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65.北欧メタルを掘り下げる②:スウェーデン前編 = Sabaton

北欧メタルとはフィンランド、スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、アイスランド出身のメタルバンドの総称です。特に現在「北欧メタル」として盛り上がっているのがフィンランド、スウェーデン、ノルウェーの3国。この3国のメタルシーンを各国の推しバンドと共に紹介し、聴き比べていきます。第一回目、ノルウェー編はこちら。

全3回の予定でしたが、スウェーデンはバンドが多く1回にまとまらないため前後編に分けます。なので全4回の予定です。今回はスウェーデン前編。比較的メジャー志向でメロディアス、陽性で明るめなものを中心に選んでみました。余談ですが人口がノルウェーとフィンランドは約500万人に対してスウェーデンは1000万人。ちょうど人口が2倍なのでバンド数も2倍、なのですかね。では、まずはプレイリストをどうぞ。こちらをバックグラウンドで流しながら読んでいただければ各バンドの音と情報が一緒に手に入ります。

では、本編スタートです。

SABATON(サバトン)は1999年結成、2001年デビューのパワーメタルバンド。戦争をテーマにしていて「ウォーメタル」「ミリタリーメタル」とも言われる独自の世界観を築いています。シンガロングで合唱が映える力強いコーラスが特徴で、日本でもラウドパークへの参戦やBabymetalとの共演など知名度が高いアーティストです。一曲一曲がコンパクトながらインパクトが強く、中毒性があるアーティストです。シングル曲一発勝負のアーティストかと思っていましたがアルバムをきちんと聞いてみると作曲能力が高くバラエティに富んでいる。さすが世界レベルの知名度を得るメタルバンドの風格があります。娯楽性が高いですがコミックに陥らずかっこよさ、勇壮さ、心を震わせる力強さがあります。こちらは2019年の「The Great War」からのナンバー。基本的に「今の北欧メタルシーン」を掘り下げたいので2015年以降のアルバムから選んでいます。

続いてはAmaranthe(アマランス)、メタルコアと呼ばれているようです。歌メロのポップさは増しつつ音像のメタリックさも増して、ふり幅が増えてだんだんとメジャー感が身についてきました。ボーカルのエリーゼ・リードの確かな歌唱力も武器ですね。2008年結成、2011年デビュー。こちらは2020年の「Manifest」から。ポップさの中に北欧的なメロディが練りこまれておりインパクトを残します。北欧メロディが好きなんですよね。

コンパクトな曲が多いのでどんどん行きましょう、3組目はCrashdïet(クラッシュダイエット)。2000年結成ながら中心人物が2005年に逝去、バンドは暗礁に乗り上げますが危機を乗り越えて活動継続、こちらは2019年リリースの「Rust」からのナンバー。LAメタル的な世界観を醸し出していますがやはり北欧、そこはHanoi Rocksであったり、ちょっと独特の陰、昏い森の暗黒感があります。刹那的なものというよりもっと生来のものというか。独自の雰囲気を纏ったバンドです。Ghostの中心人物、トビアス・フォージが一時期在籍していたバンドでもあります。

Cyhra(サイラ)は元Amaranthe、元In Flamesなどのメンバーによって結成されたスウェーデン・メタルのスーパーグループ。こちらは2017年のアルバム「Letters to Myself」からのナンバー。スーパーグループの名に恥じぬ完成度で哀愁がありながら疾走感があり、美しさと勇壮さを兼ね備えた佳曲です。こうした透明感ある哀愁のメロディーというのは「北欧メタル」のひとつの側面ですね。前回のTNTもそうでしたが、こうしたサウンドをきっちり受け継いでいます。リフのフレーズ、コードの繰り返しがだんだんと胸に迫ってきます。

続いてはEnforcer(エンフォーサー)、NWOTHM(ニューウェーブオブトラディショナルヘヴィメタル)と呼ばれる一群の代表的なバンドのひとつで、ジューダスプリーストなどの正統派メタル、パワーメタルの強い影響下にあるサウンドを奏でています。こちらは2019年作「Zenith」からのナンバー、前作まではもっとNWOBHM的な欧州的な翳りのある曲が多かったですがこのアルバムではLAメタル的な華やかさも取り入れ、新機軸に挑戦しています。この曲はLAメタル的ですね。個人的には1stの方向性が好きかな。とはいえ、永く続くバンドは新しい方向性に模索し続け、問題作と傑作を両方生み出すもの。好きなバンドなので次のアルバムも楽しみにしています。

