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イヴ・ジネスト、本田美奈子『ユマニチュードへの道 イヴ・ジネストのユマニチュード集中講義』誠文堂新光社

病院や介護の世界で、いま注目されている「ユマニチュード」の哲学と技術を伝えるため、複数の大学でおこなわれたジネット先生と学生との対話をまとめたものだそうです。

ユマニチュードは、NHKの番組などでも取り上げられ、その言葉を聞いたことがある人は多いかと思います。介護におけるケアの技術であることくらいは知っている人もいるかもしれません。

ユマニチュードは、認知症の人や高齢者に限らず、ケアを必要とするすべての人を対象とします。しかしながら、本書を読むことにより、ケアを必要とする人のみならず、ケアをする人のためのものであることがわかります。

ユマニチュードを実践することにより、それまで攻撃的だと思われた患者さんが穏やかにケアを受け入れるようになったり、言葉を失っていた認知症の高齢者が再び話し出したり、何年も寝たきりだった人が立てるようになったりするそうです。

ユマニチュードが「人間らしさ」を意味する造語であるように、「人とは何か」「ケアをする人とは何か」を問う哲学が常に同時に存在することが大切と思われます。哲学と技術の双方が欠かせないのです。

ケアの世界で目の前にいる患者さんに対する権力を持っていないことを自覚することに大切さ、相手に対してつねに謙虚でありつづけることがもっとも重要としています。世界人権宣言という明確な目標がを持っています。

ユマニチュードが大切にいているもうひとつのことは、「自律」という価値で、「やりたいことを自分で選ぶ」ことです。認知機能が低下している人でも、相手をよく観察していくと、患者さんのほとんどは何かのサインを送っていることに気づくそうです。

「ケアをする人」とは職業人であり、健康への不安や問題をかかえる人に対して次のことをおこなうと定義しています。
レベル1 回復を目指す
レベル2 現在の機能を保つ
レベル3 上のいずれもできないときには、最期までそばに寄り添う

ベッドで横たわってままでの清拭は、レベル3の寄り添うケアです。40秒以上立てる方なら、ベットボードをつかまってもらい、立って身体を拭くことができることになります。立ったり座ったりを繰り返しながら清拭すれば、立つ機能を保ち、寝たきりにならないレベル2の「現在の機能を保つ」ケアとなります。

エマニチュードには4つの柱があります。
「見る」、「話す」、「触れる」、「立つ」
4つの柱はひとつだけだとうまくいかず、複数を組み合わせておこなうことが大切とされます。また、意識しておこなうことで、「あなたを大切に思っています」というメッセージを伝える「技術」になるとしています。

「見る」ことは愛の表現であり、上半身を起こし、水平に、近く、長く見ることでポジティブな人間関係と愛情を伝える技術です。
「話す」について、「オートフィードバック」という技術を使います。反応がない場合でも、ケアの手の動きを予告し、実況していきます。
「触れる」は受けられやすいものにする必要があります。腕や足を持ちが上げたり動かしたりする際には、つかまずに下から支えます。
「立つ」ことは、人間らしくある特徴で、最期の日までこだわります。1日20分間、立って歩く機会があれば、寝たきりになることを防げます。

本書を読むことにより、ケアをする人はケアされる人を人間として尊重することの大切さがよくわかります。抑制帯をつけて強制ケアが行われることにより認知症が悪化してしまうなどの悲劇が起こることがないよう、ユマニチュードの実践が広く普及してもらいたいものだと思います。そのためにも本書が広く読まれることを望みます。





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