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作曲者で見る IRON MAIDEN の歴史

IRON MAIDEN(メイデン)は1975(76説あり)年結成、1980年にデビューした、Heavy Metal(HM)を代表するイギリスのバンドです。一つの音楽スタイルを築き上げ、伝説的なライブステージを行い、強固なファンコミュニティを世界中に抱えています。

メイデンを聴く楽しみの一つにソングライターの聞き比べがあります。リーダーでベーシスト、メインソングライターのスティーブ・ハリスを筆頭に、ボーカルのブルース・ディッキンソン。ギターのエイドリアン・スミスデイブ・マーレイヤニック・ガーズ。彼らがそれぞれタイプの違う曲を作曲できるのがメイデンの強みであり、これだけの長い期間さまざまな曲を制作してきてもアイデアが尽きない大きな理由でしょう。聞き比べていくうちに「これは誰の曲っぽいな」とか「これは誰と誰のペアだな」などを考えたり、「今回のハリス曲はこう来たか」「ディッキンソンの作曲能力は上がってるなぁ」と、作曲者単位で聞き比べや変遷を追うのも楽しいものです。

メイデンはその長い歴史の中で16枚のスタジオアルバムをリリースしています。今回は、各アルバムの作曲者からメイデンの歴史を紐解いてみたいと思います。

全年代 作曲者ランキング

まずは全年代の作曲者ランキングです。集計対象はオリジナル盤に入っていた全16枚、154曲です。ボーナストラックやシングル・企画盤のみに含まれる曲は含んでいません。

1位 Steve Harris(B) 55曲
2位 Steve Harris(B)+Bruce Dickinson(Vo)+Adrian Smith(G) 13曲
3位 Steve Harris(B)+Adrian Smith(G) 12曲
3位 Steve Harris(B)+Dave Murray(G) 12曲
3位 Steve Harris(B)+Janick Gers(G) 12曲
6位 Bruce Dickinson(Vo)+Adrian Smith(G) 8曲
7位 Bruce Dickinson(Vo) 6曲
8位 Steve Harris(B)+Bruce Dickinson(Vo) 5曲
8位 Steve Harris(B)+Bruce Dickinson(Vo)+Janick Gers(G) 5曲
10位以下
   Steve Harris(B)+Janick Gers(G)+Blaze Bayley(Vo) 4曲
   Bruce Dickinson(Vo)+Dave Murray(G) 3曲
   Bruce Dickinson(Vo)+Janick Gers(G) 3曲
   Steve Harris(B)+Paul Di'Anno(Vo) 3曲
   Adrian Smith(G) 3曲
   Janick Gers(G)+Blaze Bayley(Vo) 2曲
   Steve Harris(B)+Bruce Dickinson(Vo)+Dave Murray(G) 2曲
   Adrian Smith(G)+Clive Burr(Dr) 1曲
   Dave Murray(G) 1曲
   Steve Harris(B)+Blaze Bayley(Vo) 1曲
   Steve Harris(B)+Dave Murray(G)+Blaze Bayley(Vo) 1曲
   Steve Harris(B)+Dave Murray(G)+Clive Burr(Dr) 1曲
   Bruce Dickinson(Vo)+Adrian Smith(G)+Nicko McBrain(Dr) 1曲
合計 154曲

1位はハリス単独曲、55曲。全体の3分の1以上を占めます。まさにメインソングライターですね。2位がハリス+ディッキンソン+スミスのトリオで13曲。3位がハリススミスマーレイガーズの3ギタリストのそれぞれの共作曲で12曲ずつです。狙ったように同じ曲数になっています。単独曲で言うとディッキンソンが6曲、スミスが3曲、マーレイが1曲です。

また、メイデンは外部ソングライターやカバー曲をオリジナルアルバムに入れたことがありません。すべて在籍メンバーによる作曲です(シングル曲ではカバーもしています)。

次に、作曲に関わった曲数を比較してみましょう。

現メンバー
 Steve Harris 127曲
 Bruce Dickinson 46曲
 Adrian Smith 38曲
 Janick Gers 26曲
 Dave Murray 20曲
 Nicko McBrain 1曲
旧メンバー
 Blaze Bayley 8曲
 Paul Di'Anno 3曲
 Clive Burr 2曲

