山の喇叭吹き

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山の喇叭吹き

forest engineer in Japan https://www.kinshizenforestry.com/hs

最近の記事

「考えるな、感じろ」のほんとうの意味

考えるな、感じろ。 つべこべ言ってないで行っちゃおうぜ/やっちゃおうぜ!的な使い方をされることの多いこの言葉について、少し前の記事ですが、映画監督で演技トレーナーもされている小林でびさんの note で興味深い考察がありました。 この言葉の語源は、映画「燃えよドラゴン」のブルース・リーの台詞「Don't think! Feel.」 ブルース・リーのやっていることはアスリートのようなもの。つまり感覚だけではどうにもならない世界にいる彼が「ごちゃごちゃ考えるな!感覚で勝負だ

    • 基礎研究という研究は無い?

      将来何のためになるかわからない研究に公金を投入することの是非についての議論を某SNSで目にして、スイスのWSL(森・雪・ランドシャフト研究所)を訪問したときに聞いた話を思い出した。 その時対応してくれたテス博士は、基礎研究という研究は無いと断言していた。その真意は何だったのか。研究者の研究成果を活用させていただくエンジニアという立場から、自分なりに整理をしておこうと思う。 WSLとは、森林、自然環境、雪崩、景観に関するスイスの国立研究所で、日本でいえば森林総合研究所のよう

      • 最初は誰でも初心者

        今週は選木の授業…というと例年通りのカリキュラムに見えるのですが、今回は学校側の企画提案で、2年生が1年生に教えながら選木をするという試み。 話を聞くだけよりもやってみる方が、やってみることよりも人に教える方が学習効果は上がる。まさにこの原則どおりであることが、よくわかりました。 林業の長いキャリアのロードマップを示し、あなたは今どこにいるのかを一緒に考える。職業訓練を担う関係者に求められるのはそういうことだと、最近つくづく思います。 私もあなたも最初はみんな初心者だっ

        • 自動車という走る凶器

          ※ 2019/7/7 excite blog より転載 交通死亡事故の加害者と被害者の家族の実話をもとに描かれた、さだまさしの「償い」(1982)を初めて聴いたのは、中学生のとき叔父から借りたカセットテープだった。 もちろん当時は運転免許を持っていたわけではないので、自分事として考えたり感じることはなかったように思うが、その後後輩を交通事故で亡くしたり、免許を取って運転するようになって危ない目に会ったりすることで、徐々にその歌詞の意味、深さが分かるようになってきた。 自

        「考えるな、感じろ」のほんとうの意味

          幸福の「資本」論

          近自然森づくりではフォアキャストからバックキャストへのシフトを呼びかけますが、まず最初にすることは、管理目的(あなたはこの森から何を得たいのか)の設定です。 それは、森づくりを通じてどのような幸せを手に入れたいのか、とも言いかえることができます。そして、ここで多くの人の思考が止まってしまいます。幸せとは何かなんて考えたことがない、あるいは言語化したことがないからですね。 何をもって幸せとなすか。昔の人々はそのために信仰というものを発明しました。信じるものがあれば、私達は次

          幸福の「資本」論

          守りたい風景/環境があるのならば

          ↑ 盛岡市内でのマンション開発をめぐるニュースを見て思い出したこと。 18歳の冬、受験のために盛岡駅を下りて開運橋を歩いたとき、初めて岩手山を望んだ。風景で「息を呑む」という経験は、このときとツェルマットのゴルナーグラートで氷河を観たときの2回しかない。 この街で自分の青春を過ごそうと決めた要素のひとつに、風景があったことは間違いがないと思う。だから、この地を離れて30年以上経った今でも、脳裏に、そして心に深く残っている山。岩手山というのはそういう存在だ。 私達の生殺与

          守りたい風景/環境があるのならば

          林業従事者が樹木の勉強をすることの意味

          スタッフたちが事務所周りの樹々の葉っぱを集めて樹木同定(木の種類を特定する技術)の社内教育をする様子を見ながら思い出したことがあった。 スイスに行き始めた頃のことだから、今から十二、三年前のことだと思う。当地のフォレスターが希少種保護などの環境対策になぜ取り組んでいるのかという解説を受けていたときのこと。 私が師事しているフォレスターがそう言ったとき、自分は雷に打たれたような衝撃を受けた。 この業界では、現場に学問は要らないとずっと言われてきた。当時からそのことに様々な

          林業従事者が樹木の勉強をすることの意味

          時間(とき)が止まるとき

          2012/5/30 ラオスにて パクセーからヴィエンチャンに戻る深夜バスの車中、ふと目を覚ますと、バスは国道端で停車していた。何やら焦げ臭い。 外に出ると懐中電灯を持った乗客と乗務員が後部エンジンのところで何やらガヤガヤしている。オーバーヒートだ。ポリタンクの水をラジエーターに注入するも、水蒸気が虚しく上がるのみで、一向に稼働する気配がない。 そんな喧騒を横目に空を見上げる乗客が数人いた。呆然と見上げる者、指をさして語り合う者、中には笑顔さえ見える。何を見ているのだろう

