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柑橘となにかのドンシャリ——食べるを考える(2)

ドンシャリが好きかもしれない。この春、唐突に気づいてしまったのだが。しかも柑橘のように鮮烈なやつ。ずっと知っていたような、この春気づいたような。

ドンシャリと言ってもヘッドフォンやオーディオの特性の話ではない。しっかりとした低域にすがすがしい高域が乗っているドンシャリなのだが、いま思いつくのはガトーショコラやブラウニーにオレンジピール。最高のデザート。ただのチョコレートではねっとりとした甘味のなかに沈みこんでしまうところ、闇夜を切り裂くオレンジピール!

このドンシャリ。

むしろ反対に、オレンジピールにチョコを薄くまとわせたヤツとか。ドンシャリのシャリがむしろメインのオランジェット? オレンジピールチョコレート? ショコラオランジュ? 検索したらいろいろ出て来て正式名称がわからないんだけど、ともかくあの爽やかな香りと酸味と苦みは正義。

甘ったるい、ぬめりとしたチョコのまどろみからぼくらを覚醒させるのは絶対にオレンジの皮でなければならないというわけではない。夏蜜柑だろうが、伊予柑だろうがいいんだけど、とにかくあの、柑橘の鮮烈さ。

とはいえドンシャリ好きはオレンジピールだけをひたすらに愛好しているわけではない。

たとえば鶏肉や鶏ガラからとった淡い出汁は、わずかな塩味さえ効いていれば、そのままでもおいしい。淡いのに重厚な旨味がこの味わいを下支えしているのを感じることができる。それだけで十分にも思える。なのだが、この心地よい旨味の眠気にレモンを絞りかけてみる。味わいのベースと飛び道具的な柑橘の鮮烈さの組みあわせ。このドンシャリ。わずかにオリーブオイルを垂らしてみるのもいいし、ローズマリーなどのハーブ類やパクチーなどの香味野菜をあわせるのもいい。

いや、そんなこと誰でも知っている。たしかに薬味ってそういうもんだ。そうかもしれない。鍋のときに小皿に入れる大根おろしや生姜やネギ。そして柑橘の汁、あるいはポン酢。

ともあれ豊かなドンに単独的なシャリの響きが上乗せされると途端に感覚が開く。うたた寝していた鼻腔の活動が強制的に活性化されるのかもしれない。

たとえば長い冬を抜けて、待ちわびた春先のタケノコを焼いて食べる。トウモロコシのような焦げ目の甘い香り。タケノコの淡い甘味がベースとなって、後からえぐみがやってくる。それだけでも一年待ちわびたぼくにとっては涙が出るほど十分だ。なのだが、ふと思い出してサンショウの葉を摘んできて、てのひらで叩いたときのあの香り。なんだろう。胡椒のように鼻をくすぐるあの柑橘の皮のような爽やかさ。タケノコとあわせたときの、このドンシャリ。

素晴らしくないですか?

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