こちらも当然ながらハリスが1位全154曲127曲に関わっています。2位がディッキンソンで46曲。3位がスミスで38曲。上位3名は単独曲があり、ガーズマーレイは誰かの作曲パートナーとなることが多いです(1曲だけ初期にマーレイの単独曲がありますが)。

全体としてみればメインソングライターのハリスがメイデンらしさや作曲コンセプトの核になり、ディッキンソンスミスの2人がそれぞれの独自性を持ちこんでバラエティを出し、ガーズマーレイのギタリスト2人はそれぞれの作曲パートナーとしてアイデアを出している、といったチームが現在のメイデンと言えるでしょう。

では次いで、メイデン約40年の歴史を10年づつに区切り、80年代、90年代、00年代、10年代でどのように作曲者が変遷しているかを見てみます。ここからバンド内の人間模様や制作方針が透けて見えるかもしれません。

1980年代(鋼鉄の処女~第七の予言)

メイデン第一黄金期。対象となるアルバムは7枚です。今回、各アルバム全曲の作曲者リストを作りました。ここからはこちらもご覧ください。◎が単独作曲、〇が作曲クレジットです。

まず、80年代を通じての作曲者数ランキングです。

1位 Steve Harris 34曲
2位 Bruce Dickinson+Adrian Smith 5曲
3位 Steve Harris+Dave Murray 4曲
4位 Steve Harris+Bruce Dickinson+Adrian Smith 3曲
4位 Bruce Dickinson 3曲
4位 Steve Harris+Paul Di'Anno 3曲
4位 Adrian Smith 3曲
8位 Steve Harris+Adrian Smith 2曲
9位 Steve Harris+Bruce Dickinson 1曲
9位 Adrian Smith+Clive Burr 1曲
9位 Dave Murray 1曲
9位 Steve Harris+Dave Murray+Clive Burr 1曲
合計 61曲

80年代はハリス単独曲が61曲中34曲と半数以上を占めます。特に最初の2枚はほとんどハリス単独曲です。もともとメイデンはハリスが自分の曲を具現化するために結成したバンドであり、初期はまさにその通りですね。

デビューアルバム『鋼鉄の処女(80)』で注目すべきはマーレイ単独曲(Charlotte The Harlot)です。2019年現在までマーレイ単独曲はこの1曲だけで貴重です。

↑ 2019年現在、唯一のマーレイ単独曲『娼婦ハーロット(Charlotte The Harlot)』

2枚目『キラーズ(81)』からギターが後のメインソングライターの一人であるエイドリアン・スミスに変わります(メイデンのメンバー変遷についてはwikiを参照)。ただ、スミスが作曲に関わるのは3枚目『魔力の刻印(82)』から。同様に、『魔力の刻印』からボーカルがブルース・ディッキンソンに変わりますが、彼が作曲に関わるのも次の『頭脳改革(83)』からです。ディッキンソンが自伝の中で「加入したとき、『魔力の刻印』用の曲はすでにできていた」と書いていましたが、キラーズについても同じように既存のハリス曲だけでアルバムの曲が足りている状況だったのでしょう。

魔力の刻印』からスミスが、『頭脳改造』からディッキンソンが作曲に参加し、83年の時点でハリス、ディッキンソン、スミスの3大ソングライターが揃います。ただ、80年代はディッキンソン+スミスの共作曲は多いですが、全年代で見れば2位に入るハリス+ディッキンソン+スミスの3人の作曲はほとんどありません。80年代はハリス+ディッキンソンの共作は少なく、二人だけの共作は1曲だけ(第七の予言の最終曲「Only The Good Die Young」)。もともとこの二人だけの共作曲は全年代通してもそこまで多くありませんが、特に初期はあまりソングライターとしての相性が良くなかったことが伺えます。

