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光に堕ちた涙 -もしくは運命に踊らされた悲しみの系譜

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私の回顧録。 不定期で更新。
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2020年6月の記事一覧

第十一章 戦場に流れた若者の死は報われた試しがない

第十一章 戦場に流れた若者の死は報われた試しがない

ひたひたに注がれたストロングゼロを置かれたクソガキを横目に始まったのは間奏一気という非人道的ゲーム。畜生が行うゲーム。
(※ルールは簡単。カラオケで間奏前に歌った人が一気飲みするだけ。ばか。殺人。うんこ)

浜崎あゆみのユーロビートを入れたHさん。
「一番若手からいこや」の提案で、クソガキからのスタート。
しかしこのユーロビートに仕掛けられた巧みな罠。
一番手がいきなり間奏を迎えるんです。

「は

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第十章 女子高生は彼の頭を当たり前のように拳銃で吹き飛ばす

第十章 女子高生は彼の頭を当たり前のように拳銃で吹き飛ばす

怒りに震える手で酒を注ぐ私。

刈り上げの社長。

死んだ目のクソガキ。

それを草木に隠れて獲物の頸動脈をじっと狙うHさん。

北新地〜Hと僕と時々クソガキ〜といったドキュメンタリーが始まりました。

クソガキは火の国熊本出身、就職のため大阪に出てきたと聞きました。
社長曰く若手一番の期待株。次世代はこのクソガキに懸かっていると言っても過言ではないとのこと。

「酒で潰れたことないっす自分」

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第九章 オトナはクソガキを燃やしたカスでパックする

第九章 オトナはクソガキを燃やしたカスでパックする

当たり前のように夜勤をして、酒臭さを毒ガスの如く吐き出して登校。
学校のシャワーを浴び、学校のソファーで睡眠をとり、授業を受けた後に部活動。

この狂ったサイクルの繰り返し。
私の生活のベアリングは腐食し、異音を発していました。

私は大量のカフェインを体内にぶち込み、心の中で嗚咽しながら阪急電車に乗り出勤しました。
阪急は天六で堺筋線へと変わります。

高級住宅街と西成を結ぶ、関西の貧富の差を路

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第八章 割れたのはグラスではなく心なんだよなぁ

第八章 割れたのはグラスではなく心なんだよなぁ

むかし むかし あるところに あいをもとめる ホステスが いました

ホステスは きたしんちで のみやの おとこのこに  であいました

なくしていた パズルの さいごの1ピースが はまったかのように あいは うごきだしました

でも おとこのこへの あいは けしてかなうことが ありません

かのじょの あいは いきさきのない かみひこうきのように てをはなれてから かえってきませんでしたとさ

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第七章 あいうえおんな(愛飢女)➖ She is hungry for love➖

第七章 あいうえおんな(愛飢女)➖ She is hungry for love➖

Jさんのバースデーから数週間、これまでの激動の日々が嘘のようにしっぽりと、まるで北新地全体が疲れた身体をエステで癒すかのように穏やかな日々が続きました。

私のタバコはエコーからハイライトに変わりました。
たった数百円のランクアップ。
気持ちはリアカーからレクサスへと大きくのし上がった気持ちで一杯でした。
(※当時のエコーの値段は250円。ハイライトは420円。どちらも日雇い労働者から圧倒的支持を

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第六章 戦を終えた兵士は灰のように静かに眠る

第六章 戦を終えた兵士は灰のように静かに眠る

北新地の空に赤マルとエコーの香りを残しながら、店内へと足を進める私とJさん。

御堂筋のように真っ直ぐ歩く私と対極にJさんの足取りは、京都から琵琶湖へと抜ける山中越えを彷彿させるグニャグニャと奇妙な千鳥ルートで進んでいました。
(※山中越えはかつて走り屋達を熱狂させ、当時最強と言われたLHというオービスを導入させるに至った)

