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#和歌
「万葉集」私撰秀歌 歌巻3・337
「憶良(おくら)等(ら)は今は罷(まか)らむ子(こ)哭(な)くらむその彼(か)の母も吾(わ)を待つらむぞ
山上憶良」
●整理:
憶良等は
今は罷らむ
子哭くらむ
その彼の母も
吾を待つらむぞ
●歌意:
宴席にて──。
この憶良はもう退出しよう。うちでは子供が泣いているだろうし、その子の母も私を待っているだろうから。
●感想:
「ら」で重ねたリズムがいい。ユーモアがあって「仕
「万葉集」私撰秀歌 歌巻3・318
「田児(たご)の浦ゆうち出でて見れば真白(ましろ)にぞ不尽(ふじ)の高嶺(たかね)に雪は降りける
山部赤人」
●整理:
田児の浦ゆ
うち出でて見れば
真白にぞ
不尽の高嶺に
雪は降りける
●歌意:
田児の浦より出て見れば、ああ白い。富士山の高い峰に雪が降っている。
●感想:
「真白にぞ」という部分が、感動を大きく膨らませてくれる。
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「万葉集」私撰秀歌 歌巻3・255
「天(あま)ざかる夷(ひな)の長路(ながぢ)ゆ恋(こ)ひ来れば明石の門(あかしのと)より倭島(やまとしま)見ゆ
柿本人麿」
●整理:
天ざかる
夷の長路ゆ
恋ひ来れば
明石の門より
倭島見ゆ
●歌意:
西方よりの長い海路の間、故郷を恋しく思い続けていた。そして今明石の門に来た。そこより大和の陸が見える。
●感想:
遠路の末に見えてきた故郷への喜びが、じわじわと伝わって来る。
「万葉集」私撰秀歌 歌巻3・235
「大君は神にしませば天雲(あまぐも)の雷(いかづち)のうへに蘆(いほり)せるかも
柿本人麿」
●整理:
大君は
神にしませば
天雲の
雷の上に
蘆せるかも
●歌意:
天皇は神であるから、天に轟く雷(いかづち)の名を持つ山の上に、行宮(あんぐう)を作られた。
●感想:
するっと読める。「天雲」「雷」「上」と、するすると進み、絵が浮かんでくる。張りのある力を感じる歌。
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「万葉集」私撰秀歌 歌巻2・208
「秋山の黄葉(もみぢ)を茂(しげ)み迷(まど)はせる妹(いも)を求めむ山道(やまぢ)知らずも
柿本人麿」
●整理:
秋山の
黄葉を茂み
迷はせる
妹を求めむ
山道知らずも
●歌意:
人麻呂の妻が死んだ時──。
秋山の紅葉が深いために、その中に迷い入ってしまった妻。その妻の許に行こうとするが、私には道が分からない。
●感想:
意味としてはそれほど響いて来ないが、繰り返し口ずさ
「万葉集」私撰秀歌 歌巻2・163
「神風(かみかぜ)の伊勢の国にもあらましを何しか来(き)けむ君も有(あ)らなくに
大来皇女」
●整理:
(神風の)
伊勢の国にも
あらましを
何しか来けむ
君も有らなくに
●歌意:
大津皇子(弟)が死に、大来(おおく)(大伯)皇女(姉)が伊勢の斎宮から京に来た時──。
伊勢の国にいればよかった。君がいないのに、私は何をしに帰って来たのだろう。
●感想:
弟が死んだことに対す
「万葉集」私撰秀歌 歌巻2・158
「山吹の立ちよそひたる山清水汲みに行(ゆ)かめど道の知らなく
高市皇子(たけちのみこ)」
●整理:
山吹の
立ちよそひたる
山清水
汲みに行かめど
道の知らなく
●歌意:
十市皇女(とおちのひめみこ)が急逝した時──。
山吹がほとりに咲いている山の泉に、水を汲みに行こうとするが、どう行けばよいのか道が分からない。
山吹の花にも似た、姉の十市皇女が急逝して、どうしたらよいのか分
