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大人のためのメタル話④ 現在(2022)のメタルシーンを見渡す75曲 ~2.80年代デビュー組編~

80年代、USにおけるHM/HRの最初の黄金時代とされます。83年、クワイエットライオットの「Metal Health」がメタル初の全米1位を獲得したのを皮切りに幾多のメガヒットが連発。ボンジョビデフレパードモトリークルーホワイトスネイクヨーロッパなど多くのバンドがミリオンセラーを連発しました。

UKにおいては76年ー78年のパンクムーブメントを経て、ポストパンクのムーブメント=ニューウェーブが勃発。その中の一つとしてNWOBHMNew Wave Of British Heavy Metalが注目されたのは前回の記事で書いた通り。そしてそのNWOBHMから出てきたバンドも折からのメタルブームに乗り、US進出を目指していきます。

ここで、80年代にメタルがUSのメインストリームとなっていった時代に起きた「メタルという音楽のイメージの変化」について私見を書いておきます。70年代のハードロックとかメタルって黒魔術とか魔女とか、ファンタジックなテーマが多かったじゃないですか。「ヘヴィメタル=悪魔の音楽」的な。80年代の(USで成功した)メタルバンドはそうしたイメージから脱却し、より現実的なテーマを歌うようになった印象があります。それはなぜなのか。

基本的に、ヘヴィメタルというのはUKが生み出した音楽文化だと僕は思っています。ブラックサバスが1970年に音楽スタイルとイメージを生み出し、当時すでにスターであったLed Zeppelinも4枚目のアルバムではタイトルなし、シンボルのみという黒魔術的なイメージを前面に出した。ホラー的でドゥーム(破滅、審判の日)な世界観がヘヴィロックと融合して「ヘヴィメタル」を生み出しました。海を隔てたUSでもヘヴィメタルというコンセプトは衝撃を与え、アリスクーパーKISSはショックロック、ファンタジックなキャラクターとして自らを定義し、NYからは黒魔術のイメージを色濃く持ったブルーオイスターカルトがデビューします。

UKロックではよくモチーフになったWitchやWitchcraft(魔女の魔術)

「黒魔術」や「悪魔」といったものは、降り返ってみればUK的なブラックユーモアという側面があるような気がします。日常の出来事からの逃避やさまざまな怒りの比喩表現としてのダークファンタジーであり、UKでは文化的にそれが許容された。USと比較すると「悪魔的な表現」や「ファンタジーという形での表現」に対する理解が深く、社会的な評価も高い気がします。

メタルの持つダークファンタジーのイメージ

アメリカは多様な人々をまとめる重要な手段がキリスト教であるらしく、反キリスト的な発言とかテーマがジョーク(やホラー映画的な作り物)として扱われずにめちゃくちゃシリアスに怒られたりすることがあるんですよね。かの有名なビートルズ、ジョンレノンの「ビートルズはキリストより有名」発言とか、涜神的なユーモアがときどき大問題になる。悪魔的なイメージを持っていたヘヴィメタル=有害な音楽とされ、のちにジューダスプリーストが裁判にまで巻き込まれる「レコードにサブリミナル効果が埋め込まれていて少年を事件に駆り立てた」みたいな話にまで繋がっていくわけです。こういった「ヘヴィメタルは悪魔の音楽」というのは宗教の力が強い国家でしかシリアスに取り上げられていないんですよね。USという国は冷静に見るとキリスト教原理主義的な国家なんだなぁと思うことがあります。USからはクリスチャンメタルなんてものも生まれましたし。

はっきりした因果関係は分かりませんが、「ダークファンタジー、悪魔的なイメージ」はUSでは受け入れらなかった。ブラックサバスを脱退しソロになったオジーオズボーンも「ホラー映画のキャラクター」的な路線を明確にして親しみやすさを前面に出しますし、USで台頭したスラッシュメタルは悪魔的なイメージを一部取り入れながらもファンタジーよりは現実世界の戦争や事件などを取り上げました。ブルースディッキンソン加入後の(US進出を目指した)アイアンメイデンも一部の曲にそうした傾向がありますね。あとはモトリークルーのように悪魔的なイメージを性的なイメージを結び付け、ひたすら女の子のことを歌う、とか。USではより「現実的、即物的」です。多少ネタ的に言うならば戦争か、犯罪か、セックスのどれかを歌っている歌が(80年代は)多い。

