ていて足元を見ていなかったときに起こりうることだけれど、それ

          近づいているはずなのに、遠くなる

          視野を広げるとは〜スイスからの実習生たちの思い出

          8月、お盆を過ぎた頃… 毎年この季節になると、スイスのフォレスター学校からの実習生(インターンシップ生)たちのことに思いをはせる。 フォレスター学校というのはその名の通りフォレスター(森林管理のエキスパート)を養成するための学校で、スイスのフォレスターは国家資格であり職業でもある。 スイスで林業を職業とするためには、義務教育を修了した後に林業事業所などで働きながら職業訓練校(3カ年)に通い、まず森林作業員の国家資格を取得しなければならない。卒業後はプロの技能者として職を

          視野を広げるとは〜スイスからの実習生たちの思い出

          山歩き?トレッキング?フラット登山?

          私が20年前に転職をしたとき、それまでの森林土木の現場環境から、不動産的なリサーチ中心の仕事に変わりました。つまり、山には行くもののあまり歩かなくなったのです。その反動からか、「山歩き」というものを余暇にするようになりました。 「山登り」と何が違うかというと、山頂に登ることを目的・目標としないこと。近鉄で編纂している「てくてくマップ」にはだいぶお世話になりました。 鉄道会社が作成しているものなので、公共交通機関で完結するのがGood。 その後、山の売買が落ち着いて管理の

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          悩めるオトナこそ読んでほしい本〜ミライの授業

          この夏休みにおすすめの一冊はありますか? と中学生や高校生に聞かれたら、「ミライの授業(瀧本哲史、講談社 2016)」は、私が真っ先に挙げるタイトルのひとつです。 投資家、経営コンサルタントの肩書を持つ著者が、全国の中学校をまわって講演をした際のエッセンスをまとめたもの。 いろんなことがうまくいかない今の世の中。だから変えなければならないことがあまりにも多くあるのだけれど、でもその変化がうまくいかない。ではどうすればよいのかということを、先人たちがやってきたことを例に挙げ

          悩めるオトナこそ読んでほしい本〜ミライの授業

          焼畑と順応的管理

          夏になると思い出す、ちょっとした回想。 インドシナの森林管理・農地管理を勉強するために、ラオス北部の山岳地のとある村を訪れたのは2012年の夏のこと。 ガイドをお願いしたのはメロンさん。本名じゃないのですが皆さんはそう呼んでいます。「メ」はお母さんの意。彼女にはロンちゃんという娘さんがいます。すなわち「ロンちゃんのお母さん」という意味。なかなか人の名前を覚えるのが苦手な自分でも、この方は一発で覚えました。 写真は焼畑の跡にどういう植生遷移が起こるかを解説してもらっている

          焼畑と順応的管理

          ある林業地をひとことで説明することの難しさ

          吉野林業地という言葉があります。簡単に説明してくださいと聞かれたら、「吉野川上流域(奈良県川上村・東吉野村・黒滝村)を中心に行われている、スギ・ヒノキの高密度植栽、多間伐、超長伐期、樽丸生産を特徴とする(していた)林業地域」と自分なら答えますが、それで表現できているかといえば、そうではないと中の方々はおっしゃると思います。 飫肥杉林業という言葉があります。簡単に説明してくださいと聞かれたら、「宮崎県から鹿児島県にかけて行われている、飫肥杉という地域品種のグループを用いた挿し

          ある林業地をひとことで説明することの難しさ

          造林学を強化しよう

          日本の林業や森林管理が様々な問題を抱えることに関心を寄せていただける方は、日に日に多くなってきているように感じています。各地域で森林を軸とした事業が興され、一見活況を呈しているようでもあります。 しかし、その内実に目を向けると、「森づくり」の視点がどうも弱いなと思わざるを得ません。すなわち、前提や価値観は時代とともに変わっているのに、資産づくりのシステムがなかなか変わっていかないのです。 林業振興の先進事例地として取り上げられる地域でも、森づくりのプランは従来のままだった

          造林学を強化しよう

          「考えるな、感じろ」のほんとうの意味

          考えるな、感じろ。 つべこべ言ってないで行っちゃおうぜ/やっちゃおうぜ!的な使い方をされることの多いこの言葉について、少し前の記事ですが、映画監督で演技トレーナーもされている小林でびさんの note で興味深い考察がありました。 この言葉の語源は、映画「燃えよドラゴン」のブルース・リーの台詞「Don't think! Feel.」 ブルース・リーのやっていることはアスリートのようなもの。つまり感覚だけではどうにもならない世界にいる彼が「ごちゃごちゃ考えるな!感覚で勝負だ

          「考えるな、感じろ」のほんとうの意味

          基礎研究という研究は無い?

          将来何のためになるかわからない研究に公金を投入することの是非についての議論を某SNSで目にして、スイスのWSL(森・雪・ランドシャフト研究所)を訪問したときに聞いた話を思い出した。 その時対応してくれたテス博士は、基礎研究という研究は無いと断言していた。その真意は何だったのか。研究者の研究成果を活用させていただくエンジニアという立場から、自分なりに整理をしておこうと思う。 WSLとは、森林、自然環境、雪崩、景観に関するスイスの国立研究所で、日本でいえば森林総合研究所のよう

          基礎研究という研究は無い?

          最初は誰でも初心者

          今週は選木の授業…というと例年通りのカリキュラムに見えるのですが、今回は学校側の企画提案で、2年生が1年生に教えながら選木をするという試み。 話を聞くだけよりもやってみる方が、やってみることよりも人に教える方が学習効果は上がる。まさにこの原則どおりであることが、よくわかりました。 林業の長いキャリアのロードマップを示し、あなたは今どこにいるのかを一緒に考える。職業訓練を担う関係者に求められるのはそういうことだと、最近つくづく思います。 私もあなたも最初はみんな初心者だっ

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          自動車という走る凶器

          ※ 2019/7/7 excite blog より転載 交通死亡事故の加害者と被害者の家族の実話をもとに描かれた、さだまさしの「償い」(1982)を初めて聴いたのは、中学生のとき叔父から借りたカセットテープだった。 もちろん当時は運転免許を持っていたわけではないので、自分事として考えたり感じることはなかったように思うが、その後後輩を交通事故で亡くしたり、免許を取って運転するようになって危ない目に会ったりすることで、徐々にその歌詞の意味、深さが分かるようになってきた。 自

          自動車という走る凶器