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建物についての好きを考えてみる

福岡に来て1年が経ち、この4月に好きについて書き
出してみた。好きの理由はなんとなくというものも
多い。でも、きっと何かの好きに通じる要素があるの
だろう。もっとその要素に意識を向けてみようと思う。



昨年7月、博多の天神にあった三菱地所アルティアム
の最後の展覧会に訪れた。「絶望を覆すことができない
恋を正義とせよきみが死んでも残る花。」 という題名
は最果タヒさんの詩によるもの。そこで購入した著作
の「好き」の因数分解では、以下のように語られている。

どうして好きなのか、と言われても、答えようがない。
そこに答えなどなくて、答えなど必要なくて、私の前に
それが存在することを、ただ確かめ続けたい。「好き」と
いう言葉はそのためにあって、それ以外何もない、その
内側に何があるかなんて、知ろうとするたび爆発だけ
が起きる。風船が割れるみたいに真っ白になる。私は、
だけれど書いてみたい。真っ白なところではなくて、
その破裂する瞬間を言葉にしたい。  ※本文参照

取り上げられているのはミッフィー、クロード・モネ、
紫陽花、水族館、タモリさん、ロケットなど幅広く、
縦横無尽に好きを分解し、言葉に変換されている。
詩人による「好き」の因数分解。興味深い本である。



建物についての好きの因数分解を試みてみる。旅先や
日常でとった写真を眺めていると、建物のどこが好き
かが見えてくる。写真を撮る時は、深くは考えてないが
自然と好きの要素をもとに、撮っているのだと思う。


薄い庇と壁で構成されたアプローチ
風の丘葬祭場



建物へのアプローチ空間は期待感を高めてくれる
東山魁夷せとうち美術館



冒険心をかき立てるアプローチを持つ建物もある
植村直己冒険館



こだわられた細部の納まりは豊かなアプローチ空間をつくる
竹中大工道具館



アプローチの素材感と植栽との関係がよい
武雄市図書館



外観のシンプルさに反し、内部に驚きのアプローチ空間がある
マルチェロ



境界をつくる壁の延長線上に設置された壁柱が印象的である
スキュルチュール江坂



赤茶色の壁には、あざやかなアートがよく似合う
福岡市美術館



外壁一面にサインアートを設置することで特徴的な外観に
VIORO



シンプルな外壁を背景にアートと建物が調和している
下関市民会館



光を浴びる黄金のリングが象徴的に配置されている
岡山県庁舎



外部空間と立体的につながり広がりのある空間となる
熊本県立美術館



内部の天井仕上は外部へとつながり明快な空間が生まれる
福岡市美術館



建物の中央に配置された中庭は、内部に光や風景を取り込む
福井県立図書館 



高さを変えることで外観に変化をもたらしている
熊本県立美術館



同じ形状を連続させることで印象的な外観となる
梅香学院 CROSS LIGHT



同じデザインの連続が特徴的な景観を作り出している
塩田中学校



限られた空間の中で植栽を設置する工夫がされている
御菓子処五島



植栽の間に設けられたアプローチと玄関の関係がよい
fca(ショールーム)



樹木の後ろはガラス窓とされ、内外の連続性がある
かりん亭



自然素材が用いられた建物は経年と共に風景に馴染んでいく
織田廣喜美術館


というように、建築の好きについて書き出してみた。
デザインされたアプローチ空間は、建物への期待感
を持たせてくれる。建物の色は抑えられ、形状により
変化があるものがよい。シンプルな色の建物を背景に
アートは引き立ち、訪れる人に驚きを与えてくれる。
植栽は効果的に配置され、潤いある空間を作っている。


写真を見ていると、そのように思って写真をとったの
だろうと思い出される。好きに意識的になることで、
写真から建築の好きの部分が際立ってくると思う。

建物は立体的で大きく、写真で特徴をとらえきること
はむずかしい上に、好きが細かくなればなるほど写真
の枚数は増えていく。でも、それを繰り返すことで好き
を自覚することができれば建物を見る幅は広がって
いくと思う。さらに建物の設計者の好きに気づくこと
ができれば、建物鑑賞はより面白くなるに違いない。 
建物や風景やアートを求める旅の楽しみはつきない。

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