          時間(とき)が止まるとき

          量か質か、どちらが正しいのか

          ※2018/9/6, 2020/5/27 exite blog より転載 農業と林業は根本的に違うところもあれば、似通っているところもまたあるな、と改めて考えさせられた記事があった。 伝統野菜を大切にする理由って、何?(2018/9/6, FOOCOM.NET) この中の「自己満足や趣味の範囲でしかないのか?」という問いかけにはどきりとした。多様な森づくり、と発信をしても、こういう風にしか思われていないのかも、と感じることがままあるからだ。 直感的にこれは良い、これは

          量か質か、どちらが正しいのか

          森づくりってなんだ? 〜 スイスの森林管理から学ぶ 〜(講演アーカイブ)

          緑の地球ネットワーク様からのご依頼で、2024/5/23 に、「森づくりってなんだ? 〜 スイスの森林管理から学ぶ 〜」と題して近自然森づくりのお話をさせていただきました。 一般市民向けの内容で、技術的なことや業界情報はあまり出てきませんが、自分としては大事にしていることをお話したつもりです。 質疑応答では高校生の参加者から積極的に質問を頂いたりと、興味深い一幕もありました。とても嬉しかったです。 主催者の YouTube チャンネルで講義部分のみアーカイブが公開されて

          森づくりってなんだ? 〜 スイスの森林管理から学ぶ 〜(講演アーカイブ)

          パーツ思考とシステム思考

          4年くらい前からだから、コロナ入ってからだと思う。ずっと感じていることがあって、まだみんな、画期的な技術とか道具ができて(またはあるのに気がついていなくて)、それを使えばこの状況を改善してくれるはずだと期待し、そして探し続けているような気がする。 実際に新しい技術、良い道具は次々と生まれ続けている。世の中は便利になっているはずだ。で、それで私達は例えば忙しさというものから開放されたのだろうか? パーツのクオリティはもちろん大事だけれど、それはそこそこで良いから、どのように

          パーツ思考とシステム思考

          船待ちのひととき

          チャーターした川上りのボートが朝8時半に出るというのでその時間に村に行くと、船頭がどこかに行ってしまった、そのうち帰ってくるから待て、と言う。 しょうがないので陽だまりでボケーっと待つ。犬が朝ごはんを終えて休んでいる。別な犬が鶏にちょっかい出して大喧嘩、それを見て我々も村人も大笑い。 暫く経って、同行したラオス在住日本人のAさん(農業技術者)がおもむろに口を開いた。 「この国の山奥の一つの小さな村で、日本人が二人こうして座っている。これってどういう御縁なのでしょうね。貴

          船待ちのひととき

          広葉樹の国フランス〜「適地適木」から自然林業へ

          門脇仁著/築地書館(2024/5) 「多様な森づくり」の先進地というと、どうしてもドイツやオーストリアが取り上げられがちですが、広葉樹林業ではフランスに一日の長があるのはなかなか知られていません。 恒続林のルーツも、ドイツだけではなくて、フランスからの流れも実は重要だとスイスで聞きました(フランスではイレギュラー・フォレストと言います)。 フランス林業だけをテーマに書籍化されたものはとても珍しいです。文化・歴史面からの考察にスペースを結構割いているのが、林学系ではない著

          広葉樹の国フランス〜「適地適木」から自然林業へ

          千三つの世界(再掲)

          「◯◯の可能性は否定できない」 「◯◯という見方もできる」 が、 「Aさんが◯◯だと言っていた」 「Bの情報によると◯◯らしい」 に変わり、 「私は◯◯だと知っている」 に行き着くというのは往々にして起きること。その度に「そんな機密情報を自分ごときが簡単に手に入れられるはずがない」と思うようにしている。そんな根拠のない自信は持てないからだ。 もちろん、陰謀論とレッテルを貼られるものでも千のうち3つくらいは本当であることもあるだろう。しかし、それは残りの 997個が

          千三つの世界(再掲)

          マンパワーの割合を上げよ

          11年前に参加した住環境セミナーのメモを再掲。今読み返しても原則論は変わっていないと思う。 家の相談は建築・設備・エネルギーをトータルで扱える建築家に頼むこと。 最適室内温度は22℃±2℃(ISO=国際基準)。気温の数値と体感温度は異なることがある。重要なのは体感温度。体感温度とは、空気温度(気温計の温度)と壁の表面温度を足して2で割った温度。気温計が最適温度でも寒く/暑く感じるのはこのせい 空気の移動速度と体感温度の低下は比例する。冬は室内空気を大きくかき混ぜないこと

          マンパワーの割合を上げよ

          選木にまつわる雑感

          森づくりのための選木技術(伐る木と残す木を選ぶ技術)は一生かけても終わりのない道。フォレスターは先発でもクローザーでもない、永遠の中継ぎ投手。 だから、技術を身につけることではなく、技術を高めていく方法の習得が、学校での職業訓練の目標。 昔、「地図に残る仕事」というキャッチコピーがあったけれど、こちらは地図に残らないような仕事ができたら本望、という世界。 木の一本一本に表札はないけれど、選木の意図を後の世代が何かしら感じてくれたら、それが我々が生きた証になるのでしょう。

          選木にまつわる雑感