Bon Jovi「Slippery When Wet」

もともとUKで生まれた当初のヘヴィメタルは(ハードコアやパンクと違い)社会的メッセージは希薄で、むしろ現実離れした比喩的な詩的表現が多かった(※1)のですが、パンクを通過し、USで受け入れられた80年代のメタルはより現実的なテーマが主となります。70年代の(UKを中心とした)メタルバンドはファンタジックなテーマ、イメージ、比喩的な表現が多かった印象ですが、80年代のバンドは現実的なテーマを直接的に表現する傾向を感じます。逆に、80年代半ばになると反動なのか旧来のファンタジー路線(初期サバスやレインボー的な、ファンタジックな世界観)に回帰した「パワーメタル」が生まれ欧州で成功します。USからもパワーメタルバンドは生まれますが、USで商業的成功を収めたのは初期DIOぐらいじゃないですかね。他に代表的なバンドとしてManowarCirith UngolManilla Roadなどがいますが、USでの成功はほとんど収めていません(ManowarはUS以外で成功しました)。こうした「メタルと言う音楽へのイメージの変化(多様化)」も80年代に起こったことと言えるでしょう。

さて、それでは80年代デビュー組の2020年代の楽曲を見ていきましょう。Part2、スタート!

1980年代デビュー組 ~ヘヴィメタルがメインストリームだった時代~

11.Iron Maiden(1980年デビュー、UK)/The Writing On The Wall(2021)

まずはNWOBHMの旗手、アイアンメイデン。1970年代半ば、パンクムーブメントの最中にストラトフォードのカートアンドホーセズでライブデビューしたメイデンはリーダーでベーシストのスティーブハリスの確固たるビジョンを具現化すべく幾多のメンバーチェンジを繰り返してメンバーを固め、1980年にまさしく「ヘヴィメタルの新しい波」としてデビューします。初期はパンクスからもメタラーからも評価される荒々しさがあり、まさにポストパンクの中から出てきたNWOBHMシーンを象徴するバンド。現在、セールス的にも動員的にも欧州で最も人気があるメタルバンドでしょう。グローバルで見るとMetallicaが突出していますが、欧州の人気なら負けていません。後、南米の人気もすごい。Rock In Rioのヘッドライナーにも選ばれていますし、ダウンロードUKではメキシコとグアテマラから来たファンに会いました。

3枚目のアルバムからボーカルがよりオペラティックなハードロックボーカリストのブルースディッキンソンに変わり、パンキッシュな側面はややなりを潜めたものの、元来持っていた楽曲の構築性、プログレッシブロック的なドラマティックな楽曲制作力は深化を続け、「ヘヴィメタル」という枠を超えた現代UKを代表するロックバンドと言えるでしょう。実際、今の耳で聞くとそこまで歪みが強い音像でもない、もっとオーソドックスで普遍的な「ロックサウンド」でもあります。

この曲は2021年の最新作「Senjutsu」からのナンバー。今までのメイデンにはないややデザートロック、ストーナー的な酩酊感のあるミドルテンポのナンバーです。

12.Def Leppard(1980年デビュー、UK)/Fire It Up(2022)

NWOBHMの双頭を成すデフレパード。デビュー当時はそれなりにメタリックでしたが、彼らは自分たちのことを「メタルではなくハードロック」と呼んでいますね。というか、NWOBHMに対する回答としてUSから出てくるスラッシュメタルによって「ヘヴィメタル」という音像のイメージがより硬質なものに変わっていく。NWOBHMのバンド群、特にアイアンメイデンとデフレパードはもっとオーガニックなバンドサウンドを持ち続けていると言えるかもしれません。70年代前半までのハードロックに比べるとよりメロディが印象的というか、やはりパンクを通過したので分かりやすく明快なボーカルライン、コーラスが印象的。80年代、UKからUSに進出したバンドの中では最大の成功を収めました。

