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キャリアチェンジ:証券会社の投資銀行部門からベンチャー企業のCFOへ

これから転職などキャリアチェンジの事例を紹介していきたいと思います。1回目は外資系金融機関(投資銀行)からベンチャー企業の幹部(CFO)に転職をした男性のお話です。
転職前から何に悩み、何を考えて、どんな仕事にキャリアチェンジをしたのか、給料の問題はどうだったのか、生々しく書きたいと思います。

*本文中の氏名と会社名は仮称です。

南條さん(外資証券勤務)の仕事と収入

外資系証券会社シルバー・ストーン(仮称)の投資銀行部門でVP(=課長クラス)として、企業にM&A(企業買収)や資金調達(増資や社債発行)を提案する仕事を行っていた南條爽さん(仮称/35)。例えば、海外進出をしたいと考えている上場企業経営陣に対してそれを実現する為の戦略を提案して、その実行を手掛けます。具体的には進出予定先の国の会社を買収することで一気に当該国へ展開する為に、どの会社を買収すれば良いか、その為に資金はどの程度必要か、その資金をどう調達して、如何にM&Aを成功させるか、戦略を描きます。そして 大量の資金を調達する為の増資を手掛けて、その資金で対象会社を買収する為のプロセスに伴走して助言し買収を実現させます。手掛けた案件が新聞の一面を飾ることもあり、この様な経営に大きな影響を与える仕事にやりがいを感じ、年中ほぼ無休で連日深夜2時3時まで一心不乱に仕事をしてきました。

仕事尽くしの日々ですが、世の中を動かしているというプライドと5000万円を超える高い年収(年俸2500万円+ボーナス約3000万円)が自分を納得させてくれていました。
そして今後も実績を上げ続けてMD(マネージング・ディレクター=部長)を目指すと漠然と考えて日々忙しく働いていました。

ちなみに、脱線しますが、この会社は給料が高いことで有名で高学歴な新卒学生の間でも人気です。新卒1年目や第二新卒の人々が採用される一番下の職位であるアナリストでベース年俸950万円+賞与、同クラスを2-3年務めて次のクラスであるアソシエイトに昇格するとベース年俸1600万円+賞与(数百万円~ベース年俸と同等水準ほど)という高水準です。

加えて、最近は外資金融やコンサルティングファームで高度プロフェッショナル制度が導入され始めており、同制度を選択するとアナリスト・クラスでもベース年俸が更に100万円以上高くなります。

キャリアの悩み

さて話を戻します。上述のようにバリバリと仕事をしてきた南條さんですが、2020年にコロナ禍でリモートワークとなりクライアント企業による案件の検討が足踏みして少し自由な時間が出来ました。そうすると、ふと自分は何がしたかったのだろう?と考える様になったのです。南條さんの心の中を覗いてみましょう。

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企業からM&Aのアドバイザリーや資金調達の引受を受注する為にライバル会社と競い合ってきたが、もっと世の中の役に立てることはないのか?資金調達やM&Aの局面ではクライアント企業の役に立てるが、それ以外の局面でクライアント企業の経営に関われることは無い。クライアントにとって本当に大事なことは他にもある。自分は当事者でなくて、あくまで第三者。。。何か物足りない。

プライベートを振り返ったら、子供が生まれた時には立ち会えず、かわいい盛りの幼い時期の成長をあまり見ることが出来ておらず、家族旅行はしばらくしていない。先日、妻の話が長いと感じて「結論は何?」と言ってしまって大切な人に何を言っているのだろうと自己嫌悪に陥っている。何とか日程調整をして家族で外出をする予定を立てていたが、子供が発熱をしたと聞いた時に舌打ちをしてしまったし。忙しすぎて仕事モードから切り替えが出来ていないのと、寝不足でイライラしているのだろう。30代も半ばになって20代の時の様なハードワークが体力的にきつくなってきたのを感じる。管理職に昇進したら楽になると思っていたけど、働き方改革で若手のスタッフは月45時間までしか残業をさせられないし、でも仕事はあるのでしわ寄せは自分を含めて中堅社員にくる。30代になっても20代前半の時と同じ働き方で、おじさんには正直きつい。。。

転職か?ライバル会社に移っても仕事は同じだ。ヘッドハンターからはPEファンド(プライベート・エクイティ・ファンド:企業に投資するファンド運営会社)での採用の話しが時々持ち込まれてくるけど、今更PEファンドに行ってもなぁ。数年前に転職した元部下や同僚が色々なPEファンドで既に活躍していて、もし自分がその世界に入っても彼らの方が立場も、職位も自分よりも上になる。本質的なことではないかも知れないけど、それは自分のプライドが許さない。もっと早く転職を考えた方が良かったかなぁ…

そもそも自分は何をやりたいのだろうか?
どうせ働くなら、もっと世の中の役に立ちたいかな。
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今までは忙しすぎで自分のことを落ち着いて考える時間がありませんでしたが、30代半ばになって立ち止まり、自分のキャリアや人生を振り返り始めたのです。

