自作小説『君の笑顔ができるまで』第2話(最終話)

神保町

前回会った日、シャオリーに火鍋をご馳走になった。その時、次回は私が神保町へ案内する約束をした。

神保町は、古書店街である。その中に新刊の中国語書籍専門店が私が知る限り、2店舗ある。

すずらん通りにある内山書店と東方書店である。

日本語の古本はとても魅力的だが、シャオリーには是非、内山書店と東方書店を紹介したかった。
中国を日本でも少し感じられる空間を提供したかったからだ。

靖国通り

しかしまずは、王道の靖国通りの古書店街を紹介しなくてはならない。神田古本まつりのメイン会場でもあるからだ。今度行われる時は連れてきてあげたいと思った。

葉桜の季節なのに汗ばむくらいの気温の中、靖国通りを2人で歩いている時、ある店の前でシャオリーがワゴンセールの中の1冊を指差し、白い歯を輝かせながら、涼しげな目を糸目にし、

「ワタシ、ヒガシノケイゴワカリマス。チュウゴクニイルトキ、ホンヤクボンハ、スベテヨミマシタ。ワタシデモ、ニホンゴバンヨメルカナ。ハハハ。」

と照れながら、嬉しそうな顔をした。

そうだ、私はこの顔が見たかった。近いとはいえ、海を越え日本に来た異国の青年は、日本語も中国語も話せず、孤独だったと思う。自分の持ち物を手にとったような安心した笑顔はとびきりだった。

シャオリー「ワタシ、ヒガシノケイゴノ『予知夢』ヲカイマス。オカイモノスキデス。」

私は「やっと笑ったね。これから、自分が楽しいと思うことをどんどんやれば、道は開けてくるんじゃないかな。そしたら、自然と友達が見えるはず。」と言ってみた。

シャオリーはしばらく黙った後、

「...ワカリマシタ。」

何やら考えながらも、低く力強い声だった。

中国語書籍

次に、すずらん通りの内山書店と東方書店に行った。

内山書店の中国語書籍コーナーで物静かなシャオリーが、目を輝かせ、顔をくしゃっと笑いながら、

シャオリー「ハイズ(海子)ノ、詩ガアル!ワタシ、チュウガクセイノコロヨンデマシタ。トテモトテモイイ詩デス。ミェンチャオダーハイ、チュンヌアーンホアカーイ(面朝大海,春暖花开)。」

私「素敵な響き。それどう言う意味?」

シャオリー「ウミニカオムケ、ハルヲマツ。」

私「ミェンチャオダーハイ、チュンヌアーンホアカーイ。海に顔向け、春を待つ。
そこに海あり花咲けば、国は違えど心は通づる。」

シャオリー「オタマ、詩ガワカッテル。ワタシ、ハイズノ詩もカイマス。」

店内を眺めながら、2階のDVDコーナーや高価な専門書を満面の笑みを浮かべながら、見ているシャオリーは、前回の無表情の青年とは違う。

友達とは


神保町駅で別れの際、シャオリーは

「オタマ、アリガトウゴザイマス。ワタシ、キョウカンガエマシタ。トモダチノテイギヲ。
トモダチトハ、イッショニイテタノシクナルヒトデス。オオイスクナイカンケイナイデス。ワタシニハ、トモダチガイマス。オタマデス。」

そして、最後に
「面朝大海,春暖花开。クニハチガエドココロハオナジ。」

と心地よい風と共にシャオリーは改札を抜けていった。

終わり。

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