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連載百合小説《とうこねくと!》東子さまvs元カノvsキス魔vs私……!?(2)

 《前回のあらすじ》
 偶然にも、高校時代の恋人・南武ちゃんに出会った恵理子ちゃん。ひさびさの再会に、南武ちゃんは恵理子ちゃんに抱きつきます。
 しかし、それを見た東子さまは険しい表情……
 初対面の東子さまと南武ちゃん。現恋人vs元カノの戦いが勃発し、戸惑う恵理子ちゃん。
 その時。聞き覚えのある声がし、また誰かが現れて──



「西條さん!?」
 
 私は思わず叫んでいました。そこに立っていたのは西條葵さん。東子さまと私の唇を奪った、超重度の『キス魔』です。

 私の声に、ケンカをしていた東子さまと南武ちゃんもそちらを振り向きます。東子さまは表情を変えませんでしたが、突然現れたゴスロリっ子に、南武ちゃんの頭には疑問符が浮かんでいました。
 
 それもそうです。南武ちゃんと西條さんは初対面なのですから。

「おひさしぶりです……。北郷さんに、神波さん……それと……?」
「あっ……南武有希です」
 急激にクールダウンした南武ちゃんがあいさつをします。どこか拍子抜けした声です。
「うふっ、かっこいいお姉さん……。はじめまして、西條葵です……」
 そう言うと、西條さんは南武ちゃんに歩み寄り──

「んんっ!?」

 ああっ、やっぱり……。私は心の中でつぶやきます。

「……ぷはっ。厚みがあって、しっかりとした弾力……。芯の強さをとても感じる唇ですね……」
 西條さんは、お得意の唇論評をすると満足そうに唇を離しました。初対面の女の子に突然キスされた南武ちゃんは、完全に放心状態で立ち尽くしています。
「ところで、みなさんおそろいで何を……?」
 そんなこともお構いなしに西條さんは尋ねてきますが、何をしていたかと言われても……
 
 私が答えに戸惑っていると、「何でもないわよ」という落ち着いた声がしました。東子さまです。
「でもまあ、いいところに来たわね」
 東子さまは西條さんのもとへ歩み寄ります。
 そして、東子さまのとった行動に、私は固まってしまいました。

 東子さまは、自ら進んで西條さんにキスをしたのです。
 
「……!」
 目の前の光景に、私は言葉を失い、膝から崩れ落ちてしまいました。
「……んっ。積極的ですね、神波さん……。私より先にキスだなんて……」
「どう? 今日の私の唇は」
「今日の神波さんの唇、壊れそうに儚い柔らかさがあります……。ほんの少ししょっぱくて……まるで、涙の味ですね……」
「ふふっ……ほんと、泣きたい気分よ」
 遠くで聞こえるようなふたりの声。私は立ち上がれず、砂浜に座り込んでいます。
 そんな私を見た東子さまが、うっすらと笑みを浮かべてこちらに近づいてきました。

「恵理子」

 さあっと血の気が引きます。氷のような笑みを浮かべ、私のことを冷たい声で呼び捨てにする東子さまは、座り込んだ私の背後に回り、抱き締めるように私の体をガッチリとホールドします。
「東子さま!?」
 華奢な体からは想像出来ないほど強い力です。まったく動けません。
「葵ちゃん、来なさい」
 東子さまは西條さんを呼びます。「はぁい」とゆるい返事をし、西條さんがこちらに向かってきます。
「東子さま! なにするつもりですかっ!?」
 ジタバタする私に、東子さまは不敵に微笑みながら耳元に近づき──

「私を嫉妬させた罰よ。おとなしく私以外の子にキスされなさい」

 全身が凍り付きました。低く、甘いその声は、私には処刑宣告にしか聞こえませんでした。

「いっ、いや……!」
 声は震え、目には涙がにじみます。東子さま以外の人とキスするなんて、もう絶対に嫌です。しかし西條さんは確実に歩みを進め、私の前に立ちました。
 
「葵ちゃん。この子にもキスしてあげたら?」
 冷たい東子さまの声。私は観念してギュッと固く目を閉じます。その時。
 
「私……北郷さんには、キスしませんよ……?」
 
 凪いだ海のように静かな声で、西條さんは言いました。



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