ただ、その反動で90年代後半からやや迷走。非常にスタジオワークに時間をかけるバンドで、80年代後半はアルバム制作に数年かかっていたので、グランジブームの初期に出したアドレナライズ(1992)はほとんどグランジの影響を受けていないサウンドであり、完成度も高くそれなりにヒット。たぶん、「ハードロックシーン」を越えてより一般の音楽リスナーにまで知名度が広がっていたからでしょう。ただ、その次のスラング(1997)ではグランジに寄ったサウンドになり失速。今聞いても実験性が強いのですよね。とはいえ、そこで手に入れたグランジ的な表現、メロディセンスを血肉としながら溌剌としたサウンドを取り戻し00年代から復調。今でも大型フェスのヘッドライナークラスとしてメタルシーンの頂点の一角に存在しています。

こちらは2022年の最新作「Diamond Star Halos」からのナンバー。USのバンドに比べるとUKのバンドは昔の曲でツアーを回るのではなくきちんとニューアルバムを出してツアーに出る傾向がありますね。


13.Mötley Crüe(1981年デビュー、US)/The Dirt(2019)

LAメタル(米国ではGlam Metal)の雄、モトリークルーの復活の契機となったNetflixのドラマ「The Dirt」のために書き下ろされた曲。このプレイリストは「2020年以降」で選んでいますが、LAメタルのバンドって活動しているバンドはそれなりにいるんですがあまり新曲を出していないんですよね。DokkenにせよPoisonにせよRattにせよ。そのムーブメントを代表するモトリークルーが2019年に出したこの曲を選びました。

こうしてデビュー年で並べてみると分かりますが、モトリークルーってデビューが早いんですよね。アイアンメイデンやデフレパードとほぼ変わらない、NWOBHMとほぼ同時なんです。当時のLAにはすでにクワイエットライオットがデビューしており、1983年に全米制覇する前の勢いを感じさせる状態。アンダーグラウンドでメタルの熱量が高まっており、モトリークルーはその中で着実に話題を集めていきます。彼らも1981年当時としてはパンキッシュなスタイルとハードロックスタイルを混ぜ合わせたニューウェーブな音でした。ライフスタイルも破天荒というか、セックス&ドラッグ&ロックンロールをまさに体現したようなキャラクターで、1980年代という時代の寵児と言えるバンド。


14.Metallica(& San Francisco Symphony)(1983年デビュー、US)/Moth Into Flame (Live)(2020)

メタルシーンの中で最大の成功を収めたメタリカ。実は彼らもLAで活動をスタートしたので”LAメタル”と場所で括るならその括りに入ります。ただ、「LAメタル」って日本の独自ジャンルで、USだとグラムメタルと言われます。グラマラスなメタル、ビジュアル系、みたいなイメージですね。髪型が独特(たいてい凄く大きくてゴージャス)だったのでヘアメタルとも言われます。メタリカで分かるように、別にLAはそうしたグラムメタルバンドだけがいたわけではないですからね。

この曲は2020年のオーケストラとの共演アルバム「S&M2」からのナンバー。2017年にリリースされた「hardwired... to self-destruct」の曲をリメイクしたものですが、オーケストラが入ったことで迫力が増しています。1999年にメタリカが出した「S&M」は、その後のシンフォニックメタルの隆興というか、完成度の深化に明らかに大きな影響を与えたと思っています。それ以前のシンフォニックメタルってキーボード主体で、そこまでオーケストレーションとバンドが本格的にせめぎあっていなかった印象。S&Mによってメタルのメインストリームの一つに上がったのだと思います。だって、世界中のメタルファンが耳にしたわけですからね。これはSt.Angerにも言えて、あれってメタルコアの普及に一役買ったと思います。もちろんSt.Anger以前にもメタルコア的な音像はあったし、すでにヒットし始めていたんですが、メタリカがあの路線を取ったことでやはりメタルのメインストリームで受け入れられたというのはあると思います。それぐらいメタルシーンにおける多大な影響を与え、先導者とも言えるバンド。1960年代のロックシーンにおけるビートルズのような役割を90年代~00年代までは果たしていたと思います。

