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<壺中日月長>かのうたかおインタビュー

白白庵企画「壺中日月長」
出展作家インタビュー第二弾はかのうたかお。
壺と言えばかのうたかお。
コロナ禍に思うこと、そこに見出す壺中の世界。
どうぞお楽しみください。

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かのうたかお(白白庵企画「壺1グランプリ」にて)

○コロナ禍での制作について

このコロナ禍で制作のペースが一旦落ちたんです。
展覧会が中止になったり、大学講師の仕事でオンライン対応をしなきゃいけなかったり、そういう諸々が一気にやってきて作品制作はペースダウンしました。
ただし、その分自分の作る物に対して整理したり考えたりする時間にはなってたんですよ。HPも作りましたし。
作品そのものの目に見える部分だけじゃないところに、コロナの影響があったんじゃないかな、と思いますね。

僕はどちらかと言えば、頭で考えて作っていく事が多いんですけど、手が止まった分、今まで以上に考える事が多かったです。これまでと違う見え方、考え方も出てきたりしましたし。その意味ではコロナ禍も一概に悪いことばっかではないな、と思います。


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「香合」


もっと言えば自分のやってる事やその動機を根源的に見返す期間にもなりました。作品を発表する場もなくなる、なのにどうして自分は作ってるんだろう?と問い直しましたし、作品そのもののことも考え直したり。

そんな風に「人に何かを伝える事」を問い質したら、やはりずっとコンセプトとして大事にしてきた「価値観の問い質し」が核心にある事は再認識しました。「自分の作品が新しいものの見方をするきっかけになれば良い」と思っています。
例えば、僕の作品は「壺」の形をした物が多いのですが、いわゆる「壺」ではないですし、「壺」の用途もなしていません。しかしそのフォルムやタイトルから「壺」と認識されます。では、「壺」って一体なんなのだろうか?何をもって「壺」と言えるのだろうか?じゃあ、それ以外にも普段当たり前と思ってる事って実は違うものだと捉えられたりするんじゃないだろうか?そんな風に、僕の作品が見る人それぞれの判断基準でものを見るきっかけになってほしいのです。

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『壺中天アリ』

情報についても同じで、ひとつの情報が受け取る人の価値観によって全く異なる結果をもたらす場合がありますよね。
現在のコロナ禍のようにいろんなものが排除され止まっていく、いろんなものを失っていく中で、それでも家でお花を飾ってみたり音楽聴いたりして過ごしているわけです。そうやって心落ち着かせるようなこと、これが美術の力です。

そういうのを僕も作ってるのかな、と漠然とではなくちゃんと考えるきっかけにはなりました。
美術として作品を作ることが僕の生きる糧で、その作品から何かを感じることは受け取る人にとっての糧にもなる。
それはお金だけの問題ではない大切な事です。

僕のやっている事も本当に大事な仕事だな、と思います。

○お茶と茶道具

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白白庵個展「The Potter」呈茶会にて

たぶん漫画「へうげもの」の企画に関わらなかったら茶道具とか作らなかったと思うんですよ。

もちろん今はこうやってお茶道具を作ったりしますし、いろんなお茶人の方々と交流することで今は当時の考え方とは変わってきてるので、興味もあるんですけれども。

昔からお茶を習うきっかけみたいなのは何度もあったんですけど、どうもやっぱり、なんか茶道に対して納得いかないところもありまして。
「やっぱり茶道は苦手やな」という認識ですね。

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白白庵個展「The Potter」呈茶会にて

お茶っていう飲み物は好きですよ。
形式的な部分での「茶道」が腑に落ちない、ストンと入ってこないんですね。
いろんな話は聞いて”人をもてなすための心”とかそれに伴う創意工夫とか、その考え方は理解できるんですけども・・・

ある時友達の稽古について行ったんですね。
で、真夏だったんですけど、部屋を締め切ってクーラーをガンガンに効かせて熱いお茶を飲んで(笑)。全く理解できなかったんですよ。
期待していたのは「暑いときにこそこういうものを出すんだ」とか、暑い中で汗をかきながら飲む時に音や景色で違う涼しさを演出するとかだったんですけど。そうではなかった。

また別のお茶会に行った際に、タイミングを見計って「あのお軸は?」と訊いていたり、畳の目の数を気にしている姿なんかもすごく形式的に見えてしまいまして。これは僕にはわからへんな、と。

人を歓待するために物や人に丁寧に触れる、その為にどう接するのか、というのはお茶を通さなくても当たり前に考えなあかんし、できるようになるはずのことです。
いわゆる「茶道」とその形式的な部分に興味が持てなかった。
だから”お茶道具という前提の中で何かを表現する”という意識はあまり無いです。

