書評:田村耕太郎さん「頭にきてもアホとは戦うな!賢者の反撃編」
今回は田村耕太郎さんのベストセラー「頭にきてもアホとは戦うな!」の続編、「頭にきてもアホとは戦うな!賢者の反撃編」を紹介したい。
田村耕太郎さんと言えば過去に参議院も務めておられたお方で、現在はシンガポールに居住されてリークワン・ユー公共政策大学院の兼任教授でもある。2014年に出版された「頭にきてもアホとは戦うな!」は80万部を超えるベストセラーとなっているとともに、「地政学が最強の教養である」もビジネス書として人気を博している。
そんな田村さんの最新作が今回の著作なのだが、この本はタイトルからの第一印象とは異なり、“人生の指南書”と呼ぶにふさわしいと思う。アホと戦うな、の意図は前作と同様で「アホと戦う無駄な時間を避けて自分の人生を生きよう」というメッセージだ。
本作ではアホとの戦いの避け方だけではなく、アホを観察していかに成長するか、自分がいかにアホにならないか、どうやってアホの壁を超えてリーダーになっていくかなどが詳述されている。テーマとしてはあくまでアホが中心に据えられているが、内容としては日々の心構えや他人への接し方、自己研鑽などが大きく、まさに人生を過ごしていく上でのエッセンスが詰まっていると言っていい。
その中でも自分にとって興味深かった内容を紹介する。
“あなた自身がアホにならないために“では”立派なリーダーがアホを集める?“というセクションがある。人格者のリーダーほど寛容で、アホが生き延びやすいからだ。したたかにそのリーダーに取り入り、周りを蹴落とす。それを見た優秀な人材はリーダーに失望し離れていき、余計にアホが集まっていく。これは自分も会社勤めをする中で何度か見てきた光景だ。大事なのは、優れたリーダー、特に日本人には社会的にももっと寛容さが必要だというジレンマだ。その大切さは本書の中でも述べられている。しかし、ただ寛容で全ての人の全てを許していてもダメなのだ。失敗に寛容で、誰もがSpeak upできる空気は作りながらも、アホが蔓延る組織にしないようにマネジメントしていく必要があることを気づかせてくれる。
また、“変化し続ける世の中を読むために”ではこの加速度的に変化する世の中の潮流を理解するために必要なことが4つ取り上げられている。
1. 旅をすること
2. 投資をすること
3. 本を読むこと
4. 多様な人間に触れること
全てに共通して言えるのは、“行動・学び続けることで視野を広げる”ということだ。日本人はとりわけ現状維持が好きなので、同じ組織にずっといながら日々を惰性的に過ごしている人も多い。それではこれからの世界の中で戦っていけない。常に新しい環境に触れ、知識を身につけ、チャレンジをして、多くの方々に触れて刺激を受けていくことが必要だ。
本書の最後の章は“アホは世界からいなくなるか”というテーマだ。その最初に述べられているのが、日本人は余裕があり暇だから他人に関心がありすぎる、ということだ。これは私がシンガポールに移住してからも本当に感じる。シンガポールでは他人への干渉が最低限だ。一方で日本はといえば、くだらないゴシップばかりが取り上げられたり、議員の不始末が延々国会で議論されたり(どうでもいいとは言わないが国会で議論すべきトピックは他に沢山ある)と、他人に鑑賞したり蹴落とそうとする風潮が強いように感じる。この余裕が生まれる原因の1つは、日本人は自分で人生を考える教育を受けてなく、ただ就活をして終身雇用で会社に人生を委ねている人が多いからだ。ただ、これからの社会では自らがコンフォートゾーンから飛び出して人生を切り開いてく覚悟が必要だ。そこに他人に執着している余裕はないはずだ。
最後に。“モビリティで社内のアホから身を守る”というセクションがあるのだが、これは本当に多くの日本人に理解してほしい部分だと実感している。日本人はみんな我慢しすぎだ。ハラスメントが横行するのも、それを我慢する人たちが多いからだ。当然ながら責められるべきはハラスメントをする側であって、我慢する側ではない。ただ、ハラスメントを行う人間がつけあがるのはそれを続けていても問題にならないと勘違いしているからだ。そういうアホからは、Speak upしても組織が変わらないのであれば、逃げるのが一番だ。そのためにモビリティは持っておく必要がある。社会も会社も自分の人生の責任は取ってくれない。全員が自らの人生の目的を持って、それを切り拓ける社会を目指そう。
以上、私が尊敬するビジネスパーソンである田村耕太郎先生の新著について紹介させていただいた。新たに読みたいと思っていただけたなら幸甚である。