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そうだ、メタル聴こう / かつてメタラーだったあなたへ

80年代後半~90年代、日本の中でもヘヴィ・メタルが一定の認知度を得ました。世界的に見ても80年代はアリーナロックの時代で、その中でHR/HM系のアーティストが次々とスターダムに登っていきます。メジャーなところではBon JoviAerosmithMotley CrueMr.Bigなど。ややヘヴィになるとHelloweenJudas PriestIron MaidenBlind Guardian等々。ちなみに私が当時聞いていた9枚は次のようなものです。

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ただ、その後メタルから離れてしまった人もたくさんいるでしょう。そうした人たちに向けて「最近のメタル」を9枚選んでみました。上記の9枚に通じるものがある9枚です。どちらかといえば王道、正統派パワーメタルとプログメタルが中心。極端にエクストリームなものは選んでいません。この9枚から、新しいメタルの扉が開かんことを。

おススメの9枚

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1枚づつ、簡単に説明を。また、各アルバムから1曲選んでいますが、「そのアルバムで一番良い曲」という視点ではなく、「アルバムの雰囲気が分かる曲」を選んでいます。あと、映像があるとMVの評価や印象も影響を与えてしまうので音だけのものをチョイス。これらの曲の雰囲気が気に入ったら、アルバム全体を聞いてみてください。キラーチューンはあえて選んでいないので、もっと気に入る曲があるでしょう。メタラーなら分かると思いますが、メタルバンドはアルバムアーティストが多いので、アルバムを通してドラマが展開されているバンドが多いです。今回選んだ9枚は「アルバム全体を通してクオリティが高いアルバム」です。

Beast In Black / From Hell With Love

フィンランドの新星、Beast In Black。2017年にデビューし、Judas Priest的なパワーメタルに80年代的なシンセ・ディスコサウンドを加味。そこに北欧メタルのメロディセンスを組み合わせた2020年代最高のパワーメタルバンドです。ボーカルのパフォーマンスが凄い。「これで終わりかな」と思ったらさらにボーカルが一段階ギアを上げてくる。超絶ボーカルです。また、このアルバムはどの曲もキャラクターが立っていて飽きないんですよね。もちろん曲に好みはありますが、キラーチューンが複数曲あり、どの曲もクライマックスが用意されている。作編曲能力の高さとパフォーマンスの熱さが楽しめます。正統派ヘヴィ・メタルはまだ進化できるのかと驚いた一枚。

疾走曲もありますが、スピードメタルやスラッシュメタルではなくパワーメタルなのでミドルテンポでじっくり来る曲が魅力です。

Haken / Virus

続いてはUKのHaken(ヘイケン)。こちらは2020年リリースの6作目。いわゆる現代プログ・メタルですが、後半(LPで言えばB面ほぼ丸ごと)のMessiah Complex組曲が凄い。プログ・メタルの進化を感じた1枚。2020年の私的ベストNo.1にも選びました。

2007年結成、2010年デビューのHaken(ヘイケン)。新世代UKプログレメタルシーンの旗手であり今までに6枚のアルバムをリリースしています。この密度にしてはおそろしいリリーススピード。曲の風景が移り変わっていき、さまざまな場所に心が連れていかれます。初聴時はアルバム前半は比較的ゆるやかに「イマドキのプログレっぽいなぁ」と流していたのですがアルバム後半を飾る5つのパートに分かれた30分弱の大曲「Messaiah Complex」が刮目の出来。Dream TheaterのMetlopolis(Pt.1)並というか、音楽を聴いていてスリリングで手に汗を握る体験を久しぶりに味わいました。何度かアルバムを聴いているうちにアルバム全体を通して今年のベストはこれだな、と。Virusという2020年をある意味象徴するテーマなのも感慨深い。ちなみにBastards!誌に掲載されたインタビューによるとタイトルは2~3年前から決まっていたそうなので現在の世界情勢とは関係ないコンセプトだそうですが、まるで現状の暗喩のように思える部分も多い、とのこと。

Metallca / Hardwired...To Self Destruct

メタル界を飛び出し「ロック界」全体のトップバンドと呼べるMetallica。Load以降の迷走(音楽的拡張)をリアルタイムで追っていき、どこかで脱落して最近は聞いていない、、、というメタラーもいる気がします。ところがどっこい、今のメタリカはとても状態がいいんですね。以前、全アルバムレビューした時に書いた文章がこちら。変化し続ける”ロック”バンド「メタリカ」の今。