↑ 1988年、初のハリス+ディッキンソンコンビ作曲『Only The Good Die Young

逆に、スミスとディッキンソンは相性が良いようです。80年代はディッキンソンは単独曲かスミスとの曲作りが多く、スミスも単独曲かディッキンソンとの共作。この2人がチームで、時々ハリスがこの2人に合流して3人で曲を作る、という作曲体制です。80年代はハリスとディッキンソン+スミスの2つの作曲家が互いにライバル心をもって「メイデンらしさ」と「新規性」を追求し、音楽性を拡張していった時代と言えます。

アルバム個別で特記すべきはサムホェア・イン・タイム(86)。ディッキンソン在籍時に唯一、彼が作曲に参加していないアルバムです。前作パワースレイブ(84)でディッキンソンは半分の曲(8曲中4曲)に参加し単独曲2曲も書いたので、一時的に燃え尽きてしまったのでしょうか。このアルバムはディッキンソンの不在を埋めるべくスミスが大活躍。単独曲を3曲も書いています(スミスの単独曲は2019年現在この3曲のみ)。しかも、このアルバムからシングルカットされた2曲(Wasted YearsStranger In The Strange Land)はどちらもスミス単独曲。このアルバムはシンセの導入などそれまでと音色や音楽性の違い(主に攻撃性の減衰)が取りざたされますが、作曲面でもディッキンソン不在によりスミスの色が強く出ている異質なアルバムです。スミスにとってはプレッシャーの強いアルバムだったことでしょう。

↑ スミス単独曲でシングルカットされた『STRANGER IN A STRANGE LAND

もう一つ小ネタ、『魔力の刻印』はドラマーのクライブ・バーも2曲作曲者でクレジットされています。しかもそのうちの1曲はスミス+バーで、ハリスが参加していない珍しい1曲(Gangland)が残っています。ハリス単独曲以外が一気に増えるアルバムですが、「デビュー前から持ってたレパートリーもやりつくしたし、メンバーみんなで作曲しようぜ」みたいなノリだったのかもしれません。当時メンバーは20代。まだメイデンがイギリスのローカルな人気バンドだった時代です(『魔力の刻印』のリリース後、イギリスの全国的人気バンドになっていきます)。

↑ スミス+バー唯一の曲『Ganglandハリス不参加なのでスミス色が強い

1990年代(ノー・プレイヤー・フォー・ザ・ダイング~バーチャル・イレヴン)

90年代は明暗が分かれる時代です。4枚のアルバムのうち前半の2枚はチャート・アクションもよく成功していましたが『フィア・オブ・ザ・ダーク(92)』リリース後にディッキンソンが脱退、後任のブレイズ・ベイリー期の2枚は人気が低迷します。この激動の時期を作曲者から見ていきましょう。90年代の作曲者ランキングです。

1位 Steve Harris 16曲
2位 Steve Harris+Janick Gers 4曲
2位 Steve Harris+Janick Gers+Blaze Bayley 4曲
4位 Bruce Dickinson+Dave Murray 3曲
4位 Bruce Dickinson+Janick Gers 3曲
4位 Steve Harris+Bruce Dickinson 3曲
7位 Janick Gers+Blaze Bayley 2曲
7位 Steve Harris+Dave Murray 2曲
9位 Bruce Dickinson 1曲
9位 Bruce Dickinson+Adrian Smith 1曲
9位 Steve Harris+Blaze Bayley 1曲
9位 Steve Harris+Dave Murray+Blaze Bayley 1曲
合計 41曲

先ほどディッキンソンの脱退には触れましたが、作曲面で大きな影響があったのがスミスの脱退です。スミスは『第七の予言(88)』リリース後に脱退、90年代の作品には不参加です。90年代の作品は1枚ごとにバンドの状況が作曲者に映し出されているので、1枚づつ見ていきましょう。

ノー・プレイヤー・フォー・ザ・ダイング(90)』には1曲、ディッキンソン+スミスの曲(Hooks in You)が入っていますが、これはスミスが抜けた穴を新曲で埋めきれず、残っていた曲を入れたのでしょう。このアルバムにはそれまでほとんどなかったハリス+ディッキンソン曲が3曲も入っています。スミスが抜けた穴をなんとか埋めようと、残ったハリスディッキンソンが力を合わせて乗り切った印象です。また、それまでアルバム中1曲のペースを保っていたマーレイも2曲に参加。地味に頑張っていますハリスディッキンソンそれぞれと1曲ずつ作曲していますが、ディッキンソン+マーレイの組み合わせ(Public Enema Number One)はこの時初です。