外資金融からベンチャー企業のCFOへ

以上の様な思いを抱えながら年末年始に実家に帰った時、昔使っていた自分の部屋で当時良く聞いた音楽を流しながら横になっていると、学生時代の思い出が蘇ってきました。更に、当時抱いていた青臭いけど自分に正直な夢も。「世の中を変えるインパクトのある事業をやりたい。そして、経営者として注目されたい。」そんな風に考えていたなぁ…と。

新卒時の就活では、経営者になる為にはファイナンスを理解すべきと考えて金融へ。その中でも花形だと思った投資銀行に就職し、気がつけば10年以上が経過。「注目されたい」との思いは薄れたが「世の中を変える事業をやりたい」という気持ちは今もある。「自分にとって大切なのはこの思いに繋がる仕事をすることではないか」という考えが胸の内に湧き上がってからは、南條さんのアンテナは情報をビンビンとキャッチし始めました。そして、知人のご縁で転職したのが現在の職場です。

転職先はAIベンチャーのDSX社(仮称)のCFO(Chief Financial Officer:最高財務責任者)です。創業3年、年商8億円のテクノロジー・ヘッドな会社で創業社長は、超一流の技術力と独創的なアイデアを持つ生粋のエンジニア。元コンサルタントやデータサイエンティスト、エンジニアなどが20名ほど集結してDX化推進の波に乗ってビジネスは成長中。2年後のIPOを目指しています。

更なる成長の為に大型の資金調達を行うことや、IPOに向けた準備、経営管理面の強化などが南條さんに期待されていることです。CFOと言っても経理財務のみならず、総務・人事・法務・など管理部門の立ち上げと統括もしなくてはなりません。
また、国際ビジネスに精通した南條さんが加わったことによって、会社には海外進出という夢も現実的な目標になりました。会社はIPOが出来れば、次はその資金を使って海外企業のM&Aを実施して海外進出をしていくというビジョンを描いています。

転職活動中の苦労

ちなみに、南條さんの転職活動は意外に苦戦をしました。スタートUPの会社でのCFO候補や大企業の経営企画やM&A担当などのポジションへ応募をしましたが、報酬条件が合致しない上に、何よりも会話が嚙み合いませんでした。

例えば、応募したスタートUPの社長や経営陣は自社の事業によって社会のありようを変えて今よりもずっと良い社会を創ろうと理念と情熱を持っていました。
「なぜこの事業をやりたいのか?」「自社の理念に共感できるのか?」「それはなぜか?」
などと問われるのですが、南條さんの回答は「御社が狙っているマーケットは黎明期で、このビジネスモデルは市場を席捲できる良く考えられたものであり、収益が上がって更に成長すると思うからです」と言った内容でした。会話は全く噛み合っていませんよね。

また、希望年収を問われて「こだわっていません。半分以下になっても構いません」と答えていたのですが、最低ラインは2000万円。5000万円超から半分以下になっても良いけれど家族もいるので少なくても2000万円以上は欲しい、と話していました。

これらの話し聞いた応募先の人々は「そうじゃなくて、我々が実現しようと思っていることに対してはどう思っているかな?」「この人はお金だけ?」「良い人で優秀そうだけど、何か違うなぁ。価値観が異なるのかな」と思われてしまい、また、ある時には「高い給料は金融の会社にはお金が集まるから給料が高いだけで、それは純粋にあなたの価値ではないから。仕事、業種を変えるなら考えを変えないと」 と言われました。そして面接では経験やスキルは高く評価されるのですが不採用が続きました。

ビジネスの目的は収益をあげることだと当然の様に考えていた南條さんと、良い社会を創ろうとビジョンを掲げて挑戦している応募先の人々との会話はすれ違いでした。
また、お金に対する考え方もギャップがあり、転職活動を始めたばかりの時はその会社の年収水準を聞いて「こんな低い給与が存在するんだ。。。」と純粋に驚いていました。ヘッドハンターに電話をして「この年収水準は普通なのですか?」と質問をして確認をしていました。

この様な壁に当たりながらも南條さんは真摯に自分に向き合い深く考えて「自分は仕事を通じて何を実現したいのか?」という問いに答えを出していったのです。給料についても外資金融の一部の仕事が特殊であっただけだと認識出来ました。

その結果、自身がやりたいことと会社が目指していることが合致している今の会社に出会い、ご入社を決意されたのです。

入社後の姿

そんな仕事に南條さんは、活き活きと取り組んでいます。信頼する仲間と一緒に、世の中に価値があると信じる事業を創っていくことに、とてもやりがいを感じているそうです。

因みに、年収は大幅ダウン。基本年俸だけでも2500万円から1200万円に減収。ストックオプションはありますが、賞与は当面無しです。成長中とは言え、会社の知名度は殆どありません。幹部は自分より2-3歳は年下で社員は20代が中心。仕事の連絡は電話やEメールではなくSlackといったカルチャーです。
ギャップに直面する日々…。とはいえ、全てが新鮮で楽しい日々だそうです。久しぶりに会った友人からは「明るい人柄になったね」とよく言われるとのこと。お話を伺った時も、情熱にあふれながらも、肩の力を抜いた自然な雰囲気が印象的でした。

山本恵亮
1級キャリアコンサルティング技能士
プロフィール
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・参考ツール(無料):タイプ分け診断
・推薦図書一覧:キャリアの図書室


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