「万葉集」私撰秀歌 歌巻2・142
「家(いへ)にあれば笥(け)に盛る飯(いひ)を草枕旅にしあれば椎(しひ)の葉に盛る
有馬皇子」
●整理:
家にあれば
笥に盛る飯を
(草枕)
旅にしあれば
椎の葉に盛る
●歌意:
家にいれば銀器(食器)に盛る飯を、旅の間であるので椎の葉に盛る。
●感想:
野を行く旅の様子を感じる歌。
けの意味に関しては、最近の研究では変わっている可能性もあると思った。
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「万葉集」私撰秀歌 歌巻2・133
「小竹(ささ)の葉はみ山(やま)もさやに乱れども吾は妹(いも)おもふ別れ来ぬれば
柿本人麿」
●整理:
小竹の葉は
御山もさやに
乱れども
吾は妹思ふ
別れ来ぬれば
●歌意:
妻と離れて山中にある時──。
笹の葉が、風に吹かれてざわめき乱れている。しかし、私の心は乱れることなく、別れてきた妻を一心に思っている。
●感想:
サ音、ミ音のリズムがよく、実際に山の中で笹の葉が乱れ
「万葉集」私撰秀歌 歌巻2・95
「吾はもや安見児(やすみこ)得たり皆人(みなひと)の得(え)がてにすとふ安見児(やすみこ)得たり
藤原鎌足」
●整理:
吾はもや
安見児得たり
皆人の
得がてにすとふ
安見児得たり
●歌意:
俺は今、美しい安見児を娶った! 世間の人々が容易には得がたい安見児を娶った!
●感想:
歓喜の声がそのまま歌になったような歌。こみ上げる嬉しさがそのまま伝わって来る。
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「万葉集」私撰秀歌 歌巻1・64
「葦べ行く鴨の羽(は)がひに霜降りて寒き夕べは大和し思ほゆ
志貴皇子(しきのみこ)」
●整理:
葦べ行く
鴨の羽がひに
霜降りて
寒き夕べは
大和し思ほゆ
●歌意:
難波の地に旅した時──。
葦原に飛びわたる鴨の翼に、霜が降るような寒い夜は、大和の家が思い出される。
●感想:
「霜降りて」という表現が、寒い冬の情景を鮮烈に伝えてくる。
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「万葉集」私撰秀歌 歌巻1・48
「ひむがしの野にかぎろひの立つ見えてかへり見すれば月かたぶきぬ
柿本人麿」
●整理:
東の
野に陽炎の
立つ見えて
返り見すれば
月傾きぬ
●歌意:
阿騎野に宿った翌朝のこと──。
日の出前の東の空に、暁の光が見え、雪の降った野に照り映えている。振り返って見れば、西の空では月が落ちかけている。
●感想:
空間的広がりを感じさせる歌。明け方の空気の清浄さと、その一瞬を捉えた切
「万葉集」私撰秀歌 歌巻1・28
「春過ぎて夏来(きた)るらし白妙(しろたへ)の衣ほしたり天の香具山(あまのかぐやま)
持統天皇」
●整理:
春過ぎて
夏来るらし
白妙の
衣ほしたり
天の香具山
●歌意:
春が過ぎて夏が来たようだ。天の香具山の辺りには、多くの白い衣が干してあるよ。
●感想:
初夏の輝かしい空気と、白妙の衣の眩しさが、明るい光を伴って響いてくる感じ。
よく知られた歌。百人一首にも採られている
「万葉集」私撰秀歌 歌巻1・15
「渡津海(わたつみ)の豊旗雲(とよはたぐも)に入日(いりひ)さし今夜(こよひ)の月夜(つくよ)清明(あきら)けくこそ
天智天皇」
●整理:
わたつみの
豊旗雲に
入日射し
今宵の月夜
あきらけくこそ
●歌意:
海の上に大きな旗のような雲があり、そこに夕日が射している。この様子では、今夜の月は明月だろう。
●感想:
海の雄大な景色が眼前に広がる。豊旗雲という言葉も気持ちよい。