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週間プレイリスト 2022/7/30

暑い日々が続いております。今年は夏らしい夏! というわけで7月29日リリースの新譜から今週聞いているアルバムをご紹介。最近はこの週刊プレイリストをシャッフル再生で流していることが多いです。本来、アルバムを丸ごと順に聞いた方がアーティストの意図は伝わるのですけれど、BGM的に聞くときはシャッフルがちょうどいいんですよね。適度にいろいろなジャンルの音が出てくるように意図して選んでいるし。

今週はワールドミュージック色はやや薄目、ちょっとアメリカ色とメタル色が強め、かな。夏らしく涼やかな曲と、こってりとした真夏のカレーのような曲が多めかも。やっぱり「リリースされたばかりのアルバム」ってのは旬を感じるというか、今の季節に合う気がします。

アルバム枚数で言うと15枚。まずは先週同様、全部まとめたプレイリストをどうぞ。3サービスで作っています。Spotifyは無料でもアプリさえ落とせばシャッフル再生できます。ビヨンセとベルフェゴールが一気に楽しめるプレイリストはここだけ!(たぶん)

Apple Music

TIDAL

Beyoncé / RENAISSANCE

今やUS音楽界の顔となったビヨンセの新譜。かつては黒人層にも白人層にも支持されていた彼女ですが、JAY-Zとの結婚以来ものすごく黒人コミュニティに寄っていますね。音楽的にもアフロアメリカンのルーツミュージック色も強めているし、体形も(特に太もも)力強くなってきました。昨年リリースされたUKのリトルシムズのアルバムは自らのアフリカンルーツを探しながらも最後はロンドンに戻ってきて都市の女性の日常に戻っていく、といったようなドラマ性がありましたが本作にも通じるものを感じました。さまざまな音像を用いて今のUSとルーツを繋いでみせる快作。ただ、ビヨンセの方が予算と手間がかかっていてゴージャス、実験性もありながら娯楽性も高く今のUS音楽界の最高峰の一つ。音が漂白されすぎておらず適度に荒々しいので僕の好みです。アルバム全曲の詳しいレビューはこちらの記事が面白かったです。


Whiskey Myers / Tornillo

カントリー&サザンロックバンド、ウィスキーマイヤーズの新譜。前作はビルボードのアメリカーナ(アメリカ音楽)チャートで1位、とその界隈では知名度のあるバンド。ホーンセクションの導入でブラスロック感もあり、ゴスペル的なコーラスもあり、じっくりとした熱量を感じられる1枚。夏を感じます。2000年代のリトルフィートドゥービーブラザーズに近い、心地よいアメリカンロック。


Eric Johnson / The Book of Making + Yesterday Meets Today

ベテランギタリスト、エリックジョンソンの新譜。ロックダウン中に過去のデモテープや未発表音源を整理し、その中から素材を見つけて作り上げた2枚同時リリースのアルバム。インストと歌モノがバランスよく織り交ぜられており、心地よく上質な一時を過ごすことができます。とにかくエリックジョンソンはギターの音がいい。エレクトリックギターというのはかなり自在に音を変えられる楽器で、トーンコントロールとかS/N比とか帯域とか、いろいろ分析すると”音の良さ”を構成する要素はあるのでしょうが、単純に「耳に気持ちいい音」。


Krisiun / Mortem Soils

ガラッと雰囲気が変わり真夏のカレーのような激烈な音像。結成30年を超えるブラジルのベテランデスメタルバンド、クリジウンの新譜。オールドスタイルなデスメタルで、きっちりリフがあって曲構成があります。「コア」色のないデスメタル。セパルトゥラにも通じるブラジルらしいリズムの激烈さと独特のメロディセンスを感じます。流石ベテランの匠の技が詰まった素晴らしいアルバム。

今週はエクストリームメタル系の大型リリースが多く、他にはUSデスメタルの大御所、Incantationの新譜も出ていました。ちょっとそちらは今の僕の気分に合わなかったので選びませんでしたが超低音も響く迫力のある音でした。


Belphegor / The Devils

オーストリア、ザルツブルグからベルフェゴールの新譜が届きました。ブラッケンドデスメタル、と呼ばれるジャンルで、ブラックメタルの手法(ブラストビートやヒステリックなボーカルやメロディ展開)を取り入れつつノルウェジアンブラックメタルの特徴的な単音トレモロリフだけでなくデスメタル的なパワーコードを用いたカッチリしたリフを持ち合わせたスタイル。ザルツブルグと言えば欧州最大規模のクラシック音楽の祭典、ザルツブルグ音楽祭が開催される都市ですが振れ幅が広いですね。ベルフェゴールはキリスト教における7つの大罪の一つ、「怠惰」「好色」を司る悪魔。大悪魔の名を冠するにふさわしい荘厳且つ重厚な音世界です。