個人的にはこれが最高傑作だと思いました。「メタルマスター」と方向性は違えど、同じような音楽的到達点にある。大きく言えば「Death Magnetic」は1st~4thの集大成だとするとこれは5枚目以降、ブラックアルバム~St.Angerまでをしっかり総括しつつ、Luluで手に入れたクラシックロックのスピリッツも含めて「メタリカの全歴史」を総括しながらも新しい地平へ漕ぎ出している自由さも感じる名盤。もちろん、過去の作品を葬り去る、上書きする様な名盤ではなく、「過去のすべての体験」を消化して、新たな境地にたどり着いたアルバムとでもいいましょうか。ここまでスリリングなロックアルバムは稀。かといって音の余白というか余裕もある。遊び心というか、緊迫感だけでない音”楽”も感じます。80年代前半の無我夢中さと天性、80年代後半~90年代の神経質で精巧な芸術性、90年代後半からの無謀にも見える音楽的冒険、そして2000年代の回顧と、ルーリードからの継承を経てたどり着いた場所。単純に「カッコいい」んですよね。これだけベテランなのに。凄い。ヨーロピアンメタルの様式美、ハードコアの激情、サイケの酩酊、オルタナの内省、スラッシュの疾走、メタルのエッジ、ストリートの情熱、すべてを飲み込んだメタリカの音。タイトル「Hardwired...To Self-Destruct」は「固まってしまうと、、、自己破壊へ向かう」といった意味。今までを総括したようなアルバムにこのタイトルをつけてしまえるのが凄い。「変化し続ける」宣言。

Iron Maiden / The Book of Souls: The Live Chapter

90年代の9枚と唯一重なるバンド、Iron Maiden。個人的にメイデンが一番好きなメタルバンドなんですよ。最初にメタルという文化に触れて、衝撃を受けたバンドでもあるし、今でも唯一無二で最前線を走り続けている。以前、メイデンの歴史を「全アルバムのライブでの演奏回数」から振り返ったことがあって、ライブの演奏回数が多い曲は「バンドがライブでやる曲=バンドも自信があるし、ファンからも受け入れられている曲」と言えるだろうと考えて統計を取ってみました。当然昔の曲の方が累計では多いのですが、年代別に見ていくと4枚のアルバムがメイデンの代表作と言える結果で、そのうちの1枚が現時点の最新作「Book Of Souls」なんですね。実際、リスナーとしても納得の名盤。そしてメイデンといえばやはりスタジオ盤よりライブ盤ということで、「Book Of Souls」ツアーのライブ盤のこちらを。

この後「Nights Of The Dead」というベスト選曲ツアーのライブ盤も出ましたが、そちらは80年代、90年代の曲が多め。やっぱりメイデンも時代と共に変わっているから最近の曲の方が時代や今のバンドには合っている気がするんですよね。後、「最近のメタル」に入れるならやはりこちらだろうと。

Ghost / Prequelle

Ghostは2006年結成、2010年デビューのスウェーデンのバンド。ラウドパークで来日しています。とにかくビジュアルがセンスがいい、適度にダークでホラーでありつつキャラクターとして立っている。ジャケットやビジュアルに惹かれて聞き始めたら音楽的な完成度も高くすっかり魅了されました。このアルバムは2018年リリースの4作目。音楽的にはゴリゴリのメタルというよりはゴシックメタル、ホラーメタル的な要素にLAメタル、80年代メタル的なギターリフ、曲構造、そして北欧的な美しいメロディという組み合わせ。Metallicaのカークやラーズがファンであることを一時期公言していましたが、Metallicaもホラー趣味がありますからね(カークは大のホラー映画ファンで、ラーズも多分そこそこ好き)。どこか空気感が通じるところもありつつ、こちらは北欧らしさ、暗黒感を前面に出しつつ洗練された音像。

Sabaton / The Great War

BabymetalとコラボしたりもしているSabaton。こちらもスウェーデンのバンドで1999年結成、2005年デビュー。こちらは2019年リリースの9枚目で本国およびドイツのチャートでは1位を獲得しており、欧州ではトップバンドの一つです。ドラマティックながらコンパクトな曲作りが魅力で、その中にしっかりと印象的なメロディと起承転結がある。キャッチ―なフックがありながら重厚感と覇気を感じます。シンガロングなパワーメタルながら、やはり北欧らしい流麗なメロディが魅力。北欧三国はメタルが盛んで、どんどん新しいバンドが出てきています。

UKも最近、いわゆるロックや、エッジの効いたギターサウンドは戻ってきているんですがちょっと従来の「メタル」とはメロディのセンスが違うというか、2000年代、2010年代のUSメタル、ニューメタル、メタルコアの流れを汲んだメロディーラインになっているので、NWOBHMや90年代ジャーマンメタルの流れはむしろ北欧に受け継がれてアップデートされている気がします(北欧はブラックメタルの一大拠点でもありますが)。