↑ 初のディッキンソン+マーレイコンビ作曲『パブリック・エネマ 1(Public Enema Number One)』

次は『フィア・オブ・ザ・ダーク(92)』。スミスに代わって加入した新ギタリストがヤニック・ガーズ。もともとディッキンソンのソロ・アルバムを一緒に作ったギタリストでした。参加は『ノー・プレイヤー・フォー・ザ・ダイング』からですが、作曲に参加するのはこのアルバムから。新加入のガーズハリスディッキンソンとそれぞれ2曲づつ作曲しており、4曲に参加。スミスの穴を埋めています。このアルバムでも引き続きマーレイが2曲参加。2曲ともディッキンソン+マーレイのコンビです。前作でやってみて意外と相性が良かったんでしょうか。

X ファクター(95)』はディッキンソンが抜けて大きく体制が変わったアルバムです。新加入のボーカリスト、ブレイズ・ベイリーが5曲で作曲に参加。それまでのメンバーは加入した次のアルバムから参加が多かったのですが、ベイリーの場合は彼が加入した後にアルバム用の曲を準備したことが伺えます。ディッキンソンとは音域も歌い方も違うので、新しくベイリーに合わせて曲を作ったのでしょうね。また、このアルバムはガーズが大活躍。7曲に参加しています。ハリスの作曲パートナーとして、ディッキンソンスミスが抜けた穴をガーズが一人で埋めた形です。単独曲こそありませんが、ベイリーボーカルでのシングル(Man On The Edge)はガーズ+ベイリーハリス不参加。このアルバムはガーズの色が強く出ているアルバムと言えるでしょう。ハリス+ベイリーはなく、ハリス+ガーズ+ベイリーが4曲。ハリスベイリーはそれほど作曲面の相性は良くなかったのかもしれません。マーレイ前2作頑張って燃え尽きたのか、あるいはベイリーと曲作りの相性が良くなかったのか作曲は不参加です。

↑ ガーズ+ベイリーコンビで、ベイリー時代のシングル『Man On The Edge

90年代ラストとなる『ヴァーチャル・イレヴン(98)』。前作が不評で、ベイリーへのボーカリスト交代は失敗といわれる中でのアルバムでした。これはいかんと思ったのか、リーダーであるハリスの色が強いアルバムです。前作でハリスの作曲パートナーとして前面に出たガーズはこのアルバムでの作曲参加は1曲だけでしかもハリスが不参加(ガーズ+ベイリー曲)。前作の不評の原因だとハリスが考えたのかもしれません。前作ではなかったハリス+ベイリーが1曲(Futureal)。この曲がシングルカットもされました。また、困ったときのマーレイ頼みというか、マーレイが再び2曲参加。ハリス主導の作曲体制で巻き返しを図りましたが前作の不評を跳ね返せず、90年代後半はメイデンにとって暗い時代となります。

↑ 唯一のハリス+ベイリーコンビ曲『Futureal

2000年代(ブレイヴ・ニュー・ワールド~戦記)

2000年、ディッキンソンスミスが戻り、6人体制のメイデンになります。この編成が2019年現在も続く第二の黄金期です。劇的な復活からHM界の伝説へ上り詰める00年代の作曲者ランキングを見てみましょう。

1位 Steve Harris+Bruce Dickinson+Adrian Smith 7曲
2位 Steve Harris+Janick Gers 5曲
3位 Steve Harris+Dave Murray 4曲
3位 Steve Harris+Adrian Smith 4曲
3位 Steve Harris+Bruce Dickinson+Janick Gers 4曲
6位 Steve Harris 3曲
7位 Steve Harris+Bruce Dickinson+Dave Murray 2曲
8位 Steve Harris+Bruce Dickinson 1曲
9位 Bruce Dickinson+Adrian Smith+Nicko McBrain 1曲
合計 31曲

