【書評】橘玲さん著:「不条理な会社人生から自由になる方法」

本日はビジネス書の書評について投稿させていただく。橘玲さんは私が最も好きな著者の1人だ。その切り口はいつも切れ味鋭く、データに基づき、示唆に富んでいる。
この「不条理な会社人生から自由になる方法」は2019年に出版された著作の文庫版だが、巻末に特別寄稿として非正規公務員の現実について記載されるなど、アップデートされている。
「言ってはいけない 残酷すぎる真実」や「無理ゲー社会」などの著作で有名な橘さんだが、他の書籍ではあまり触れられない下記の2点にはっきり切り込んでいるというのが自分の所感だ。
·         人の知能やスキルは遺伝によるものが大きいということ (人は平等ではない)
·         日本は国際的に見てもあらゆる点で差別が蔓延っていること
 
まず、1つめについて。認知科学の領域では知能はかなりの程度で遺伝するとうことが実証されている。そのため、環境や教育によってすべての人が伸びるわけではない。言い換えると、「やればできる」「努力すれば誰でもできる」は嘘だということだ。しかしながら、この主張は一般的に社会では受け入れられない。「人間はすべて平等であるべきだ」というのがいわゆるPolitical Correctness (政治的正しさ)だからだ。この結果として、成果を出せない人、知能やスキルが伸びない人は「やればできるのにやっていない = やる気がない、努力していない」と社会から見なされる。結果的に社会から置いてきぼりにされていると感じるようになり、孤立し、不満を募らせる。これは日本だけではなく成果主義を掲げるグローバルで起きていることだ。トランプ前大統領の支持層となっているアメリカの白人貧困-中間層にも同じことが言える。
橘さんは「残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法」の中で、勝間和代と香山リカの討論を例に上げてこの点を論じている。勝間和代は「やればできるんだから全員努力すべき」と論じるのに対し、香山リカは「努力してもできない人は自分を責めることになり更に落ちていく」と主張し、全く噛み合わない。
この知能やスキルは遺伝でかなりの程度決まるという事実は社会的には受入れ難いものになっているが、その中で生き抜く個人としては知っておくべきことだ。
 
2つめの日本における差別について。ここではいくつかの差別が取り上げられており、
·         男性・女性のジェンダー差別
·         現地採用・本社採用という「国籍差別」
·         定年制という「年齢差別」
·         正規・非正規という「職業差別」
·         戸籍制度という日本独自の仕組み
 
ジェンダーギャップ指数が国際的に見ても日本が非常に低いのは有名 (116位/146カ国中)だが、それ以外の項目は社会で差別として認知されていないものも多い。
自分自身がシンガポールに勤務しているが、いわゆるジョブ型の採用で、そのJob Description (職務内容)に応じて給料が決定されるのでそれ以外の背景は何も関係ない。しかしながら、日本の企業で海外に現地支店を立ち上げている場合などは平然と現地採用のローカル社員の待遇が悪かったりする。これはれっきとした国籍差別だ。なぜその人の給料が日本人と比べて安いのか、という説明ができない。
定年制や役職定年も年齢だけを理由に無理やりそのポジションから引きずり下ろす日本独自に仕組みだ。優秀であっても年齢が理由でその仕事を続けられないという意味ではれっきとした差別だ。これの背景にあるのは終身雇用制と年功序列で、組織としてずっと人材を抱えておくことが財務的にも無理になっている。なので終身雇用と年功序列を廃止して単なる成果主義にすればよいのだが、なかなか変わりそうにない。
非正規の待遇が非常に悪いことは有名な話だが、一向に変わる気配がない。それは労働組合が正社員の既得権益を守るための組織になっているからだ。彼らが正社員を守り、正社員は終身雇用の既得権益にしがみつき、非正規は容赦なく切り捨てられていく。(待遇も悪い)。
 
これらの遺伝に纏わるシビアな現実と、日本は先進国でありながら前近代的な差別の仕組みを(大衆は意識することなく)持っているということはビジネスパーソンとして知っておいた方がいい。
世の中には努力しても結果を出せない人もいる。(結果が出ていないことを本人のやる気のせいだけにしてはいけない)。世界やチームを見る上で大事なことだ。
日本が社会の問題点はグローバルでコミュニケーションをする上で知っておいた方がいい観点だ。日本で出向している人の中には「日本は先進的で全てにおいて優れている」という見苦しい勘違いをしている人も多い。
 
ビジネスパーソンの人間性を深める上で橘さんの書籍は非常に有効だと感じる。
その書籍の1つについて今回は紹介させていただいた。

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