My Sleeping Karma / Atma

ドイツのサイケデリック・インスト・ハードロック・バンド、マイスリーピングカルマの5年ぶりのニューアルバム。いわゆる「クラウトロック」の流れを汲む、反復が印象的なアルバム。ジャケットだけ見るとインド感満載、ヒンドゥーミュージック的ですがドイツです。多少オリエンタルな音階も出てきますがヒンドゥーミュージックと言うよりはアラビックかなぁ。今週のストーナー枠


Funeral Chic / Roman Candle

USのハードロックンロールバンド、フューネラルシックのニューアルバム。Metallumを見るともともとはブラックメタル色もあるハードコアバンドだったようですが、本作を聴く限りブラックメタル色はほとんど感じません。暴走ロックンロール的というか、モーターヘッド的。モーターヘッド好きな僕の嗜好にマッチしました。スピード曲では初期ヘラコプターズみたいな直情的に突っ走る感じ。ミドルテンポの曲はけっこう構築力もあり、オリエンタルな音階を取り入れたりして面白いバンド。メタリックハードコア、という感じかな。メタル的なリフや曲構成を取り入れたハードコア。音作りの根幹はあくまで荒々しいハードコアです。


Ithaca / They Fear Us

UKメタルコアシーンから、イサカのニューアルバム。ジャケットだけ見るとインド音楽みたいですがメタルコアです。今のUKメタルコアシーンの空気を十分に吸い込んだアルバム。まんなかの女性がボーカルで、グロウルからメロディアスなボーカルまで幅広くこなしています。カナダのスピリットボックスにも近い音像ですが、やはりUKのバンドなのでUK音楽のレガシーであったりUKシーンの音像が混ざってくるのが心地よい。ギターリフと楽器隊が複雑に絡み合うさまは少しHAKENなどのUKモダンプログ感もありますね。UKの激音楽好きならチェックすべきバンド。でも、このバンド名はなんなんでしょうね。Ithacaイサカって基本的にアメリカの地名(いろんなところにある)なんですが。もともとはギリシャ神話、ギリシャのイタキ島(オデュッセウスの故郷という説もある)が語源のようですが、何かしらどこかの土地と縁があるのだろうか。


Wilder Maker / Male Models

激しい音像が続いたので少し隙間のある音像を。NYのインディーズバンド、ワイルダーメイカー。メロディセンスがいいです。メインボーカルはいるものの12曲中5曲はゲストボーカル。それが音世界に広がりを与えています。夏の哀愁というか、少し寂しい感じをうまくとらえた音像。内省的な感じを出しつつもしっかりバンドアンサンブルもあり、曲のバラエティもあり、メロディ展開もはっきりしていて聴き疲れない良作。こういう音楽をヘッドホンで聞いていると世界から切り離されるような気がします。


にしな / 1999

日本の女性SSW、にしなのセカンドアルバム。僕は基本的にUSのストリーミング音楽サービスであるTIDALの今週のレコメンドアルバムに一通り耳を通し、その中からこのリストを選んでいるのですが、今週日本のアーティストでTIDALのレコメンドにでてきのたがにしなとパフュームでした。パフュームは別のプレイリストで選んだので、にしなが今週のワールドミュージック日本代表。ちょっとマスロック的なアレンジで、ボカロを通過した跳ねるようなメロディライン。僕はワールドミュージックというのを「特定地域でよく聞かれている固有の音楽」という音楽だと考えています。別に非英語圏に限らなくて、たとえばカントリーとかアメリカーナは「アメリカのワールドミュージック」というイメージ。ワールドミュージックというよりドメスティックミュージックと言った方がいいのかもしれないなぁ。ドメスティックミュージック/グローバルミュージック、みたいな区切りで捉えている。

そういえばボカロって考えてみると「過去の音楽文化との決別」的な側面がありますよね。だからこそ「新世代」かつ「若者文化」足りえるし、ある世代以上と断絶している。最近、”東京大学「ボーカロイド音楽論」講義”を読んでいるのですがこれはグローバルで見ても面白いムーブメントだなぁと思っています。そうか、「あらゆる楽器音が出せる」シンセサイザーが出てきた後に音楽分野で発明されたのはボーカロイドがあった。ボカロ文脈は世界的な音楽シーンの”次の革命”になり得るなぁ、と思っています。完全に楽器と並列として扱える声、というか。