Opeth / In Cauda Venenum

Opethは1990年結成、1995年デビューのスウェーデンのプログレッシブ・メタルバンドです。初期はテクニカルなデスメタルにプログレの要素を取りいれた「プログレッシブ・デス・メタル」の旗手的な扱いでしたが、だんだんとクラシックなプログレッシブ・ロックに接近。本作は2019年リリースの13作目で、「In Cauda Venenum」はラテン語で「蛇の尾には毒がある」の意味。最初から最後まで毒が詰まったアルバムと意図だそうで、その名にふさわしい密度の濃いアルバム。もはやデスメタル云々などのジャンル分けがしづらい、たとえるなら70年代の4大プログレバンドにも匹敵するような独自の音世界を構築しています。初めて聞いた気がしないというか、「昔からそこにあった」ような強度を感じる不思議なメロディ。けっこう奇妙でねじれているんですけれど、耳に馴染むんですよね。個人的にはピンク・フロイドの「狂気」や、ヴァン・ダー・グラーフ・ジェネレイターといったダークな雰囲気を持ったプログレバンドを連想します。

Trivium / What The Dead Men Say

北欧を離れ、USメタルへ。Triviumは1999年結成、2005年デビューのUSのメタルバンドで、リーダーのVo兼GtのMatthew Kiichi Heafyは日本生まれの日系アメリカ人。スラッシュメタルやメタルコアにも分類されているようですが、正統派メタルに通じる歌メロや曲構造を持っています。こちらは2020年リリースの9作目。現代USメタルといえばSlipknotを筆頭にMastodonLamb Of GodDisturbedAvenged SevenfoldDeftonesあたりが浮かびますが、その中では正統派メタル、パワーメタルに一番近い音像を持っているバンド。ハードコア的な激走感を持ちつつ、欧州メタル的な抒情性、メロディアスなツインギターやフレーズが混ざり合う新世代のメタル。

Victorius / Space ninjas from hell

最後、やはり一つはメロスピも欲しいなということでVictorius。2004年結成で2010年デビューのドイツのパワーメタルバンド。いわゆる「ジャーマンメタル」「メロスピ」です。2020年発表の5作目で突き抜けた娯楽作。テーマも「ninja」「samurai」を取り入れ、宇宙から邪悪な忍者が攻めてくる荒唐無稽かつ壮大なサウンドトラック。ちなみに前作のテーマは恐竜とエイリアンの宇宙戦争だったそう。オーストラリアのナパームレコード(Napalm Records)というレーベルからのリリース。もともとはゴシックメタルやブラックメタルを多く扱うアンダーグラウンドなレーベルでしたが、近年はこうしたメタ的というか、「メタル」を様式化した上で娯楽度を極限まで追求したような娯楽作をリリースしています。

以上、かつてのメタラーに向けた最近のメタルアルバム9枚でした。

後記

最近、下記の記事がけっこう読まれています。そこで続編というか、同系統のアップデート記事を書こうと思いました。後、Twitterを見ているとけっこう「昔はメタルを聞いていたけど最近のメタルは分からない」という人も多かった。実は私もそうで、2000年代中盤から2017年ぐらいまでメタルはもともと好きだったバンドの新譜を追いかけるぐらいだったんですね。ただ、ここ数年、メタル熱が再燃していろいろと聞いてきているので、そうした「かつてのメタラー」に向けておススメするなら何がいいかなぁと思って書いてみました。気に入っていただければ幸いです。

それでは良いミュージックライフを。

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関連記事

1.もっと最近の「変わった」メタルを聞いてみたい方はこちら。

2.メタルの歴史についてはこちら。

実のところ、90年代以降は「ブラックメタル」「デスメタル」「プログメタル」がリリース数では大多数を占めるようになっており、いわゆる「正統派」メタル、パワーメタルやスピードメタルは少数派。なので、今回紹介した9枚は「現代のメタルのトレンド」ではありません。パワーメタル好きにいきなりブラックメタルを進めても飛躍があるだろうということで、あくまで「かつてのメタラーが気に入りそうな9枚」を選んでいます。

ちょっと「メタル」という音像や範囲が拡張しすぎていて、たとえば今の米欧メディアで「メタル」カテゴリで評価が高いバンドやアルバムを聞いても「...これ、メタル?」となる作品も多かったんですよね。あるいは極端なエクストリームメタルか。そんな流れを可視化できる素晴らしいインフォグラフを見つけたのでじっくり見てみた記事。

3.メタルだけでないロックの歴史についてはこちら(メタルはロック史の中で言えば「最新のロック」である=ゆえにある時点から出てきた「新しい激しい音楽」はメタルに分類されることが多い=「メタル」の範囲がどんどん拡大しているので米欧と日本でかなり感覚が違う)。

4.アイアン・メイデンについての考察記事。

5.メタリカについての考察記事。

6.北欧メタルについての連載。


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