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69.現代民族音楽を辿る旅:韓国から日本を超えて南へ

旅に、出たい。今回は現代の民族音楽、伝統音楽を聴きながら旅の気分に浸ってみたいと思います。今回の紹介する曲をまとめたプレイリストはこちら。

では、まずは韓国から行きましょう。

韓国

K-POPで勢いづく韓国音楽シーンですが、いわゆるダンサブルなポップラップであるK-POP以外にも刺激的なアーティストが活躍しています。衝撃を受けたのがこちら。

これは衝撃、新しい音楽を切り開く挑戦心を感じます。調性を乱すような、不協和音ではないけれど飛び跳ねる、テンションをかけるようなボーカルラインが独特ですね。

こちらの記事で知ったアーティスト、紹介されているアーティストはどれも衝撃的。韓国伝統音楽(国楽)の定義や背景、各アーティストの紹介があり実に勉強になります。他に紹介されているアーティストも素晴らしいのでぜひ聞いてみてください。

まずは、Ssing Ssingで、イ・ヒムンとともにバンドを率いていて、先述の通り元々は映画「哭声/コクソン」、「釜山行き/新感染」等の音楽監督、そして어어부 프로젝트(オオブ・プロジェクト)などで活動するジャン・ヨンギュを中心に組んだ7人組バンド、イナルチが5月に発表した11曲入りアルバム『수궁가 水宮歌 SUGUNGGA』。バンド名は、パンソリの名唱イ・ナルチ(1820~1892)から取っているそうです。

久しぶりにK-POPではない、「サブカル」を感じる韓国音楽※1に出会えてうれしくなりました。「サブカル」と言えば日本の80年代のアングラロックシーンも奇天烈な人が多かったんですが、今回、上記の記事で紹介されている3バンドにはそんな「バブル期の日本のインディシーン」※2に近いエネルギーを感じました。単に私の脳内記憶カテゴリと結びついているだけかもしれませんが。近くて遠い国、やはり熱量があるけれど、すっと入ってくる馴染みやすさもある。

ポンチャックとかもふざけているようで、何か突き抜けたものを感じましたね。ちょっと韓国の街並みを。日本と似ているけれど異国情緒もある。そういう「似ているけれど違う」感がパラレル感、サブカル感があってワクワクするのかもしれません。

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伝統音楽も日本とは全然違うんですね。たぶん、似ているところもあるんでしょうけれど(ただ、日本と韓国は伝統音楽の「距離」はけっこう遠いので、音楽はそもそもルーツが違うのかも。日本と近いのはベトナムで、韓国と近いのはサウジアラビアセルビアブータンだそう、サウジアラビア!? 面白いですね。聴いた感じ、セルビアはよくわかりませんが、サウジとは和音の中にきれいに収まらない歌い方、みたいなのが共通項なのかもしれません)。

さて、今回はこの記事、アーティストとの出会いをきっかけに、「じゃあ日本でも似たような動き、伝統音楽と現在の音楽シーンをつなぐような活動をしている人はいるだろうか」と探してみました。

日本

日本でまず出会ったのがこちら。

やはり日本で、面白い/自由なのはゲームやアニメの音楽ですね。もともとが作られた、ディフォルメされた世界だから音楽も自由でディフォルメ的、この曲は攻殻機動隊で使われた曲ですが日本文化のプレゼンテーションとしても見事。川井憲次氏は1980年代中盤から主にアニメのサントラで活躍する作曲家です。攻殻機動隊をはじめとする押井守監督作品の他、ガンダム、ウルトラマン、仮面ライダー、大河ドラマなども歴任しています。これは衣装もいい。パーカッションなどは日本にはない、東南アジア的なジャンベも使っていますが、幽玄な雰囲気や声の節回しが日本的。それと西洋伝統音楽の結晶たるオーケストラの饗宴です。途中からプログレ・ロック的なパートを挟んで和太鼓的な連打で緊張感が高まります。再び戻ってくるコーラス、これは新しい民族音楽の発明。

続いては民謡クンビエロ、日本民謡とラテンの融合を行っている東京の民謡クルセイダーズと、コロンビアはボゴダのクンビア(コロンビアの伝統音楽)・プロジェクト、フレンテ・クンビエロとのコラボレーションEPから。ラテン・リズムに乗って歌われるのは日本最古の盆踊り民謡とも言われる「虎女さま」、素晴らしい高揚感、ええじゃないかええじゃないか、同じ阿呆なら、、、おっとこれは阿波踊り。大瀧詠一のレッツオンドアゲイン他、イエローサブマリン音頭など音頭と西洋音楽の融合というのは古くから試みられてきたわけですが、その最新系にして現時点の到達点。軽やかなのがいいですね。クンビアってクラッシュのジョー・ストラマーも好きだったそうなんですよね。スカにも通じるテンションがあがるリズムと、血肉に染みているメロディが魂を揺らします。

