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折坂悠太 / 心理

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邦楽ウィーク4日目。今日は折坂悠太の「心理」を聴いてみます。折坂 悠太(おりさか ゆうた、1989年9月16日 - )は、鳥取県出身のシンガーソングライターで、2013年から人前で演奏を始め2014年に自主制作盤をリリース。初のワンマンライブ開催やイベントに参加して着実にファンを増やしていき、2018年にリリースしたセカンドアルバム「平成」は第11回CDショップ大賞2019で大賞(青)と、ミュージックマガジン誌の「ベストアルバム・2018」において日本のロック部門1位を受賞。一躍音楽マニアの間で話題となります。私は今回初めて知り、新進気鋭の若手アーティストかと思ったら2020年には月9ドラマの主題歌や映画の主題歌などを手掛けるように。けっこう知名度を得つつあるアーティストのようですね。所属事務所がアミューズ(桑田佳祐や福山雅治が所属する大手事務所)なので、放送局や芸能界を絡めたタイアップやメディアミックスでのマーケティングは得意なのでしょう。ちょうど平成元年生まれで、現在32歳。すでに妻子もいるそうで、新人アーティストにしてはやや人生経験多め。30代で世に出てきたスガシカオを連想します。父親の仕事の関係で海外と日本を行ったり来たりする学生時代だったようで、帰国後、日本に合わず一時期引きこもりにもなっていたよう。そうした経歴から、繊細で(やや)遅咲きなアーティストなのかもしれません。

所属レーベルは ORISAKAYUTA / Less+ Project.。アミューズ内のアーティストレーベルかと思ったらLess+ Project.というのはマネジメントチームのようですね。どうも会社やレーベルではないようで、あまり情報がありません。アーティストたちが自分たちで集まっている共同事務所のようなものでしょうか。これと折坂悠太の名義が折半なので、自主制作、原盤権は自分で持っている形なのかな。ちょっと珍しい形態ですね。とはいえ、今はネットやストリーミングで自分で配信できるし、配給網という意味でのレーベルの力は弱まっているのかも知れません。マーケティングするマネジメントの力は必要ですが、配給そのものは自分で管理している、ということなのでしょう。前作「平成」からこのレーベル名で音源を出しています。

本作「心理」は3作目となるアルバム。ドラマや映画のタイアップはついているもののオリコンではアルバム最高位27位(前作「平成」で記録)、ワンマンライブもO-EAST(1300キャパ)ということで、まだまだ大ブレイクとは言えず、「アミューズが力を入れつつある次世代アーティスト」という位置づけでしょうか。本作のリリースが10/6なので、本作のチャートアクションがどうなるか。まさに「ネクストブレイクアーティスト」ですね。

本作を目にしたのはnoteやtwitter。何度か目にしたので気になっていました。調べてみたらCD屋大賞やミュージックマガジンのベストアルバム受賞アーティストということで期待が高まりました。それでは聴いてみます。

活動国:日本
ジャンル:J-POP、グローバルポップ、ジャズ、浪曲
活動年:2013-
リリース:2021年10月6日

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総合評価 ★★★★★

これは凄い。宇多田ヒカルの「Fantôme」を聴いたときの感覚も思い出した。J-POPの枠を超えて「グローバルポップ」になっている。J-POPの特異性はやはりカラオケ文化の影響からか、「歌う」ことに重点が置かれていて、特異な進化を遂げていると思う(歌メロが異常に複雑)のだけれど、これはグローバルなポップの潮流、非英語圏のポップスの1作品として名盤だと思う。日本的な浪曲とか音頭とかの影響もさらっと取り入れつつ、今のポップスを鳴らしているのは、世界各地で生まれている新世代のミュージシャンたちと呼応している。かつて大瀧詠一がレッツオンドアゲンで描いた純邦楽と洋楽の融合というか、「日本発の、日本でしか生み出せないグローバルで通用するポップ」。もちろんイエローサブマリン音頭のような、「洋楽を日本に取り込んでしまう」的なものは昔からあったのだけれど、それを再度洗練させて、もっと普遍的な「ポップス」に高めている。本人が海外(イランなどのアラブ圏)に住んでいた、というのも大きいのだろう。中東的、アラブ的なエッセンスも少し入っている。個人的に中央アジアや中東の節回しが好き、実は日本人の感性や日本の風土、景色にも合うと思うのだけれど、そのままのアラブポップは流石に異国情緒が強すぎる。そのあたりをうまくエッセンスとして抽出して日本に土着化させた、あるいは客観的に「日本(音楽や文化)の独自性」をグローバルなポップの文脈の中に取り入れて見せた作品だと思う。素晴らしい。