店内に帰るとグループ最強の喧嘩師KNさんがコーヒー牛乳を飲み、横には北

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第五章 愛はユンボより重く、気の抜けたシャンパンより味気ない

第五章 愛はユンボより重く、気の抜けたシャンパンより味気ない

チクタク、チクタクとJさんのアルコール爆弾は確実に彼の体内を蝕み、意識を遠い別世界へと誘って行きます。

Jさんは奥の灰皿の前に置かれた空き瓶ケースに腰掛け、買ったばかりの赤マルに火をつけました。

「まだ序盤やのに酔うてもうたわ。」
"死神が振り下ろした鎌"、"アルコール時限爆弾"。
私は歯の裏まで出かかった言葉を吐き気を催しながらも胃の中に逆戻りさせました。

私は清潔で健やかな花王のような人

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序章

序章

今日は解体新書ではなく、私の回想録にしたいと思います。

大学時代、濡れた犬のような異臭を放つポロアパートで一人暮らしをしていた私は、授業と部活とアルバイトに殺されていました。

吸い殻が溢れるペットボトル、ゴミ箱はなく無造作に置かれたゴミ袋、酒の空き缶。
私の居住する部屋には、人間の荒んだ心が百貨店のように敷き詰められていました。

日本国民なので"健康で文化的な最低限度の生活を営む権利"を持っ

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第一章 井の中の蛙大海へ

第一章 井の中の蛙大海へ

扉の向こうは有名人のサインだらけ。

内装はオールピンク。

鮮やかな色ですが、どこか悲しく暗い雰囲気には変わりありませんでした。

鼻をかすめる香りはどこか懐かしく、その香りは私を北新地から難波へと連れて行ってくれました。
その香りを思い出すのにそれほど時間はかかりませんでした。
目を閉じるとその風景が目に浮かんできます。
それは風俗の待合室の香りでした。
悶々とした男達が全く興味のない雑誌の興

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第二章 初陣の夜、鬼達は静かに刃を研ぎ澄ます

第二章 初陣の夜、鬼達は静かに刃を研ぎ澄ます

記念すべし初出勤。
0時オープン5時閉店というトリッキーな営業体系を取る店舗。

「おはようございます!」私は清潔で健やかな毎日を過ごす花王のような人間(実際は不潔で自堕落な生活を送る貧困層)なので、大きな声で挨拶。

初出勤なので皆さんの自己紹介を受けました。

1.代表
グループの副ボスでこの店のトップ。「君臨すれども統治せず」を貫き、店舗の実務は先日紹介したHさんに任せている。丸坊主にハット

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第三章 アネモネの花は邪悪な毒蛾に食い潰される

第三章 アネモネの花は邪悪な毒蛾に食い潰される

「ベルエ一本や」
男性客は席に着く前にオーダーを告げました。

夜の世界ではドンペリニョンと並ぶ定番シャンパン。
ラベルに飾られるアネモネの花が象徴的。

「いらっしゃいませ!」と特攻隊Kと唐獅子牡丹Nはすぐさま席に案内。

さすがだと私は感心しました。
客がいないため従業員が近い一番手前の席にあえて案内しました。
全盛期の巨人を支えた名二塁手 仁志敏久を彷彿させる迅速と丁寧を兼ね備えたご案内。

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第四章 雨音は危険な報せ

第四章 雨音は危険な報せ

授業→部活→夜勤の無限ループ。
私は大学生なのか。それとも捕虜なのか。
現代版蟹工船と言わんばかりの生活。
夢と希望を乗せてきた船は舵が取れず、ただただ太平洋上を彷徨うばかりです。

その日も堂島川を眺めながらエコーを深く吸い、川の向こうの景色に叶わぬ希望を乗せて気体より重い煙を吐き出していました。

その日は生憎の雨でした。
「この雨が俺の汚れた心を洗うシャワーになれば」
雨は激しく降るわけでも

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