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白白庵個展「The Potter」呈茶会にて


それにお茶を知ってしまうと、僕はお茶に合わせたものしか作らなくなってしまうタイプだと思うんです(笑)。
お茶碗はこうやって使う、そのためにこんな風に作る、こうすれば使いやすい、というロジックに沿って作ることももちろん大事なんですけど、そこに捉われてしまいそうで。
「お茶碗らしきもの」で魅力のある器であればそれも茶碗になっていくんでしょうし。
そのへんをぶつぶつ考えてるとやっぱ習わん方がいいのかな、と。
習う事で作る物が面白くなくなってしまうのならば、僕がやる意味はなくなってしまうじゃないですか。
普通の茶碗が並んでいる中にポツンと僕の天アリみたいな作品が当たり前に登場する世界の方が面白いですよね。

○香合

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「香合」


壺になってるのは展覧会のタイトルからなんですよ。
「壺中」とまで言われたら僕も真っ正面から向き合わないといけない。
壺は僕のライフワークですから、自分なりの何かを見せなあかんな、と思いまして。
壺型の香合ってあるのかな、と思って調べてみたら見つからないんですね。
これ面白いんちゃうか、と。

せっかく『壺中日月長』ということやから中も遊んでやろうと。
もっと派手にしてもよかったかもしれないですけど(笑)。
開いた瞬間のアホみたいに真っ赤な感じが楽しいですよね。


○皆具

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「皆具」

最初は香合だけ10個くらい出品してもいいかな、と思ったんですけど。
やっぱり”茶道具っぽいもの”で何やったら面白い、と考えて皆具にしました。

この形は前に作っていた筒形注器とかと同じ流れの形なんですよ。
で、それがひとかたまりに揃ってたら面白いな、と。
「おんなじフォーマットで戦隊モノみたいに並んでる面白さ」ですね。

皆具というパッケージそのものが珍しくて、「THE 茶陶!」みたいな人しか作らない。このマニアックさが僕の琴線に触れてしまったんですね。笑
ちなみに水指の蓋の裏側にだけまた絵柄を描いてあるんですよ。
見せるためのもんじゃないところに描くことで遊んでいます。

○茶盌

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「茶盌」


「どこどこで掘ってきた土」という土へのこだわりに対する遊びの感覚と言いますか。窯を焚く時に使う長石混じりの道具土を混ぜたんですよ。
普通、あまり作品には使わない土なんですけど面白い粘土っぽく見えるかな、と思いまして。

「自分で掘ってきた土」にこだわる感覚が僕にはあまり無いんですよ。
それはそれですごく魅力的だな、とは思うんですが。
なので「ぽい」感じにしてみようと。
悪ノリで軽く見せるんではなく、真剣にやりながらちょっとだけギャグ、みたいなニュアンスですね。

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「茶盌」

僕は「”茶道具”としての抹茶碗」ではなくてもっと大きい意味合いでの「”茶碗”というカテゴリーの中に属するもの」として作るイメージです。
茶道で使う道具だからどうだということではなく。茶碗と呼ばれる物の形をした別の何かかもしれない。もちろん茶碗かもしれない。

茶道具「ぽい」ものを作っていて、茶陶を作ろうとしてないんですよね。
それが見える人には見える。意識しなければ「ちょっと変わった道具だな」くらいに映ると思いますが、アティテュードとしてのクエスチョンはにじみ出ている。

これは僕の制作においては茶碗だけでなくて全般的に言えることなんですけれども。


○今後の茶の湯に期待すること


やっぱり「茶道」というものに入りきれないから、アンチではないにしろ、クエスチョンは常に持ち続けてますね。
”工芸”とか日本で変な進化を遂げた”茶道”、それに伴う”茶陶”に対してムンムンと思うところがあります。

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「香合」

「美術」と「デザイン」の違いを語る時に「デザインは問題解決」と言ったりしますが、それに対して「美術は問題提起」なんじゃないかと思うんです。そこがなければ面白くないし。

そう考えると”茶陶”はデザイン寄りで、問題解決に近いんです。
決まった作法ががあってそれに沿った形で制作される。

僕がやりたいのは”美術”としてアプローチですね。
問題提起としての作品。


茶道、お茶、茶陶、というものをひとつのフォーマットとして使いながら、いろんな物事について考えるきっかけ作りをしている、という感覚ですね。

そうした問題提起があって、それすらも取り入れて楽しんでいけること、それが今後の茶の湯に期待することです。

もっと言えば僕が投げかけた疑問に対して全然違う、期待通りではないような答えが返ってきて欲しいです。そういう自由さがあった方が良い。

さっき言ったように僕が作品制作でやっていることは「価値観の問い質し」です。お茶に限らず何を素材や題材にしても、やはりそこに立ち戻るんですね。それがコロナ禍の中で再確認したことです。

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「茶盌」


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