山の喇叭吹き

forest engineer in Japan

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最近の記事

林業従事者が樹木の勉強をすることの意味

スタッフたちが事務所周りの樹々の葉っぱを集めて樹木同定(木の種類を特定する技術)の社内教育をする様子を見ながら思い出したことがあった。 スイスに行き始めた頃のことだから、今から十二、三年前のことだと思う。当地のフォレスターが希少種保護などの環境対策になぜ取り組んでいるのかという解説を受けていたときのこと。 私が師事しているフォレスターがそう言ったとき、自分は雷に打たれたような衝撃を受けた。 この業界では、現場に学問は要らないとずっと言われてきた。当時からそのことに様々な

    • 時間(とき)が止まるとき

      2012/5/30 ラオスにて パクセーからヴィエンチャンに戻る深夜バスの車中、ふと目を覚ますと、バスは国道端で停車していた。何やら焦げ臭い。 外に出ると懐中電灯を持った乗客と乗務員が後部エンジンのところで何やらガヤガヤしている。オーバーヒートだ。ポリタンクの水をラジエーターに注入するも、水蒸気が虚しく上がるのみで、一向に稼働する気配がない。 そんな喧騒を横目に空を見上げる乗客が数人いた。呆然と見上げる者、指をさして語り合う者、中には笑顔さえ見える。何を見ているのだろう

      • 量か質か、どちらが正しいのか

        ※2018/9/6, 2020/5/27 exite blog より転載 農業と林業は根本的に違うところもあれば、似通っているところもまたあるな、と改めて考えさせられた記事があった。 伝統野菜を大切にする理由って、何?(2018/9/6, FOOCOM.NET) この中の「自己満足や趣味の範囲でしかないのか?」という問いかけにはどきりとした。多様な森づくり、と発信をしても、こういう風にしか思われていないのかも、と感じることがままあるからだ。 直感的にこれは良い、これは

        • 森づくりってなんだ? 〜 スイスの森林管理から学ぶ 〜(講演アーカイブ)

          緑の地球ネットワーク様からのご依頼で、2024/5/23 に、「森づくりってなんだ? 〜 スイスの森林管理から学ぶ 〜」と題して近自然森づくりのお話をさせていただきました。 一般市民向けの内容で、技術的なことや業界情報はあまり出てきませんが、自分としては大事にしていることをお話したつもりです。 質疑応答では高校生の参加者から積極的に質問を頂いたりと、興味深い一幕もありました。とても嬉しかったです。 主催者の YouTube チャンネルで講義部分のみアーカイブが公開されて

        林業従事者が樹木の勉強をすることの意味

          パーツ思考とシステム思考

          4年くらい前からだから、コロナ入ってからだと思う。ずっと感じていることがあって、まだみんな、画期的な技術とか道具ができて(またはあるのに気がついていなくて)、それを使えばこの状況を改善してくれるはずだと期待し、そして探し続けているような気がする。 実際に新しい技術、良い道具は次々と生まれ続けている。世の中は便利になっているはずだ。で、それで私達は例えば忙しさというものから開放されたのだろうか? パーツのクオリティはもちろん大事だけれど、それはそこそこで良いから、どのように

          パーツ思考とシステム思考

          船待ちのひととき

          チャーターした川上りのボートが朝8時半に出るというのでその時間に村に行くと、船頭がどこかに行ってしまった、そのうち帰ってくるから待て、と言う。 しょうがないので陽だまりでボケーっと待つ。犬が朝ごはんを終えて休んでいる。別な犬が鶏にちょっかい出して大喧嘩、それを見て我々も村人も大笑い。 暫く経って、同行したラオス在住日本人のAさん(農業技術者)がおもむろに口を開いた。 「この国の山奥の一つの小さな村で、日本人が二人こうして座っている。これってどういう御縁なのでしょうね。貴

          船待ちのひととき

          広葉樹の国フランス〜「適地適木」から自然林業へ

          門脇仁著/築地書館(2024/5) 「多様な森づくり」の先進地というと、どうしてもドイツやオーストリアが取り上げられがちですが、広葉樹林業ではフランスに一日の長があるのはなかなか知られていません。 恒続林のルーツも、ドイツだけではなくて、フランスからの流れも実は重要だとスイスで聞きました(フランスではイレギュラー・フォレストと言います)。 フランス林業だけをテーマに書籍化されたものはとても珍しいです。文化・歴史面からの考察にスペースを結構割いているのが、林学系ではない著

          広葉樹の国フランス〜「適地適木」から自然林業へ

          千三つの世界(再掲)

          「◯◯の可能性は否定できない」 「◯◯という見方もできる」 が、 「Aさんが◯◯だと言っていた」 「Bの情報によると◯◯らしい」 に変わり、 「私は◯◯だと知っている」 に行き着くというのは往々にして起きること。その度に「そんな機密情報を自分ごときが簡単に手に入れられるはずがない」と思うようにしている。そんな根拠のない自信は持てないからだ。 もちろん、陰謀論とレッテルを貼られるものでも千のうち3つくらいは本当であることもあるだろう。しかし、それは残りの 997個が

