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夏旅 広島県尾道~宮島①

2023年7月
「今年の夏は絶対に広島に行きたい」と思うと、居ても立っても居られなくなった。衝動的な旅かというとそうではなく、昨年から行きたいなぁとぼんやり考え始めていた。お盆より少し前のタイミングで行こう!とホテルの予約をとり、具体的なルートを考える。今から思うと、今年のお盆は台風が直撃だったため、とても良いタイミングだった。

1人で旅行をするのは好きだが、広島まで遠い旅行は初めてだ。なぜ広島かというと、2022年に放送されたアニメ「平家物語」に影響を受けて行ってみたくなったからだ。かわいらしいキャラクターたち、繊細でやさしい絵のタッチ、平家が衰退していく運命の中、一瞬一瞬の生の輝きを表現する美しい描写…。2022年はアニメ平家物語に夢中であった。たまたまその年は京都旅行を計画しており、平清盛の娘の、平徳子様のお墓がある寂光院を訪れた。(寂光院で不思議な体験をしたので、別の機会に書きたいと思う)
次の旅行先を考えたとき、真っ先に思い浮かんだのが宮島だった。平清盛が建てた、海に感謝と祈りを捧げるための社。赤い鳥居と海が見たいなぁという「夏を感じたい欲」もあり、楽しみでソワソワとした気分で1人旅に出た。

東京から尾道までは新幹線で4時間ほどかかる。まず新幹線で新尾道駅まで行き、新尾道駅から出ているバスに乗って尾道駅を目指した。地元の方がバスに乗り込んでくるが、言葉のイントネーションが山陰地方そのものでほっこりする。昔に1年ほど広島に住んだことがあるため、「~じゃろ」とか「~じゃけぇ」という方言には親近感を覚える。バスで坂道を下り、尾道駅に到着。ホテルに荷物を預け、目当ての尾道ラーメンを食べるためにフラフラと歩きだす。道の途中、尾道水道の景色が美しく、何枚も写真を撮った。

尾道駅
新しくてスタイリッシュな印象。
これぞ夏!な尾道水道の景色

尾道ラーメンを美味しくいただいた後、ロープウェイに乗って千光寺を目指した。ロープウェイには簡単に辿り着くはずだったが道が分からなくなり、山道を行ったり来たりしてようやく見つけた。自分と同じように一眼レフを首から下げた、2人の高校生と道ですれ違う。写真関係の部活動なのだろうか、2人とも立派なカメラを首から下げていた。尾道の階段や坂道がセーラー服と合っていて、一枚の絵のように綺麗であった。普段から運動をせず、階段すら避けてエスカレーターを使う自分に鞭を打ち、炎天下の中ロープウェイを目指した。
尾道のロープウェイは、わずか3分で頂上へと運んでくれた。ロープウェイを下りると、現代アートのような美しい曲線のある展望台が見えた。階段を上ると、尾道の景色が一望できるスポットに着く。「この景色が見れただけでも、尾道に来て良かった」と思えるような絶景で、一眼レフを構えて撮った後、じっくりと目に焼き付けた。

美術品のような展望台
尾道市を見渡せる特等席

展望台から見える景色を楽しんだ後、千光寺に向かった。太陽がジリジリと照り付けるため、日陰を探しながら歩いていく。普段は買わないような熱中症予防の果物水をペットボトルで購入し、ぐびぐびと飲み込んだ。体が乾いているときはスポーツ飲料や、熱中症予防水のような塩分や栄養分が入っている飲み物が本当に美味しく感じる。
千光寺に到着をしてお線香をあげると、お寺の方がチーンとお鈴を叩いてくれた。どうやら1人1人の参拝者に向けて叩いているようで、誰かがお線香をあげる度にお鈴の音が響いた。千光寺は尾道の坂の上に建っており、お寺のどこからでも尾道の美しい街並みを眺めることができた。風鈴に短冊をつけて飾っている一角があり、夏空と涼しい風鈴の音が楽しめた。お寺の奥には鎖で岩を上って参拝する鎖山の参道があった。興味はあったが、鎖で繋がれた急こう配の道を前にし、登る前に体からギブアップという苦しい声が聞こえた。炎天下で歩き疲れた後に登る体力がなく、今回は参拝を断念。体力に自信のある方はぜひ挑戦してほしい。

千光寺と尾道の風景
風鈴の透明でカラフルな色と、夏空の青が忘れられない。
風鈴と尾道の景色
断念した鎖山付近の岩に描かれた烏天狗。
思わぬところにあり、ロマンを感じた。

