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全体最適とか、部分最適とか、パフォーマンスがいいとか悪いとか


ホテルロビーにあった、映えフォトスポット

一年の過半はアメリカで働く私ですが、言い換えれば残りの期間は日本にいます。ホテル住まいのことが多いのですが、あまり定宿にこだわってはいません。

先日、バブソン大学の学生たちを連れて日本に来たのですが、そのホテルのロビーに不思議な空間がありました。白と赤でかたどられた小さな部屋のような空間。小さなおしゃれな椅子があります。サイズ的には子どもしか座れないでしょう。正確な広さはわかりませんが、5m四方くらいの空間で、海外からの観光客の子どもがその椅子に座って、写真を撮られていました。

「ああ、映え写真なんだな」

そう思うと同じく、少し目線をずらすとチェックインカウンターに人が並んでいます。無人のチェックイン機にも人がたくさん並んでいます。月末の銀行ATMコーナーのようです(そのうち、その光景もなくなるのでしょうか)。JRのみどりの窓口ほどではないでしょうが…

なんだか、ちょっとチグハグに思えてしまいました。ホテルのチェックインは、ホテルの必須機能。そこが大混雑中です。その傍らで、子どもの映え写真を撮るスペースが用意されている。
効率だけを考えれば、列ができているチェックインカウンターのスペースを増やせば…せめて並ぶスペースを確保すれば…と考えてしまいそうになって、一旦、思考を止めてみました。

部屋数は変わらないので、チェックインカウンターの数を増やしても、売上は増えない。
同じく、フォトスポットがあろうがなかろうが、売上には影響しない。

どちらも「顧客満足度」に関わる部分で、直接的な売上への影響は見えにくい。強いていうならば、チェックインカウンターの列に対応したほうが、クレームは減りそうです。

というところで、「どうして、あのフォトスポットが存在するのか」を再考してみました。

うん、遊び ですね。

ワイワイ楽しむ遊びのほうではなく、余裕を表す「遊び」。
そこそこのお値段のホテルで、ロビーフロアをただチェックイン待ちの列で消費したいのか。列ができてそこまで混むのは特定の時間帯でしょう。

きっとあのフォトスポットは、ホテル側が考える「遊び」なのだと思います。ホテルなのだから、それくらいの遊びは必要でしょうという、そんなことではないでしょうか。

よくいわれる全体最適と、部分最適

最近、耳にする機会が増えてきたなと感じるのが「全体最適」「部分最適」という言葉です。大抵の場合、この2つが対立する形で語られることが多いようです。

先ほどのホテルのフォトスポットでいえば、売上に貢献しない、限られたスペースを専有しているフォトスポットは、「ロビーフロア」という部分で見ると「適している」とはいい難いと思います。「部分最適ではない」ということです。しかし、ホテル全体の雰囲気であったり、ブランディングの視点では、必要だと思えます。ここはビジネスホテルではない。効率だけを重視していないというメッセージにも思えてきます。そうなると「全体最適」には適っているのかもしれません。

もっと卑近な話をすると、よくグルメ番組で「このメニューばかり食べられると赤字で困ってしまう」という話が出てきます。そのお店にとってその商品は利益率が低い、あるいは単品では赤字の商品なのでしょう。しかし、その飲食チェーンは経営が成り立っています。その商品そのものは赤字=部分最適に適っていないけれど、店全体では黒字=全体最適には適っている。つまり、赤字商品が客を呼び、全体の売上を底上げしてくれ、結果として黒字になっているというわけです。

効率化を考えると、視点がミクロになりがち

この話のポイントは、「効率化」にあります。企業として、ビジネスとして、効率化を求めるのは当然です。生産性向上なんていう言葉とも相性がいい話です。

誰しも効率化を考えていくと「ムダを省こう」という思考に入っていきます。もちろん、ムダは省いていくべきなのですが、そのムダ探しが大変なのです。とにかく、細かい話になりがちです。

先程のメニューの話なら「赤字の、原価率がやたらと高いメニューがある!」と槍玉に挙がるかもしれません。営業先でも「この業種の取引は、要望が多くて大変な傾向があるから、控えよう」などという話も有り得そうです。「より効率よく受注できる業界に特化しよう」という話になります。

どれも間違ってはいないのです。ただし、部分最適の可能性があります。

原価割れの商品がお客さまを呼び込んでいた。
効率が悪い業界での受注が、他業界の評判につながっていた。

こんな話はよくある話です。ばさっと効率化を実施したら、営業成績がなぜかガタ落ちしたというケースも耳にしました。

ロングテールは全体最適

ECが普及し始めた頃、話題になった単語に「ロングテール」があります。

ロングテールとは、「販売機会が少ない商品も取り揃えておくことで、全体としての売上を底上げする」という話です。売上の8割は、2割の売れ筋商品が生むという話もあります。そこで、売れ筋商品だけに絞ってみると、一気に全体の売上がしぼむのです。
なかなか売れない8割の「ロングテール」が全体の売上を支えているということなのです。アマゾンなどのECでは、古くからしられていることですし、ECに限らず、コンビニエンスストアや駅の売店でも、「え、そんなものまで売っているの?」という商品があります。実際、滅多に売れないけれど、なぜかラインアップされている商品。それもきっとロングテールなのでしょう。

効率化に躍起になってしまうと、そういうものを切り捨ててしまう危険性があると思うのです。

なによりも、一見ムダに見えるものって、楽しくないですか?

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