#エッセイ 『 思いでと成長』

 僕は日常を会社でもプライベートでも毎日同じことの繰り返しとして過ごしがちです。そんな日常の会社帰りに夜道を歩きながら時々ふと考えることがあります。『もうオレも50を過ぎたけど・・子供の時より何か成長したのかね?なんだか大学、いや高校生の頃の頃からから人として何か目に見える成長をしたとは思えんね・・』と漠然とした不安が頭の中を横切り、自分の成長を自らで感じられないという何とも言えないバツの悪さを感じながら歩いていることがあります。そんなときは大体疲れている日ですけどねぇ・・。
 今から数年ほど前、夏の暑い日にちょっとした用があって子供のころ住んでいた町に行くことがありました。急いで片づける必要のない程度の用事だったという事と時間的にも余裕もあったので懐かしい町のあちらこちらを散歩してみることにしました。人の記憶とは中々曖昧なもので、子供のころあれだけ走り回った近所の裏路地なんかが自分の記憶とは違うのですね。そしてアレ?アレ?なんて少し迷いながらも記憶の中で昔あった懐かしいお店や仲の良かった友達の家などを探し訪ねるのですが、よく通った駄菓子屋さんはもうとっくに廃業して知らない住宅になっていて、それがまた建て替わってから相当な時間が経っていて少し疲れた感じのする建物になっていったり、また仲の良かった友達はすでにどこかに引っ越したのか表札が知らない名前になっていたりしてチョット驚くと同時に一抹の寂しさを感じました。それと同時に何とも形容しがたいのですが少し寂しい気持ちを抱えながらも町全体の雰囲気は子供のころのままでぼんやりとした懐かしさも同時にこみあげてきたりするのですよね。もう一つ感じたことは、道幅が縮んだように思えて、すごい違和感を覚えたのですね!昔住んでいた家の前の道に来たときは『イヤイヤ、もっと広かったでしょ!』と思えて仕方がなかった思いがあった記憶があります。自分の体が子供の頃より大きくなっているからそんな感覚に襲われるのでしょうね。
 そんなこんなを考えながら、当時通っていた幼稚園の方まで足を延ばしてみると、建物は当時のままで、古くはなっているんですが、その古びた姿が時の流れを感じさせてこれまた何と言えない気持ちになるんですね。あの当時は毎日何を思って過ごしていたっけね・・。顔も名前も思い出せない当時のクラスメートはみんな元気でいるのかね?今頃どこでどうしているかね・・・。なんて思い出に浸りながら散歩の最後に園の近所にある神社まで行ってみることにしました。その神社は幼稚園の時に園児みんなで手をつないで何回か先生が引率してくれた場所だったのですが、確か数える程しか行ったことが無いはずの場所だったと記憶していた所です。ですが僕にとってはやたらと記憶に残る所だったんですね。そこの境内にはブランコや小さなジャングルジムがあったと記憶していて、少しドキドキしながら神社入口の階段を登ると、やっぱり記憶とはちょっと違うけど、思い出を裏切らない雰囲気の景色が目の前に現れました。『そうそう、こんな感じだったよね、懐かしいねぇ・・』という思いに駆られながらクルリと境内を歩いていると、ふと頭の中に当時の記憶が一つ蘇ってきたんです。
  当時僕は6歳でその翌年には小学校に入学する事になっていたのですが、それと同時に父親の仕事の都合で外国に行くことになっていました。子供ながらにそんなことは一応理解していたからでしょう、“ここにはもしかしたらもう来ることが出来ないかもしれない・・。“という思いでその日ここでの風景を眺めていたのをふと思い出したのです。これもまた曖昧な記憶の中での話になるのですが、その日、ここの神社は晴れていて柔らかい感じの日差しが心地よかったという感覚も思い出しました。季節がいつであったかまでは覚えてないのですが、その時は他の子たちは境内の遊具で遊んでいるときに僕は一人外れた境内の端っこで“今日の事を大きくなって思い出すことがあるかな・・・”とぼんやりと思っていたことを思い出しました。“この天気の良いここの景色はまた見られるのかな・・。“と、幼なかった自分が思った事をその当時心で思った感情の様に思い出したんですね。上手には説明が出来ないのが残念なのですが、僕の中で懐かしさがこみあげるとき、その日にあった行動や出来事の記憶を思い出して懐かしむという場合と、それとは別にその瞬間心の中で何を感じ、また自分の心の中で自分に語りかけた内容が出来事と当時の感情のまま一緒に絡まって、その当時の肌感覚として戻ってくる・・・という感じがあるなという事にふと気が付きました。それを思い出すときに同時にあの時の瞬間ないし、その子供として感じた肌感覚でとでもいうのかその時代の匂いまで感覚でよみがえる様な気がしてならないのです。いうなれば僕なりの懐かしさという感覚はこういう体験を心で感じる瞬間の出来事なのだろうと思います。残念ながらそうやって思い出せる記憶はそう多くは無いのですが。
 実はこのような方法とでも言うのでしょうか、自分なりの記憶を手繰り寄せる方法は歳を重ねても無自覚的によくやっている思考パターンかもしれないという事にも同時に気が付きました。何かを思い出して懐かしむとき、昔のテレビ番組のシーンや、またその当時流行した歌謡曲の一節を映像と共に視聴して『ああ、あんなこともあったよね・・・』というノスタルジーという懐かしさとは違い、その当時の気持ちをフラッシュバックするように思い出すとでもいうのでしょうか、その瞬間だけは頭の中でその当時の他の心配事や楽しかつた出来事がのそのままの肌感覚がよみがえる瞬間があるんですね。忘れていた記憶が蘇るとでもいうのでしょうか、上手くは言えないのですがその瞬間だけ当時の子供時代に帰れるんですね。その瞬間に味わえるそんな感覚に心が奪われた後に思う事は、歳を重ねても物事のとらえ方は基本的には変わってないかもしれない、という事に気が付きます。長い時間をかけて色々な事を学び、いろいろな経験から考え方も学んだつもりですが、基本的に自分が受け取る外からの刺激に対しての心の受け止め方はあまり変わってないのでは?という事にチョット驚くんのですね。『ん、俺にはまだそんな感性がのこっていたのか!ってか成長してないのか??』と思いながらもその瞬間は懐かしさに浸るんですけど・・・。年に何回かそんな瞬間が訪れるのですが、実はその瞬間が密かな楽しみでもあり、成長をしていないのではないかという心配に駆られる時でもあり・・でも、それを繰り返しながら歳を重ねていくのも悪くないかな・・なんて思いつつ今日も会社の仕事に忙しくしながら過ごしています。






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