デビュー当時のメタリカは欧州メタルからの影響を多分に受けており、たとえばDiamond HeadMerciful Fateが持つ邪悪な雰囲気とツインリードのメロディに、Motörheadやハードコア的な疾走感を掛け合わせたようなサウンドを目指していました。そこから幾多の変遷を経て、一つの音楽文化としての「ヘヴィメタル」をUSに根付かせた偉大なバンド。このオーケストラとの共演では、オーケストラの奏者が「小さいころからメタリカを聴いていた」雰囲気があります。「現代の古典」としてUSの音楽の中にメタル的なものを溶け込ませた巨大な存在です。


15.Ministry(1983年デビュー、US)/Search And Destroy(2021)

インダストリアルメタルの祖、ミニストリー。当時、UKでポストパンクの中から生まれてきたシンセサウンドを用いたポストパンク、たとえばキリングジョークのようなサウンドをUSのバンドも取り入れたのがミニストリーとゴッドフレッシュでした。NWOBHMへのUSでの呼応がスラッシュメタルだとしたら、いわゆる「ニューウェーブ(シンセを取り入れたポストパンクサウンド)」への呼応がUSでインダストリアルメタルを産んだと思っています。

2013年に一度活動停止したものの復活、2021年には復活後2作目となる「Moral Hygiene」をリリース、この曲はそのアルバムからのナンバーです。このジャンルで一番成功を収めたのはNine Inch Nailsだと思われますが、彼らのデビューは1989年なのでミニストリーはだいぶ先んじています。


16.Queensrÿche(1984年デビュー、US)/In Extremis(2022)

USプログレッシブメタルの源流の一つ、クイーンズライク。もともとUSにはUSプログレハードと呼ばれる一群がおり、たとえば初期ジャーニーとかボストンとか、構築された楽曲とポップなメロディを組み合わせたバンドがありましたが、そこによりSF的なテイスト、近未来的なコンセプトとメタリックなサウンドを組み合わせて1980年代仕様にアップデートしたのがクィーンズライクだったと言えます。同時期に活動を開始したバンドにフェイツウォーニングがいますが、この2バンドがUSプログレッシブメタルの祖と言えるでしょう。あとはカナダのRushですがRushは1970年代から活動を続けているし、プログレッシブロックとプログレッシブメタルを繋ぐバンドと言えるかもしれません。

看板ボーカリストであったジェフテイトが脱退したものの、他のメンバーがバンド名を引き継いで現在も活動中。むしろ初期~中期の音楽性を取り戻し、よりストレートにメタリックなサウンドに、彼らならではのひねりを加えたサウンド。この曲は2022年に発表された新曲です。おそらく年内にニューアルバムが出るでしょう。


17.Megadeth(1985年デビュー、US)/We’ll Be Back(2022)

Metallicaのメンバーであったデイブムステインがメタリカを解雇されて作ったメガデス。メタリカとの確執はメタル界におけるよく知られた物語として続いています。ライバル関係にありつつ、結局メガデスはメタリカを越えられなかった。90年代までは強いライバル意識を感じましたが、00年代以降は和解ムードになり共にツアーを回ったりもしています。

80年代前期のスラッシュメタルを代表するバンドはメタリカメガデススレイヤーエクソダスアンスラックスあたりですね。この辺りが第一次スラッシュメタルムーブメントから出てきたバンド。スレイヤー以外はすべて現役で活動中です。アンスラックスだけNYで、他は西海岸。アンスラックスだけちょっと毛色が違うのは西海岸と東海岸の差かもしれません。こちらはメガデスの2022年の新曲。まもなくニューアルバムが発表される予定です。

