毎日ばくばく

新聞社を定年して外国の子たちの勉強を支えるつもりが支えられてます。読書記録を兼ねます。…

毎日ばくばく

新聞社を定年して外国の子たちの勉強を支えるつもりが支えられてます。読書記録を兼ねます。小説、歴史が多いかなあ。

最近の記事

どうしたら終わるのか

戦争が2年半続いている。これ以上人が死んだり怪我をしたり、家を奪われ故郷から追い払われる人が出ないように、とにかく早く戦争をやめてほしいと多くの人が望んでいる。  だがそもそも、どうして戦争が始まったのか。スラヴォイ・ジジェク『戦時から目覚めよ』(富永晶子訳、NHK出版新書、2024年)が取り上げているテーマだ。  トランプもバイデンも、キッシンジャーもチョムスキーも、戦争が始まった最初の頃、この際、ロシアが欲しがっているウクライナ東部を割譲して和平を目指すべきだとの意見

    • 『闇の奥』とガザ地区

      スヴェン・リンドクヴィスト『「すべての野蛮人を根絶やしにせよ」<闇の奥>とヨーロッパの大量虐殺』(ヘレンハルメ美穂訳、青土社、2023年)を読む。  またしてもめっちゃ長い。  昔、学生の頃、ロシア文学に入れ込んでいた私は、「歴史のない米国に文学などない」、というさる先生のカッコいい暴言にシビレていた。特に米文学は十指に余るくらいしか読んでいない。この暴言を英語で書かれた小説を敬遠する言い訳にしていたのである。  最近、中南米文学の古典が文庫になったというのがニュースに

      • 「あなたは向こう側の人間だ」

        ガッサーン・カナファーニー『ハイファに戻って/太陽の男たち』(黒田寿郎/奴田原睦明訳、河出文庫、2023年<初出1978年>)  もうめっちゃ長い。  カナファーニーは一時期、PFLPのスポークスマンを務め、1972年、乗っていた車に仕掛けられた爆弾が爆発し36歳で死亡した作家。パレスチナ人の書いた物語を遅まきながら初めて読んだ。  パレスチナ人のサイードとソフィアは1947年初めに結婚し、地中海に面したハイファの一軒の家を買った。その年の暮れに男の子が生まれた。194

        • ガラスの天井どころじゃなかったハリスさんの「ここまで」

          2024年7月23日付『毎日新聞』1面「思考停止のツケ重い」  バイデン米大統領の大統領選立候補撤退が1面トップのニュースなのは、異論のないところだなあ。大阪で読売新聞が号外を出したとのテレビニュースも見たぞ。先ごろのバイデン氏の挙動と発言を知るにつけ、「誰か鈴をつけるやつはいないのか」との思いを米国内のみならず、世界中でみんな抱いていた。  「トランプ氏に対抗できるのは自分以外にない」という自負がそうさせたのか。最初はそうだったかもしれない。けれど徐々に、これは加齢による体

        どうしたら終わるのか

          クズ男とド根性女の維新史

          松平すゞ・語り書き、桑原恭子・構成『松平三代の女』(風媒社、1994年)  明治維新によって禄を失った尾張藩の高位直参が、その救いがたい愚昧さから世の変化に背を向け御大尽生活を改めなかった結果、3人の娘を売り飛ばし(!)、さらに他家に嫁いだ娘までも売り飛ばし(!!)、何もかも失い浮浪者に成り果てた末、困り果てて、こともあろうにかつて自ら売り飛ばした娘のもとに助けを求める。なんというやつだ。並べてみると『罪と罰』のヒロイン・ソーニャのアル中ダメオヤジ・マルメラードフでさえ慈父

          クズ男とド根性女の維新史

          何が差別かは差別される側にしかわからない

          2024年5月25日付『毎日新聞』「特集ワイド 今なお『虎に翼』求め続け」  実際、毎日、面白く見ている。しかし記事によると、元最高裁判事の桜井龍子さん(77)はなんと、「毎日2回も3回も見て、そのたびに涙をポロポロと流しています」と話したという。つまりこの番組が始まってからというもの、ほぼ毎日30分以上、泣き続けているということですね。  戦前に比べれば男尊女卑の圧力は弱まった。とはいえ、今も女性が女性であるというだけの理由で不平等な仕打ちは続いている。新聞、テレビ、ネット

          何が差別かは差別される側にしかわからない

          「差別は神様がつくったのさ」

          イザベル・ウィルカーソン『カースト アメリカに渦巻く不満の根源』(秋元由紀訳、岩波書店、2022)  今から40年以上前、大学の講義ではまだ多文化共生なる言葉はあまり聞かれなかったと思う。当時、「異文化間コミュニケーション」とかなんとかいっていたのがそれに少し近かったのかなあ。だがもちろん、幸か不幸か当時の日本はまだそういう状況にはなく、自分に身近な問題としてそれを意識することもなかった。  今にして思えば、あのころドストエフスキーに関心を持ったのは、そのユダヤ人嫌いと超

          「差別は神様がつくったのさ」

          Rise and Kill First の教え

          ロネン・バーグマン『イスラエル諜報機関暗殺作戦全史 上』(小谷賢一監訳、早川書房、2020年)  「600万人も虐殺された歴史を持つ民が、どうして虐殺する側に立つことができるのか」というのは、全く的外れ。なんと甘っちょろい間抜けな考えであったのかと思い知らされた。「600万人が虐殺された」という前提は正しい。しかしそこから導かれるのは、必要とあれば、「脅威」とみなした相手を殲滅することをためらわないという思考様式だった。悲劇を体験した者は、相手が同じ悲劇に見舞われることは避け