一番大きな変化は、ハリス単独曲が1位でなくなったことです。ハリス+ディッキンソン+スミスの全員参加曲が1位。作曲家チーム全員で力を合わせてもう一度上り詰めるという気合を感じます。共作が増え、ハリス単独曲は6位に。ただ、合計31曲中30曲にハリスが参加。単独曲は減ったものの参加率は上がり、ほぼすべての曲にハリスが参加しています(それまでは参加率80%程度)。チーム作曲で1曲当たりのアイデアを増やして完成度を上げつつ、メイデンらしさをしっかりハリスがコントロールする体制に見えます。

また、ガーズの作曲参加数も増えています。ディッキンソンスミスが戻ったことで彼らに比べるとやや少ないですが、9曲に参加。特にハリス+ガーズは他のギタリストとの共作より多い数です。『ヴァーチャル・イレヴン』で作曲から外したことを反省したのかもしれません。

ブレイブ・ニュー・ワールド(00)』はこの体制での初アルバム。作曲陣はハリス+ディッキンソン+スミスが1曲(The Wicker Man)。これが第一弾シングルとなりました。他はハリス+ディッキンソン+マーレイ1曲、ハリス+ディッキンソン+ガーズ2曲。ディッキンソンは全ギタリストと均等に曲作りしています。「久しぶり、改めてよろしく」といった関係性の再構築でしょうか。ガーズが4曲に参加。3ギタリスト中最多。スミスが戻ってきたことでバンド史上初のトリプル・ギター編成になり、ガーズは自分の立ち位置への不安もあったと思いますが、作曲への貢献や評価で応えている印象。スミスは2曲でしばらくメイデンの曲を作っていなかったのでリハビリ中というところか。なお、ハリス+スミスコンビで1曲(The Fallen Angel)ありますがこの組み合わせは『魔力の刻印(82)』以来。80年代はスミスはほぼディッキンソンとしか曲作りをしていません。80年代にハリスと張り合っていたディッキンソン+スミスのコンビ作曲はなし。マーレイ過去最多の3曲に参加して頑張っています。

↑ この後増えるが、当時は久々だったハリス+スミスコンビの『The Fallen Angel

死の舞踏(03)』はディッキンソンスミスの作曲数が増えています。ディッキンソン6曲、スミス5曲参加。前作がチャートアクションも良く、メイデン人気は復活。明るい未来の中で前向きに作られたアルバムです。このアルバムもハリス単独曲は1曲のみで他はすべて共作。久しぶり(81年のTwilight Zone以来)にマーレイ参加曲(Rainmaker)がシングルカットされました。全体として各ソングライターが自分の色を出して作曲したバラエティ豊かなアルバムで、メイデンの音楽性を拡張しようとした感じを受けます。なお、このアルバムでもまだディッキンソン+スミスのコンビはありません。その代わりというか、ディッキンソン+スミス+マクブレインという珍しい組み合わせの曲(New Frontier)があります(00年代唯一のハリス不参加曲で、現在のところ唯一ニコ・マクブレインが作曲参加した曲)。全員参加の曲作りをするため「ハリス」 VS 「ディッキンソン+スミス」という80年代の再現を警戒し、「ディッキンソン+スミス」コンビを封印していたのかもしれません。

↑ 2019年現在唯一のマクブレイン参加曲『New Frontier

戦記(06)』はハリス+ディッキンソン+スミスのクレジットが4曲。完全にこの3人ががっちりとスクラムを組んで作曲した印象です。初のコンセプトアルバムでもあり、アルバム全曲再現ツアーも行われました。それだけアルバム全体に自信があったのでしょう。ハリス10曲(全曲)、ディッキンソン5曲、スミス5曲とこの3人が作曲面では主導していますが、マーレイハリス+マーレイで1曲(The Reincarnation of Benjamin Breeg)だけの参加ながら前作に続いてシングルカット。ガーズハリス+ガーズ2曲に参加し、2人とも存在感がある曲を残しています。00年代最後となるこのアルバムで初の全米チャート10位入り(最高位9位)を果たし、メイデンは過去最高の世界的人気を得ます。

↑ ハリス+マーレイでシングルカットもされた『輪廻(The Reincarnation of Benjamin Breeg)』

2010年代(ファイナル・フロンティア~魂の書)

