見出し画像

<壺中日月長>寺田鉄平インタビュー


白白庵 オンライン+アポイントメント限定企画『壺中日月長』
新型コロナによって自宅で過ごす時間も増え、お茶の楽しみ方にも更なる変化が求められる中、白白庵ではオンラインでも日々世界中に発信と提案を続けています。

今回は『壺中日月長』出展作家に「新型コロナ禍における制作」と「今後の茶ノ湯」について出展作品についての話を交えつつ、お話を伺いました。
第一回は寺田鉄平。
「この状況下」をアクティブに生きる陶芸家のお話をお楽しみください。

○コロナ禍における制作について

画像2

「瀬戸白ぐい呑」

ーー新型コロナがじわじわと拡がり始めたのが白白庵での個展「瀬戸白」の頃でした。あの時はここまで大きな変化がやってくるとは予想していませんでしたね。


元々陶芸家なんて人に会わない仕事なので生活自体はそんなに変わらないんですけども(笑)。
外に出る機会も減って人に会う回数もどんどん少なくなって当初は「外に出たいな」、という気持ちも強くありましたが・・・
世間のライフスタイルがリモート中心になることで、飲み会なんかもオンライン中心にどんどん開催されるなりましたよね。
そうすると、自宅という落ち着いた環境で、自分の手元にあるもので飲み会を楽しめるようになるんです。
オンラインで酒好きの人や器好きの人たちが中心の飲み会もあるんですけれども。
普段遠くにいて会う機会のなかった人たちとも、オンライン飲み会の場で交流ができて、さらには海外の方ともやりとりができます。素晴らしいことです。

先日、その方々とオフラインで会う機会があったんですよ。
遠くに住んでて会ったことのない人たちなのに、オンライン飲み会で顔を合わせているので全然初めてという感じもなかったんです。
そう思うと、リモート中心の世の中でも、意外と距離感は縮まるんだな、と思いました。

僕ら作り手が器を作っている時に、その器の向こう側に使い手の人がいるんです。もちろん今までも漠然とどんな人が使うだろうかとイメージをして作ってはいたんですけど。
このところは特定の誰かをイメージして作ることも多くなりましたね。

これまではお客さんが実際に使ってるところはほとんど見えなかったんですよ。それがオンライン飲み会のおかげで見えるようになった。自分の器を使ってくださる風景を目にする事ができるんです。
ここ最近は使うお客さんの手元が近づいたという感覚があります。


画像1

「黒織部ぐい呑」

ーーかなりの頻度でオンライン飲み会に参加されてるんですね。

結構参加していて今では2回以上という週もあります。
日本にいらっしゃるとある外国人ギャラリストが、海外に日本の焼き物や文化を発信していまして。
僕も先日オーストラリアの日本酒コミュニティの人たちを紹介してもらいました。そして方々に日本の焼き物の歴史や酒器の事を簡単に英語でレクチャーしてみたり。もちろん準備は本当に大変でしたけど、コロナがあったからこそこういう動きが生まれたな、と思います。

たとえば日本の蔵元で直接国外のファンに発信しているところもありますし、僕らも「お酒は好きだけど器は詳しくない」という人たちに日本の焼き物のことをカメラの前で作品を見せながら伝えることもできる。

嬉しい事に海外の日本酒ファンの方々もぐい呑を使ってくれているんですよ。お酒だけでなく、器を使うという事も文化として伝わっているんです。非常に面白いし、本当に喜ばしいことです。


○今後の茶ノ湯に期待する事

この半年くらいでオンライン飲み会も通販もみんなどんどんスキルアップしているじゃないですか。"どうやって楽しむか"もそうですし、販売する場合も"どうやって見せたら売れるか"、"どうやってリーチするか"など。この状況になってみんな一気に変化して成長もしていますよね。

茶ノ湯もその意味でオンライン中心の世界に合わせて更新していくんだろうな、と思います。
先日参加した展覧会では、菓子器ではなくて銘々皿を出品してください、という依頼もあったり、回し飲みもできなくなるのでお点前も変わっていくんでしょうね。
感染症対策をみんなが当然にやりながら、それが日常となった世界に生きていく中でいろんな形が変わっていく予感はあります。


DSC09602のコピー

白白庵個展「瀬戸白」
【 井上大輔氏(ARTS)によるカクテル呈茶会 】


例えば「茶盌が具体的にどう変化するか」という考えまでは至ってないんですが・・・
お茶会に行く機会も減って、お稽古もずっと中断していた中、「ちょっとお茶を飲みたいな」という時に自分で点てる瞬間というのはありました。

自宅で過ごす時間が増えて快適さを求めたり、オンラインで映ってしまうから、という理由で家具屋さんが忙しくなった、という話がありますけれども。お茶やコーヒーのような嗜好品に対しても同様に少し見つめ直す機会に繋がるんじゃないかと思います。自宅で抹茶を楽しむ人も増えたら嬉しいですね。
そういう風に自分の手元で物事を楽しむ、ということをみなさんがどんどんやってくんだろうな、と思います。