なお、80年代後半(1987年ごろ)にはTestamentDeath AngelLååz RockitForbiddonVio-lenceら、いわゆる「ベイエリアスラッシュ」勢が台頭します。これがスラッシュメタルの第二波ですね。スラッシュメタルの比重が多くなりすぎるので今回のリストからは割愛しましたが、このムーブメントから代表的なバンドを一つ選ぶならTestamentでしょう。


18.Kreator(1985年デビュー、ドイツ)/Strongest Of The Strong(2022)

USでスラッシュメタルが形作られたころ、欧州はドイツでジャーマンスラッシュが生まれます。同様にMotorheadやRavenといったハードコア的な疾走感と激しさを求め、そこにメタリックなリフ(メタルという音楽の特長はつまるところ「ギターリフ」の有無です)を組み合わせて生まれたバンドたち。ドイツのムーブメントはジャーマンスラッシュと呼ばれ、代表的なバンドはこのクリーターの他、ソドムデストラクションらがいます。どのバンドも現在もバリバリ活動中。その中でも頭一つ抜けた存在感を現在持っているのがこのクリーターですね。

こちらは2022年の新作「Hate Über Alles」からのナンバー。疾走感がありつつ勇壮なメタルアンセム。


19.Helloween(1986年デビュー、ドイツ)/Best Time(2022)

ジャーマンパワーメタルの中興の祖(祖はAccept)というか、日本においては「ジャーマンメタル」というジャンルの代名詞ともなったハロウィン。1985年、ジャーマンスラッシュシーンの黎明期にデビューしています。初期(カイハンセンボーカル期)は他のバンドに近い、荒々しいスピードメタルを奏でていましたが当時から耳に残る歌メロはあった。それが一気に化けたのはオペラティックなボーカルを自在に操るマイケルキスクの加入。その後はマイケルキスクの脱退~アンディデリスの加入という大ドラマはありつつも一定以上の人気を誇り、欧州メタル界の重鎮として活動を続けています。そして、伝説のボーカリストであるマイケルキスクと創設者たるカイハンセンが電撃復帰し、ハロウィンユナイテッドとして7人編成で活動を再開。ボーカリスト2名、ギタリスト3名を擁するアイアンメイデン以上の大所帯に。2021年にはユナイテッドのラインナップで初のセルフタイトルアルバム「Helloween」をリリースし好評を得ました。もともと人気の高いバンドではありましたが、ユナイテッドになったことで欧州ならトップクラスのヘッドライナーの地位を確立したと言えます。

こちらは2022年に発表された新曲。ハロウィンユナイテッドとしての活動が続いていくようで一安心です。


20.Sepltura(1986年デビュー、ブラジル)/Guardians of Earth(2020)

世界中で生まれたエクストリームメタルのムーブメント、南米ブラジルからはセパルトゥラが現れます。セパルトゥラは突然変異的なバンドで、欧米の第一級のバンドと並ぶクオリティを持っていました。特にトライバルなリズムや南米的なメロディライン、バイーアの伝統音楽など豊穣で特異なブラジル音楽を取り入れて、ある意味「フォークメタル(その国の伝統音楽と歪みを主体とするメタルサウンドの融合)」の先駆者の一つとも言えるバンドです。創設者であったカヴァレラ兄弟は脱退し、ボーカルであったマックスカヴァレラはソウルフライを現在は主宰。ドラマーであったイゴールカヴァレラはマックスと共にカヴェレラコンスピラシーというバンドに参加しています。

この曲は2020年のアルバム「Quadra」からのナンバー。アマゾン川流域の自然破壊を憂う歌です。コード進行が独特。


21.Rob Zombie(1987年、White Zombieとしてデビュー、US)/The Triumph of King Freak(2020)