続いては津軽三味線×ハウスミュージック、吉田兄弟とDAISHI DANCEのコラボです。両方とも北海道出身、吉田兄弟は1999年から活動し、津軽三味線の現代の旗手として活躍中。Monkey Majikのようなロックバンドとも共演しています。DAISHI DANCEは2006年から活動開始、心地よい陶酔感と高揚感のある美しいトラックに吉田兄弟のテンションの高い三味線が乗り、相乗効果でトランス。反復によるストーナーな感じというよりは歯切れの良さとメロディの美しさ、和音の心地よさによる快楽。こちらは2020年10月11日に配信されたライブの模様です。場所はデジタルアートミュージアムteamLab Borderlessにて、空間も含めた新しい表現手段を感じます。新しいことやらないとね。

日本からの最後のアーティスト、やはり現代の日本の伝統音楽でこの人たちを外せないでしょう。鼓童です。

和太鼓の連打が感動を呼びます。何だろう、他にもポリリズムの音楽は世界中に合って、それこそタブラとかガムランとかアフリカ音楽とかブラジル音楽とか、ただ、こういう巨大な太鼓を全力で叩き続ける、みたいな、ハードコアな打楽器のリズム音楽は世界的に見ても珍しい気がします。抱えて叩きながら練り歩く軍楽隊みたいなのはありますけど。像の背中に太鼓を載せて進軍したペルシアやインドの軍楽隊とかは近いのかもな。途中、ちょっとケチャとかインドネシアのリズムに近いものも感じますね。もともと鼓童は佐渡鬼太鼓座として1971年に創立、「舞台芸術として和太鼓を演奏する」というスタイルを築き上げました。その後いろいろあり分裂、佐渡に残ったグループが現在の鼓童で、鬼太鼓座も別に存在しています。それぞれ定期的に世界公演も行い、日本文化を世界に広めています。

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先ほどの韓国と対になる東京の風景。看板はアジアの都市のシンボル。

台湾

さて、南に下っていきましょう。次は台湾。台湾は中華民国ですが、今回注目してみるのは大陸由来の伝統音楽ではなく、もともと住んでいた土着の少数民族の音楽です。

「原住民アミ族出身のアーティスト、チャーロウ・バシワリの音楽」だそう。ちょっとオセアニア感、南国感があります。ハワイアンまではいかないのですが、そうだなぁ、ちょっとアフリカン音楽(マダカスガル)とかにも近いかなぁ。なぜなんでしょうね。何かルーツが近いのだろうか。

こうした台湾の少数民族(「原住民(ユェンツーミン)」)を専門に取り上げている「角頭音樂(Taiwan Colors Music)」というレーベルがあって、ここのレーベルを掘り下げるといろいろな伝統音楽に触れることができます。オーナーのインタビューはこちら。

台湾は、狭い島ながら16もの原住民と、客家(ハッカ:客家語を共有する漢民族の一支流)、閩南(ビンナン:福建省から渡ってきた民族)なども混在する、非常に多元的な社会です。にも関わらず、メジャーから出てくる音楽は非常に均一化されていたんですね。そのことに私はずっと疑問を抱いていました。「台湾全土には、まだまだ発掘されていない音楽がたくさんあるじゃないか」と。

他に、こちらのレーベルの看板歌手「陳建年」さんの曲もどうぞ。1999年デビュー、プユマ族(卑南族)出身。最初に警察無線のやり取りがあり、警官として「陳建年」さんが休暇の記入をするシーンの後に曲が始まるのですが、この方、本当の現役警官です。台湾のグラミー賞を取るなどそこそこ歌手としても成功をつかむことも可能なようですが、本業は警官のままマイペースに音楽活動を続けているよう。

こちらの曲はハワイアンやマダカスガル、南の島感は薄いというか、どちらかといえばタイとか、中国南方のゆったりした大陸的な音楽だなと感じます。民族が違うと音楽性も違うのですね。他にもこのレーベルのチャンネルにはさまざまなタイプの曲があるので気に入った方はDIGってみてください。

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台湾のナイトマーケット。看板の言葉が変わると印象が変わります。

