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5年生 授業実践「学級の魅力が『伝わる』映像をつくろう」〜柏市立逆井小学校の実践から③

F.ラボアンバサダーの高村ミチカです。小学校教員を11年経験後、現在はフリーランスライター/編集として活動をしています。元教員だからこそ、学校と学校の外側をつなぐ学びの結び目のような存在でありたい。「本物の学び」を引き出すお手伝いをしたい。そんな思いで、F.ラボアンバサダーを務めています。

私が担当する記事では、各学校での実践を通して、<Film Education>の魅力についてたっぷりとお伝えしていきます。学びの輪が全国に広がっていきますように。

映像制作を活用したクリエイティブな学びをつくるヒント〜柏市立逆井小学校の実践から③

逆井小学校で行った<Film Education>の実践を通して、映像制作を活用したクリエイティブな学びを作るヒントをお届けする本シリーズ。

第1回 夏休みの職員研修
第2回   費用や機材の準備
第3回   授業実践(5年生)
第4回   授業実践(6年生)

前回までは、職員研修や費用についてなど、実践を行うまでの準備のお話でした。

▼前回の記事はこちら


第3回からは、いよいよ授業実践について。5年生の担任をされていた菅野拓弥先生に、詳しい授業の流れについて、お話を伺いました。


当時5年生を担任されていた菅野拓弥先生

5年生 「学級の魅力が『伝わる』映像をつくろう」

教科・領域:総合的な学習の時間
単元名:「学級の魅力が『伝わる』映像をつくろう」
ねらい:
相手に分かりやすく「伝わる」映像を作るために、より良い表現を考えるという活動を通して、情報活用能力を育成すること。

学習テーマ中の言葉を「伝える」ではなく、「伝わる」にしたことには大きな意味があります。

「伝える」とは、映像制作者が思っていることで、時にそれは一方的です。子どもたちにとっては、目新しい映像機能を扱うことが目的化し、自己満足に陥りやすくなってしまうという危険性があります 。一方、「伝わる」は、主体が映像制作者から視聴者に変わり、相手の立場に立って映像を作ることが意識されます。

どうやったら「伝わる」だろうかと、見せる相手の視点に立ち返ることこそが、この学習活動の肝なのです。

目標:
・学級の魅力が保護者の方に伝わるために必要な情報は何かを吟味し、取捨選択をすること
・学級の魅力が保護者の方に伝わる映像にするため、情報を関連付けながら整理をし、分かりやすく表現をすること
・他者との協働を通してどうやったらより伝わる表現になるのかについて考えを深めること

相手や目的に合わせて、どうやったらより伝わりやすく吟味する過程は、まさに探究。映像制作を活用した授業の醍醐味はここにあります。また、基本は3人1組のグループで進めるため、協働的に課題を解決する態度の育成にもつながります。

時間数:
11/1:キックオフ 2コマ 
撮影+編集(学級で)
11/30:中間発表会 2コマ
撮影+編集(学級で) 
12/13:発表 2コマ
保護者懇談会

山﨑カントクの授業は、2コマ×3=6コマ。
それ以外に10コマ程度、撮影と編集の時間を確保しました。

12月にある保護者懇談会で上映することをゴールに、11月から本格的に活動をスタートしました。1学期には、映像ミュージアムにいくなど、子どもたちの興味・関心を高める工夫も。

実際の映像成果物:
クラスのいいところについて1人30秒のインタビュー映像を制作。最終的にはクラスで繋げて15分ほどの作品になりました。


「お家の方にクラスの魅力を伝えたい!」が出発点


今回の授業の出発点には、「お家の方にクラスの魅力を伝えたい!」という思いがあります。コロナ禍で、保護者の方が学校に足を運ぶ機会が減りました。子どもたちの様子をなかなか伝える機会がないということを、先生自身も感じていたそうです。

映像表現を使えば、子どもたちの姿を伝えることができる。子どもたちの声を届けることができる。そう考えて、菅野先生はクラスでインタビュー映像を活用した授業に挑戦することにしました。

何気ないことですが、この始まりが、実は大きな意味を持っています。

ただプロに来てもらって教えてもらうだけでは、「楽しかった!」で終わってしまいます。「なんのためにやるのか」というゴールを子どもたちが持っていることがとても大切なんです。

F.ラボでは、授業のねらいやめあてを先生にヒアリングして、そこをしっかりすり合わせるところから授業を組み立て、実施をしています。山﨑カントク自身が長年教育実践をしていること、教員や元教員のメンバーとタッグを組んでプログラムを考えているからこそ、学校現場に寄り添った実践に繋がるのが<Film Education>の大きな特徴です。

プロのテクニックで、子どもたちの「やってみたい」に火をつける


山﨑カントクが5年生の教室に入った時、すでに子どもたちはやる気満々。子どもたちの中に「お家の方にクラスの魅力を伝えたい!」という思いがあることが一つの要因ですが、それだけではありません。事前に先生方からインタビューに映ることやカントクに会えることについて話をしておくことで、子どもたちのワクワクした気持ちが高まった状態を作ることができていたのです。

初回の授業では、基本的な撮影のテクニックと機材の使い方を学びました。

山﨑カントクが授業に登場!


