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難所だらけの商品開発:地方の中小ウレタンメーカーがクラウドファンディングに挑戦した話(2)

こんにちは、株式会社出口化成 代表取締役社長の出口泰博です。

前回の記事からだいぶ日が空いてしまいましたが、今年6月にスタートし無事成功裡に終わったクラウドファンディングプロジェクトの経緯について、ひきつづき書いていきたいと思います。
今回は、自社ブランドの第一号商品の開発がどのように始まりどのように落着したかについて、時系列に沿って振り返ってみます。
第1回の記事はこちらをご覧ください。

それでは、どうぞ。

クラファンプロジェクト、始動

約1年にわたる「デザイン千本ノック」を経て、プロダクトデザイナーの方との顧問契約更新の時期が迫りつつあった2021年の初秋。
さすがに私の中で「そろそろ商品のデザインを本格的にお願いしたい」という気持ちが強まりつつありました。
そこで、「自社で商品を作って、それをクラウドファンディングのリターンという形をとって販売してみたい」「そのために商品のデザインを考案してほしい」というお願いを、あらためてデザイナーさんにぶつけてみました。

自社で商品を開発して直販する、いわゆるD2Cという形態を選んだことには、やはり利益率の問題が大きく関係しています。

ややマニアックな話になりますが、家具の上代価格(一般消費者に商品を販売する際に、製造メーカーや卸元が設定している小売価格)に対する原価率の相場は、おおよそ40%弱とされています。
そして卸業者は小売店に対して、上代価格のおよそ50〜60%で商品を卸すのが一般的です。
ですから、たとえば小売店が10万円で販売している商品は、原価はその40%ということで4万円、それに対して卸売価格が5〜6万円程度ということになります。
言ってしまえば、メーカーの立場からすると、4万円もかけて作った商品から、せいぜい1万円しか利益が得られないわけです。

輸送中のトラブルなど、さまざまなリスクを負わなくてはいけないことに鑑みると、この仕組みに乗ることがどこまで割に合うのか、前々から疑問に思っていたところは正直ありました。
いずれは卸を通す販路も一定程度確保していきたいとは考えていますが(家具の場合、小売店の店頭に商品を置いてもらうことはすなわち場所を借りることであり、在庫の保管や商品のプロモーションの面でメリットがあるため)、現時点では直販をメインに狙っていきたいと考えています。

そのような背景から、商品の販売方法としてD2Cを選ぶことを決意しました。
初手としては、ひとまずは実績作りとテストマーケティングから始めていこうということで、まずは既存のプラットフォームを借りて販売を行うことにしました。
売上のうち少なからぬ割合を手数料として支払うことにはなってしまいますが、商品ラインナップが整っているわけでもない段階でいきなりECサイトを作るのは、コスト面などを考えてもやや性急だろうと考えたのです。
その結果たどり着いたのが、今回プロジェクトを実施させていただいた「Makuake」というプラットフォームです。

こうして、2022年のゴールデンウィーク直前のプロジェクト開始を目標に、クラウドファンディングに向けた商品開発を開始することになります。

「だったらウチが売ってやろう」

自社ブランドの第一号商品として、私たちが開発に取り組むことを決めたのは、ウレタンメーカーとしての強みを最も活かせるソファでした。
もちろんモノにもよりますが、ソファの要は基本的にはウレタンであり、ウレタンの形がソファの形を決定づけると言ってもまず過言ではありません。

どのようなソファを作っていくか日々頭を悩ませるなかで、ある日プロダクトデザイナーさんから提案がありました。
曰く「ソファのフレームに、強化ダンボールを使ってみないか」というのです。
というのも、デザイナーさんの取引先の一社に老舗ながらチャレンジングなダンボールメーカーがあり、家具業界への参入にも強い意欲を示しておられるということで協業を勧められたのでした。