インダストリアルメタルやグルーヴメタルながらどこかサイケデリックな雰囲気を漂わせ、独自の存在感があったホワイトゾンビ。そのフロントマンであったロブゾンビはホワイトゾンビ解散後もソロで活動を続けています。ちょっと呪術的というか、まさにVoodooの「ゾンビ」的なキャラクター性を持っています。USのアーティストですが欧州でも人気を誇っています。いかにもアメリカ的な雰囲気を漂わせつつけっこうメロディアスで曲構成も凝っている。自分の軸を持ちつついろいろな要素をミックスするセンスに長けているのでしょう。ホラー映画的なキャラクターであり、その存在感はアリスクーパーに近いものがあるかもしれません。

この曲は2021年のアルバム「The Lunar Injection Kool Aid Eclipse Conspiracy」からのナンバー。


22.Guns N' Roses(1987年デビュー、US)/Hard Skool(2021)

USハードロックシーンを塗り替えたガンズアンドローゼス。完全にショーアップされたアリーナロック、ヘアメタル全盛期にストリートの感覚とファッションを持ち込み「カッコよさ」の転換を行ったバンドです。80年代の華やかなメタルムーブメントと90年代初頭のグランジ・オルタナムーブメントを繋ぐ、転換点のようなバンドであった、ルールを書き換えたバンドであったと言えるかもしれません。ガンズがメインストリームを書き換え、その上でNirvana(やPearl Jam)が爆発した、と言えます。アリーナロック、ヘアメタルからいきなりグランジだとちょっと音的にもイメージ的にも飛躍していましたからね。

一時期はメンバーがどんどん抜けてアクセルローズのソロプロジェクト化していましたが、今はギタリストのスラッシュとベーシストのダフマッケイガンが戻り、「バンド」としての体裁を保っています。そして久しぶりに新曲をリリース。アクセルローズのボーカルパフォーマンスがさえていて往年のガンズらしさを感じさせる曲です。2022年11月には5年ぶりの再来日も決まりました。


23.Black Label Society(1988年、Ozzy Osbourne Bandでデビュー、US)/Set You Free(2021)

1988年、オジーオズボーンバンドの新しい才能としてデビューしたザックワイルド。とにかくパワフルでワイルドなキャラクターで、かつギタープレイはラウドでヘヴィながら超テクニカル、というギターヒーロー。そんなザックが初のリーダー作「プライドアンドグローリー(1994)」を経て、組んだバンドがブラックレーベルソサイエティ。いわゆるサバス直系というか、オジー直系のドゥームメタルを奏でていますが、やはりアメリカ人ならではの豪快さやカラッとした感じがあり、ストーナーロック感もあります。日本ではそこまでの知名度がない気もしますが(ザックワイルドは知られているが、ブラックレーベルソサイエティのアルバムを聴いている人は少ない印象)、欧米では大人気。欧州の大型フェスではメインステージのヘッドライナー直前を務めたりしています。ダウンロードUK2022でライブを観ましたがとにかくパワフルでエンターテイメントなステージでした。

この曲は2021年のアルバム「Doom Crew Inc.」からのナンバー。


24.Blind Guardian(1988年デビュー、ドイツ)/Secrets Of The American Gods(2022)

ジャーマンパワーメタルの雄、ブラインドガーディアン。初期にカイハンセンのプロデュースを受けたことによりハロウィンの後継者的な扱いもされましたが、どんどんエピック度(ファンタジー度合)を増していき、独自色を持った欧州随一のパワーメタルバンドに成長。トールキンの「指輪物語」をモチーフにした大作を作りあげるなど90年代においてはドラマティックな音世界を作らせたら右に出るものはいないバンドでした。その後、新世代のシンフォニックメタルのバンド群の台頭に伴いやや埋もれてしまった印象もありますが、さまざまなサイドプロジェクトやオーケストラとの共演を経てついに本体も本格的に再始動。2022年にはニューアルバムがリリース予定です。

