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#創作大賞2024

2人の祖父の物語(3話 3,146文字)

2人の祖父の物語(3話 3,146文字)

ⅰ.南方作戦

幼い頃、2人のお爺さんから、聞いた話を書こうと思う。自分のルーツとは、こんな感じで出来上がったのではないか、とか考えている。

まずは父方の祖父、第十のお爺さんについて書きたい。

「ワシはシベリアに3年もおったけんのう」

と親父とは対照的に、いつも朗らかで、ゆっくりと喋る、第十(だいじゅう)のお爺さんを僕は本当に大好きであった。

戦前、祖父は第十の家へ婿養子としてやってきた。

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我が家のガンバリウーマン(全3話 2,431文字)

我が家のガンバリウーマン(全3話 2,431文字)



ⅰ.想像を絶する大都会

オカンの姉にあたる伯母さんの話を、まずは書こうと思う。彼女は相模原市に住んでいる。僕が高校を卒業して、川崎市にいた頃、何度も泊まらせてもらい、大変お世話になった。

オカンが緊急入院した時、真っ先に連絡したのが、神奈川の伯母さんである。僕が小学6年の頃、姉貴と2人で徳島から夜行バスに乗り、初めて東京へ旅行をした。

翌朝、品川駅に着いた僕らを、迎えに来てくれたのが彼女

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東吉野村人やってます。(全6話 6,055文字)

東吉野村人やってます。(全6話 6,055文字)

ⅰ.古道づくり

奈良県東吉野村に移住して1年半が経とうとしている。

移住して3ヶ月間は家の周りの山を歩いていた。

そして道を作ることを始めた。東吉野村の小川という地区には、いくつかの集落があり、上出垣内(カミデカイト)というのが自分の住む在所である。

家は村道に面しており、お隣さんは30メートルほど離れて建っている。自分の家から上は、山肌にへばり付くように、家が4軒ほど点在しているが、人は

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リトライ(全5話 6,982文字)

リトライ(全5話 6,982文字)

Ⅰ.プロローグ

都会に出て挫折を味わい、田舎に引きこもっていた人間が、また都会へ出るに至るまでの話を、まずは書こうと思う。

徳島県の山奥で、4年ほどキコリの仕事をしていた。その関係で県の外郭団体の臨時職員として半年間の森林調査員に採用される。

その6ヶ月間は徳島市の実家から県庁まで通っていた。(祖谷の山奥からだと車で2時間以上かかる)

して、半年が過ぎ去り、
「さて、また山奥に戻るか」とか

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ランバージャック(全8話 7,744文字)

ランバージャック(全8話 7,744文字)



ⅰ.プロローグ

徳島県の山奥に大歩危(おおぼけ)、小歩危(こぼけ)という渓谷があり、その渓谷からさらに山深い村に住んでいた頃の話を書こうと思う。

ラフティングのツアーガイドという仕事をするため、この山奥に住み始めたのだが、週末の2日間しかお客さんが来ない日々が続いていた。

それでも最初の頃は、先輩とラフティングのトレーニングとしてボートで川を下ったり、カヤックの練習をして、スキルアップに

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僕らの中2病(全5話 4,184文字)

僕らの中2病(全5話 4,184文字)


1.万引きなんてしねーよ

時代が、昭和から平成に入って、間もない頃、徳島県の田舎町に、ある中学校のありふれた日常を、綴った物語である。

この中学は、3つの小学校を卒業した生徒に分かれていた。僕らはその中でも過半数を占める最大派の小学校グループだったが、少数派の生徒から受けた影響は計り知れない。

それは中学生になるまでは、授業中に寝るとか、先生の話を聞かずにマンガを読むなど、あり得ないと思っ

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パンチの不祥事(2,201文字)

パンチの不祥事(2,201文字)

人生の大きな転機となった中学の部活について書こうと思う。

中学校に入学してサッカー部にするか、はたまた陸上部に入るかで長らく悩んでいた。

少年サッカーの友達は、ほぼ全員がサッカー部へ入部し、自分だけが、まだどこに入るか決めきれずにいた。

1993年。Jリーグ元年であるこの春は、ボールを蹴ったことがない者までが、サッカー部へ入るという人気ぶりであった。

さらにサッカー部には、良く知っている仲

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