とはいえ正直な話、最初は耳を疑いました。
「ダンボールって、あのダンボール? ソファのフレームにダンボールって、本気で言ってるんだろうか……?」と、訝る気持ちで頭はいっぱいでした。
その頃すでに強化ダンボールは、東京オリンピックの選手村のベッドに使用されたことなどから、機能性とサステナビリティを両立した素材として注目を集めてはいました。
しかしそうは言っても、さすがに日常使いの家具に使用するとなると話は別だろうということで、慎重にならざるを得なかったのです。

心を決めたきっかけは、いくつかの取引先と話をしたことでした。
ウレタンの販売先の方々に「強化ダンボールって、ソファのフレームに使えると思いますか?」と尋ねて回ってみたところ、ほぼ全員が否定的な反応だったのです。
「これは使えないでしょう……」「水とか湿気とかに弱そうだからなぁ」「まぁ検討するだけならしてもいいけど……」といった具合に、返ってくるのは後ろ向きな返答ばかりでした。

こうした反応を目の当たりにして、「みんなが使えないって言うんなら、じゃあウチで売ってやろうじゃないか」と、私はかえってやる気になってしまったのです。

元来私には、みんなが「これは使えない」と口々に言うようなものをこそ取り上げて使ってやろうと考えがちなところがあります。
自社の主力商品であるウレタンについてさえ、周りの人たちの逆を行くことで何かを生み出せないかとつい考えてしまうのです。
実際のところ、どんなものにも良さや強みは備わっているもので、知恵や工夫で難点をクリアしてその良さを引き出しさえすれば、それはそのまま競争優位性につながります。
失敗のリスクがあっても、それをうまく乗り越えさえすれば一人勝ちしうることを思うと、かえって挑戦心を掻き立てられてしまうところがあるのです。

こうして私たちは、強化ダンボールをフレームに使用したソファを、試行錯誤を重ねながら開発していくことになります。

壊すつもりでテストする

「みんながやらないなら俺がやる」ということで、強化ダンボールを用いたソファの開発に着手したわけですが、やはりその道のりは平坦なものではありませんでした。

ソファのフレームに求められるのは、なんと言っても耐久性です。
人間、それも場合によっては複数の人間が、ほぼ毎日のように全体重をそこに預けるわけです。
そしてそれはたかだか数日や数週間で終わる話ではなく、何年にもわたって続く前提で考えなくてはなりません。
それが生半可な耐久性の素材を使うことで叶わなくなってしまっては、当然のこと本末転倒です。

そんなわけで、品質のテストは徹底して何度も行いました。
上がってきた試作品に対して、シャワーで水を延々とかけたり、思い切り力を込めて破ってみたり、本気で壊す勢いで何度も手を加えました。
工場の2階までフレームを運んで、階下に落としてみたこともあります。
その話をダンボールメーカーの社長さんにしたところ、「いや、2階からソファを落とすことなんて普通に使っていたらありえないでしょう」と叱られてしまいました。
たしかにおっしゃるとおりではあったのですが、いざ出来上がった商品に問題が見つかったときに責任を負うのは最終品のメーカーである私たちである以上、やはり妥協はできなかったのです。

もちろん、ダンボールにはダンボール特有の強みがあります。
たとえば、実際に延々と水に晒してみてわかったのですが、ダンボールはかなり水に強いのです。
水をよく弾いてくれるし、本当に水浸しにしたりしない限り、そう簡単にしなしなになったりもしません。
湿気に対しても案外強く、変形もしにくいことは、ソファのフレームとして利用するにあたってポジティブに評価できる点でした。

また、木材や金属と違って軽いのも利点です。
単純に運んだり動かしたりするのが楽なことに加え、軽いからこそ損傷しにくい場合もあります。
先ほど「2階までフレームを運んで、階下に落としてみた」と書きましたが、実はこのときも案外キズや凹みはつかなかったのです。