ボコーダー、加工肉声は普及していますが、ボーカルラインそのものが楽器のフレーズのようになる(=人間が歌うには非常に高難度)流れはまだこれから。グローバルミュージックではボーカルラインは簡易化・共通化されてきていますから反動が起きるかも。このにしなもそうですが、最近のJ-POPってめちゃくちゃボーカルラインが楽器的じゃないですか。反復も少ない(=展開が多い)し。他の地域のアーティストと比べてみてください。ちなみに、他にこういう「非常に音階移動が多い」ドメスティックミュージックは僕が知る中だとトルコですね。おっと、話がそれたのでこの話はまたいずれ。


DOMi & JD BECK / NOT TiGHT

いわゆるZ世代ということで注目を集めるジャズ・デュオ。DOMi & JD BECK のデビューアルバム。外見からしてクイア(二項対立に収まらない=男女という性別区分に収まらない)であり、新世代の感性を感じさせます。ロバートグラスパーサンダーキャットといった最近のジャズとの連動も感じさせつつ、やはり演奏や感性がフレッシュ。ジェイコブコリアーといい、天才って生まれてきますね。

なお余談ですが「Z世代」って言葉、ロシアで愛国主義者が「Z」を使うじゃないですか。どうもイメージが変わってきたというか、ロシアの「Z世代」っていうと意味が変わってしまう気がするんですよね。日本ならドラゴンボール”Z”世代かもしれないし。”Z”ガンダム世代かもしれないし。あ、アメリカの話ですか。失礼しました。


Dance Gavin Dance / Jackpot Juicer

USのプログレッシブメタルコアバンド、ダンス・ギャヴィン・ダンスの10枚目のアルバム。前作から続いているコンセプトアルバムのようです。聴いてもらうと、いわゆる日本の「ラウドロック」にも近い(余談ですが「ラウドロック」ってやっぱりサブジャンル名としてちょっと変ですよね。”ラウド”って「大きさ」なので音楽的特徴じゃない。内容に関係なく音が大きければラウドじゃないですか。”ニューハードロック(NuHR)”とかの方が英語の意味的にはいい。どうせ日本国内でしか使われないジャンル名なんだからむしろ”激ロック”の方が分かりやすいかも)音像。メロディアスでテクニカルでポップ。いいですね。ちょっとシティポップ味があるのはタイのNobunaとか(このバンド、けっこう曲によって音像が変わるんですが)も思わせる。ドイツのUnprocessedにも近いですね。激しさと爽やかさのバランスが絶妙で聴きやすい。


Hooveriii / A Round Of Applause

LAのサイケデリックバンド、ホヴァリー(Hover Threeの略らしい)のニューアルバム。これが笑えるほどビートルズ。ビートルズの中からサイケデリックな面だけ抽出して、LAのノリでやってます的なバンド。ゴキゲンです。ビートルズのようにコンパクトにまとまったポップマジックみたいなものはなく、基本的にはアメリカンのサイケロックなんですが、うねうね動くベースが思いっきりポールリスペクトな感じがビートルズ感の肝なんでしょうね。あと、ボーカルの声質がちょっとだけレノンっぽい。こういうバンドに出会うのがDigの楽しみ。


Gathering Of Kings / Enigmatic

スウェーデンのハードロックシーンの名プレイヤーたちが集って作られたスーパーバンド、ギャザリングオブキングス(Gok)のニューアルバム。北欧らしく透き通ったメロディ。「北欧メタル」ではなく「北欧ハードロック」な音像。いわゆるメロハー(メロディアスハードロック)ですね。ジャケットは熱そう(灼熱の荒野っぽい)ですが、音像は煌びやかな80年代メタル直系。真夏の清涼剤にどうぞ。このジャンルは曲、メロディの良さがそのまま出来不出来に直結しますが、このアルバムは名曲が揃っていると思います。


Chat Pile / God's Country

US、オクラホマのスラッジメタル(ストーナー+ハードコア)、ノイズロックバンド、チャットパイルのデビューアルバム。USメディアの評価がやけに高く、Pitchfolkがベタ褒め、Allmusicでも褒められていました。それならば、と聞いてみると確かにアルバム全体の完成度が高い。感情の吐露がそのまま音像化したような完成度。バンドロゴはブラックメタル感がありますがブラックメタル色はありません。ボーカルはハードコア的な、ちょっと線が細めのスクリームスタイル。バンドサウンドはやや粗目のストーナー。最近、USで盛り上がっているハードコアシーンの新星という感じ。なお、本作がデビューアルバムではありますがメンバーはそれぞれ地元のシーンではキャリア豊富なミュージシャンたちの様子。RYMの評価もめちゃくちゃ高め。ちょっとしたギターノイズとか、偶発的な音を取り入れるのが上手いなあ、という印象。


以上、今週は15枚が耳に引っかかりました。それでは良いミュージックライフを。


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