フィリピン

さらに南に下りましょう、7000以上の島から成る島嶼国家フィリピンです。フィリピンと言えばBudotsは気づかないうちに世界を席巻していますね。

こういうサウンド、ダンスは実はフィリピンが源流、よくTikTokとかで見ます。

フィリピン発祥の音楽「Budots/ブドゥツ」とは、ビートは140bpmでミンダナオ島が発祥のエレクトロニックダンスミュージックの事を指します。現地では「テクノ」なんて呼ばれ方もしています。
「Budots/ブドゥツ」の名前の由来は、地元の俗語のスラングで、「仕事がない」もしくは「永久に仕事がない人」を意味します。
「Budots/ブドゥツ」の音楽シーンはダンス共に発達し、腰を低く保ちながら、足腰を利用し、まるで猿のようなダンスをします。

ちなみに曲名のところに「OPM]とありますが、OPMとは「オリジナル・ピノイ・ミュージック」を表します。フィリピン人歌手によって作られ、歌われている曲のことです。

さて、雰囲気を変えて次のアーティスト。

Pantayoはカナダの5人組の女性バンドですが、全員フィリピン移民。フィリピン南部の伝統楽器、クリンタンをインディーポップ的な音像と組み合わせたのが特徴的です。TV番組に出演した時の映像なので途中からインタビューになってしまいますが、前半のライブが一番特異性が伝わるかと思います。西洋楽器、ピアノとかとは明らかに違うチューニングですね。独特なメロディセンス、和音のセンスです。ガムラン(インドネシア)の響きにも近いですね。

こういう奇妙な和音感というのはPantayoに特有というわけでもなく、他のヒット曲にも出てきます。この曲とか譜割りや和音感がかなり独特。2019年のYouTubeでの大ヒット曲。

Princess Thea、2004年生まれ、突如としてYouTubeに現れてバイラルヒットしているようで、英語圏にはほとんど情報がありません。Theaというフィリピンの女優がいるので変名プロジェクトかと思ったけれどうも別人の様子。謎めいたアーティストのよう。ビリーアイリッシュに対するフィリピンからの回答? 音楽的にも独特のフィリピンらしさを感じる面白いアーティストですね。

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首都マニラ、看板が急に減ります。だいぶ南に来ました。

インドネシア

いよいよ今日最後の国、インドネシアです。13,466もの島からなる世界最大の島嶼国家。人種も多様であり、音楽的にもとても多様です。その中でも特異性をイメージしやすいのはバリ島の音楽でしょうか。ケチャやガムランなど、特異性が高く日本でも知名度が高い独自の音楽文化があります。

Alffy RevはEDM系を得意とする1995年生まれのインドネシアのDJ。YouTubeチャンネル登録者は100万人を超え、勢いのあるアーティストです。彼がバリの伝統音楽をうまく取り入れた楽曲を作っていたのでそちらをご紹介しましょう。映像も美しく楽しめます。2020年、世界の大変化に困難な状況に置かれたバリの人たちを鼓舞する内容です。

2分半ほどからケチャが、4分半ほどからガムランが入ってきます。鳴り響く笛の音も伝統音楽。映像のモチーフは神獣バロンですね。あらゆる災厄を祓う力を持っているとも言われます。

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最後は朝のバリの街並み。音楽からはいろいろな文化、街並み、人々の息遣いを感じることができます。アジア音楽を南へと巡る旅はいかがだったでしょうか。

それでは良いミュージックライフを。

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■脚注

※1 私と韓国音楽の出会いって、クレイジーケンバンドとか、根本敬さん、湯浅学さん、船橋英雄さんの名盤解放同盟が書かれた「ディープコリア」なんですよね。当時は「サブカル」の文脈でとらえていて、なんというか清濁併せ飲んだすげぇ音楽があるところだな、と。

ちょっと、当時の(1984~2013年にわたって書かれているので、1980年代の文章も)「サブカル」の切り口、内容なので今読むとかなり問題もありそうな内容ですが、ありのまま、感じるままに率直すぎる表現で向かい合った奇書。なお、「ガロ」とか「ねこぢる」とか「山田花子」とか聞いて、「ああ、あれね」と分かる人、かつ、「嫌いじゃないよ」という人が読むことをお勧めします。広くはお勧めしません。

※2 日本のアングラロックシーン、といって私が想起するアーティストはたとえばこんなアーティストたちです。こういうバンドを見た時に感じた衝撃に似たものを今回の韓国のアーティストからは感じました。

日本のアングラロックシーンのことが分かる、当事者インタビュー本。この本面白いです。目を疑うようなエピソードが散見。





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