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本のはなし(17) 「お城の人々」ジョーン・エイキン


大人向けのファンタジーと聞いたら、何を思い浮かべるだろうか。
映画化されたハリーポッターシリーズやナルニア国物語、ホビット、指輪物語など…、子供だけではなく大人も楽しめるファンタジー作品は多くある。ファンタジー大国とも呼べるイギリスに、大人向けのおとぎ話を書く作家がいる。今回ご紹介をする「お城の人々」を書いたジョーン・エイキンだ。

彼女の作品の多くは、舞台が現実の世界でありながら、主人公が非現実的なものに遭遇するローファンタジーである。
短編集の『お城の人々』は死を連想するものとの遭遇が多く、死んだ飼い犬の生まれ変わり(「ロブの飼い主」)や、ビルの夜警の幽霊(「ハープと自転車のためのソナタ」)が登場する。幽霊やお化けと聞くと、冷たくて恐ろしいイメージがあるが、ジョーン・エイキンが書く人外のものたちは、どこか優しく、人間に寄りそう存在に感じられる。

例えば、短編の1つの「冷たい炎」では、生前に書いた詩をどうしても出版してほしいために、主人公のエリスに自称・詩人の幽霊パトリックから電話がかかる。少し迷惑な幽霊がいる一方、表題作の「お城の人々」では、誰もいないはずの古城から人里の病院に受診に来た王女に、主人公の医師が恋をする。日常の中に突然現れた王女は幻想的で、夢の中の人物のような印象を受ける。

人外のものたちが人間と交流をすることで、夢とも現実とも言えない、特別な世界が創り出される。現実の世界に対する皮肉もスパイスのように入っているため、大人が読むからこそ面白いおとぎ話になっている。

ジョーン・エイキンは2004年に亡くなっているが、生涯で100冊以上もの本を残している。
好きになった作家の本が世の中にたくさん残っていることは、幸せ以外の何でもない。
『お城の人々』は日本で出版された短編集の第3弾のため、次の短編集も楽しみに待ちたい。

因みに、ジョーン・エイキンの作品を知ったのは、TBSラジオのアフターシックスジャンクション(アトロク)という番組がきっかけだ。声優で日本SF作家クラブ会長(!)の池澤春奈さんの推薦本で、ラジオの解説を聞いて購入を決めた。(本屋のアトロクブックフェアで購入しました。面白そうな本ばかり並んでました)
ラジオがきっかけで知らなかった作家に出会うこともあるので、noteでも本好きの方にお勧めのラジオを紹介していきたい。



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