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緻密に計算された物語を『俺を好きなのはお前だけかよ』から学ぶ!!

※有料部分の末尾に本作をシーンごとに割ってページ数を把握したり、全体を俯瞰できる分析シートを添付しています。

はじめに

駱駝先生の『俺を好きなのはお前だけかよ』はシリーズ累計100万部を越える大ベストセラーラノベです。

電撃大賞で金賞を受賞した本作は、商業作家の技術の詰まった作品といえます。

僕は小説の創作教室などで講師をさせていただくこともあります。その際、生徒さんのなかには「ライトノベル的なアニメキャラが出てくる作品ではなくて、自分はハリウッド映画のようなかっこいい作品を書きたい」という方が時々いらっしゃいます。

「だったら英語勉強してハリウッド脚本家にでもなれば……?」とライトノベルの創作教室で思ったりもしてしまうのですが、僕は講師です。

現実的にどうすれば「ハリウッドのようなかっこいい作品」を書けるかを教えます。

映画好きな方だったら、クエンティン・タランティーノだったり、クリストファー・ノーランだったり、映画という媒体(メディア)の特性を活かした編集(時間操作)の巧みさと、よく練られた脚本構成(緻密な世界観、伏線の回収!)に魅せられるのではないでしょうか。

『俺を好きなのはお前だけかよ』は、そういった「映画好き」なら唸るような物語構成を持っています。

しかも、そんな映画的な物語を、アニメ・まんが的記号キャラクターで描くことで、商業的に成功しています。

本構造解析noteでは、駱駝先生がアイディアをまとめ上げるのに3年を要したという緻密なキャラクター&物語を分析していきます。

※本作はネタバレを含みます。ぜひ未読の方は『俺好き』をご一読ください!すばらしい文芸エンタテイメントを味わえるはずです!


キャラクター

「ハリウッド映画のようなかっこいい物語を書きたい」という方のなかには、アニメ・まんが的記号で描かれるキャラクターがあまり好きではない、という方もいらっしゃるでしょう。

たしかに電車のなかでカバーをかけずに、美少女が表紙の文庫本を読んでいると、周囲の視線が気になります。

しかし、だからといってライトノベルのパッケージビジネスを、エンタメとして下に見るべきではありません。

アニメ・まんが的記号で描かれるキャラクターは、ハリウッド映画でいえば「ハリウッドスター」にあたります。

映画が「スター」による観客動員と無縁でいられないように、あなたが書きたいことを多くの読み手に伝えるためには、アニメ・まんが的記号で描かれるキャラクターが必要なのです。

また、『俺好き』は冒頭から主要キャラクターが次から次へと登場します。

僕は上記noteで、活字ベースの媒体(メディア)である小説では、登場キャラクターは極力、限定したほうがよく、特にその冒頭ではまず主人公とヒロインの2キャラクターを対比して描くべきだ、と述べています。
(『ノゲノラ』『このすば』『リゼロ』など商業的に成功している作品では冒頭40ページは主人公とヒロインでほぼ展開される)

なのに、『俺好き』では主要5キャラクターがどんどん紹介されていきます。

じつは、この各キャラクターの紹介にはさっそく、商業作家の技術が使われています。

これが、ここまで何度も述べてきた、アニメ・まんが的記号の必要性なのです。

アニメ・まんが的記号のキャラクターを対比し、印象づけているのです。

記号化というのは、お約束テンプレートと言い換えることができます。

そんな記号化されたキャラクターを比較して並べて各キャラクターの違いを読み手に印象づけている。

故にたくさんのキャラクターが次から次へと出てきても読み手は混乱しないのです。

ここまででいかにアニメ・まんが的記号でキャラクターを書くべきなのかはおわかりになったのではないかと思います。

ちなみに、『俺好き』には『俺の青春ラブコメは間違っている。』『ようこそ実力至上主義の教室へ』の構造(キャラクター配置)が見て取れます。

『俺を好きなのはお前だけかよ』のアニメ・まんが的記号を分析することで、あなたにも緻密に計算された物語。その魅力を伝えるキャラクターを書く技術を獲得することができるはずです。


■如月 雨露(きさらぎ あまつゆ) 通称・ジョーロ(普通)
「僕僕キャラじゃなくて、今のいい感じにクソ野郎感出しているこっちの俺か?」

表紙を飾る美少女を引き立てるためには、比較対象が必要です。

背が高い、顔が小さいことを伝えるためには、その比較対象があることによって顕在化します。

ライトノベルにおいて、美少女を引き立てるのが、地味で底辺属性の「普通」の主人公です。

また、ライトノベルにおいて「普通」のキャラクターは「言葉」で状況を制圧していきます。

『俺好き』の主人公・ジョーロはその場しのぎの嘘(言葉)を重ねて、状況をコントロールしていきます。

以前にもラブコメの技術を『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』で解説したことがあります。

上記noteでは、コメディの主人公というのは、ひどい目に遭う必要があるということを劇作家のレイ・クーニーの言葉を引いてご紹介しました。

ジョーロは、その抱える問題(内的欲求)故に誤った選択をしてしまい、状況をどんどん悪化させていきます。

この内的な欲求誤った選択については、ストーリーテリングの技術と密接なつながりがありますので後述します。

ラブコメでは「普通のキャラクターがひどい目に遭う」のが「楽しい」のです。

困難な状況に四苦八苦する「普通」の感情を活字ベースで追いながら感情移入していくのです。


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