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ショート百合小説《とうこねくと! ぷち》東子さまの瞳に捕らわれて

 みなさん、こんにちは。北郷恵理子です。
 
「……」
 
 今、テーブルに向かいあわせで座り、何も言わずに私の目をじっと見てくる奥さま──神波東子さまの付き人をしています。
 
「あの……東子さま?」
 沈黙に耐えられなくなった私は口を開きます。
 
「……」
 それでも東子さまは口を開くこともなく、私の目をじっと見つめています。
 
 そういえば……と、私は記憶をさかのぼります。
 
 東子さまと初めてお会いした時にも、この瞳に吸い込まれたんです。
 この、ダークブラウンの、大きな瞳に。
 
 その瞳が、また、私を虜にします。
 その瞳が、また、私を吸い込んでいきます。
 
「東子さま……」
 
 私の口から出た言葉は、喉の奥でかすかに引っかかってかすれました。
 
 東子さま……その瞳に映る私は、どんな表情を浮かべているでしょうか?
 そのダークブラウンの大きな瞳を通して、東子さまには、私がどう見えているのでしょうか……?
 
 言葉を発することもままならないほど、東子さまの瞳に捕らわれた私。
 もう一度声を出そうと思って小さく息を吸った時、目の前の瞳が動きました。
 
「恵理子ちゃん」
 
 私より先に、東子さまが名を呼びました。
 いつもより小さく、呼吸を含んだかすかな声。
 
 その声に、私は大きく息を吸いました。
 
「東子さま」
 
 今度こそしっかりと、その名を呼べました。
 それを聞いた東子さまは、フッと小さく息を吐きます。そして──
 
「お願い……目薬、買ってきて」
 
「はい!?」 
 私は思わず変な声を上げました。
 
「そう、目薬……。コンタクト使ってたら、どうも目が乾いてきちゃってね」
「それを伝えたくて、ずっと私のこと見つめてたんですか?」
「そうとも言えるけど、それだけじゃないのよ」
「え?」
「目がしょぼしょぼするから、目の前のあなたがぼんやり見えてね……。恵理子ちゃんのことをしっかり見ようと思って、ずっとジッと見つめてたの」
 そう言って前のめりになり、私の瞳を見つめてくる東子さま。
 
「……あ、もう無理だわ」
 
 そう言った次の瞬間、東子さまは私にキスをしていました。
 
「んっ……」
 突然のことでしたが、東子さまの『突然』には慣れっこのつもりです。私は東子さまのキスに身を委ねました。
 
「ずっとあなたを見つめてたら、我慢出来なくなっちゃった」
「それは……こちらも似たような気持ちです。東子さまの瞳に捕らえられたら、もう逃げられないんですから」
「人をヘビみたいに言わないでちょうだい」
「あ、まさにヘビですね。それに似たような感じです。声も出せず、動けなくなる感覚……」
「口が過ぎるわよ」
 
 そう言った東子さまは、私を床に押し倒すと強引にキスをしました。
 
「んくっ……」
 激しいくちづけに、思わず息が荒くなります。
 そして、唇を離した東子さまの瞳を見た瞬間「しまった」と後悔の念がわきました。
 
 その目は、あの時パソコン教室で見た目──獲物を狩る目をしていたのです。
 
「主人にそこまで言うなんて、いい度胸してるじゃない……恵理子」
 
 ゾクッと身震いすると同時に、全身の血の気が一斉に引いていきます。
 目の前の主人の瞳がギラリと光ります。
 
 1月3日──『瞳の日』である今日、自分の主人の瞳に焼かれるとは……
 
「さあ、覚悟は出来ているわね?」

 東子さまの低い声が、鋭い瞳が、私の背筋を震え上がらせます。 
 ああ……お仕置きの始まりです。

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