この曲はニューアルバム「The God Machine」からの先行シングル曲。復調を感じさせるドラマティックで畳みかけるような展開を持った大曲です。


25.Dream Theater(1989年デビュー、US)/The Alien(2021)

プログレッシブメタルの新しい扉を開いたドリームシアター。彼らのセカンドアルバムは衝撃的でした。メンバーはバークリー音楽院卒で、全員凄腕なだけでなく正式な音楽教育を受けたメンバー。音楽理論に基づいて作られたその楽曲はかつてYesDeep PurpleELPといった先達がクラシックとロックの融合を目指したプログレッシブロックの時計の針を大きく推し進めるものでした。目まぐるしい展開の中でもきちんと流れるようなメロディがあり、「完全に構築された音楽美」の極致を目指したそれまでのメタル界の常識を塗り替える完成度のバンド。

その路線のまま突き進んできたドリームシアター。この曲は2021年のアルバム「A View from the Top of the World」からのナンバー。この曲でグラミーのメタルベストパフォーマンス賞を獲得。また、2022年のダウンロードジャパンのヘッドライナーも務める予定です。プログレッシブメタルというサブジャンルは大きな一つのうねりを産み、ドリームシアターはその頂点に立ち続ける現代メタル界のトップバンドの一つです。



NWOBHMから幕を開けた1980年代

以上、1980年代デビュー組でした。USで最初にメタルが商業的に成功した時代であり、「ヘヴィメタル」という音楽ジャンルが確立・認知された時代とも言えます。この頃のメタルは「ギターリフ主体」の音楽であり、ボーカルもハイトーンシャウトのボーカルが多かった。ただ、ボーカルスタイルについてはMotorheadのレミーのようなダミ声というか、グロウルボイス的なスタイルもアンダーグラウンドでは萌芽が見られます。商業的に成功するヘヴィメタルバンドが出てきたことで各種レーベルと契約を結べるバンドも増え、90年代以降に多様化するメタルの種がまかれた時代。

80年代の大きな潮流をまとめると、UKで起こったNWOBHM、そしてそれに呼応するように起こったLAメタル、ヘアメタルブーム、そして地下で進行し、ある時点からメインストリームを塗り替えたスラッシュメタルやインダストリアルメタルの勃興。そして、欧州ではパワーメタルの隆興。USではプログレッシブメタルも生まれます。「グランジ・オルタナティブ」がUSのシーンを塗り替える前の時代。

今回は新曲を出していないので取り上げませんでしたが、80年代デビュー組でヘッドライナークラスの大物といえばMerciful FateManowarNine Inch Nailsがいます。あとはBad Religionなどのメロコアもこの頃生まれています。だんだんとメロコア系とは垣根がなくなってきていますね。

次回は90年代、音楽性の変化はありつつ、世界的なCDの売上のピーク時期でありメタル界も実は商業的には最大の成功を収めた時代でもあります。一気に多様化していくメタルをお楽しみに。それでは良いミュージックライフを。

※1 ただ、たとえばブラックサバスが出てきた1970年とかは「ああいう激しいロックをやっている」だけで十分刺激的というか、社会の権威にたいする挑戦だったんですよね。ことさら歌詞の中で具体的な政治批判とかをしなくても、ヘヴィメタルバンド、ハードロックバンドの存在自体が社会からすると異端であり、刺激的だった。そうした刺激に慣れていった結果、より具体的な変革、現実的な問題を直接的に歌うのがトレンドになっていったのかも知れません。後、考えてみると1970年代にはホラー映画ブームがあったはずなんですよね。映画はあまり詳しくないのですが、そうした「ホラー、オカルト」的なものが70年代のトレンドだったのかもしれません。とはいえ、僕が知っている音楽の範囲だけで言えば、ファンタジックなテーマを主に扱うパワーメタル、エピックメタル系のバンドは欧州で人気が高く、USでは受け入れられない傾向がありますね。

おまけ:「80年代当時の曲を聴きたい方へ」

国別に80年代の曲を集めています。


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