①プロっぽい構図の作り方(30分)


まずは、山﨑カントクからちょっとしたテクニックでプロっぽくなる、2つの技を教えてもらいます。「ナメる」と、「ローポジション」という技です。

技1  ナメる

カメラのすぐ前にモノや建物、人物を入れる構図。
ピント(フォーカス)は奥に合わせることで、奥行きが出ます。

技2  ローポジション

ふだんの立っている目線よりも、思いっきり低いところにカメラを置いて撮影をします。ぐっと迫力が出る構図です。見なれない視界を表現できます。

技を使って、いざ撮影!!

教えてもらった構図を使って、早速撮影を始めます。

あえて手前に物を置いてみたり…


思いっきりローポジションで撮影をしてみたり…


ちょっとした工夫で、プロっぽい撮影ができることに大興奮の子どもたち。プロのテクニックが、子どもたちの「もっとやってみたい」に火をつけた瞬間でした。

②インタビュー映像の撮影(60分)

インタビュー映像の練習として、自己紹介の映像を撮影しました。すぐに内容に入れるように、事前に各クラスで、インタビュアーはどんな質問をしたらいいのかについて学習をしています。ロジックツリーで整理をして、一問一答にならないように工夫をしていました。

撮影は、インタビューを受けるゲスト、話を聞きながら進行するインタビュアー、構図を決めて録画をするカメラマンの3人1組で行います。

3人1組で撮影開始


ゲストとインタビュアーが向き合い、カメラマンはその間にタブレットを設置します。ゲストの斜め前から、目線とレンズを同じくらいの高さにするのがポイントです。そうすることで、カメラの正面ではなく、自然とインタビュアーの方を向いて話す形になります。


カメラ目線の場合、ゲストの思いを伝えることが中心となります。思いやメッセージが強く表に出され、主観的な表現になるのです。主にYouTube動画ではこの手法が用いられており、<Film Education>では、こういった表現を映像と区別して「動画」と呼んでいます。

一方、斜めからの構図で撮影する場合、客観的な表現となります。そこに写っている情報から、何が相手に「伝わる」のかを吟味する過程が求められ、これが探究的な過程と繋がってくるのです。

もちろん、「動画」の表現が悪いわけではありません。大事なのは、意図的に使い分けること。また、普段視聴している動画や映像が、意図を持って撮影されているものだと知ること。実際の撮影を通して、その違いを子どもたちも感じ取っているようでした。

フィードバックから、編集の本質に気付く


1回目の授業で学んだプロのテクニックを生かして、学級でインタビュー映像の制作が始まりました。クラスのいいところについて、それぞれ1〜2分程度の動画を撮影し、編集をして30秒にまとめていきます。編集には、CapCutを使用しました。

編集作業も自分たちで


山﨑カントクの授業2日目は、オンラインでの中間発表です。グループごとに、インタビュー映像の発表を行い、お互いにどう感じたかをフィードバックし合います。

3日目は対面で、クラスごとに編集した映像を見せ合い、フィードバック。1人30秒の映像を繋げて、15分程の作品にまとめています。

フィードバックのポイントは、非言語表現から何を感じ取れたかということ。やたらに効果音を付けたりテロップを付けたりして、言語表現に頼るのではなく、映像表現の特性である「非言語表現」をうまく使えているかどうか。

ゲストが話している言葉を逐一書き出して、テロップをつけること。強調したい内容に効果音を入れたりエフェクトをかけること。

多くの子どもたちは(もしかしたら大人たちも)、こう言ったことを「編集」だと考えています。しかし、テロップを入れたり効果音を入れたりして派手な演出をすることが「編集」の本質ではありません。

どの言葉を使うべきなのか。
どの場面を使うべきなのか。
うんと考える。
何度も試行錯誤して、より伝わる表現に改善していく。

つまり、「編集」とは、情報を取捨選択したり並び替えたりして、相手に正しく「伝わる」表現にすることなのです。

互いに映像を見合いフィードバックをし合うという活動を通して、編集の本質に迫ることができた子どもたち。さらに、作品作りが加速していきました。

映像制作に留まらない子どもたちの成長


最終的に、作った映像は保護者懇談会で発表しました。「こんなことができるなんて」と驚きの声が多く上がったそうです。

そんな素敵な作品を作り上げた子どもたち。その成長は、映像制作の活動以外にも広がっていると菅野先生は話します。


「今回の授業で1番の学びがあったのは、ゼロから作るという経験だと感じています。最初、映像制作って1人で黙々と作っていくイメージがあったんですが、ゼロから何かを作り出していくって、1人だとなかなか難しくて、だから仲間と協力し合う必要性が生まれるんですよね。この授業をした後、他の授業でも友達と関わり合う姿が増えたのが印象的でした。映像教育だからと言って、映像だけに効果があるわけじゃない。普段の子どもたちの様子に繋がるんです。ぜひ、いろんな先生に挑戦してほしいと思います」

相手や目的に合わせて、表現を工夫すること。
仲間と協力しながら、より良い表現に高めていくこと。

<Film Education>での学びは、他の教科・領域に、そして普段の子どもたちの姿につながっているのです。

次回は6年生の実践をお届けします。お楽しみに。

▼6年生 授業実践「卒業の感謝の気持ちが『伝わる』映像をつくろう」〜柏市立逆井小学校の実践から④
https://note.com/yamazakitatsuji/n/ndc09eda3efb2



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