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山根節、牟田陽子『なぜ日本からGAFAは生まれないのか』光文社新書

ナイキは、1964年の東京オリンピックの年、アシックスの米国輸入総代理店として誕生した。しかし、2021年の東京オリンピックの陸上競技全般のメダリスト114人のうちナイキの靴を履いていた選手は73人、アシックスの靴を履いていた選手はたった3人であった。

アシックスの鬼塚氏は「ナイキは商社、アシックスはメーカー」と言った。だが、アシックスは製品を作っているとすれば、ナイキは精神世界を作った。「自分の人生がスポーツのようでありたい」とナイキのフィル・ナイト氏は創業した。現在、アシックスはナイキの10分の1にも満たない。何が日本企業に足りなかったのかについて本書は探究する。

アップルは、愚直に自らの信じる道を突っ走るリーダー、スティーブ・ジョブズに率いられた。抵抗する人々に忖度しないfoolishな人物、抵抗をものともしない野蛮さと、それを支える熱量を持ったhungryな人物である。

違法無料のコピーが容易なハード販売から、配信ダウンロードの「iTunes Store」を提案する。価格を安く抑え1曲99セント、レコード会社の取り分70セント。1曲単位に購入できる。このルールがアップル手数料30%となり、アップルに莫大な利益をもたらすこととなる。ソニーはこれに押し切られ、アップルの後塵を拝することとなる。

グーグルの創業者ペイジとプリンは、検索エンジンについてウェブ全体をダウンロードして、リンクの記録をとる」というアイデアを思いついた。二人は学者を目指していたが、「成功しなかったら、いつでも戻ってきて博士課程を修了すればよい」という指導教授の言葉で起業を決意する。

指導教授の紹介で、エンジェル投資家ラム・シュリラムから25万ドル、さらに3人から同額、合計100万ドルの出資を受ける。日本では、学生発ベンチャーに冷たい。「ほうれんそう」を求めるコンセンサス経営の国で、既成概念を超越したイノベーションを理解することは難しい。

フェイスブック(メタ)の創業者、マーク・ザッカーバーグ(ザック)は、ビジネス経験ゼロであったが、買収を持ちかけるトップと会って、質問攻めにした。彼らをメンターとして学んだ。週末は、創業幹部とドラッカーの本を読んで議論した。幹部らと1対1で話し合う時間を持つように努めた。

ザックは、サポートしたくなる資質を持っていた。「すべてがミッションのため」という。起業で大事なのは理念であり、理念がメンターを動かす。リアリティある未来を映像化すれば協力を惜しまなくなる。シリコンバレーは、経営資源を豊富に持つ”成功した富豪”のサロンである。若者にチャンスを与え、サポートできるか、ここに日本の未来がかかっている。

アマゾンは、明日のために投資する。アマゾンの創業者ベゾフは、「未来を予測する最善の方法は、それを発明することだ」というアラン・ケイの言葉を信じる。「発明すればいい。必要な人を雇えばいい。学べばいい。」既存のリソースから発想する行き方では、新しいスキルを獲得できず、やがて既存のスキルが時代遅れになって衰退する。顧客起点でさかのぼって動く。

DXをコアコンピタンスととらえ、システムの自動化、高度化、精緻化は休むことはない。それがAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)の公開につながる。創造への情熱、運営へのこだわり、そして長期的な発想をする。失敗した時、元に戻すのが難しい決定は慎重に検討するが、後戻りできる決定はやってみて失敗したら元に戻ればよいとする。これがスピーディな行動につながっている。

日本は情報革命の勝者となれなかった。また、日本のビジネスパーソンは、「良き常識人」であり、「バカ者、若者、よそ者」の天才ではない。さらに、行政改革で大学の経営基盤が細っている。起業リスクが高く、かつ、冷たい。VCが資金基盤が小さく、出資も小規模となりがちなど、本書では書き連ねてもキリがないとする。最後に、著者はトヨタとソニーの新しい挑戦の事例をあげて、希望は残っているとしるす。

専横的で秘密主義のジョブズ、経営権を守りながらも民主的なザック、外部に情報を漏らさないという前提で社内のあらゆる情報にアクセスを許すプリンとペイジなど、それぞれの経営手法に多少の違いはある。しかし、いずれもトップの顔が見える。自らのミッションを掲げ、優秀な人材を勧誘する。あくまで自らのミッションの実現を目指すから、会社を売ることはしない。

崇高なミッションを掲げ、投資家を魅了させて資金提供を受ける。投資家やVCも、メンターとなって技術的、経営的な助言をする。細かい報告を求め、フィードバックしない日本のVCと大きな違いがある。日本では、既得権勢力と対立しないよう、少しズラして相手を巻き込む努力も必要となる。

ちょうど30歳で起業したベゾフを除けば20歳前に起業している。著者によると、ビジネススクールに来る大企業の若手社員は、抵抗を撥ねのけるような突破力のある野心家は少ないという。一方、日本でも大学時代に起業する若者も目立ってきている。Z世代と呼ばれる若者に期待するとともに、彼らを応援していくことが必要と思った。また、Web3時代に突入する今だからこそ緊急の課題でもあるとも思う。



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