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焼畑と順応的管理

夏になると思い出す、ちょっとした回想。

インドシナの森林管理・農地管理を勉強するために、ラオス北部の山岳地のとある村を訪れたのは2012年の夏のこと。

ガイドをお願いしたのはメロンさん。本名じゃないのですが皆さんはそう呼んでいます。「メ」はお母さんの意。彼女にはロンちゃんという娘さんがいます。すなわち「ロンちゃんのお母さん」という意味。なかなか人の名前を覚えるのが苦手な自分でも、この方は一発で覚えました。

写真は焼畑の跡にどういう植生遷移が起こるかを解説してもらっているところです。山を焼いた跡に1〜3回耕作しますが、陸稲(おかぼ)→芋というパターンが多いそう。それに混じって野菜や荏胡麻なんかも栽培。

耕作の後は基本的に放置します。まず草本が繁茂して、3年めくらいから竹が優占(写真の後方に見えています)。8年めくらいになると竹が衰退して木本が優占し始め、10年を過ぎると森の形になっていきます。

面白かったのは、木よりも竹のほうがよく燃えるので、木が大きくなる前つまり竹林のときに次の焼畑をやったほうが良い、という解説でした。そんな短期のサイクルでも地力は維持されるのだとか。まあ、これで数百年以上まわしてきた人たちの技術には説得力がありますね。

実際の伝統的な焼畑農業は経験と観察に基づいたとても緻密な技術で、地形、土壌、水分、周りの植生、前回何を植えたか、などなどを総合的に判断して、いつ何処で次の焼畑を行うか、何を植えるかを細かい地形ごとに決めていきます。近年は経済発展の反動からなのかその技術の伝承が十分でなく、火入れの際の事故(昔はありえなかったらしい)や耕作の失敗が頻発しているそうです。

この国の「森の民の誇り」はこの先どうなってしまうのか、どうも色んなことが日本とダブってしまいます。


焼畑の話を聞いていると順応的管理(Adaptive Management 〜 計画における未来予測の不確実性を認め、計画を継続的なモニタリング評価と検証によって随時見直しと修正を行いながら管理する手法)そのものだな、という印象を受けます。

森づくりをするとき、私は決まった手法・工法でやらなければならないと言いたいのではなくて、自然に近い方法=安くて森のクオリティを上げる方法があるのであれば、それを最優先に、それがダメなら次の方法は…という「考え方」をしてみませんか、と提案しています。

そのためには順応的管理の考え方を現場でマネジメントできる人が居続けることが必要で、それが例えば「フォレスター」なのだと思います。あるところにたまたまできる人がいた、では、その人がどんなに優秀でも続かないわけですね。

どの技術が使えるのかという議論はとても大事ですが、誰がやるのかという要素が抜けたままの議論だと意味がない。だから特に今の時代は教育(とその仕組み)にまず手を付けましょう、しかも忍耐強く、というのが自分の結論なのです。


あとで聞いた話。メロンさんが村の人たちに「あいつはガイジンだけど、ちゃんと山を歩けるぞ」と言っていたらしいのですが…それは嬉しいのですが、実は付いていくのがやっとだったのですよ。ビニサンで粘土質の急斜面を登り降りする技術が半端なかったです。

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