これ、凄いサウンドだけどどれぐらいヒットするだろう。こういう音楽が日常的に聞かれる国になるとすごい音楽大国な気がする。

01. 爆発 ★★★★☆

建築物が立ち上がるような、ビルの街の中の夜明けのような、音が立ち上がってくる。その隙間をボーカルが泳ぐ。隙間が多い音。渋谷駅の工事現場とか、どうも建築中の日本の都市、そこを歩くようなイメージを受ける曲。ボーカルは独特の節回り。米津玄師的な、ちょっと和風の節回しもある。浪曲的な発声が入っているのが特徴だな。海外在住経験があるから、日本のアイデンディティー、純邦楽とか、日本音楽の特徴というものを客観視しているのかもしれない。抜けが良くて心地よい音。このバッキングの音はあまり邦楽感がないな。UKっぽい。

02. 心 ★★★★★

口上からスタート。アーバンでジャジーな音像。このアルバムどこで録音しているのだろう。これはグローバルポップスだな。この曲はちょっとエジプト、キングサニーアデとか、ジュジュミュージック(西アフリカ、ナイジェリアのポピュラー音楽)的な感じもする。ブラジルのサンバ感も多少あるリズム。そこに日本的な節回し、というか、民謡的なメロディ。そういえば以前の記事で書いたが、いろいろな伝統音楽は近い遠いがあるから、日本はベトナムと近いが、アフリカ音楽ともある程度は近いのかもしれない。日本語ではあるけれど、日本的というよりもっとグローバルなポップ。面白い。

03. トーチ ★★★★☆

ゆったりとした、唱歌のようなメロディだけれど、和風かと言われたら違う、どこか無国籍なメロディ。後、バックの演奏が面白い。北欧ジャズのような、シンプルでミニマル、落ち着いて洗練されているが温かみがある。最近何かでこういう音像を聴いた気がするんだが、、、。日本語を使っていて、J-POPでもあるけれど、グローバルポップでもある。オルタナティブロックとか、US、UKの影響とかを越えて「グローバルポップ」なのは面白い。メロディ展開も落ち着いている。ああ、ちょっとノラジョーンズ的でもある。カムアウェイウィズミーの音作りにちょっと近い。ベースの感じかな。スッと入ってくる音。この曲はちょっとくるりというか、岸田繁の歌い方を連想させる部分がある。メロディ展開や音響が似ているのかな。

04. 悪魔 ★★★★

ちょっとサーカス、チンドン屋的な、にぎやかしのサウンド。そのままボーカルが入ってくる。丁寧な発声、しっかり日本語なのだけれど不思議と意味より音として入ってくる。発音や節回しがなめらかなのかな。別に分かりやすく異国語っぽくしているわけではないのだけれど。この曲は変わった曲だなぁ。異国情緒がある。ちょっとイスラエルとか、あっちの方にも近いかも。

05. nyunen ★★★

ああ、前曲でふと「イスラエル」といったが、イスラエルのポップス、いろいろなものが混交して、不思議と透明感もある音像にちょっと共通項があるかもな。Lola MarshとかPinhas and Sonsとか。ギターのアルペジオにあわせて、低いマントラというかうめき声というか、低音のドローン音のコーラスが鳴り響いている。瞑想音楽的なインタールード。

06. 春 ★★★★☆

和太鼓、浪曲、ただ、声には歌舞伎のような芝居がった感じはなく、節回しには多少浪曲的な感じがあるが発声は素直。浪曲というよりアラブポップの影響じゃないだろうか。学生時代にイランに在住していたようだし、アラブポップ、エジポップ等の節回しの影響かも。そうした西洋と東洋がぶつかるところだとトルコやイスラエルになるが、トルコはちょっとアクが強いから(もともとペルシャ文化の中心地だし、また独自)、イスラエルに近いものを感じるのはそうした所以かもしれない。ちょっとピーターガブリエルっぽさもあるな。グローバルポップを切り開いていったUSの頃の。最後のベースはエンヤトットのリズム、和の音楽をうまく融合させている。

