見出し画像

#Metooムーブメント|黒幕暴露の裏側

「Catch and Kill」「捕えて、殺す」

セクハラや性的暴行などのスキャンダルを揉み消す為に、スキャンダルが報道される前にフルストーリーを「Catch」「捕える」。セクハラやパワハラを受けた被害者の過去を徹底的に調べあげ、異性関係や性的嗜好を掘り出し、大袈裟に報道し人格攻撃を開始。被害者は世間から批判され、信用されなくなります。被害者が精神的にボロボロになったところで、加害者から高額な示談金のオファーをし、「秘密保持契約書」通称NDAにサインさせます。NDAには、もしも今後、誰かにスキャンダルのことを話したら、被害者が一生かけても支払えない金額の契約違反金が組み込まれいて、被害者のストーリーは絶対に世の中に出回らないように「Kill」「殺し」ます。

この「Catch and Kill」というフレーズは、アメリカのスーパーの片隅で売っているような、安いタブロイド紙を扱うAMI(アメリカン・メディア社)の従業員達がよく使うようで、NDAをオファーし数々のスキャンダルを抹殺してきたとされるトランプ大統領とAMIの関係も、本書で浮き彫りになっています。

日本でも大きく取り上げられた#Metooムーブメント。その火付け役となったのが、この本の作者ローナン・ファロー(ウッディ・アレンの息子)です。

90年代を代表するハリウッドの重鎮映画監督、ハーヴェイ・ワインスタインが女優やモデルに映画出演や業界でのキャリアを武器に、数十年間に渡り行っていた性的暴行を暴露した内容なのですが、私は普段からニュースを読むことが好きだったこともありワインスタインの悪行については、その内容があまりにも惨すぎて「もう…読みたくない…」という心境に…。

それでも本書を「読んでみよう」と思ったのは、ローナン・ファローが書いていたからです。

話しは少し脱線してしまうのですが、私は10代の頃、フランス映画を見るのが大好きでした。フランス映画を観に行った映画館に、たまたま貼ってあった”白シャツに黒のベルト、白のパンツ”というフレンチな服装をしたポスターの男性に何故か魅かれて、インターネットも存在しない当時、映画館の店員さんに、あのポスターの男性は誰なのか教えてもらったことがありました。それが、アメリカの映画監督ウッディ・アレンでした。

この本が出版される前に、作者ファローの姉が7歳の時に父であるウッディ・アレンから性的暴行を受けていたと訴え、更にアレンは養子であったスン・イーと性的関係を持っただけでなく再婚した…という個人的にあまりにもショックなニュースが世界で報道されていていました。この件をきっかけに、ファローは「性的暴行」というトピックスを扱うのに、とても慎重になっていたそうです。

家庭の複雑な事情を乗り越えたファローが書いた本書は、信じられないほどの勇気とファクトチェックを徹底的に行うジャーナリズムを感じる一冊でした。多くの読者が「スリラー小説のようだ」とレビューしているのにも納得。スパイ、ダブルエージェント、スキャンダルを徹底的に潰す為の謎の外国組織Black Cube…などなど、まるでイーサン・ハント(映画ミッションシンポッシブルのトム・クルーズが演じるキャラクター)の世界が広がっていて、「本当に現実でこんなことが起きるの?!」と、気がついたら夢中で読んでいました。

ハーヴェイ・ワインスタインのNDAを使いすぎるやり方も、うんざりする程、新聞記事を読んだ気がしていたのですが、本書はワインスタインが映画業界だけでなくメディア組織や政界にどれほど深く関わっているか、という点を強調していて、だからこそ、ワインスタインがNDAを使い被害者を黙らすことに成功した、という視点で描かれています。新聞記事が、事件の裏側の暴露だとしたら、本書は更にその裏側の暴露です。

本書前半は、ワインスタインの悪行を抹殺する為に、信じられないほど大勢の人がダブルエージェントとして働いていたこと、そして後半ではワインスタインの全ての悪行を可能にしていた「黒幕」が暴露され、ハリウッド映画業界ではワインスタインの悪行は皆が知っていながら、目を背けていたことが明らかに。「ワインスタインがもつ力は、あまりにパワフルで、誰ひとりとして自分のキャリアと引き換えに彼を止められなかった…」という証言がとても印象的でした。

本書は、内容が衝撃的でリスクが多い為、爆発的に売れることはないだろう、という意見がある中、ファローはファクトチェックにとにかく念を入れ徹底的に調べあげた結果を「catch and kill」にまとめ上げました。出版にこぎつけるまで、予想通りいつくもの圧力や批判が待っていましたが、しかし意外だったのは出版後、1週間でベストセラーに登りつめたということ!

ファローのジャーナリストとしての魂を感じる側面がある一方で、普段ノン・フィクションは読まない読者にも読ませてしまうような、誰にでも好まれる書き方をあえてしているように感じた一冊…。ファローと実名を公開し取材に応じた多くの被害女性達の、勇気と行動力が広く知られ、2度と#Metoo「私も被害者だ」といわなくていい世界がくることを願わずにはいられません。

1度大きな名声を得ると失うのを恐れるものですが、彼女たちは怖気づかなかった。「自分らしい心」や「良心」を、失わずにいた彼女たちの存在、その逞しい生きざまが、本書を読み終えた今でも私の胸を打ち続けています。















 





この記事が参加している募集

推薦図書

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?