          千三つの世界(再掲)

          マンパワーの割合を上げよ

          11年前に参加した住環境セミナーのメモを再掲。今読み返しても原則論は変わっていないと思う。 家の相談は建築・設備・エネルギーをトータルで扱える建築家に頼むこと。 最適室内温度は22℃±2℃(ISO=国際基準)。気温の数値と体感温度は異なることがある。重要なのは体感温度。体感温度とは、空気温度(気温計の温度)と壁の表面温度を足して2で割った温度。気温計が最適温度でも寒く/暑く感じるのはこのせい 空気の移動速度と体感温度の低下は比例する。冬は室内空気を大きくかき混ぜないこと

          マンパワーの割合を上げよ

          選木にまつわる雑感

          森づくりのための選木技術(伐る木と残す木を選ぶ技術)は一生かけても終わりのない道。フォレスターは先発でもクローザーでもない、永遠の中継ぎ投手。 だから、技術を身につけることではなく、技術を高めていく方法の習得が、学校での職業訓練の目標。 昔、「地図に残る仕事」というキャッチコピーがあったけれど、こちらは地図に残らないような仕事ができたら本望、という世界。 木の一本一本に表札はないけれど、選木の意図を後の世代が何かしら感じてくれたら、それが我々が生きた証になるのでしょう。

          選木にまつわる雑感

          森を傷つけないように伐る、とは?

          2024/4/28 にアップした「木を伐るときに考えたい優先順位」では、安全性と品質の優先順位をどう考えればよいのかについて、ひとつの考え方を示しました。 優先順位の3番めに「Keep quality of forest(森を傷つけないこと)」を挙げましたが、ここをもう少し掘り下げてみたいと思います。 例えば間伐作業の際には残存木の保護や土壌の保護に配慮することになりますが、全ての樹木・林地を傷つけないで施業することは不可能です。これは「コストをかければできなくもないが林

          森を傷つけないように伐る、とは?

          木を伐るときに考えたい優先順位

          ひとつの考え方。 1.Safety 安全性 2.Take timber out easily 搬出しやすい倒し方 3.Keep quality of forest 森を傷つけないこと 4.Easiest way for worker 作業員にとって最も簡便な方法であること 5.Keep quality of timber 伐倒木の品質 1〜5の各項目は互いに影響し合う。 例えば、2搬出しやすいということは、3森を傷つけないということにも影響する。3森を傷つけない(品質を

          木を伐るときに考えたい優先順位

          人の都合

          人はギャップに惹かれる。 悪人が更生していい人になったり、品行方正だと思われていた人が不祥事を起こしたりするとニュースになるが、ずっとイイ人、ずっと悪い人の話はあまりバズらない。意地の悪い見かたをすれば、人を持ち上げて褒めそやすのは、落とした時のギャップを得るための準備とも言える。 それは例えばメディアの都合。 人やお金を手っ取り早く集めようと思ったら、このギャップづくりをすれば良い。簡単なのは単純化して(見せて)、何かを徹底的に叩くことで自分を上げて見せることだ。問題

          色覚特性レンズ

          「ハハハ、おまえ色盲なのか?」 小学二年生のときだったと思う。図画工作の時間でみんなで埴輪の絵を書いていた。色を塗っていると、担任教師が「おや?」と自分の前で立ち止まり、「なんだこの色は」と言い出した。茶色を使うべきところを緑色の絵の具で塗っていたらしい。そのあと冒頭の言葉を投げかけられた。同級生たちが集まってきて恥ずかしかった。 休み時間に廊下でしょんぼりしていると、保健の先生が「どうしたの?」と声をかけてきた。授業であったことを話すと、それはひどいと憤慨しだした。その

          色覚特性レンズ

          水危機 ほんとうの話

          山を買いたいという相談を受けました。動機をお聞きすると、外国資本が水資源を買い漁っているらしいから守りたいのだ…と。 このお話、定期的に出てくるのですが、山を買ったからといって水資源を得たということにはならないのですが…と申し上げると、狐につままれたような顔になり、そして首をかしげて帰っていかれました。納得されていないのですね。 一連の噂の発端が自身が管理するある山林の売買に絡む話だったので、私はそう説明できるのですが、普段冷静に論理的に物事を捉える方であっても、この話に

          水危機 ほんとうの話

          "専門家"の落とし穴

          ある山林の管理担当者は、山林経営の収支を改善するために専門家にコンサルティングを依頼しようと考えました。 候補となったのはA社とB社。どちらも親身になって相談に乗ってくれます。A社は森づくりを一から問い直したほうが良いのではと言い、B社は我が社の得意なデジタル技術をぜひ採用してくださいと提案してきました。 管理担当者は自分たちの経営には根本的な対策が必要だと感じていたので、A社に依頼をしたかったのですが、上司にB社に依頼するように指示され、その山林は業務のデジタル化を推し

          "専門家"の落とし穴