リモートが増えた事でもたらされる変化に最初は僕も戸惑いがあったんですけど、もう当たり前になってきたじゃないですか。
意外と生活に浸透したなと感じます。

DSC00111のコピー

白白庵個展「瀬戸白」
【 傳田妙京氏による呈茶会 】


そうするとオンラインで会っていた人たちと「実際に会うこと」が特別なことになっていく。
人と会うこと自体が特別なイベントになっていく。
だからお茶会はより一層「一期一会」みたいな感じになるのかな、と思います。


○寺田家の窯

寺田さんは美山陶房の五代目。
お父様は窯の研究でも大変な功績を発表されていますね。

父が本当にあちこちで窯を作ってまして。
今焚ける薪窯で言うと、うちの庭にひとつ。尾鷲市に穴窯と登窯の合体したものがあって、豊田市に十四連房の大きい登窯、大窯、穴窯、丸窯。
その辺が現実的に焚けるモノですね。
それ以外にも史跡公園に復元した窯や、海外ではカナダにあったり、イギリスにあったり。
最近は高山に一基、更にうちの横に作りかけのがもう一基。
私も築窯に参加できた物だけでも十くらいはありまして、窯について学ぶ大切な機会となりました。

制作に使うのは尾鷲市の窯とうちの庭にある窯が中心ですね。

電気窯とガス窯も無駄にいっぱいあって電気が三基とガスが四基。
親子で作陶するには無駄に設備が広いんで維持費がアホみたいですね(笑)。
それぞれの窯に得意不得意もあるので用途で使い分けてます。


○「瀬戸白」

画像3

「瀬戸白茶盌」

初発表が白白庵での個展でしたが、その前後に焼成でだいぶ失敗もしましたね。おかげでだいぶこなれて来ました。
とは言え掴みつつはあるけどいつもすり抜けていく感覚があります。

もともとは販促品なんかにする廉価なオーナメントとかに使われる粘土原料を無理くり釉薬にしているので扱いが本当に難しいです。

○「瀬戸黒」

画像4

「瀬戸黒ぐい呑」

今年だいぶ瀬戸黒の釉薬をいじったんですよ。
このぐい呑良いでしょ?もっと値段上げたいくらいですよ。(笑)

ーー片面は釉薬が溶けているのに、反対側は縮れかかってますね。
艶っぽさと乾いた感じが共存してて、光の当て方でトーンが変わって見えますね。

画像5

でもこの感じは偶然なんですよ。
狙いたいけど狙えない。窯から引き出すタイミングの問題もあります。
偶然に出てくるこの作り手の意図を上回るもの、これが陶芸をやっていて本当に面白いところです。
本当は「工芸」としてはそれじゃいかんのですけど(笑)。
でもっぱり陶芸のそこが一番好きですね

根の人間がゆるゆるなんで(笑)。

ーー狙ってるポイントみたいなところはあるんですか?

もちろん”伝統”のところは根っことして押さえておきたいんですけれども、最終的に目指すのは今現代に生きている僕らが使う瀬戸黒です。
黒い焼き物をいろいろ作って来ましたが、黒の色は難しくて楽しい。
炭化の黒があって、釉薬からは瀬戸黒があったり、マットな黒があったり。
黒の色の違いから質感の違いが出るじゃないですか。このぐい呑はその質感がナチュラルに出たんで良かったな、と思います。狙いすぎるとやらしいんですけどね。

画像6

「瀬戸黒茶盌」

茶盌の方は梅花皮っぽくなる部分を狙っていますが、うまくいくかどうかは博打みたいなもんです。

梅花皮の釉薬がカサッとしているようでしっとりとしたところを目指したいんです。ヌメっとした感じではなく、しっとりと。

桃山時代の瀬戸黒の黒は漆の黒を狙っていたんだと思うんです。

真っ黒に仕上がる釉薬を使ったんじゃなくて、普通に焼いたら茶色くなる鉄釉を引き出して作ったのはそういう理由ではないかと。

画像15

画像7

漆の黒は透明感のある漆を塗り重ねる中で、光が屈折して黒くなる。
言い換えるなら光として黒いんです。透明感のある黒で艶々して見えます。
黒く焼き上がる釉薬はマットに仕上がります。色として黒いんです。
茶色く焼ける釉薬をわざわざ引き出して黒くしていたということは、その光の屈折による黒を目指していたからじゃないかと思いますし、そういう視線を踏まえた瀬戸黒を作りたいんです。


○織部茶盌

画像8

画像9

「織部茶盌」

白白庵個展の時に出品した作品の兄弟分ですね。
白白庵での初個展に織部の茶盌は窯変を様々にみて貰いたいという思いの中で、絵付けしたものより総織部を中心にピックアップしまして。
今回やっとお目見えです。

○織部水指(銘:無双)

画像11

画像12

「鳴海織部水指 銘”無双”」

形自体は有名な伝世品をモチーフにしているんですが絵付けで遊んでます。
『無双』はコナミさんのとあるゲームの隠しコマンドから来ています。
↑↑↓↓←→←→BA。いきなり強くなってスタートするやつですね。
その世代の人には響くはずだと(笑)。
これに入れた水でお茶を点て、無双状態になってコロナを乗り切りましょう。


【「壺中日月長」オンラインショップ特設ページ】


今展覧会のインタビューシリーズは会期中随時更新。
次回をどうぞお楽しみに。


この記事が参加している募集

オンライン展覧会

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?