続いては以前単独記事も書いたGhost。スウェーデンのバンドは以前GhostもOpethも書いているんですよね。Ghostはラウドパークで生で見てやはり独自の世界観がありました。思ったよりステージはシンプルだったのですが(アリスクーパーも確か出ていたので比較してしまうとさすがに、、、)、音楽そのものの力強さがありました。暗黒感、少しザラッとした手触りのある、それでいてフックのある曲を作るのが本当にうまい。グラミー賞にノミネートされるなど世界的に活躍をしています、アルバムごとにキャラクターが変わったり、物語が展開していくので次の展開が楽しみなバンドです。

日本では人気が高いらしいH.E.A.Tです。確かに日本でウケそう。ソウルフルで良いボーカルにメロディアスな曲、Mr.Bigも彷彿させます。2006年結成で、こちらは2020年作の「H.E.A.T II」からのナンバー。IIとありますが実は6枚目のアルバム。アメリカンロック、ブルース機軸のメロディアスハードロックをしっかりと踏襲しながら少し北欧の湿り気、哀愁がありますね。これは良曲です。

メロディアスハードロック路線を続けます。Hardcore Superstar、ハードコアと名乗っていますがハードコア要素はほぼなくメロディアスです。1997年結成のベテラン、こちらは2018年のアルバム「You Can´t Kill My Rock n Roll」から、タイトルトラック。陽性でノリが良いけれどちょっと哀愁があるナンバー、こういうのに弱いんですよ。ハノイロックスのアンディマッコイもこういうメロディ作らせると上手い。なんなんでしょうね。明るさの中のちょっとした哀愁みたいなメロディは涙腺に来ます。このアルバムはスウェーデンのグラミー賞にもノミネートされました。ベテランながらまだまだ現役です。

さて、お次はEUROPE(ヨーロッパ)。言わずと知れたファイナルカウントダウンのバンドで、北欧メタルで最大の成功を収めたバンドでしょう。まだ現役で、だんだん70年代、80年代HRに回帰しています。1992年に活動停止した後2003年に活動再開、こちらは2017年のアルバム「Walk the Earth」からのナンバー、どことなく80年代のディープパープルっぽいですね。パーフェクトストレンジャーズの頃。とはいえあそこまでねちっこくなく、どこか透明感があるのはバンドに対する先入観か、あるいは北欧の先天的なメロディセンス、伝統音楽からのルーツなのか。ヘヴィで少し砂漠のブルース的な曲ですがなぜかそこまで暑苦しくなく聞ける曲です。キーボードの音も気持ち爽やか。

ベテランを続けます。Torch(トーチ)は80年代の北欧パワーメタル第一世代のバンドで、2003年に再始動、こちらは2020年作「REIGNITED」からのナンバー。LAメタル的なノリの良いコールアンドレスポンス型のコーラスでありながら、リズムや音はパワーメタルのぐんぐん迫ってくる迫力があります。やはりグルーヴが太くて力強い。ベテランの底力、スタミナを見せつける良曲。ちなみに同名のハードコア/メタルバンドがノルウェーにもいるのでやや紛らわしい。

パワーメタル、シンフォニックメタルの世界へ。Hammerfall(ハンマーフォール)です。1990年代、グランジオルタナ台頭期に正統派メタラーの希望の星としてデビューした彼らも20年選手。1993年結成、1997年デビューのベテランです。こちらは2019年作「Dominion」からのナンバー。勇壮でクラシカルながらコード進行、マイナーコードへの展開などが北欧的だし、エイルストームを筆頭にバイキングメタルを数多く抱えるナパームレコードの所属なので一部バイキングメタルっぽい要素も入っています。MVが芝居がかっているというかマーベル映画オマージュみたいなのはナパームのお家芸。曲そのものはベテランらしい安定したクオリティです。

こちらはアルバムレビューもしたDYNAZTYの2020年の「The Dark Delight」からのナンバー。先ほど紹介したAmarantheの男声ボーカルを擁するバンドです。北欧的な心を震わせるメロディで盛り上がるバラード。こういうメロディ展開ってなかなか他の地域にはないんですよね。マイナーコードのさしはさみ方なのかな。ホログラム ホログラム、のフレーズが余韻を残します。2018年からドイツのメタル系レーベルAFMレコードに所属していて、こちらはAFMからの2枚目のアルバム。アルバム全体を通して聴くとドイツらしい、ジャーマンパワーメタルの影響も感じられます。