07. 鯱 ★★★★★

おお、これはジャズ、チンドン屋。民謡クルセイダーズがクンビアと融合した民謡クンビレオにも近い。南米音楽と音頭の融合、的な。大瀧詠一のレッツオンドアゲン、ピーターバラカンが絶賛しそうな音像(ピーターバラカンはレッツオンドアゲンを聴いて「こういうのが日本で売れているのだろう、素晴らしい」といったが、それほど売れていないのを知って「なぜだ!」といったという逸話があった、気がする。うろ覚え。「こういう音楽こそが売れるべきだ」といったのかもしれない)。グローバルポップス、非英語圏ポップスとしての日本語を考えたときに、あるべき音像のような気がする。別にJ-POPを否定はしないけれど、ちょっと独特なんだよね。たぶんカラオケという巨大文化の影響が強いのだと思う。

08. 荼毘 ★★★★★

いきなり「だび」と来たか。「夕凪に首を吊る前に」かなりせめた歌詞。特に歌詞に意識を向けていなかったが言葉が飛び込んでくる。そういえば昔の唱歌とか、そういうのは「耳に飛び込んでくる意味の力」みたいなものがあった。ええじゃないかとか、ありがたや節とか。これは現代語を使っているが、なんだかけっこう強烈なことを歌っているんだなぁ、という感じがする。そこまで古くなくても、歌謡曲はけっこう強烈な歌詞があった。死んだ男が残したものは、とか。途中、アバンギャルドな音像に、カオティック。その上にやや経文的でアジア的なスキャット。この節回しは日本というよりアラブ的かもなぁ、和音構成の安定した場所から抜け出してボーカルが踊る。あるいは、西洋和音とは違うルールの旋法が入ってくるというか。

09. 炎 feat. Sam Gendel ★★★★

ちょっとつぶやくような、メロディが踊る、最近のJ-ヒップホップ的な(KOHHとか。。。あまりJ-ヒップホップは知らない)感じもするトラック。隙間があり、落ち着いたトラック。じわじわとした、ゆったりしたトラックだが声が主導して聞かせていく。それほど熱量が上がる、圧倒するような歌唱ではないし、そこそこ素直な発声だけれど、声が良いのだろう。言葉が音としてスッと入ってくる。ちょっとスモーキーな声、それこそ(男女で違うが)ノラジョーンズ的な、力まないのだけれど心地よい、かといって熱量がないわけではない、すっと入ってきて情感を動かす力がある声。

10. 星屑 ★★★★

ゆるやかな、揺蕩うような曲。心地よい揺れ方をする。リラックスした、夜のムードの曲。

11. kohei ★★★

ピアノとパーカッション、インストのアンビエントな曲。

12. 윤슬 (ユンスル) feat. イ・ラン ★★★★

この曲はくるり的なバラード。くるり的、というのも変だけれど。どこか日本的な響きがありつつ、グローバルな響きがする音。フォーク的なリズム。ただ、日本のフォークよりはカントリーとかトラッドに近い感じも受ける。日本語だけれど。日本語でカントリーやトラッドをやるとこうなるのか。韓国語の語りが入ってくる。これがゲストだな。9-12曲目はだいぶチルな、落ち着いた感じ。子守歌というか安眠導入的というか。

13. 鯨 ★★★★☆

変わった発声、森山直太朗みたいな歌いだし。あの人も浪曲というか独特の発声法を生み出しているからなぁ。アンビエントな、MONOにも近い、映画音楽的な音響。途中から、地味にビートがワルツに変わる。ブランコや自転車がきしむような音、思い出、追憶を感じさせる。訥々と語られる内面、といった趣。夕暮れ、ただ、帰るべきところがある安堵感。友達と公園で遊んだ一日の終わり、「また明日ね」といって家に帰るような終わり方。

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