千光寺からの帰りは、ロープウェイではなく徒歩で下山した。道中に寄ったカフェが満席で入れず、行きのロープウェイ付近のカフェで落ち着く。冷たい飲み物と甘いスイーツで元気をチャージした後、ホテルに向かいながら昔ながらの商店街を探索した。金曜日ということもあり、人がまばらな印象だった。帆布でできたコースターや、海の色のような大ぶりなイヤリングを購入し、ショッピングに満足して尾道駅付近まで戻った。

夕食は牡蠣を楽しみにしていたが、居酒屋に入ってメニューを見ると牡蠣の文字が全くない。「牡蠣はありますか?」と店員さんに聞くと、時期ではないためやっていないと言う。広島に来てやっと、牡蠣が冬の食べ物であることに気がついてはっとする。初日に牡蠣を食べる!としか考えていなかったため、どうしようかと困惑しつつ、お刺身と蛸のから揚げを注文した。大の海鮮好きのため、牡蠣ではなくても体は大満足だ。お刺身は新鮮で美味しいし、蛸は弾力があってお店の味がした。
1人旅の良いところは、好きなものを好きなだけ注文して、自分のペースで食べられるところだと思う。好きなものや美味しいものを味わって食べられるのは最高である。良くないところを挙げるとすれば、場所によっては静かすぎるところだ。金曜日の尾道は想像よりも観光客が少なく、地元の人が穏やかに過ごしている印象だった。お店に入ったときは自分1人であったため、1人のために食事を準備してもらうのも、ちょっと申し訳なくなってくる。それでも、観光で楽しみに来たのだ。牡蠣は残念だったが、新鮮な海鮮を味わうことに集中した。お店に入って30~40分経った頃に、3人連れのお客さんがお店に入った。尾道水道の景色がとても気に入ったようで、「ここなら何時間もいられそう!」と感動していた。(1人でいると、かなりの地獄耳になる)私はもう既に十分に満足した気持ちだったので、店員さんにお礼を言って席を立った。
居酒屋にはご飯メニューが無かったため、商店街をフラフラしていたときに見つけた「しろくま」という冷凍おにぎりのお店を目指した。おにぎりの無人販売のお店で、お店に人はおらず、ラジオから地元の番組が流れていた。ガチャガチャのような機械に数百円を入れてお金を払い、冷蔵庫の中から五目おにぎりを取り出す。ホテルに帰ったら電子レンジで温めて食べるつもりだった。居酒屋にご飯メニューが無かったのは「しろくま」のおにぎりを食べるためだったのかもしれないと、おにぎりを片手にウキウキした。

おにぎりを買う前、居酒屋を出た直後に再び尾道水道を訪れた。昼間とはまた違った景色で、夜になる前の夕暮れのマジックアワーが空と海に広がっていた。尾道に訪れてから間違いなく一番の絶景に見とれていると、海の側の階段に高校生の女の子が座っているのが見えた。カメラは持っていないようで、「海を見に学校の帰りに寄りました」といった、ごく日常的に立ち寄ったという雰囲気を感じた。尾道の旅で一番強く印象に残ったのが、実はこの尾道水道の夕暮れと女子高生の2ショットだ。あの女子高生にとっては、尾道水道の景色が日常であり、将来遠くに行ったときに思い出す故郷の景色なのだろうと思い、心がジワリとした。こんなに美しい景色が故郷の景色なんて羨ましい、と思うと同時に、自分にとっての故郷も美しい場所であったことを思い出した。私にとっての故郷の景色は、よく連れて行ってもらった島根県出雲市の海であり、中学生のときに通学のために雨の日も風の日も自転車で通った出雲ドーム近くの田んぼ道でもある。当時はなんでもなかった風景が、今では思い出すととても懐かしくでどうしようもない。尾道水道で出会った女子高生は、そんな将来のことが予知できるかのように、じっくりと静かに尾道の海と向き合っていた。カメラに撮ることは憚られてついには撮らなかったが、こうして文章にまとめているときは、その風景がありありと思い浮かぶ。もしかすると、あの女子高生にとって尾道水道は何の思い入れもない場所かもしれない。自分の勝手な空想で、旅先の景色に郷愁を感じただけかもしれない。それでも、尾道水道の景色は誰かの懐かしい景色であるような、忘れられない場所だと思った。

太陽が沈み始める尾道水道
息を飲む夕暮れの景色。
帰りがけの高校生をよく見かけた。
夕暮れの時間に見えた月。


次回、宮島の旅です。





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