2019年現在、最後の区切りです。この間に残したアルバムは2作ながら、『魂の書(15)』はバンド史上初の2枚組。さすがにリリース頻度は減ってきたものの創作意欲は衰えていません。まずは作曲者ランキング。

1位 Steve Harris+Adrian Smith 6曲
2位 Steve Harris+Janick Gers 3曲
2位 Steve Harris+Bruce Dickinson+Adrian Smith 3曲
4位 Steve Harris 2曲
4位 Steve Harris+Dave Murray 2曲
4位 Bruce Dickinson+Adrian Smith 2曲
4位 Bruce Dickinson 2曲
8位 Steve Harris+Bruce Dickinson+Janick Gers 1曲
合計 21曲

10年代の特長はハリス+スミスの躍進です。もともとスミスは作曲への貢献度は大きいメンバーでしたが、ついにハリス+スミスコンビが1位に。この10年のハリスのメインの作曲パートナーはスミスでした。ディッキンソン+スミスコンビも復活していますが、ディッキンソンは単独曲も目立ちます。00年代はほぼすべての曲に参加していたハリスですが、10年代は様子が変わってきています。アルバムごとに見てみましょう。

ファイナル・フロンティア(10)』は、作曲メンバーという点では00年代とあまり変わりませんハリスが全曲に参加し、1曲単独曲(When the Wild Wind Blows)を作る。ディッキンソンスミスハリスを支え、マーレイガーズがバリエーションを加える、という形。ディッキンソン4曲、スミス6曲なので、スミスの存在感が増しています。ハリス+スミスで3曲、ハリス+ディッキンソン+スミスで3曲ですね。ディッキンソンはやや作曲数が少なめですが、コンセプトアルバムはディッキンソンの長年の夢だったので、前作『戦記』で多少燃え尽きたのかもしれません。とはいえ、『サムホェア・イン・タイム』のような完全撤退ではありませんし、ハリス+ディッキンソン+スミスのチームでは名曲を残しています。マーレイ1曲。ガーズ2曲。スミス色がやや強めに感じますが、全体として各メンバーの作曲参加比率は00年代と大きく変わりません。

↑ 2000年以降は各アルバム1曲だけになったハリス単独曲『When the Wild Wind Blows

魂の書(15)』は00年以来、大きく作曲面のバランスが変わったアルバムと言えます。ディッキンソン単独曲が2曲あり、初めてハリス単独曲(1曲)を抜いています。ディッキンソン+スミスのコンビも復活しています。00年代以降、ほぼ全曲に参加していたハリスは今回不参加の曲が4曲もあり、リードトラック(Speed of Light)もディッキンソン+スミスの曲で、ハリス色が弱くなったとも言えます。ハリス+ディッキンソンは1曲もなく、ハリススミスマーレイガーズとそれぞれ共作しているので、ハリス色とディッキンソン色がそれぞれ出たアルバムと言えるかもしれません。『パワースレイブ(84)』にも近い分担です。今回はディッキンソンの単独曲が最初と最後を飾り、特に最後の曲(Empire of the Clouds)はそれまで最長だった『パワースレイブ』の最終曲(Rims Of The Ancient Mariner:ハリス単独曲)の13分41秒を大きく超え、18分に及ぶメイデン史上最長の曲です。

↑ 1990年の『Bring Your Daughter...To the Slaughter』以来のディッキンソン単独曲にして2019年現在メイデン最長の曲『Empire of the Clouds

以上、40年に渡るメイデンの歴史を作曲者から紐解いてみました。時代時代で変遷はありますが、スティーブ・ハリスを中心に優れた作曲者が集まっているチームと言えるでしょう。また、長くやっているとどうしてもマンネリに陥りがちですが、メイデンは同じようなキャリアを持っている他のバンドと比べると作曲者が多い分、メンバーごと、アルバムごとに曲のバリエーションが増え、多様性を保っています。あと何枚アルバムを出してくれるか分かりませんが、次の10年、どんなアルバムを作ってくれるのか楽しみにしています。

追記:第二弾「ライブ演奏曲で見るIRON MAIDENの歴史」を書きました。こちらもどうぞ。

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