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過ぎ去るということ|「ということ。」第27回

とっぷりと日が暮れた、取材帰り。新宿駅のホームでぎゅうと列をつくる人々を、発車した電車の窓から眺める。電車がだんだんと速度を上げるのと一緒に、人々も、左から右へしゅんしゅん流れてゆく。電車の体が半分、ホームを抜ける頃には、過ぎる顔もぼやけて見えなくなった。

ふと、過ぎ去った人たちを思い出した。それは、かつて校門に待ち合わせて下校したショートカットのあの子や、自分たちにけったいな渾名をつけてつるんだ派手な仲間、夜の野毛をへべれけで闊歩したゼミの戦友に、新卒という謎の連帯感だけで団結していた元同期……今はもう、私の世界に香りすらも残らない人たち。彼らが私を過ぎ去ったのか、私が彼らを過ぎ去ったのかはわからない。ただ、私も彼らも、それは衣替えのように、季節が変わり着ていたものを脱いだだけ。気に入って着古すセーターがあれば、ひとときだけ着て手放すブラウスもある。

過ぎ去った人たちは、今何を見て、何を感じているのだろう。だなんて、感傷に浸ることももはやない。今の私の視界には、大事にすべき人とやるべきことがただ在るだけ。

幼い頃は、人は時が経つほど複雑になるものだと思っていたが、存外、単純明快な生き物になりつつある。それはそれで、好ましいと思える自分が今日も嬉しいのだ。

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