          Rise and Kill First の教え

          ユダヤ人はアラブ人の親類か

          メソド・サバ/ロジェ・サバ『出エジプト記の秘密』(藤野邦夫訳、原書房、2002年)  ユダヤ人は実はエジプト人の子孫だという説を裏付けるために、エジプトの象形文字とヘブライ文字との関係や、旧約聖書のエピソードと古代エジプトの政治的出来事との関係を関連付けて論じた本。  パレスチナに住みアラビア語を話すパレスチナ人はアラブ人であり、一方、エジプト人もアラブ人で、長い歴史の中でエジプトはパレスチナ地方を支配していた時期もありました。つまり、もしもユダヤ人がエジプト人の子孫だっ

          ユダヤ人はアラブ人の親類か

          なぜ続く「国際的公開虐殺」

           コルデリア・エドヴァルドソン『ユダヤの星を背負いて ― アウシュヴィッツを生き抜いた少女』(山下公子訳、福武書店、1991年)  昨年暮れ、名古屋市内の老舗書店の閉店セールを覗きました。いつもがらがらなのに、閉店と知ると混雑するんだよなあ。その例に漏れずわさわさと店内に集まった人をかき分け書棚を眺めていると、見つけた。「『アンネ・フランクの日記』は収容所に入る前で終わってるじゃないの!」というハラ帯を巻いた本。このコピー、うまいね。挑発的だ。  読む者すべてが涙を流す世界的

          なぜ続く「国際的公開虐殺」

          寿地区を走り回る原始人の記録

          野本三吉『寿地区の子ども 裸足の原始人たち』(田畑書店、1974年初版)  名古屋市内で定期的に開かれている勉強会で、次回取り上げる予定の本。強烈な磁力のある本で、紹介される子どもたちと一緒にドヤ街をさまよっているような気持ちになった。ノンフィクションの迫力だ。  港湾関係を主に、どんな仕事もこなす日雇い労働者。「彼らの多くは農漁村出身者で、デカセギというかたちで都会に吸い寄せられるのである」(p.251)。新たな発見はたくさんあったのだが、とくにこの一文を読んだ私は、い

          寿地区を走り回る原始人の記録

          映画『Perfect Days』に悩む

          映画『Perfect Days』(ヴィム・ヴェンダース監督、役所広司主演、2023年)を鑑賞。  2023年最後のめっちゃ長くてネタばれの書き込み。  公衆トイレの清掃を仕事にする中年の独身男の日々の暮らしの静かさと時折訪れるごく小さな波紋のお話、といえばいいのか。  生活の要素はひどく様式化され、毎日、機械のように繰り返される。自宅の古いアパートは東京・浅草近辺の下町。早朝、窓の下の路地を掃除する高齢女性の箒の音で目覚める。布団をたたむ。階下に降りて歯を磨く。鉢植えの

          映画『Perfect Days』に悩む

          カナリアの不穏な歌を聴く

          2023年12月5日付『毎日新聞』2面「焦点 極右台頭 EUに懐疑の風」  外国にルーツのある子どもたちと接する機会が増えたことで、移民をとりまく情勢に関心が生まれた。このニュースもそれで引っかかった。オランダはEU(欧州連合)にとり「炭鉱のカナリア」のようにいち早く危険を知らせる国なのだという。そのオランダで先月実施された下院総選挙の結果、「自由党」が予想外の第1党に躍進したという。同党は反移民・反EUを掲げ「オランダのトランプ」と呼ばれる党首が率いている。  つまり「

          カナリアの不穏な歌を聴く

          またやられたぞ浅田次郎

          浅田次郎『おもかげ』(講談社文庫、初出2017年毎日新聞出版)  生まれ育った家から最寄りの駅といえば、地下鉄有楽町線江戸川橋駅が開設された中学3年生になるまで、地下鉄丸ノ内線の茗荷谷駅だった。子供の足で徒歩約10分の距離だったと思う。赤い車体に白いリボンがねじれたデザインの地下鉄が、後楽園駅から茗荷谷駅に向かって走ってくると、トンネルを抜け、操車場を左に見ながら二つの跨橋をくぐってホームに近付く。線路には、床下のモーターに電力を送るための鉄路が車輪を載せる二本のレールに並行

          またやられたぞ浅田次郎

          どっちが先に手を出した?

          2023年11月5日付『毎日新聞』「時代の風 中西寛・京都大教授 イスラエル・ハマス戦争 世界を揺るがす衝撃」  戦争報道は時々刻々と動くから当然、外部依頼原稿には新しいことは求められない。今起こっていることをどのように考えたらよいのか。その方面の専門家がどうみているのか、現象の捉え方のヒントを読者は探す。だがこの原稿は要するに「びっくりしました。これからどうなるのかわかりません」という驚きに過ぎない。とはいえ、それしか書きようがないのだろうなあとも思う。  大好きで何度

          どっちが先に手を出した?

          すっごくでかい半生の記録

          野本三吉『水滴の自叙伝 コミューン、寿町、沖縄を生きて』(現代書館、2023年)  全518頁。大著だが実に興味深く読んだ。野本三吉(1941~)さんには、これまでに2度、那覇と横浜でお会いしたことがある。会う人に鮮烈な印象を残すなんとも魅力的な人で、温かい毛布に包まれているような気持ちにさせられる。永遠の青年のような純粋な人だ。  教育者、社会活動家、漂流者、思想家。ひとくくりにできないなんともでかい人だと思ったが、本書を読んで改めてスケールの大きさに驚かされる。そのまま昭

          すっごくでかい半生の記録