Crazy Lixx(クレイジーリックス)は2002年に結成されたグラムメタルバンド、LAメタル的な音像でハードコア・スーパースターともメンバーの交流があります。ハキハキしたハードロックの音像ですが、こういう哀愁というか、無理にマイナーに落とした感じではない琴線に触れるメロディというのがありますね。改めて掘り下げてみるとこういうメロディを書けるバンドがスウェーデンにはたくさんいることが分かりました。こちらは2019年のアルバム「Forever Wild」からのナンバー。

Nocturnal Rites(ノクターナルライツ)は1990年結成、1995年デビューのベテランです。こちらもドイツのAFMレコード所属。美麗なメロディのパワーメタルを奏でるバンドとして90年代から日本では一定のファン層を獲得しているバンドです。こちらは2017年作「Phoenix」からのナンバー。初期はメロスピ(メロディックスピードメタル)的な曲が多かった印象がありますがキャリアと共にミドルテンポのじっくりしたパワーメタルに変容してきているようで、この曲もミドルテンポで押してきます。先ほどのハンマーフォールと双璧を成すスウェーデンのパワーメタルバンドですね。これでもか、と盛り上げてくるのはさすがベテラン。それでいてクドさが少なく透明感があるのは北欧的メロディと透明感のある高音コーラスの合わせ技か。

このリストも残り2曲、だんだんメロスピ、エピックメタル的なクサメロに突入していきます。北欧の都会スウェーデンのバンドながらノルウェー、フィンランドバリのクサメロをぶちかましてくれるTWILIGHT FORCE(トワイライトフォース)。架空の世界(Twilight Kingdom)を物語るというまさに王道エピック(物語)メタル。イタリアのラプソディやドイツのブラインドガーディアン(ブラガ)などに近いですね。とはいえメロディが一本調子にならずどこか流れるような自然さがあるのが北欧の魅力。怒涛の展開で勇壮に盛り上がります。

ラストの曲です。ラストにふさわしい8分30秒のドラマティックな大曲を。Persuader(パースウェイダー)は1997年結成、ブラインドガーディアンやノクターナルライツにも近い音像(特にボーカルの声質がブラガのハンズィに少し似ている)がありますが独自の激烈性やメロディセンスがあります。最近のブラガより個人的には好みだったり。こちらは2020年の「NECROMANCY」からのナンバー。ドラム、ツーバスの連打がのっぺりしておらずスラッシュやブラック/デス的な激烈感があるのがいいですね。美しいメロディと各楽器の絡み合い、さまざまなメロディやリズムが絡み合って物語を描いていく様は音楽的快感です。ただ、情報量が多すぎてプロダクションがややゴチャゴチャしているのもブラガ譲り。そこは真似なくていいのに、、、。とはいえメロディセンスはやはり特長です。極端な音程移動ではなく自然な音程移動ながら曲のシーンを変える、展開していきつつ哀愁を混ぜる、みたいな進行が北欧のバンドは上手い、ルーツミュージックがそういうコード感やメロディ感なのでしょう。

以上、今回は16曲、16バンドを紹介しました。スウェーデン、かつ、現在はデスメタル色の薄いバンド、陽性か勇壮なバンドを中心に選んでみました。こうして聞くと好きになるバンドが多いですね。ベタだけど盛り上がるというか、聞いていて心地よいし心が震える感覚があります。「これこれ」みたいな、ツボを押さえた曲が多かった。後、LAメタル、グラムメタル、ハードロック系のバンドが意外と活況ですね。スウェーデンとノルウェーの比較で言うと、やはりスウェーデンの方がしっかり曲のメロディが主張してるかな。逆にノルウェジアン・ブラックの持っている確固たる世界観を持っているバンドはやや少ない、というか、世界観やコンセプトで押し切るよりはメロディとか曲単位で勝負する印象も受けました。

とはいえ、今回はスウェーデンの中でもハードロック寄りのバンドや明るめのバンドを中心に選んだので、次回は暗め、北欧的なメロディは共通するものの音像は激しさ、暗さ、耽美といった辺りのバンドを取り上げたいと思います。こちらの方がノルウェーとの対比はできるでしょう。次回の発見も楽しみです。

それでは良いミュージックライフを。

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