これらの強みを活かしつつ、考えうるあらゆる負荷にきちんと耐えるフレームを開発するために、何度もテストと改良を重ねました。
気の遠くなるような試行錯誤の繰り返しでしたが、ダンボールメーカーの皆さんは粘り強く私のこだわりに付き合ってくださいました。
最終的に「これならまず壊れないだろう」と納得のいくフレームを完成させることができたのは、多くの方々の協力あってこそだったと、今振り返っても感謝に堪えません。

クリエイターを信じる

フレームが完成してからは、いよいよソファの最終的な形を決めて商品を完成させる段に入っていきました。
ただ、このときもやはり一筋縄では行きませんでした。

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swayleyのイメージカット

上の写真をご覧いただくとおわかりいただけるかと思いますが、今回私たちが作ったソファは、全体的にソリッドな形状をしています。
このデザインをめぐって、途中ちょっとしたつまずきがあったのです。
というのも、このデザインとは別にもう一案、丸みを帯びた形状のデザインのものが候補として挙がっていたのですが、私からするとどちらも甲乙つけがたいというか、率直な話どちらがより優れているか判断がつかなかったのです。

丸みのあるデザイン
スクエアを意識したデザイン

一人で悩んでいても埒が明かないと考えた私は、友人100人にLINEを送り、2つのデザインのうちどちらがかっこいいと思うか選んでもらいました。
その結果はなんと51対49、ほぼ同数できれいに票が割れたのです。
これにはさすがに思わず苦笑いしてしまいましたが、それでもこのアンケートの結果をふまえて判断を下すことはできました。
というのも、丸いデザインに比べて、最終的に採用した四角いデザインのほうが、いわゆる「クリエイター」の人たちからの支持が圧倒的に大きかったからです。

実を言うと、丸いデザインのほうを起案したのは、プロダクトデザイナーさんではなく私だったのです。
それに対してデザイナーさんは、当初から一貫して「四角いデザインのほうが絶対いい」と言いつづけておられました。
ただ、職人気質の強い方ということもあり、「どうしてこのデザインがいいんですか?」と根拠を尋ねても「いや、とにかくこの形がいいんです」と返されるばかりで、私としてはどうしても疑念が拭えなかったのです。
優れたクリエイターの方々のセンスに信頼を置けるようになった今となっては、もはやそんなことは思いませんが、当時は裏付けの見えないものに会社の命運を賭けることに、どうしても不安を感じずにいられませんでした。

しかし、アンケートの結果を目の当たりにしたとき、さすがに心が決まりました。
クリエイティブ業界の前線に立って仕事をされている方々が口を揃えて「こちらがいい」と言うのであれば、たとえ自分の感覚とは違っていたとしても、その判断に身を委ねてみるべきだと思ったのです。
クリエイターの方々と話していてしょっちゅう感じることでもありますが、おそらくクリエイティブに携わる人とそうでない人とでは、同じ対象を見たときに目に映るものやその解像度がまったく違うのだと思います。
自分には見えないものやわからないことのほうが多い、だったらより多くが見えている人やわかっている人の判断を信じるのが正解なんじゃないか……そう考えるにいたって、私はプロダクトデザイナーさんの提案を丸ごと採用することに決めました。

正直なところ、最後の最後まで半信半疑ではありました。
ソファを作ってくださった家具メーカーの方が「僕は丸いデザインのほうが好きだけどなぁ」なんてことをおっしゃってくださったときも、ついつい決心が揺らぎかけました。
しかし、一度信じて決めたからには覆すまいと思って最終決定を貫きました。
紆余曲折ありましたが、こうしてソファのデザインも確定し、いよいよ商品の生産と販売へと進んでいくことになります。


ちなみに、こうして誕生した自社ブランド第一号商品「Swayleyソファ」は、今年の10月7日、ありがたいことにグッドデザイン賞を受賞しました。

もし私があのとき自分の感覚に固執していたら、結果は違ったものになっていたかもしれません。
クリエイティブにせよ何にせよそうですが、専門的な領域についての判断においては、その道のプロの声に素直に耳を傾けることが大切だということを、あらためて実感した経験でした。  

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